邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第78話 黒銀の短剣始末 城塞都市への帰還

 

 

 

夕食後。酒の時間になった。カリエラさんとルーエア夫人が、商いの話をしている。胡麻油、薬草──それらの話が、微かに聞こえる。

 

「あなた──クレイドルといったわね」

オルミア、さんが話し掛けて来た。

何か……怒っている様な感じだが……何ぞ?

「……どうなさいました?」

極力、丁寧に受け答える──貴族に難癖つけられるのは、面倒だ。いざという時には、レンディアを頼りたい……。

「むむむ……」オルミア嬢は、何かもじもじとしている……。

「クレイドル殿。妹は、年が近い人との交流が少ないのだよ。だから君と仲良くなりたいのだ」

「お、お兄様っ!」

顔を赤らめ、兄のウォルキース卿を睨み、次いで俺を睨むオルミア嬢……理不尽だ。

 

「ああ、そういえば。ウォルキース卿、これに心当たり有りませんか?」

レンディアが例の短剣。ギルラド子爵の家紋入りの短剣を取り出した。

「うん? これはギルラド子爵の家紋だな……ちょっと失礼」

短剣を受け取り、母親の元に行くウォルキース卿。

 

「オルミア嬢、ハウルメイス家ってー、ギルラド子爵と何か関係あるのー」

果実酒を啜る、シェーミイ。何か遠慮無いんだよな。まあ、らしいけどな──

「う、うん……父上と、ギルラド子爵の亡くなった御父上は、同期なの。その関係で、今も交流が続いているのよ」

 

早くに父親を亡くしたギルラド子爵に、ウォーキンス卿が、何くれと無く、面倒を見たそうだ。

ちなみに、そのギルラド子爵。十三の歳で、亡き父親が残したドワーフの名匠が鍛え上げた剣で、オーガの首を跳ね飛ばしたそうだ──当時はかなり話題になったらしい。

 

「あの短剣。ギルラド子爵が友好の証しとして、ウォーキンス子爵に贈った物だと思うわよ」

家紋入りの品を贈るのは、親愛の証しだという。それが、何故トロルの縄張りにあったのか──「多分、運搬中に何かに襲われて、荷を放って逃げたんでしょうねー」

「ふむ。帝国内で、野盗の類いはまず出ないからな、オークかコボルトの群れに襲われたんだろうな」

シェーミイとグランさんがいう……そうならそうで、運搬依頼を引き受けた商人ギルドが、依頼主に報告するだろうに。

「黒銀の短剣が、届いたかどうかの問い合わせのやり取りは、あったそうなんですけど……」

オルミア嬢、いわく。荷物不明の賠償は、とうに済んだので仕方ないとの事で決着したそうだ。

その後、改めてギルラド子爵から、家紋入りの盃が贈られたらしい──そこに、行方不明の短剣が戻って来たのだ……奇縁だな。

 

「母上。これは、レンディア嬢達がトロルの寝床から回収してきた物です……」

ウォルキースが、母親のルーエアに白鞘の短剣を差し出す。

「……何の、縁でしょうねえ。ギルラド卿との親愛の証を、トロル討伐の依頼を引き受けた方々が取り戻してくれるなんてね……」

沁々と、白鞘の短剣に触れるルーエア。

「父上とギルラド卿には、私の方から連絡します」

「ええ……お願いね。レンディア嬢達には……義理が出来たわね」

ウォルキースが、頭を下げた──側で聞いていたカリエラは、静かに果実酒を啜る。

 

酒の時間は終わった。泊まっていきませんかとの誘いを、レンディアが丁重に断った。

夜とはいえ、それほど深くない。村に戻っても通してくれるだろう時間だ。

「お招き、有り難うございました。今日の所は、これで失礼させて頂きます」

レンディアが、貴族の所作で答える。

「いつか、夫が帝都から戻った際には改めて御礼申し上げるわ……レンディア嬢、皆様方、有り難うございました……」

「これも仕事です。では奥様、またの機会に」

レンディアが、にこやかにいう。

 

帰りの馬車も、ウォルキース卿が御者を勤める事になった。無論、騎乗の護衛三人付き。

前方、ランタンを持った二人。後方、松明持ち一人──まあ当然だな。

あと、護衛の一人はオルミア嬢だ……何ぞ?

