邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第72話 城塞都市での昇級活動 トロル退治へ

 

 

 

ピックホッパー討伐を終え、“雄山羊と戦槌亭”に戻って来た。時刻は夕方近く。

身仕度を整え、夕食を取る事にした。シャワーを浴びるでもなく、浄化で済ませる。

カリエラさんが個室を取り、そこで夕食を兼ねた酒宴になった。

 

「あ~。一眠りしたら、さっぱりしたわ。ちょっと寝過ぎたかも」

カリエラさんが、大きく欠伸をする。結構、元気そうだ。

「今回の取り引き額だけど、合計金貨六万枚以上になったわ……まあ、特殊な稼ぎね。謙虚、堅実が本分のカリエラ商会からしたら、今回の稼ぎはイレギュラーよ」

むふう、とカリエラさんがいう。顔色も良くなっている。

「食事とお酒を、頼みましょう。今日は楽しんで」

シェーミイが早速、ベルを鳴らす。

 

 

帝都で、スカイライト(蒼天石)をオークションに出してはどうか? と商人ギルドから提案されたが、二人の鍛冶職人が反対したという。

要するに、オークションに出せば、値は上がるかもしれない。だが、落札者は名物として“飾り”にするだろうと。

スカイライト(蒼天石)を見せ物にするのは、鍛冶に生きる者としては、極めて残念な事だと──鍛冶職人はそう言ったという。

 

 

ここでカリエラさんは、確かにいい物を高く売るに越した事はない。帝都でのオークションに出せば、上手くいけば……倍以上になるかもしれない……だが、である。

「いいえ。この値でいいわ。元々、予想外の値が付いて、困っていたのよ。私の商売人としての矜持が──」

 

要するにボロ儲け、ダメ絶対! という事らしい。それと、二人の鍛冶職人の気持ちも、充分解したという。

極めて稀少な、スカイライト(蒼天石)。あれを使って武具を鍛え上げる事は、職人の名誉。

その気持ちをも組んだカリエラさんは、五万枚で手を打った。

買い取ったのは、商人ギルドと二人の鍛冶職人となった。いつか、スカイライト(蒼天石)を鍛え上げる事を、目標とすると二人の鍛冶職人は宣言したという。

それまで、商人ギルドが預かる事となったそうだ。

 

「それで、商人ギルドに何の得になるのー」

果実酒をがぶ飲みしながら、シェーミイがカリエラさんに尋ねる。

「それね。スカイライト(蒼天石)を、管理しているという事で一目置かれるのよ。まあ、箔が付くって事ね」

上品な仕草で、鶏団子のワイン煮込みを口に運ぶカリエラさん。

「それで、滞在は何時までにするの?」

鶏と根菜のシチューを口にするレンディア。

「そうねえ。額が額だしね。振り込みまでは、もう三日ほど掛かると思うわ」

優雅に、ワインを含むカリエラさん。

「それまでは、自由行動でいいわ。護衛は、気にしないで。ネルソンさんに頼むわ」

香草を振ったハムを摘まむカリエラさん。

 

元兵士のネルソンさん。何でも、カリエラさんの御者と護衛も、兼ねているそうだ。

言われてみれば、普通の佇まいじゃなかったんだよな、ネルソンさん。隙が無いというか……。

 

「ああ、ネルソンさんか。あの人なら護衛に適任だろうな」

グランさんが、ゆるりと黒ワインを傾ける。

「ネルソンさんねー。隙無いよね、あの人」

ぱくぱく、と料理を口に運ぶシェーミイ。鶏皮と白菜炒めを、一人で平らげるつもりだ。

「だから、一人で食うな」

皿を取り上げ、箸を付ける……うん美味い。シンプルな味付けだ。塩と油だけの味付けだろう。

上品な味付けだが、けして物足りない事は無い味付け──「また頼めばいいじゃないのー」

シェーミイの苦情は無視する。うむ、美味い。

 

料理の取り合いをするシェーミイとクレイドルを見て、カリエラの心は安らいでいた──

 

 

明くる日、冒険者ギルド内の喫茶室。レンディア達はその一角に集まっている。

端に座るのは、クレイドルが煙管の香りを気にしての事だ。最も、それは要らぬ気遣いなのだが……。

 

「今回の報酬の確認のため、ダルガンさんが御領主の元に出向いたそうよ。午後には、参加した冒険者達の報酬が決まると思うわ」

甘めの香草茶を啜るレンディア。

「こういう時に、ケチる様な御領主じゃないと思うぞ。グランドヒルの王もな」

グランさんが、砂糖菓子を摘まむ。

 

