あ、そうだ。宿に戻る前に──「レンディア、あの短剣。村長に見て貰おう」
「この家紋は、ギルラド子爵の家紋ですよ」
ウィルギアさんが、短剣をレンディアに渡す。
ギルラド領──確か、四季の庭園だっけか……スカーフ巻きの商人が、言ってたな──『ギルラド領の四季の庭園。あそこ行かなきゃ勿体無いよ』──と。
「白水晶の角笛を、初代が覇王公から拝領した物だそうで、同時に爵位も頂いたそうですな」
ウィルギアさんが、薬草茶を啜りながらいう。
「水晶の角笛から名を取って、姓を“クリスタホーン”としたそうですな」
「水晶の角笛。そんなもの、覇王公はどこから入手したのですかね?」
豆菓子を摘まむ、グランさん。
「冒険者時代に、入手したらしいですな。なかなかの値がついたそうですが、珍しいので取って置いたそうです」
「ふ~ん。そんなもの貰った初代の感動って、
ポリパリと豆菓子を摘まむ、シェーミイ。
歴史あるな……初代からだから、どれくれい続いているんだ。帝国成立って、三百年近く前だよな──歴史って重いな……。
それから、ウィルギアさんと色々な話をした。
この村の成り立ちから、ウォーキンス子爵の父上の話。やがては薬草園を大きくして、麦、胡麻油に並ぶ、名産品にしたいとの野望を聞かせてくれた……野望に年齢は関係無いのだな。
まあ、奥さんのケイナさんは、苦笑していたが。
「ギルラド領か、グレイオウル領の北側。帝都の少し南だったか」
「観光地として有名ね。一年中、観光客が行き交ってるわよ。兄上が言うには、マンドラゴラの生産地として、知る人ぞ知るみたいね」
「あれ、引き抜く時ってーとんでもない悲鳴上げるんでしょー? 下手したら、ショック死しかねないんでしょー」
おっかねえな、何だその植物。魔術、錬金術関連に、役に立つ植物だそうだが。
「自然の物は、そうらしいんだけどね。兄上が言うには、人の手で育てられた物は叫ばないそうなのよ。最も、多少は魔力落ちるそうだけど、誤差の範囲だそうよ」
なるほどな。マンドラゴラの種、根、花。魔術師と錬金術師にとっては、素材に良し触媒に良しの物だそうだ──宿に戻り、一休憩といくか。
部屋に戻り、しばらくダラダラとする。
ベッドに横たわり、グランさんとネルソンさんと無駄話をする。
グランさんの騎士見習い時代、ネルソンさんの新兵時代の話──酒は無くとも、盛り上がるものだな……グランさんとネルソンさんの話は、兵士あるあるになっていた。
俺は聞き役に、徹する事にする──ここに、酒でもあればなあ……。
「ウォルキース卿が、迎えの馬車を寄越して来たわよー」
ドンドドン、とドアを叩いてくるシェーミイ──うるせえな……。
グランさんも、眠たそうに目を瞬かせている。
「まあ、せっかくの貴族様のお誘いですから。ごゆっくり」
行く事の無い、ネルソンさんが気楽にいう。
「……留守を頼みます」
せめてもの皮肉だ。ネルソンさんは、静かに微笑んだ。
女性陣はすでに身支度を整えていた。とはいっても、飾り気はほとんどない。よそ行きの装いといった感じだ──
「さ、行きましょうか」
レンディアが先導し、迎えの馬車の元に向かうと……驚いた。
ウォルキース卿が直々に、御者をしていた。さすがに、レンディアも驚く。
「ウォルキース卿、駄目ですよ。子爵の御嫡男殿が、この様な事は……それに共も連れずに」
「なんの。我が家の初代は、どこの馬の骨とも知れぬ者です。それに、嫡男が、敬意を持って受け入れる方々に対しては、最大限の礼を持って答えねば、家名に傷付こうというものです」
はっはっは、と笑うウォルキース卿。ちょっと芝居がかっているが、豪快な人だ。
馬車に先に乗り込み、レンディアとカリエラさんの手を取るグランさん。おおう、紳士だな。
シェーミイは全く気にせず、ぼんやりとしている。俺も紳士じゃないしな──待てよ、グランさんは、馬車の扱いを習っていると聞いた。
ならば、俺も習うにこした事無いかな?
御者を勤めるウォルキース卿に、一言頼む。
「自分も、少し御者を知りたいのです。お隣で勉強させて貰いたいのですが……いけませんか?」
「うむ……私は乗馬には自信があるのだが、馬の扱いにも、色々長けているべきと思ってな、御者の見習いをしているのだよ」
「では、お隣で勉強させて貰います」
ひょい、とウォルキース卿の隣に乗り込む。
クレイドル君といったか──彼を見て、最初に思ったのは……何故、
何か、特別な訳でもあるのだろうな……ま、それはそれだ。
今日もてなすのは、グレイオウル伯の次女、レンディア嬢とその仲間だ──そして男装の令嬢、クレイドル君──いやクレイドル嬢か……難しい所だ……客人を楽しみにしている、母上と妹の反応はどうなる事か。
濃灰色のマントのフードを降ろし、私の手綱捌きをまじまじと見つめてくる、クレイドル嬢──眩いばかりの金髪に白磁の肌。薄紅色の唇は……ああ、落ち着け。
直視するんじゃあない──真正面を見て、馬車を操るんだ。一、二、一、二、だ……。
屋敷が見えてきた。ハウルメイス邸──
真っ先に目に入って来たのは、大開きの頑丈そうな鉄の門。まるで城門だ……門の前で仁王立ちで腕を組んでいる、鎧姿の狼族……油断の無い、引き締まった雰囲気だ。
「若。言いたい事はありますが……まずは、御客人の案内が先ですね」
門を開くよう、門の側に控えている衛兵に告げる、狼族の男性。衛兵隊長なのかな? そういえば、控えていた衛兵とは鎧が違うな……。
ウォルキース卿がなかなかの手綱捌きを見せ、門をくぐり、屋敷入り口近くに着けた。
「ふむ。クレイドルじ、殿。到着だ」
「……ん? はい、なかなかの手綱捌きでした。いい勉強になりました」
きっちりと、屋敷玄関前に着けたウォルキース卿……というか、クレイドルじ、て何だ?
