邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第80話 グレイオウル領への帰還前 しばしの休息

 

カリエラさんへの振込みも、完了していた。あとはグレイオウル領に戻るだけ。

夕食後、宿に戻る事に。明日の帰りは、昼食後に出発との事。

皆で、“雄山羊と戦槌亭”に戻る。カリエラさんとネルソンは、正面から。

俺達、武装した冒険者は裏階段から。裏に回ると、係りなのか、宿の制服を着た従業員が案内してくれた。

 

支配人のカーディスさんが、出迎えてくれた。

「お帰りなさいませ。ご無事なようで、何よりでございます」

丁寧かつ上品に、挨拶をするカーディスさん。態々、裏階段に出迎えてくれたのか……。

「ん。なかなか刺激的だったわよ」

ひらり、と手を振って答える、レンディア。

やはりな、レンディアとカーディスさん。何か関係があるんだろう。昔から、世話になっていると言っていたしな……。

皆を浄化して身綺麗にはなっているが、やはり風呂に入りたい。

 

「一応、身綺麗にはしているけれども、やっぱりお風呂に入りたいのよ。用意できる?」

「もちろん。用意が済んだなら、直ぐにお呼びします。浴場はカリエラ様御一行の、貸しきりとさせていただきます」

おおう……貸しきりときたか。どういう関係なんだろう……。

優しく微笑む、カーディスさん。やはり、レンディアと何か関係あるんだろうな。

「ん。お願いね」

レンディアに、丁寧に頭を下げるカーディスさん。

 

そして、やって来た浴場……おお、改めて見ると、広いな……決して華美ではないが、地味ではない。いい具合の装飾。

体を洗い流し、広い湯船に身を浸ける──うおお~……やはり、風呂は良いな。

骨身に沁みるというやつだ。浄化では味わえない喜びだ──「現役時代、鍛練後の一番の楽しみは風呂でしたな」

ネルソンさんが、沁々という。戦なき世とはいえ、その身体には鍛練、対魔物、魔獣の実戦訓練で付いた古傷が刻まれている。いくさにん──というやつだ。

「楽な任務は無かったんでしょうね……」

グランさんが、顔を拭いながらいう。

 

「まあ、色々ありました。これが兵の仕事か? と思うような任を受けた事もありましたな」

ネルソンさんがいう。歴戦──なんだろうな……ううむ。

「いや……やはり、風呂ですね。浄化とは違う……生き返るとはこういう事ですね」

「ああ……正に。浄化だけでは、な」

 

男三人で、ゆっくりと湯船に浸かる──

女三人も、同じようなものだろう──

 

夜明け前に、目が覚める。窓を開けると、今だ陽は出ていない──陽の出、前だ。

魔力制御にいい時間。窓を開け、外気を取り入れる。少し冷たい風が窓から差し込んでくる……。

よし、いつもの魔力制御の時間だ……。

 

魔力制御後、煙管を燻らせながらぼんやりとする。朝食まで、まだ時間はあるな──

 

頃合いかと、身支度を整え下に降りる。いつもの、奥側のテーブル席。

着席しているのはネルソンさんだけだ。さすが元軍人、朝早いな……というか、他の面子遅くないか?

多分。騎士のグランさん、シェーミイとカリエラさん。最後にレンディアだろうな……。

 

「お早うございます。朝食にはまだ早いそうで、お茶しか出せないそうですよ」

「ええ。俺も注文しま──」

いつの間にか、従業員さんが横に来ていたので、お茶を適当に頼む。はい! 直ちに! と駆けて行った……「ご苦労しますな……」

ネルソンさんが、沁々と言った。うん、まあね──邪神だ! 邪神のせいだ!!

 

そういえばネルソンさん。最初は御者御用達の宿を取っていたが、カリエラさんのたっての要請で、“雄山羊と戦槌亭”に移ったそうだ。相当にごねたらしいが、渋々受け入れたらしい。

ネルソンさんと雑談をしながら、茶を飲む。

 

ようやく、皆が降りて来た。予想通りの流れだ。黒付くめのグランさんの後から、シェーミイとカリエラさん……レンディア、今だ来ず。

朝食には、まだ早いんだよな。皆と茶を飲みながら待つか……。

 

「今から、自由行動にします。夕食は、オーガの拳亭にしましょう。店に合流ね」

朝食を終えた時に、カリエラさんが言う。

冒険者ギルドに顔を出し、スティールハンドにも顔を出さないとな──いや、まずメルデオさんの所だ。この世界に来て、一番最初に知り合った人だからな。

 

 

メルデオ商会に、足を踏み入れる。おおう、相変わらずの賑わい。市民や冒険者達が、品を物色している。

さて、メルデオさんは──「クレイドルさん!」

胴に衝撃──何ぞ!? と思えば、メルデオさんの娘、メジェナさんだ。

ガシリ、としがみついてくるメジェナさんが、グリグリと頭を擦り付けてくる──猫かな?

