訓練も一区切り付いたと、ジャンベールさんが私達に告げ、ミルデアさん、レンケインさんの三人と一緒に、城塞都市から少し離れた遺跡へ探索に向かって行った。
「基本的な事は、一通り教えたからね。あとは、実践積めばいいよ」
「私達が帰り次第、ダンジョン探索をするかもしれないぞ」
レンケインさんとミルデアさんが言った。
「無茶や無理はするな。常駐依頼や、無理の無い討伐依頼を受けるんだ。ダルガンさんからは、無難な依頼なら受けられるよう、許可は貰っているからな」
ジャンベールさんが、くれぐれも、体には気を付けろよ。と言ってくれた。
それからは、慎重に依頼を選びながらこなしていった。時にはジョシュが、先輩冒険者達から、割に合う合わない依頼の見分け方などを、教えてもらっている。
シェリナは、先輩魔術師から水属性以外の、魔術の知識を学んでいた。
「リーネさん、ちょっと治療を手伝ってくれませんか? 報酬はお支払いしますから」
受付嬢のサイミアさんに頼まれ、運ばれて来た冒険者達の治癒をした事も何度かあった。
自分達は、何か先輩冒険者達から目を掛けられているな、と思った──サイミアさんが言うには、初級訓練を真面目に受ける見習いは、可愛いものだという。ほんと感謝しか無いわ……。
ある日、ギルドに衛兵がやって来た。急ぎの雰囲気──「ダルガンさん、ピックホッパーの大量発生の兆しがあった。御領主直々の依頼だ」
受付カウンター正面にいた、ギルドマスターが頷く。
「おう、承知した。報酬云々の話は、後だ。直ぐ人手を出すと、伝えてくれ」
「了解! では……!」
来たときと同じ様に、衛兵は去って行った。
さてと、とダルガンさんが立ち上がり、ギルド内にいる冒険者達に呼び掛ける──「ピックホッパーの氾濫が直ぐにでも来る。森の中の虫けら共は、衛兵と森に詳しい連中に任せとけ。その他の連中は、森から抜けてきた虫共の始末だ」
ダルガンさんが、冒険者達に激を飛ばす。
「パーティーを組んでいる連中はそのまま。そうでない者達は一時の仲間を集え──部隊編制だ。群れなす魔物に対しては、それが最良のやり方だ。時間は無いぞ、急げ!! 後方支援のために、待機組を何名かは残す。報酬は変わらないからな!!」
ダルガンさんの激励に、冒険者達が『応!!』と答える。
「ポーションと、清潔な包帯、布を用意しろ。毛布もな」
ダルガンさんの指示に、職員達が動き出す。素早い。やるべき事を分かっている動きだ──
ダルガンさんに、後方支援のために残らないかと言われたが、「私はリーダーですから」と断った──ダルガンさんは豪快に笑い、許してくれた。「前線での負傷者の手当ても、いい経験になるからなあ。まあ、無茶はするんじゃねえぞ」
一拍置いて、ダルガンさんが言った。
「昇格の機会だぜ……励みなよ」
ポン、と私の肩を叩き、悠々と去って行った。
「マーカス、おめえも備えとして、出ろ!!」
喫茶室に声を掛けるダルガンさん。大声。
「おお! 任せろ!!」
ダルガンさんに、負けず劣らずの大声。
「ピックホッパーの攻撃は、体当たりと噛みつき。たまに毒液を吐くそうだけど、これは気にしなくていいそうだね」
街道沿いを歩きながらジョシュがいう。色々、先輩達から話を聞いていたのだろう。
「水属性以外にも、他の属性を……少し感じる気がするわ」
シェリナが、杖をトントン、と地に付きながら言う。これも、先輩達の指導の賜物だろうか──私も、治癒術のさらに先が、何となく見えて来たような気がする。
現場近くに到着。先行している先輩達と衛兵達が、森に入って行くのが見えた。
先行組が森の中で戦い、抜けてきたピックホッパーを、私達が叩く作戦だ──「来るぞ!」
森がざわめき、小動物や鳥達が飛び出していく。そして──ピックホッパーが多数、飛び跳ねながら、街道に向かって来た。
(うわ……あんな、大きいんだ)
全身を短い棘に覆われたイナゴ。大きさが問題だ……七、八十センチ以上はある──「ジョシュ、支えて。私は横に付くから、シェリナ、補助お願い」
やるべき事は、皆分かっているから細かい事は──私達の横合いから、黒いマント、兜姿。斧を肩担ぎにした冒険者が、凄い勢いで突っ走って行く──「おおおあぁぁぁぁ!!」
ピックホッパーの群れに突っ込んで、肩担ぎの大きな斧を振るう──数匹のピックホッパーが、一瞬でバラバラに散らばっていく……「なに、あれ……」シェリナの呆れ声。
黒兜の人は、ピックホッパーに
ピックホッパーの、体当たりに怯む事なく、叩き落とし薙ぎ払っていく──「あっははは!! 死ねぇ死ねぇ!!」
高らかに笑いながら、ピックホッパーの群れを蹴散らしていく、黒兜の人……「リーネ、俺達も続こう!」
ジョシュの声。他の冒険者達が、荒れ狂う黒兜の人を回避しながら、ピックホッパーに向かって行く。
「ジョシュ、進んで! シェリナ、ピックホッパーの動きを止めて! 黒兜の人には近付かないで!!」──近付けば、巻き込まれる──そう直感した。
嵐の様な時間が終わった。森の中の討伐も済んだようで、森への先行組もピックホッパーからの素材を回収して、戻って来るそうだ。
私達も、街道沿いで倒したピックホッパーから素材の回収を行う。
少し離れた所で、銀髪の女性が岩に腰掛けている黒兜の人に、説教をしているのが見えた。
銀髪の女性の耳は少し、尖っている……エルフ?
漆黒の鎧を纏った騎士と軽装の猫族が、黒兜の人に何か言っている──多分、それも説教だろうな……。
ほどよい疲労感を感じながら、私達はそのままギルドに戻った。ピックホッパーの数が数だけに、負傷者はいる。
私は、治癒が必要な人達の元に行く……「リーネさん、こっちお願いします」
サイミアさんに連れられた先、片足が折れ曲がった人が、毛布に横たわっていた──「骨折治癒は、痛いですよ」
「構わねえよ、初めてじゃねえからな。頼む……」
深呼吸一つ。折れた箇所に集中する──むう、と短い唸り声。
時間にして十秒足らず。骨折は、綺麗に治っていた。腫れもない──「ふう、ありがとな。しばらく安静にしてるよ」
安らかな顔で、冒険者がいう。どういたしまして、と周囲を見回す。
やはり、まだ怪我人はいる──よし。サイミアさんに、他の怪我人は居ませんか、と尋ねる。
単純な善意ではない。治癒の経験を積むためだ──「ここを頼みます。打撲傷が酷いです」
「いたた、油断した。全く……まともに胸に食らっちゃった」
胸元を開き、打撲痕を見せる冒険者。大きな内出血。このままだと痣が残るかも──「骨折治癒よりかは、痛くないと思いますよ」
「うん。お願い」
手のひらから伝う、暖かさが打撲傷を覆う──内出血が、少しずつ小さくなっていく。
「はあ……ありがと。楽になったわ」
「安静にしていて下さいね」
頷き、目を閉じる。冒険者──私の、仕事。やるべき事。治癒士としての生き方が、はっきりと見えてきた気がする。
魔力、気力が充実しているのを感じた──
「他に、怪我人居ませんか!」
リーネは、治癒士としての第一歩に踏み込んでいた。
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Ψ(`∀´)Ψケケケ