グランさんが、レンディアとカリエラさんの手を取り、馬車から降りるのをエスコートしていた。さすが騎士。あの紳士振りは多少見習った方がいいか?
ちなみに、シェーミイは馬車が停まった瞬間、飛び出した……ほんと猫だな。
「ようこそ、いらっしゃいました皆様方。トロル討伐の件、若様から聞いております……まあ、堅苦しい事は、奥様からお聞き下さい」
迎え入れてくれたのは、執事のルドラスさん。堅苦しさはあまり感じず、柔らかい雰囲気の人だな……五十代てとこだろうか。強靭、というイメージが浮かんだ。
「若。御説教の方は、後から、ラジェラ隊長から、ゆっくりと……」
にこり、と笑うルドラスさん。まあ、それはそうとして、と……。
「早速、御案内いたします。どうぞ」
丁寧に会釈し、先導するルドラスさん。
まずは、と応接室に通された。茶の準備を侍女さん達にしてもらう。てきぱきとした動き。
無駄なく効率的だが、マニュアル的な冷たさが無いのが、教養というやつなんだろうか……。
侍女さん達が、チラチラと俺に視線を送ってきたのが、気になったが……。
茶を飲みながら談笑する。シェーミイは遠慮無く、盆に盛られた茶菓子をぱくぱくと摘まんでいる。
「夕食の準備が整いました。どうぞ、食堂に。堅苦しい、貴族の礼は無用ですので。どうか、お気楽に」
ルドラスさんが、俺達を先導してくれる。
先頭を行くは、我らがリーダー、レンディア。貴族の出自だからな、最低限のマナーはわきまえているだろう……。
食堂広し……というほどではない。丁度の広さだ。互いの距離感が、遠くも近くも無い……上席には奥方。こちらから見た側、その右側には女性……というより、少女然とした人。娘かな。ウォルキース卿は、見当たらない……何ぞ?
「ええと……息子は、我が家の衛兵隊長に絞られているでしょうから、少し遅れると思いますわ」
奥方がいう。おおう。やはりか……まあ、仕方ない。ただ一人で、共も無く馬車を使って冒険者達を迎えたのだから……。
ほどよい大きさのテーブル。正面上座には女性。右側には、少女。左側は空席……多分、ウォルキース卿だろうな……俺達は、テーブルを挟んで向かい側に並んで座っている。
「公式の場所では無いですからね。貴族のマナーは、関係有りませんよ」
上座に座る、淑女……ウォーキンス子爵の奥方だろうな……艶のある黒髪を、高く結い上げている、穏やかな顔付きの淑女──清楚な美人、という感じだな。
隣の少女。貴族風というより、凛々しい感じだな……美人顔。ちょっと気になったのが──
(グランさん。あの
(分かるか。あと馬術も巧みだろうな)
「申し遅れました。私は、ウォーキンス・ハウルメイス子爵の妻、ルーエアと申します」
淑女然とした微笑み。おお、これぞ気品だな。
「……オルミア、と申します。今後とも、よろしく、お願いします」
頭を下げる、オルミアさん。何か赤くなってないか?
「あらあら、いつもと調子違うわね」
手の甲を口元に当て、楽しそうに笑うルーエア夫人。
顔を上げ、キッと母親を睨むオルミアさん。次いでとばかりに、俺を睨むオルミアさん……何ぞ?
少し早いですが、とルーエア夫人が食前酒を用意してくれた。
説教受けているウォルキース卿は長引くだろうとの事だ。
衛兵隊長ラジェラさん。執事ルドラスさん……二人の説教は、長いだろうな。
食前酒の他に、軽い前菜が追加されて来た……説教、やはり長いか……。
ルーエア夫人と談笑する。話好きなのか、色々と聞かせて貰った。嫁入りの話や、子供が出来た頃の話──等。
やがて、疲れた顔のウォルキース卿が、食堂にやって来た。
「あらあら、大分絞られたようね。まあ……ハウルメイス家の嫡男が、共も連れずに単身、馬車を使って出掛けるなんてねえ……」
「母上、もう充分です。これ以上は、もうどうか……」
「まあ、いいわ。私と父上の分までの説教は、もう済んだと見なすわ」
くつくつ、と笑うルーエア夫人。
「大分遅れたけど、改めて夕食にしましょう。いい山菜と猪肉が、ありますのよ」
ルーエア夫人が、侍女を呼ぶ。
山菜と猪鍋か。ううむ──貴族の家でも、野趣の趣があるな。
食後。ルーエア夫人達との会話は弾んだ。
“
シェーミイのおもしろ可笑しい身振り手振りの話に、ルーエア夫人達は楽しそうに笑っていた。
いや、さすがだな──シェーミイ。
まあ、評価。感想くれたなら、嬉しいですな。返すかどうかは気紛れですが。
Ψ(`∀´)Ψケケケ