スティールハンドに立ち寄り、近況報告。そのついでに、武具を見て貰った所──何の不具合も無いとの事だった──
「俺らが鍛えた武具だからなあ!!」
あっはっは、わははと、ストルムハンド夫妻が豪快に笑う。
「聞いてるぜ。トロル退治したんだって? 充分な功績になるぞ」
豪快に笑う、ストルムハンド夫妻。ずいぶんに楽しそうだな……何ぞ?
武具を磨いてもらい、世間話後、スティールハンドを後にし、荷物を置きに宿に戻る。
夕方まではまだ、時間あるな……皆はまだ戻って来ていない。ギルドに顔を出すか……。
相変わらずの喧騒が心地良いな。レンディアとシェーミイは、喫茶室に──「クレイドル君!!」
ガシリ、と背後から両肩を掴まれた。ミシリと肩が軋む。痛い。あと、声でけえな!
「クレイドル君、さあギルドマスターの所に行きましょう!!」
リネエラさんの大声と腕力で、耳と肩が痛い!
「さあ、さあ、さあ!!」
ちょっ……何て力だ! 獅子族!
「何の騒ぎかと、思ったら……まったく」
書類から顔を上げ、呆れ顔で俺達を見る、ダルガンさん。
「ほら、ほら!! ギルドマスター、あの件を!!」
「いいから、手ぇ離せ。あと落ち着け」
何とか、リネエラさんの拘束から脱け出し、ソファに座る。当たり前の様に、俺の隣に座ろうとするリネエラさん。
「おいおい、喫茶室にレンディア達が居ないか見て来い。いたら、呼んでこい」
グルルルと唸るリネエラさん。上司威嚇するなよ……。
しっしっ、とリネエラさんを部屋から追い出すダルガンさん。
舌打ちしながらも、部屋から出ていった……。
「まったく、しょうがねえな。茶を淹れるから、ちょっと待ちな」
相変わらず、座り心地の良いソファにもたれる……落ち着くな。
「気になるだろうから、言っておくぞ。本当なら、こういうのはパーティーで聞くもんなんだがな」
こちらに背を向けながら、話すダルガンさん。早くも、茶の薫りがしてきた──良い薫りだ。
「単刀直入にいうぞ。おめえ、今日から初級のBランクだ」
目を細めながら、ダルガンさんが茶を啜る。
「嬉しいですが……そういうのは、皆で聞きたかったですね」
「だろ? なのにあの
ゴツい指先で、砂糖まぶしの炒り豆を口に運ぶ、ダルガンさん。
「それとな、おめえらが取り返した短剣あるだろ。近い内に、ウォーキンス子爵とギルラド子爵から感謝状が来るだろうよ。それは、なかなかに無視出来ない箔だぜ。嫌な言い方だがよ、貴族との繋がりは馬鹿にできねえぞ。ここ帝都領ではよ」
ダルガンさんが茶を啜る。メルデオさんも、同じような事言っていたな──俺も茶を啜る。
「失礼します。レンディアさん達が、お越しです」
ノックと同時に、サイミアさんの声。落ち着いた爽やかな声だ。
「おう。入りな」
サイミアさんに促され、レンディア達が入ってきた。リネエラさんじゃないんだな……。
席に着いたレンディア達に、俺が初級のBランクに上がった事。取り返した短剣についての事を、ダルガンさんがレンディア達に話す。
「なるほどね。うん、良かったわよ」
レンディアが嬉しそうにいう。グランさんとシェーミイも嬉しそうだ。
「レンディア、お前達の貢献度も充分だ。まあ、急く必要はない」
ダルガンさんが茶を入れ替える。その間に、サイミアさんが俺の冒険者証を更新してくれた──
新しい冒険者証……両羽が刻印された、頑丈な木枠と、鉄製のカードは変わらないが、初級のBランクという所が変わっている。おお……初級のBか。
「おう、クレイドル。初級のBクラス以上からは、これからの登竜門だぜ。しっかりな」
ダルガンさんが、太い笑みを浮かべながら言った。
「そういえば、なにか祝い事でもあるの? そんな雰囲気だけどー」
ぽりぽりと、炒り豆を食べながらシェーミイがいう。
「おう。新入り連中に、正式な冒険者証を更新したんだよ。ちっと早いが、ジャン達の推薦もあるからな」
サイミアさんが、お茶を入れ替え、勧めてきた。
「クレイドル君の時のように、お祝いをするんですよ」
微笑みながら、お茶に口を付けるサイミアさん。
「そういう事だ。場所は、“トロルの戦鎚”にする。あそこは宴会場があるからな」
ダルガンさんが、炒り豆を摘まむ。
トロルの戦鎚って、ラーディスさんの定宿だっけか。凄い宿名だな……。
少し世間話をして、おいとまする。サイミアさんが、当たり前のように、横にピッタリと張り付いて来た……。
夕方も近いので、カリエラさん達と合流するべく、オーガの拳亭に向かう。
街のあちこちにある街灯に、衛兵達が灯をともして回っている。レンディアによると、あの街灯は魔道具だそうだ。
「あれね。明け方になると自動的に、ゆっくり消えるのよ」
凄いな。どういう仕組みだ……前世で、そんな仕組みの機械あったか?
