四匹の黒山羊は、ほら穴のトロルをバラバラに砕きました──いかづちの音鳴らす、たけき黒山羊。
獣神王国の、ものがたり──
洞窟入口前に立つレンディア──ピュウッヒュウッ、ピピュウッ──刃の風切り音。
やがて、風切り音が形を取り始める……。
渦巻く風が竜巻となり──
逆巻く烈風 進み散らし 撒き散らし 蹴散らし──進め
レンディアの、淡々とした詠唱が終わった瞬間──ゴオゥオォッッ──獣の咆哮じみた音と同時に、いつの間にか巨大化した竜巻が、砂や小石。枝葉を蹴散らし、洞窟内に飛び込んで行った。
あれだけの豪風にも、レンディアの髪もケープコートも、全く揺らいでなかった……。
「さて。待ちましょうよ」
レンディアが、干し果物を口にする。
ふんふふーん。シェーミイが鼻歌を歌いながら、いつでも放てる様に、二本矢をつがえる。
「どんな大物が来るやら」
グランさんが、ブロードソードを引き抜き、盾を一度叩いた。
──ずしん──
地響き、一つ。どこから? 言わずと知れた事だ──ぶおぉぁああっ!!
飛び出して来た巨体。腹の突き出た、いかにも頑丈で馬鹿力っぽい体付きだ。
ここに馬鹿デカイ黒山羊さんがいたら、一撃で粉砕されるんだろうがな。生憎ここにいるのは、冒険者だ。
ああ、そういえば。帝国の旗印は王冠を戴いた、大きな角を持った黒山羊の頭部だっけか……黒山羊に代わって、バラバラにするかあ!!
三メートルちょい、だっけか? 確かにデカイな。腰布一つだけではなく、仕止めた獲物の毛皮を身に纏っている。手には、粗削りの棍棒。
「グラン、中央。クレイドルと私は、左右。シェーミイ、牽制と攪乱ね」
手早い指示。応、と答える──「お先に」
バトルアクスを肩担ぎに走る。狙うは脛。
バトルアクスの刃の部分ではなく、その反対側。ピック状になっている打撃部分で、まずは一撃──ガンガン、とグランさんが盾を叩いた。
俺から、気を逸らせるためだろうな……有り難い──脛目掛け、一撃を思いきり振り抜く。
確かな手応え。トロルが前のめりになる──ヒヒュッ、矢音。トロルの胸元に二本の矢が突き立っていた。
ぶおぅぅう、とトロルが矢を振り払う。効いてないな、あれ──とはいえ、充分な隙が出来てるぜトロルさんよ……前のめりになった、トロルの頭部を叩く。これで止めにはならないだろうな。
なにしろ、タフだろうから──それでも、トロルがグラリと身を傾かせる。
ピュイィィン──レンディアの剣が、鳴る。
トロルの体が、風の刃で裂かれる。ダメージ目的ではない。スタミナを削ぐための攻撃──ダルガンさんの教え。周囲を囲み、的を散らせる。
グランさん、レンディア、俺。三方を囲んでいる。シェーミイは後方で、牽制の用意をしているだろう──ぶおおぉぉう! トロルが叫ぶ。
周囲をうろちょろする俺達が、目障り何だろうな。叫び声に苛立ちが混じっている。
ガアァン、とグランさんが盾を叩く。
「おい、こっちだ! 来いデカブツ!」
ガンガン、と盾を叩き続けるグランさん。
トロルが、棍棒を振り上げる。グランさんは、トロルを正面に見据え、腰を落とすと、カイトシールドをどっしりと構える──(父君よ盟友を護らせたまえ)──降り下ろされた棍棒を、正面から受け止めるグランさん。打撃音が鈍く響いた。
あれを受け止めるか……グランさんの体が、仄かに黒く輝いている。
暗黒神の加護か? グランさんが受け止めている今の状況、チャンスだな──ヒュッピイィン。
弓鳴り。棍棒を持つトロルの手首に、矢が二つ突き立っていた。
棍棒を取り落とす、トロル。その足首目掛け、思いきり、バトルアクスを薙ぎ払う。
刃の部分を、思いきり──ゴツン、鈍い手応えが伝わる。
足首を切断した──黒い血が跳ね散る。
たまらず、横倒しになるトロル。そりゃあ、片足首無くしたらなあ。まだ、終わらないぞ……バラバラになってないからな。
横倒しになるトロルに、氷の礫が降り注ぐ。レンディアの術だ……。
たちまち、トロルの上半身が凍てつき始める……今だな──「おおあぁぁっ!!」
凍てついた頭部に、思いきりバトルアクスを叩き降ろす。
ゴシャリ、と感触──トロルは、もう動かない。
「凄え……」
口に出ていた。冒険者何てものを、初めて間近に見た。遠巻きに見たトロルは、やはり衛兵で討伐するべきでは、と思っていたのだが……冒険者達は、あの巨体に怯む事無く、突き進んで行った。
十人編制で、一丸となって討伐すべし! と若君、ウォルキース卿が激励した時は、隊長と村長が、必死で止めた。