 

「うう~……クレイドルさん! クレイドルさん!!」

さらに強く、グリグリと頭を押し付けてくるメジェナさん。店内が、騒がしくなってくる──メルデオさん、早く戻って来てくれ!!

 

メルデオ商会の福会長、マルネさんが猫化したメジェナさんを、丁寧に引き剥がしてくれた。

「フウッ、シャアッ!!」

荒ぶる猫と化したメジェナさんを、小脇に抱えたマルネさんが、「少しお待ち下さい。直に会長は戻って来ます。応接室で、お待ちを」

猫族のマルネさんが、丁寧に言ってくれた。

灰色の毛並み。油断ない目付きと引き締まった体格は、何とも獣族らしい……パンツスーツ姿が、冒険者ギルドのサイミアさんと被る。

じたばたするメジェナさんを小脇に抱えたままのマルネさんは、一礼すると、応接室に案内してくれた。

 

応接室に通され、茶を出される。

「会長は、間もなく、来ます……何か御用があれば……」

もじもじとする、従業員さん……何ぞ?

「いえ……特には、ありません。用があれば呼びますので」

は、はひ! と顔を真っ赤にした従業員さんが出て行った……。

 

質素だが上品なカップに口を付ける──うん、ほどよい熱さだ。微かな甘みのある、紅茶っぽいな。

お茶を一杯飲まないうちに、メルデオさんがやって来た。人間性が戻ったメジェナさんも一緒だ。立ち上がり、礼をする。

「あ~、いいよいいよ。そんな他人行儀な」

手を振りながら、着席を促すメルデオさん。この気さくな感じ、心地良いな……。

 

「すいません。特に用という事は無いんです。戻って来たので、少し挨拶をしたかったんですよ」

「カリエラの護衛で、来ているんだろう? 聞いたよ、スカイライト(蒼天石)の値が、凄い事になったって。急用が出来て、商工会に同席出来なかったのが残念だったよ」

お茶を啜りながら、メルデオさんがいう。

「聞いたんだけど、トロル退治もしたんだって?」

「トロル退治?! そのお話、聞きたいです!!」

メジェナさんが、食いついて来た……確か、トロル退治は絵本にもなっていたよな──ちらりと、メルデオさんの顔を見る。

何か、嬉しそうな顔……シェーミイほどに上手く話せるかどうか──というか、いつの間にかマルネさんも来ていた。

邪神の加護が、発動するか?

 

発動しなかった──シェーミイほどではないが、トロル退治の顛末を何とか話終えた──まあ、喜んでくれたようで良かった……途中興奮したメジェナさんが、再び猛き猫に成りかけたが、マルネさんが静めた──それと、トロルの寝床から、ギルラド卿がウォーキンス卿に送った短剣を回収して、ウォルキース卿に返還した事も伝えた。

「なるほど……そこの二家は、関係が深いからね。クレイドル君、君達はその二家になかなかの義理を作ったかも知れないよ」

「ウォーキンス子爵の奥方にも、似たような事を言われました」

マルネさんが、お茶を入れ換えてくれた。どうぞ、と俺達に勧めてくる。

「貴族に義理を作るのは、良し悪しだけど、帝国内においては、嫌な事にはならないだろうね」

淹れたての茶を啜りながら、メルデオさんがいう。

 

貴族というのは、しち面倒な存在だと思っていたが、帝国内ではそうでも無いのか──

「考えてみなよ。覇王公は奴隷上がりだよ。そこから将軍、さらには王座を簒奪。奴隷上がりの簒奪王。帝国の人間なら、皆知っているからね」

その臣下もまた、同様な経歴だそうだ……。

「貴族の義理を、厄介事と思わないでもいいという事ですかね?」

茶を啜る。まあ、帝国内の貴族は気安く、市民との距離が相当に近い事らしいからな……。

「まあ、そうだね。とはいえ、繋がりが出来たって事は、覚えていた方がいいよ」

……ううむ。まあレンディアもいるし、そういう事になったらなったで、頼るか──

 

「あ、あの! クレイドルさん、時間ありますか? 美味しいケーキとお茶を出してくれる、お店があるんですよ!!」

おおう……畳み込んでくるな。メジェナさん。今、時間は昼前。

集合時間は夕方……時間はあるが──メルデオさんは、微笑んでいる。

「夕方までは、大丈夫ですよ」

そう答えると、メルデオさんが笑った。

 

メジェナさんお薦めの茶店。落ち着いた雰囲気の、いい店だ──女性客が中心なのが気になったが。

メジェナさんのお任せで注文をした。チラチラと、こちらを伺う女性客の視線は無視する。

 

茶店から出たメジェナさんは、俺の手を繋ぎ、ご機嫌だ。うん──周囲の目が気になる。

 

メジェナさんと何とか別れ(ごねて大変だった)、メルデオ商会から離れた。

 

まだ、昼前か……ケーキセットを食べたばかりだからな。腹は減ってない。

レンディアとシェーミイは、冒険者ギルド。グランさんは、暗黒神の支殿に出向いている。

さて……俺は、どうするかな。

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