「は~い。六名様、ご案内よ~。個室で良いわよね?」
ミランダさんが、力強いウィンクを飛ばしながら、言った。
六名が入っても充分な個室。内装は派手さもなく、地味でもない。良い雰囲気だ。
壁に絵画。夕陽の沈む湖を描いた物だ。
「これ、グレイオウル湖よ」
絵を見つめながら、レンディアがいう。
「芸術は、からっきしだが、良い絵だと思うぞ……うん」
まじまじと、絵を見るグランさん。
「私は、彫刻の方が好きかなー」
テーブルに着き、食事メニューを眺めるシェーミイ。うん、相変わらずのマイペース。
「これね。人物画の第一人者といわれた画家が描いた風景画なのよ。これ以外には、明け方の湖畔、月の湖畔、そしてこの夕陽の湖畔。合わせて“湖畔の三景”といわれる絵画なのよ……市場価格でいうと──」
「商会長、落ち着いて下さい」
むふう、と鼻息荒く説明するカリエラさんを、ネルソンさんが押し止める。
「ま、今日はたっぷり楽しみましょうか。それと、今までの護衛報酬だけどね──」
報酬が跳ね上がった。金貨十枚と銀貨五枚が、金貨四十枚、銀貨八枚……まじか。
「これぐらいは当たり前よ。言葉は悪いけど、あぶく銭は削らないとね」
ネルソンさんも、充分な手当てを貰う事になったそうだ。
シェーミイが、店員を呼ぶ鈴を鳴らした。
「さあ、たっぷり飲んで食べましょうか。好きな物頼んでちょうだい」
カリエラさんが、楽しそうに言う。
「へえ、初級のBランクにね。ここからという所と聞いているわ」
グビリ、とオウルリバー炭酸割りを呷るカリエラさん……ちょっと酔ってないか?
肉、野菜、揚げ物や煮物の料理が並ぶテーブル。料理には、それほど手を付けていない。
もっぱら酒が中心。食欲旺盛なのは、シェーミイとグランさんだ。
「明日にはグレイオウル領に戻るけど、それからどうするかよね?」
「うん。初級のAランクの条件を、グレイオウル領で果たせるか?」
レンディアに尋ねる。う~ん、とレンディアが考える。正直、今後ともレンディア達と行動を供にするには、中級になっておきたいんだが……まあ、焦るのは良くないな。
「焦る必要は無いわよ。グレイオウル領に戻って、依頼をこなし、ダンジョンなりを攻略しましょうよ」
食い付きぎみに、心を読んだような物言いでレンディアが言った。
まあ、そうだな。焦る必要はないな……うん──ちなみに、個室に飾られていた“湖畔の三景”の一つ、夕陽の湖畔はレプリカで、本物は三景揃って、帝都の美術館に収められているそうだ。
早朝。今だ外は暗い。もう少しすれば空は明るんでくるだろうな……よし、魔力制御の時間だ。
昨日、結構飲んだが、大して頭も体も重くない。まあ、魔力制御だ……。
宿の一階に降りる。朝食までの時間は、まだある。さてどうするか……それまでは、茶でも飲んでいようか……ネルソンさんが、最初に来るだろうな。
いつもの端のテーブル席。煙管をゆっくり吹かす。少し早すぎたのか、客はいない──いい雰囲気だな。
ふうぅぅ~、と煙管を吹かす。
しばらくして、皆が揃っての朝食。ベーコン、目玉焼きに丸パン、厚切りチーズ。玉葱と白菜のスープに酢漬け野菜……朝らしい食事だ。
「昼前までは自由行動にするわ。昼あと、グレイオウル領に帰りましょうか」
カリエラさんがいう。異議はない。充分、ここでの仕事は終えた──ジャンさん達に会いたかったな……。