治める領内で何が起きたかを知るのは、王の責務。対処するのもだ──忘れがちだが、城塞都市は通称。公式には、城塞王都グランドヒル──帝国の一都市だ。

 

「私達もそうだけど、今回の特殊依頼。充分にギルドに貢献したと、見なされると思うわよ」

ぱり、と焼き菓子を含むレンディア。

「ふむ。俺達はともかく、クレイドルのランクには関わるだろうな……あの暴走も含めてな」

ちらり、と俺を見て、茶を啜るグランさん。うん、まあ、それとしてだ……。

「これから、俺のランク上げのために、どういう依頼をこなせばいいのかね?」

砂糖の炒り豆、美味い。苦めの茶と合う。

「そうねえ。依頼しだいよ……それか、ダンジョンの踏破をして、(ぬし)の討伐証明を持ち込むという手もあるけどね」

「主を討伐、つまりダンジョン踏破の証明になるからな」

レンディアとグランさんがいう。以前、ジャンさん達と倒した、巨大ヤシガニに赤闇の凶殻。それと、青葉の庭での鋼の四つ鎌が、主に相等するか……。

 

「城塞都市近くのダンジョンはー、何があったっけ?」

「俺が、ジャンさん達に連れていってもらったのは、静寂の祠と青葉の庭だな」

果実水を啜るシェーミイに答える。

「という事は、対アンデッドは経験済みか?」

ぱりり、と焼き菓子を口にするグランさん。

「はい。武装スケルトンに、霊体も相手にしました」

煙管に葉を詰め、生活魔法で火をつける──

「切りのいいとこで引き返したから、踏破まではしなかったですけどね」

ふう、と煙を吹く。炎渦車(えんかしゃ)だったか……あれは、気持ち悪かったな。鋼の四つ鎌もなあ……。

 

 

「ふん。中々に経験してるわよね。その二つ以外のダンジョンとなったら……近場では、石壁の砦何だけど──」

「ああ、そこも経験済みだ。マーカスさんも一緒でな、“精妙剣”を見せてもらったよ」

レンディア達に、石壁の砦での事を説明した。

「ふーん……まあ、何か依頼を見て、決めましょうか。正直、ランク上げをそんなに焦る必要は無いわよ」

温くなった茶を、一息に飲み干すレンディア。

「グラン、シェーミイ、依頼を確認してきて」

二人は茶と果実水を飲み干すと、早速、依頼掲示板に向かっていった。

俺も行こうとしたが、止められた。何でも──

「受付嬢三人組が、邪魔するわよ」

むう……解せぬ、とは言えないのが痛いとこ何だよな……邪神め!!

「ま、焦らない事よ。マーカスさん、注文お願いします!」

「おう。ちっと待ちな!」

レンディアがマーカスさんを呼ぶ。のしのしと、エプロン姿のマーカスさんが向かって来た。

この威圧感……何ぞ!?

 

グランさんとシェーミイが戻って来た。開口一番──「珍しい依頼があった。トロル討伐だ」

グランさんがいう。トロル? 確か──異世界知識発動──巨人族の末裔。ある程度の知性はあるが、理知的とは言えない。簡単な武器を扱い、獲物を解体し、火を通して食す程度の知恵はある。

貴重品、ガラクタ、関係無く、興味を持ったものを溜め込む癖がある。巨体に見合った腕力は、けして油断出来ない──ううん? 意外とまともな異世界知識だな……油断しないがな!

 

「場所は城塞都市の南東。マルパソの村。麦が名産の土地。これは領主からの依頼だ」

「なるべく、早めに受けて欲しいとの事だったよー。報酬は、金貨三十枚。トロルの溜め込んだ物は、好きにしていいとの事だよ」

トロル退治、か……反対する理由はないな。よし──「受けよう。いい経験になる」

はっきりと言う。トロルか、さて……。

 

「まあ。正直言うと、私達もトロル退治なんて初めてなのよ。知識としては知っているけどね」

運ばれて来た、茶を啜りながらレンディアがいう。

「よし、受けるか。早速、受注してくる」

グランさんが、受付に向かって行く。

「んふふー。トロル退治ねえ。領主様に、借りが作れるかもねー」

シェーミイが楽しそうにいう。お気楽に見えるが、色々考えているんだよな、シェーミイは。

 

 

「おう。色々考えすぎるな、クレイドル」

注文の品を持ってきたマーカスさんに声を掛けられた。茶と菓子をテーブルに並べるマーカスさん。丁寧な仕草だ。

「お嬢の様に、堂々としていればいいんだよ。なあ?」

レンディアは、ただ微笑んでいる。

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