邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第77話 ウォーキンス邸での夕食 そして後を引く大きな勘違い

 

 

あ、そうだ。宿に戻る前に──「レンディア、あの短剣。村長に見て貰おう」

 

「この家紋は、ギルラド子爵の家紋ですよ」

ウィルギアさんが、短剣をレンディアに渡す。

ギルラド領──確か、四季の庭園だっけか……スカーフ巻きの商人が、言ってたな──『ギルラド領の四季の庭園。あそこ行かなきゃ勿体無いよ』──と。

 

「白水晶の角笛を、初代が覇王公から拝領した物だそうで、同時に爵位も頂いたそうですな」

ウィルギアさんが、薬草茶を啜りながらいう。

「水晶の角笛から名を取って、姓を“クリスタホーン”としたそうですな」

「水晶の角笛。そんなもの、覇王公はどこから入手したのですかね?」

豆菓子を摘まむ、グランさん。

「冒険者時代に、入手したらしいですな。なかなかの値がついたそうですが、珍しいので取って置いたそうです」

「ふ~ん。そんなもの貰った初代の感動って、一入(ひとしお)だったでしょうねー」

ポリパリと豆菓子を摘まむ、シェーミイ。

 

歴史あるな……初代からだから、どれくれい続いているんだ。帝国成立って、三百年近く前だよな──歴史って重いな……。

 

それから、ウィルギアさんと色々な話をした。

この村の成り立ちから、ウォーキンス子爵の父上の話。やがては薬草園を大きくして、麦、胡麻油に並ぶ、名産品にしたいとの野望を聞かせてくれた……野望に年齢は関係無いのだな。

まあ、奥さんのケイナさんは、苦笑していたが。

 

「ギルラド領か、グレイオウル領の北側。帝都の少し南だったか」

「観光地として有名ね。一年中、観光客が行き交ってるわよ。兄上が言うには、マンドラゴラの生産地として、知る人ぞ知るみたいね」

「あれ、引き抜く時ってーとんでもない悲鳴上げるんでしょー? 下手したら、ショック死しかねないんでしょー」

おっかねえな、何だその植物。魔術、錬金術関連に、役に立つ植物だそうだが。

 

「自然の物は、そうらしいんだけどね。兄上が言うには、人の手で育てられた物は叫ばないそうなのよ。最も、多少は魔力落ちるそうだけど、誤差の範囲だそうよ」

なるほどな。マンドラゴラの種、根、花。魔術師と錬金術師にとっては、素材に良し触媒に良しの物だそうだ──宿に戻り、一休憩といくか。

 

部屋に戻り、しばらくダラダラとする。

ベッドに横たわり、グランさんとネルソンさんと無駄話をする。

グランさんの騎士見習い時代、ネルソンさんの新兵時代の話──酒は無くとも、盛り上がるものだな……グランさんとネルソンさんの話は、兵士あるあるになっていた。

俺は聞き役に、徹する事にする──ここに、酒でもあればなあ……。

 

 

「ウォルキース卿が、迎えの馬車を寄越して来たわよー」

ドンドドン、とドアを叩いてくるシェーミイ──うるせえな……。

グランさんも、眠たそうに目を瞬かせている。

「まあ、せっかくの貴族様のお誘いですから。ごゆっくり」

行く事の無い、ネルソンさんが気楽にいう。

「……留守を頼みます」

せめてもの皮肉だ。ネルソンさんは、静かに微笑んだ。

 

 

女性陣はすでに身支度を整えていた。とはいっても、飾り気はほとんどない。よそ行きの装いといった感じだ──

「さ、行きましょうか」

レンディアが先導し、迎えの馬車の元に向かうと……驚いた。

ウォルキース卿が直々に、御者をしていた。さすがに、レンディアも驚く。

「ウォルキース卿、駄目ですよ。子爵の御嫡男殿が、この様な事は……それに共も連れずに」

「なんの。我が家の初代は、どこの馬の骨とも知れぬ者です。それに、嫡男が、敬意を持って受け入れる方々に対しては、最大限の礼を持って答えねば、家名に傷付こうというものです」

