邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第74話 マルパソの村 トロルの洞窟

 

 

 

翌朝、食事後の休憩中。カリエラさんに、トロル討伐のため、マルパソ村に行くと報告。

「マルパソ? 久し振りに聞くわね……私もついていっていいかしら?」

一口大の、クリームの乗ったケーキを手に持ったカリエラさんが言った。

「いいといえば、いいのだけど……何か、用でもあるの?」

ティーカップを置く、レンディア。

「あそこね、私が店を構える前、メルデオ商会で見習いだった頃に、よく日用品や雑貨を卸しに行ってたのよ」

「なるほどねー、マルパソ村ってどんなとこ?」

シェーミイが果実水を啜る。

「人口、二千三百くらいだったかな。まあ、中規模の村ね。聞いてると思うけど、良質の麦が名産よ。あと、胡麻油の生産もしているわね。近くの森からは、質のいい薬草も採取されるらしいわ」

なるほどな、生産系の村なのか。

「なかなか賑わいのある村よ。場所的に、行商人や旅人が、行き交うのよ」

俺達のカップに、茶を注いでくれる、カリエラさん。シェーミイが、果実水の追加を頼んでいた。

「カリエラさんは、領主のウォーキンス子爵には会った事はあるのか?」

「ええ、二、三度ね。四十後半の、武人肌の人よ。ご子息のウォルキース卿にも挨拶した事あるわ。御父上に似た、武人気質の人ね」

グランさんに、カリエラさんが答える。

 

茶を飲み終え、宿から出る。支配人のカーディスさんに挨拶をする、カリエラさん。

「いってらっしゃいませ。どうか、お気を付けて」

頭を下げる、カーディスさん。カリエラさんにというより、レンディアに向けた感じだ……。

 

場所乗り場に向かうと、ネルソンさんが他の御者と談笑していた。こちらに気付くと、会釈をする。

「御免なさい、遅くなったわね」

「いいえ、構いません。今から向かうと、昼過ぎには着きますよ」

ん……早くないか? 何となく、そう思った。

俺の考えが伝わったのか、馬の首筋を撫でながら、ネルソンさんが言う。

「こいつらはタフでしてね。一昼夜駆けてもくたびれ無いんですよ。その気になれば、オークやコボルト程度、踏み潰して進みますよ」

 

何気に怖い事いうな。つまり、人を踏み殺せるって事だよな……さすが元軍馬。

俺のマントのフードを、はむはむと噛む馬達を、ネルソンさんが丁寧に引き離す。

 

 

マルパソ村まで向かう。結構、揺れないんだよな。馬車もいいんだろうが、ネルソンさんの手綱さばきも巧いのだろうな。

六人乗りの馬車内は、だいぶに余裕がある。グランさんが、御者をしているネルソンさんの隣に出ているからだ。警戒を兼ね、馬車の手綱さばきを勉強したいそうだ。

 

馬車の揺れに眠気を感じたのか、シェーミイは早々に寝入っている……自由だな。

「次いでに、胡麻油を仕入れるつもりよ。あと、あれば薬草もね」

グッ、と拳を握るカリエラさん。商魂逞しいな……さすがだ。

 

 

馬の休憩を兼ね、一休み。軽食を取る事になった。乾燥豆と野菜のスープに炙り干し肉に、ビスケット──文句の無い野営食。

生活魔法で出した水を桶に満たすと、がぶりと飲み始める軍馬二頭。

というか、俺が飲み水担当になってるな……まあ、いいけど。生活魔法の訓練になるからな。

「商会長、そろそろ」

ネルソンさんの合図。カリエラさんが、俺達に出発を告げる。

 

 

マルパソ村が見えてきた。ネルソンさんのいった通りだ。今だ時間は明るい。

村の前に待機している衛兵達に、レンディアがギルドの依頼書を見せる。

「お、トロル討伐かい。待ってたよ」

依頼書を確認し、レンディアに返す衛兵。

「村長のとこに案内したいんだが……いいかい?」

「ん。いいわよ。シェーミイ、宿を取って。男女別に、男三に女三よ」

「はいはーい」

レンディアの指示に、素早く宿に向かっていくシェーミイ……旅慣れているものだな……。

 

 

マルパソ村、村長ウィルギア。柔和な顔付きをした、六十代の老人。長年の野良仕事で鍛え上げられた体格は、がっしりとした頑健さに満ちている。褐色の肌には皺少なく、若く見える。

 

「お待ちしておりました。村長のウィルギアと申します」

テーブルを挟んでウィルギアさんと向かい合う。簡素なテーブルの上には、人数分のお茶。

ティーカップではなく、茶碗というのが渋い。

「お口に合いますか。まず、どうぞ」

「いただきます」

上品に茶碗を取り、ゆっくりと啜るレンディア。それに習い、俺達も茶碗に口をつける。

仄かな酸味。それが過ぎれば──柔らかな甘味が広がっていく──

「美味い」

それしか言えない。美味い、と。

「ありがとうございます。村で育てている薬草茶なんですよ」

嬉しそうにいうウィルギアさん。

 

 

「監視している衛兵がいうには、今のところ、トロルが森から出てくる気配は無いらしいのですが……」

「森が荒らされていますー?」

シェーミイの質問に、ウィルギアさんが渋い顔で頷く。

「はい。森の恵みが減りつつあります。獲物も獲りにくくなり、山菜や薬草等も同然です」

「獲物が減ったなら、村にも来るわね。牧畜やってなくて良かったわよ」

カリエラさんが、手土産に持って来たレーズンケーキを摘まむレンディア。

今、この場にカリエラさんはいない。ウィルギアさんに挨拶したあと、胡麻油と薬草を買い入れるべく、鼻息荒く出ていった。

 

