邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第73話 トロル討伐 そして予想外の縁

 

 

 

城塞都市の南東。マルパソの村。麦の名産地。 質のいい麦は各地に輸出され、帝国領内の三~四割を占めるという。収穫の時期になるとその周辺は、色付く麦穂が黄金に見える事から、“黄金街道”の名で親しまれている。

 

「おう、おめえらが受けてくれるか」

依頼受注の報告を、ダルガンさんにした。ここじゃなんだからと、ギルドマスター室に案内される……じりじりと、にじり寄ろうとしているリネエラさんの姿を横目に、さっさとダルガンさんのあとを追う。

──うちの仲間に、色目使うくらい暇なの?付き合いは、私達の方が長いんだけど? え? 個人的な感情で、冒険者の相手してるの? それ御法度じゃないんですか?──「ふふふ」「うふふ」

 

背後からリネエラさんとレンディアの、皮肉の応酬が聞こえてきたが、無視する。

「先に行ってましょーよ」

「レンディアに任せておこう」

先行するシェーミイ。グランさんに背を軽く押された。

 

「おう、座ってな。茶の用意するからよ」

少し堅めのソファ。これ、結構落ち着くんだよな。ふわふわのソファとは違った良さがある。

「トロル討伐依頼は、名義としては領主のウォーキンス子爵だが、実際の依頼者はその息子、ウォルキース卿だ。二十歳そこそこだが、なかなかに優秀だぞ」

ウォーキンス子爵は帝都に居るため、領内の政務は、息子のウォルキースが全権を持っているそうだ。村の意向を受け、トロル討伐の依頼を出したという……「衛兵は、動かさなかったんですか?」

「ああ、それな。衛兵は守備のために配置。討伐は冒険者の仕事、だと割り切っているそうだ。最も、依頼を受けてもらえなければ、陣頭指揮を取って、討伐に向かうと言ってたな」

カップをテーブルに並べるダルガンさん。

「随分、勇ましい人ですね」

カップを手に取り、啜る……美味い。やや温めの茶の香りが口の中に広がる。

「あそこは代々、武門の家系だからな。基本、血気盛んなんだよ」

 

領内の村、マルパソ。その近くの森にいつの間にか、トロルが住み着いていたのが確認されたのが二、三日前だという。

「村からの報告を受けたウォルキース卿が、直ぐに衛兵に村を守らせてな、そしてギルドに依頼を出したって訳だ」

静かに茶を啜るダルガンさん。

 

「あー、もう。疲れたわよ」

うんざりした様子のレンディアが部屋に入ってきた。苦笑する、グランさんとシェーミイ。

まあ、何があったか想像が付く……。

「リネエラどもに、絡まれたか。すまねえな」

ダルガンさんが、カップをレンディアに差し出す。ふう、とレンディアがカップを受け取る。

 

レンディアが来たことで、正式に依頼受注が成った。村との往復、約一日半。明日でるとして三日はかからないだろうな……。

「カリエラさんには、私が伝えておくわよ。余裕を持って日程を組んでいると思うから、多少時間を取っても、認めてくれるわよ」

美味しそうに茶を啜るレンディア。

「そうだ。ダルガンさん、トロル退治の経験あります?」

異世界知識を信用しない訳じゃないが、経験者の話を聞いてみたいのだ……。

「あるぜ、四回ほどだったかなあ。マーカスと他の連中で組んでな。ラーディスがいた時、あいつが止めで頭吹っ飛ばして、討伐証明バラバラにしたときゃ、面倒だったなあ」

茶を啜りながら、懐かしそうにいうダルガンさん。現役の時に、ラーディスさんと組んだ事があったのか……。

 

「ふうん、ダルガンさん、兄上と組んだ事あったんだ」

何気無い感じで、レンディアが言った……兄上?

「引退前は、よく組んだな。キメラ討伐、ドレイク討伐、古代遺跡の調査隊の護衛。ハイオーガ率いるオーガとオークの軍団とも、やり合ったなあ。あんときゃ、騎士団との合同だったな」

「兄上、自分からはあまり、冒険者活動の話しないからね」

 

え、レンディア。ラーディスさんの妹? マジか……。

「養女なのよ。私の名は、正式にはレンディア・グレイオウル。グレイオウル伯の次女ね」

「何だ? まだ言ってなかったのかよ」

茶を入れ換えながら、ダルガンさんがいう。

「隠すつもりはなかったのよ。変に畏まれても嫌だし」

通りで、妙な気品を感じてたんだよな。ラーディスさんの妹かあ。お嬢って、お嬢さまって事だったのか……。

「私達の時も、突然言われて驚いたのよー」

「しかも、グレイオウル領で聞かされてな。焦ったぞ」

あっはっは、と笑うシェーミイとグランさん。

 

トロル退治のコツを、ダルガンさんから教わる。

「デカさは大体、三メートルちょい、てとこか。周囲を囲むんだ。正面一ヶ所にまとまるのはダメだ。一気に蹴散らされるからな。的を絞らせない事だ。それと、意外に小回りが利くから、取り囲んだまま、動き続けろ」

茶を呷るダルガンさん。

「あとな、馬鹿力の割にスタミナが無い。周囲を囲むのは、スタミナを削る事に繋がるんだ──へたばったのを確認したら、一気に殺せ」

 

なるほどな。経験者語る、か。いや、ためになった……というか異世界知識、基本的な事しか教えてくれなかったな……何ぞ!?

 

ギルドから出ると昼過ぎだ。腹が、減った……。

「出発は、明日朝にしましょうか。朝食後、一休みして出発ね」

「ああ、構わない……昼を食いそびれたな」

「いいよー。それより、お腹空いたー、何か食べに行こうよー」

グランさんとシェーミイ。そうねえと、レンディア。

「煮鍋亭に行こう。煮物と、鍋が食べたい」

鍋は鶏か豚か。野菜たっぷりの鍋。煮物もいいんだよな……。

「ああ、いいわね。そろそろ冷えて来たし、よし……煮鍋亭にしましょうよ」

リーダーの決断だ。決定だな、煮鍋亭だ。

 

鍋は、鶏か豚かでシェーミイと軽くもめたが、両方取れば良いだろうと、グランさんの意見に従った。

その他に、鶏の白菜煮。葱たっぷりの豚角煮。

大根の煮付け──野菜の煮物が美味いんだよな煮鍋亭は。

 

鍋、煮物をたっぷりと堪能し、そして酒も楽しんだ──「ここまでにしときましょ。明日、朝食後に一休み。そのあとに、マルパソに向かいましょうよ」

煮鍋亭から出た頃には、すでに夕刻。

「明日まで、のんびりしましょうか」

レンディアの声。腹がふくれたシェーミイが、大きく欠伸をする。

「宿に戻ろう。一っ風呂浴びたい。浄化だけでは、物足りないからな」

グランさんがいう。上宿の浴室は華美でもなく、なかなかに凝った造りだったな……。

「いいですね。ゆったりと湯船に浸かる気持ち良さは、浄化とは違う……グランさん、行きましょう」

「お、おう……行く、か。うん」

ぎこちなく答えるグランさん。何ぞ?

 

 

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