万一の事が合ったら、帝都詰めのウォーキンス子爵に申し訳立たないと止めたのだ──
レンディアさんを、初めて見た瞬間、驚いた。エルフは初めてだったから。聞いていた通りのエルフの美貌。
見惚れそうになったが──その隣にいた冒険者の顔を直視してしまった……あれは──輝くような金髪。整った、目鼻立ちに薄紅色の唇。
これはヤバイ。特に唇は、直視しては駄目なやつだ──
洞窟内から引きずり出したトロルを、囲むレンディアさん達。そこからの立ち回りは、凄いものだった。
周囲を囲み、トロルを翻弄しながらの戦い。それぞれが、自分の役割を充分に知っている、立ち回り──勉強になる。冒険者は荒くれ連中。そう聞いていたが、あの立ち回りを見る限り、とてもそうは見えない。
トロルの一撃を、真正面から受け止める黒騎士。
目にも止まらぬ速射で、トロルの手首を撃ち抜く猫族。
その直後、バトルアクスの一振りでトロルの足首を切断する、黒鷲の兜。
倒れたトロルに降り注ぐ、大量の氷の塊──レンディアさんの魔術──
横倒しになったトロルの体が、直ぐに凍りついていく──「おおあぁぁっ!!」黒鷲の兜、クレイドルさんが、凍り付いたトロルの頭部に、バトルアクスを叩き付けた──トロルの頭部が弾け散る。トロルは、もう動かない……。
マルパソ村出身の衛兵の名、アルドア。後に、衛兵仲間から、冒険者達のトロル退治の事を聞かれると、まず最初に話すのが──「エルフの美貌は、話には聞いてたけどな。それよりも──」
黒鷲の兜、クレイドルの容姿がいかに妖艶だったかと、言葉足らずにも話始めるのが、常となっていた。
頭部を粉砕されたトロルの死骸──「ええと、討伐証明は、歯か爪よね……まず、歯を集めましょうか。クレイドルと私でやるわ。爪は……うん、両手首を切り落としましょう。グラン、お願いね。魔石の回収は、最後にやりましょう。私とクレイドルでやるわ……シェーミイは、周囲の警戒お願いよ」
矢継ぎ早に指示を出すレンディア。グランが頷き、はいはーいとシェーミイが答える。
弾け散った頭部。討伐証明は、歯が基本──俺が頭部を叩き潰したせいで、歯が散々になったという──ごめんなさい、だ。
歯をいくつかと、両手首を回収。魔石は、土属性。トロル退治の証明は、これで終了──見届け人の衛兵さんもいる。村長に報告で、ひとまず終了だな。
一刻も早く、村長のウィルギアさんを安心させるために、レンディアが衛兵さんにトロル退治の報告を頼んだ。
「さてと、ねぐらを調べるとしましょうか。掘り出し物が、あるかもしれないしね」
レンディアがいう。そうか、トロルは興味があるものは、何でも溜め込む癖があるんだったな……。
洞窟に入る前、“闇明け”という、周囲から闇を払う術を、グランさんが使った。
暗がりが消え、普通に周りが目視出来る様になった。明るさとは違うんだな……。
洞窟内部は、それほど深くない。少し降りるくらいで、奥まで到達……獣臭いので、浄化を連続使用した。
奥はなかなかに広く、トロルが狩った獲物の皮が敷き詰められていて、寝床になっていた……こういう知恵はあるんだな。ここでも浄化を使用したが……ちょっと、神経質か?
「ガラクタばっかりと、思ったけど……こんなのどっから、見つけてきたんだろーねー」
寝床の端を探っていたシェーミイが、いう。
「何よ? 珍しい物でもあった?」
レンディアに、シェーミイが短剣を差し出す。
短剣というには、少し短く。短刀ほど短くはない。中途半端な長さの剣だ。レンディアが白い鞘から抜く──艶のある黒い刀身。
「これは、黒銀製だ。実用的な物では無い」
レンディアから剣を受け取った、グランさんがいう。確か、黒銀は他の鉱石と合わせる事で強度が大きく上がるんだっけか……逆にいえば、黒銀のみでは、グランさんのいった通り、実用に耐えられない脆さがあるそうだ。
「装飾用か、贈答品としてこういうのが作られる事があるんだが……これ、家紋だな」
グランさんが鞘を見る。金色の円の真ん中に、白い角笛の紋章。
「レンディア、この紋章に見覚えは?」
「う~ん。金円に角笛の紋章ねえ……父上と付き合いのある家の家紋は、大概知っているけど。これは知らないわよ」
「取り合えず回収して、村長さんに確認してもらおーよ」
この剣以外には、ガラクタばかり。さっさと撤収する事となった。
ぐわらぐわら、どどん、と感想あれば……。
Ψ(`∀´)Ψケケケ