「討伐は、明日早朝にするわよ。監視している衛兵さんに、トロルのねぐらに案内して欲しいんですけど」

「はい、話は通して置きます。それと、大したおもてなしはできませんが、夕食を差し上げたいのですが……どうでしょう?」

ウィルギアさんが、レンディアに尋ねる。

「ええ、ご馳走になります」

嬉しそうに微笑む、ウィルギアさん。

 

夕食は鍋。山菜、茸、鳥肉──森の恵み鍋だ。

くつくつと沸く鍋を囲んでいる。具を取り分けてくれるのは、ウィルギアさんの奥さんの、ケイナさんだ。

歳はウィルギアさんと同年代。ウィルギアさんと同じく、野良仕事で鍛えた、引き締まった体格に褐色の肌。

ウィルギアさんの様に、柔和な顔立ち。

「あらー。今、孫が居なくて良かったわー」

まじまじと、俺の顔を見るケイナさん。

あっはっは、と笑うウィルギアさん……何ぞ!?

 

野趣溢れる鍋は、旨かった。森の滋養たっぷりの味は、こういう時じゃないと味わえないだろうなあ……。

 

「当初は、若様。ウォルキース様が衛兵を率いて、トロル討伐に向かうとおっしゃったのですが、皆で止めたのです。万一の事があれば、帝都詰めの父上に申し訳が立たないと」

ウィルギアさんが、苦笑いでいう。

食事を終え、酒の時間だ。ケイナさんも側にいる。

「ウォルキース卿は、どういう人となり何ですか?」

グランさんが杯を干すと同時に、杯にシェーミイが酒を注ぐ。

「そう、ですね……真っ直ぐなお人ですかね。トロルが出たと聞いた時には、衛兵を率いて討伐すると息巻いて、なだめるのが大変でしたよ」

父上が留守の間は、自分が全権を受け持っている。何かあれば、直ぐ私に直訴するように──と領内に宣言したそうだ。

 

直情型かな? 悪く言えば単純。良く言えば……何だろうか?

「まあ。機会があれば、ウォルキース卿に挨拶できるかもね」

レンディアが、薬草茶を啜る。

 

夕食を終え宿に戻る。明日早朝に、監視役の衛兵と合流。トロルのねぐらを確認後、強襲と作戦が決まった。

 

 

朝食は、皆で取った。山菜中心のメニューはなかなか、爽やかな味わいだった。この村では、朝は山菜料理が基本だそうだ。

朝食後は監視役の衛兵と合流し、トロルのねぐらを確認しに行く事が決まっている。

 

「準備が済んだら、ウィルギアさんの家の前に集合よ」

さて、武器は──バトルアクスに、するか。

「クレイドル、私は護り中心に立ち回る。攻撃役は、君とレンディアに任せたい。レンディア、どうだ?」

「ええ、そうしましょう。シェーミイは、牽制と攪乱よ」

「はいはーい。りょーかい」

 

おお……皆、気合い入ってるな。

 

 

「みんな、気を付けてね。戦利品を楽しみにしてるわ!」

「お気を付けて……御武運を」

グッ、と拳を握るカリエラさんに、静かに頭を下げるネルソンさん。

二人に見送られ、ウィルギア村長の家に向かう。

 

ウィルギアさんの家の前。ウィルギアさんと衛兵がいた。

挨拶もそこそこに、レンディアがいう。

「早速だけれど、案内お願いよ」

結構、若い衛兵さんだな。歳は、俺のちょっと下? いや、俺いくつだっけか……一七、八だっけか?

「は、はい! では早速、向かい、ましょう!」

レンディアを見た衛兵さんが、顔を赤くする。次いで、俺を見て、ビクッ、と身をすくませた……何ぞ?

 

衛兵さんを先頭に、森を進む。グランさん、俺、レンディアの順。シェーミイは後方で警戒担当。

「この村、出身なのか?」

グランさんが、衛兵さんに話しかける。緊張を解すためだな。

「え、は、はい。親父が猟師でして、子供の頃からよく連れられて、手伝いをしました」

「通りで、慣れた感じしたわよ。まだ遠い?」

「もう少し、ですね。柵代わりなのか、倒木で囲いを作っているのですが、大したものではありません」

多分、縄張りのつもり何だろうな。少々の知恵は回るみたいだからな──

 

「倒木が見えて来ました。トロルのねぐらは、倒木を越えて、すぐです」

唇を舐める衛兵さん。緊張してるな……。

「分かったわ。一つお願い何だけど」

「は、はい!」

「私達がトロル退治するまで、待機してて貰えると嬉しいのだけれど」

「はい! 了解しました!」

 

ちょっと声大きいな。気付かれてなきゃいいが……。

 

衛兵さんは、倒木前で待機。俺達は倒木を乗り越え、少し進む──すぐに見えてきた。

洞窟。その前は、ちょっとした広場になっている。その中央には、大きな焚き火跡。

広場の端には、獲物の骨が積み重ねられている。

 

後方から戻って来たシェーミイが、鼻をスンスンと鳴らす。

「血生臭いなー。雑な解体すると、こんな匂いが残るんだよー」

顔をしかめるシェーミイ。

「どうやって引きずり出す? 洞窟内での立ち回りは無理だろう」

「まあ、任せて。風で引っ掻き回してみるから」

グランさんに答え、剣を抜くレンディア。

チイィン──いつもの澄んだ音色──

 

さあ、トロル。どんなもんだろうな……。

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