護衛に付くにあたって、ウォルキース卿と少し揉めたが、オルミア嬢が押し通した。ルーエア夫人は、笑って見ていた……。

 

ウォルキース卿の隣に座る。手綱捌きを見たいが、ちと暗い……ふと、空を見上げると──雲一つ無い夜空に、青みがかった月一つ。星は目立たない。

──ジンライムみたいなお月さま、だっけか?──前世で好きだった歌の歌詞。それが、思い浮かんだ……。

 

「……いい月ですね」

隣に座るクレイドル嬢が、夜空を見上げながら呟いた……「お、おう、うむ……いい月だな」

クレイドル嬢の顔を見る──月明かりに照らされる彼女の、憂いを含んだ様な美しい横顔は、私には到底、言葉に出来ない……。

 

それに、彼女の「いい月ですね」という言葉に、まともに答える事が出来なかった事が悔やまれる……気の利いた言葉一つ、出てこないとはな──教養不足。貴族の嫡子として、まさにそうだ。武門の家という事に、胡座をかいていたのか……クレイドル嬢には色々気付かされた。

 

このウォルキース。貴女の騎士足るべき男として、精進せねば!!

 

──この大きな勘違いが、後々まで尾を引く事を、誰も知らない──邪神は、腹を抱えて笑って見ていた……。

 

村に到着。夜という事もあり、本来なら色々質問される所だが、ウォルキース卿とオルミア嬢がいたので、衛兵には普通に通してもらえた。

それと、トロル討伐の冒険者だと知られていたので、顔パスでもあった。

 

村の入り口前で、馬車と護衛は待機。

ウォルキース卿とオルミア嬢が、宿の前まで送ってくれた。夜とはいえ、まだ人通りはある。

ウォルキース卿とオルミア嬢に気付いた村人が、丁寧に会釈してくる。

それに対して、ウォルキース卿は鷹揚(おおよう)に答える。後継として、認められているようだ……村人の親愛が見て取れる。いい領主になるだろうな……。

 

「カリエラ嬢。明日の行動予定はどうなっているのかお聞きしたいのだが……?」

「そうですね……胡麻油と薬草を取り引き出来たので、昼前には城塞都市に出立しようと思っています」

ウォルキース卿に、カリエラさんが答える。

カリエラさんが、レンディアを見る。頷くレンディア。

「ううむ……あまり時間に余裕は無いようですね」

オルミア嬢が、呻く様にいう……何ぞ?

「妹は、少々剣技に自信があるのですよ。我が家の衛兵と、手合わせはしているのだが、どうしても遠慮されるので、遠慮がない方達と手合わせがしたいのでしょう」

ウォルキース卿の説明。なるほどな。様は実践形式の訓練がしたかったのか……。

「申し訳ありません。あまり長居も出来ませんので」

レンディアが、ウォルキース卿とオルミア嬢に断りを入れる。

上手く断れた様だ……というか、オルミア嬢。睨むのは止めていただきたい。

 

「いずれ、また会う機会もあるでしょう。その時に、また」

レンディアが、貴族の礼でウォルキース卿とオルミア嬢に挨拶をする。

ウォルキース卿とオルミア嬢が、礼を返す。優雅だ……ためになるな。

シェーミイが、さっさと宿に入って行き、グランさんとカリエラさんが後に続く。

最後に、レンディアと俺が宿に戻ろうとした矢先、ウォルキース卿に呼び止められた──

 

早朝、全員で卓を囲む。皆、同じ食事だ。山菜の炒めものに、鶏肉と卵のスープにパン。何の文句もない朝食──「さてと。胡麻油、大樽二つに、薬草茶、中袋二つ……胡麻油は、領内に広めるだけの量が確保出来たわ」

カリエラさんいわく、改めてこの村と繋がりが出来たという……。

 

「……朝食後には出立するから、皆、準備を済ませておいてちょうだい」

カリエラさんが、俺達に告げる。

「そういえば、昨日。ウォルキース卿に何か言われていたわよね。何だったの?」

レンディアに問われた……ええと、そうだな。

「機会があれば、庭園を見に来ませんか……と言われたが?」

花が好きかどうか、聞かれたんだよな。まあ、花は嫌いじゃないから、好きですね、と答えたんだよな……それが何ぞ?

 

「……それは、貴族の口説き文句よ。女性に対して屋敷に来ませんか。というのは直接的過ぎるので、庭を見に来ませんかというのは……ふふっ、貴族の礼儀、なのよ……ふっ、ふふっ」

「……クレイドル、君は……その、レンディアのいうように、あれだ……ぐっ」

ぐぐっ、と明らかに笑いを堪えるグランさん。

「あー、なるほどねー。クレイドル、ウォルキース卿から、女と思われているのよー。まあ、仕方ないかもね、その顔だしー」

シェーミイが、山菜炒めをもしゃもしゃ食べながらいう。

 

 

………………男じゃあ、わしゃあ!!




もう少し、ペース上げたいのですがね、なかなか……アクセス、サンキュー。
Ψ(`∀´)Ψケケケ
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