はっはっは、と笑うウォルキース卿。ちょっと芝居がかっているが、豪快な人だ。

 

馬車に先に乗り込み、レンディアとカリエラさんの手を取るグランさん。おおう、紳士だな。

シェーミイは全く気にせず、ぼんやりとしている。俺も紳士じゃないしな──待てよ、グランさんは、馬車の扱いを習っていると聞いた。

ならば、俺も習うにこした事無いかな?

 

御者を勤めるウォルキース卿に、一言頼む。

「自分も、少し御者を知りたいのです。お隣で勉強させて貰いたいのですが……いけませんか?」

「うむ……私は乗馬には自信があるのだが、馬の扱いにも、色々長けているべきと思ってな、御者の見習いをしているのだよ」

「では、お隣で勉強させて貰います」

ひょい、とウォルキース卿の隣に乗り込む。

 

クレイドル君といったか──彼を見て、最初に思ったのは……何故、男装(だんそう)をしているのかと──いや、冒険者には色々と過去があるのだろう……それを聞くのは、粋ではない。

何か、特別な訳でもあるのだろうな……ま、それはそれだ。

今日もてなすのは、グレイオウル伯の次女、レンディア嬢とその仲間だ──そして男装の令嬢、クレイドル君──いやクレイドル嬢か……難しい所だ……客人を楽しみにしている、母上と妹の反応はどうなる事か。

 

濃灰色のマントのフードを降ろし、私の手綱捌きをまじまじと見つめてくる、クレイドル嬢──眩いばかりの金髪に白磁の肌。薄紅色の唇は……ああ、落ち着け。

直視するんじゃあない──真正面を見て、馬車を操るんだ。一、二、一、二、だ……。

 

屋敷が見えてきた。ハウルメイス邸──

真っ先に目に入って来たのは、大開きの頑丈そうな鉄の門。まるで城門だ……門の前で仁王立ちで腕を組んでいる、鎧姿の狼族……油断の無い、引き締まった雰囲気だ。

 

「若。言いたい事はありますが……まずは、御客人の案内が先ですね」

門を開くよう、門の側に控えている衛兵に告げる、狼族の男性。衛兵隊長なのかな? そういえば、控えていた衛兵とは鎧が違うな……。

 

ウォルキース卿がなかなかの手綱捌きを見せ、門をくぐり、屋敷入り口近くに着けた。

「ふむ。クレイドルじ、殿。到着だ」

「……ん? はい、なかなかの手綱捌きでした。いい勉強になりました」

きっちりと、屋敷玄関前に着けたウォルキース卿……というか、クレイドルじ、て何だ?

 

グランさんが、レンディアとカリエラさんの手を取り、馬車から降りるのをエスコートしていた。さすが騎士。あの紳士振りは多少見習った方がいいか?

ちなみに、シェーミイは馬車が停まった瞬間、飛び出した……ほんと猫だな。

 

「ようこそ、いらっしゃいました皆様方。トロル討伐の件、若様から聞いております……まあ、堅苦しい事は、奥様からお聞き下さい」

迎え入れてくれたのは、執事のルドラスさん。堅苦しさはあまり感じず、柔らかい雰囲気の人だな……五十代てとこだろうか。強靭、というイメージが浮かんだ。

「若。御説教の方は、後から、ラジェラ隊長から、ゆっくりと……」

にこり、と笑うルドラスさん。まあ、それはそうとして、と……。

「早速、御案内いたします。どうぞ」

丁寧に会釈し、先導するルドラスさん。

 

まずは、と応接室に通された。茶の準備を侍女さん達にしてもらう。てきぱきとした動き。

無駄なく効率的だが、マニュアル的な冷たさが無いのが、教養というやつなんだろうか……。

侍女さん達が、チラチラと俺に視線を送ってきたのが、気になったが……。

 

