城塞都市の南東。マルパソの村。麦の名産地。 質のいい麦は各地に輸出され、帝国領内の三~四割を占めるという。収穫の時期になるとその周辺は、色付く麦穂が黄金に見える事から、“黄金街道”の名で親しまれている。
「おう、おめえらが受けてくれるか」
依頼受注の報告を、ダルガンさんにした。ここじゃなんだからと、ギルドマスター室に案内される……じりじりと、にじり寄ろうとしているリネエラさんの姿を横目に、さっさとダルガンさんのあとを追う。
──うちの仲間に、色目使うくらい暇なの?付き合いは、私達の方が長いんだけど? え? 個人的な感情で、冒険者の相手してるの? それ御法度じゃないんですか?──「ふふふ」「うふふ」
背後からリネエラさんとレンディアの、皮肉の応酬が聞こえてきたが、無視する。
「先に行ってましょーよ」
「レンディアに任せておこう」
先行するシェーミイ。グランさんに背を軽く押された。
「おう、座ってな。茶の用意するからよ」
少し堅めのソファ。これ、結構落ち着くんだよな。ふわふわのソファとは違った良さがある。
「トロル討伐依頼は、名義としては領主のウォーキンス子爵だが、実際の依頼者はその息子、ウォルキース卿だ。二十歳そこそこだが、なかなかに優秀だぞ」
ウォーキンス子爵は帝都に居るため、領内の政務は、息子のウォルキースが全権を持っているそうだ。村の意向を受け、トロル討伐の依頼を出したという……「衛兵は、動かさなかったんですか?」
「ああ、それな。衛兵は守備のために配置。討伐は冒険者の仕事、だと割り切っているそうだ。最も、依頼を受けてもらえなければ、陣頭指揮を取って、討伐に向かうと言ってたな」
カップをテーブルに並べるダルガンさん。
「随分、勇ましい人ですね」
カップを手に取り、啜る……美味い。やや温めの茶の香りが口の中に広がる。
「あそこは代々、武門の家系だからな。基本、血気盛んなんだよ」
領内の村、マルパソ。その近くの森にいつの間にか、トロルが住み着いていたのが確認されたのが二、三日前だという。
「村からの報告を受けたウォルキース卿が、直ぐに衛兵に村を守らせてな、そしてギルドに依頼を出したって訳だ」
静かに茶を啜るダルガンさん。
「あー、もう。疲れたわよ」
うんざりした様子のレンディアが部屋に入ってきた。苦笑する、グランさんとシェーミイ。
まあ、何があったか想像が付く……。
「リネエラどもに、絡まれたか。すまねえな」
ダルガンさんが、カップをレンディアに差し出す。ふう、とレンディアがカップを受け取る。
レンディアが来たことで、正式に依頼受注が成った。村との往復、約一日半。明日でるとして三日はかからないだろうな……。
「カリエラさんには、私が伝えておくわよ。余裕を持って日程を組んでいると思うから、多少時間を取っても、認めてくれるわよ」
美味しそうに茶を啜るレンディア。
「そうだ。ダルガンさん、トロル退治の経験あります?」
異世界知識を信用しない訳じゃないが、経験者の話を聞いてみたいのだ……。
「あるぜ、四回ほどだったかなあ。マーカスと他の連中で組んでな。ラーディスがいた時、あいつが止めで頭吹っ飛ばして、討伐証明バラバラにしたときゃ、面倒だったなあ」
茶を啜りながら、懐かしそうにいうダルガンさん。現役の時に、ラーディスさんと組んだ事があったのか……。
「ふうん、ダルガンさん、兄上と組んだ事あったんだ」
何気無い感じで、レンディアが言った……兄上?
「引退前は、よく組んだな。キメラ討伐、ドレイク討伐、古代遺跡の調査隊の護衛。ハイオーガ率いるオーガとオークの軍団とも、やり合ったなあ。あんときゃ、騎士団との合同だったな」
「兄上、自分からはあまり、冒険者活動の話しないからね」
え、レンディア。ラーディスさんの妹? マジか……。
「養女なのよ。私の名は、正式にはレンディア・グレイオウル。グレイオウル伯の次女ね」
「何だ? まだ言ってなかったのかよ」
茶を入れ換えながら、ダルガンさんがいう。
「隠すつもりはなかったのよ。変に畏まれても嫌だし」
通りで、妙な気品を感じてたんだよな。ラーディスさんの妹かあ。お嬢って、お嬢さまって事だったのか……。
「私達の時も、突然言われて驚いたのよー」
「しかも、グレイオウル領で聞かされてな。焦ったぞ」
あっはっは、と笑うシェーミイとグランさん。
トロル退治のコツを、ダルガンさんから教わる。
「デカさは大体、三メートルちょい、てとこか。周囲を囲むんだ。正面一ヶ所にまとまるのはダメだ。一気に蹴散らされるからな。的を絞らせない事だ。それと、意外に小回りが利くから、取り囲んだまま、動き続けろ」
茶を呷るダルガンさん。
「あとな、馬鹿力の割にスタミナが無い。周囲を囲むのは、スタミナを削る事に繋がるんだ──へたばったのを確認したら、一気に殺せ」
なるほどな。経験者語る、か。いや、ためになった……というか異世界知識、基本的な事しか教えてくれなかったな……何ぞ!?
ギルドから出ると昼過ぎだ。腹が、減った……。
「出発は、明日朝にしましょうか。朝食後、一休みして出発ね」
「ああ、構わない……昼を食いそびれたな」
「いいよー。それより、お腹空いたー、何か食べに行こうよー」
グランさんとシェーミイ。そうねえと、レンディア。
「煮鍋亭に行こう。煮物と、鍋が食べたい」
鍋は鶏か豚か。野菜たっぷりの鍋。煮物もいいんだよな……。
「ああ、いいわね。そろそろ冷えて来たし、よし……煮鍋亭にしましょうよ」
リーダーの決断だ。決定だな、煮鍋亭だ。
鍋は、鶏か豚かでシェーミイと軽くもめたが、両方取れば良いだろうと、グランさんの意見に従った。
その他に、鶏の白菜煮。葱たっぷりの豚角煮。
大根の煮付け──野菜の煮物が美味いんだよな煮鍋亭は。
鍋、煮物をたっぷりと堪能し、そして酒も楽しんだ──「ここまでにしときましょ。明日、朝食後に一休み。そのあとに、マルパソに向かいましょうよ」
煮鍋亭から出た頃には、すでに夕刻。
「明日まで、のんびりしましょうか」
レンディアの声。腹がふくれたシェーミイが、大きく欠伸をする。
「宿に戻ろう。一っ風呂浴びたい。浄化だけでは、物足りないからな」
グランさんがいう。上宿の浴室は華美でもなく、なかなかに凝った造りだったな……。
「いいですね。ゆったりと湯船に浸かる気持ち良さは、浄化とは違う……グランさん、行きましょう」
「お、おう……行く、か。うん」
ぎこちなく答えるグランさん。何ぞ?