茶を飲みながら談笑する。シェーミイは遠慮無く、盆に盛られた茶菓子をぱくぱくと摘まんでいる。

 

「夕食の準備が整いました。どうぞ、食堂に。堅苦しい、貴族の礼は無用ですので。どうか、お気楽に」

ルドラスさんが、俺達を先導してくれる。

先頭を行くは、我らがリーダー、レンディア。貴族の出自だからな、最低限のマナーはわきまえているだろう……。

 

食堂広し……というほどではない。丁度の広さだ。互いの距離感が、遠くも近くも無い……上席には奥方。こちらから見た側、その右側には女性……というより、少女然とした人。娘かな。ウォルキース卿は、見当たらない……何ぞ?

「ええと……息子は、我が家の衛兵隊長に絞られているでしょうから、少し遅れると思いますわ」

奥方がいう。おおう。やはりか……まあ、仕方ない。ただ一人で、共も無く馬車を使って冒険者達を迎えたのだから……。

 

ほどよい大きさのテーブル。正面上座には女性。右側には、少女。左側は空席……多分、ウォルキース卿だろうな……俺達は、テーブルを挟んで向かい側に並んで座っている。

 

「公式の場所では無いですからね。貴族のマナーは、関係有りませんよ」

上座に座る、淑女……ウォーキンス子爵の奥方だろうな……艶のある黒髪を、高く結い上げている、穏やかな顔付きの淑女──清楚な美人、という感じだな。

隣の少女。貴族風というより、凛々しい感じだな……美人顔。ちょっと気になったのが──

 

(グランさん。あの()、剣術やってますかね?)

(分かるか。あと馬術も巧みだろうな)

 

「申し遅れました。私は、ウォーキンス・ハウルメイス子爵の妻、ルーエアと申します」

淑女然とした微笑み。おお、これぞ気品だな。

「……オルミア、と申します。今後とも、よろしく、お願いします」

頭を下げる、オルミアさん。何か赤くなってないか?

「あらあら、いつもと調子違うわね」

手の甲を口元に当て、楽しそうに笑うルーエア夫人。

顔を上げ、キッと母親を睨むオルミアさん。次いでとばかりに、俺を睨むオルミアさん……何ぞ?

 

少し早いですが、とルーエア夫人が食前酒を用意してくれた。

説教受けているウォルキース卿は長引くだろうとの事だ。

衛兵隊長ラジェラさん。執事ルドラスさん……二人の説教は、長いだろうな。

 

食前酒の他に、軽い前菜が追加されて来た……説教、やはり長いか……。

ルーエア夫人と談笑する。話好きなのか、色々と聞かせて貰った。嫁入りの話や、子供が出来た頃の話──等。

 

やがて、疲れた顔のウォルキース卿が、食堂にやって来た。

「あらあら、大分絞られたようね。まあ……ハウルメイス家の嫡男が、共も連れずに単身、馬車を使って出掛けるなんてねえ……」

「母上、もう充分です。これ以上は、もうどうか……」

 

「まあ、いいわ。私と父上の分までの説教は、もう済んだと見なすわ」

くつくつ、と笑うルーエア夫人。

「大分遅れたけど、改めて夕食にしましょう。いい山菜と猪肉が、ありますのよ」

ルーエア夫人が、侍女を呼ぶ。

山菜と猪鍋か。ううむ──貴族の家でも、野趣の趣があるな。

 

食後。ルーエア夫人達との会話は弾んだ。

碧水の翼(へきすいのつばさ)”の冒険談が中心でのあれこれ。

シェーミイのおもしろ可笑しい身振り手振りの話に、ルーエア夫人達は楽しそうに笑っていた。

いや、さすがだな──シェーミイ。




まあ、評価。感想くれたなら、嬉しいですな。返すかどうかは気紛れですが。
Ψ(`∀´)Ψケケケ
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