邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第82話 グレイオウル領の朝陽食堂

 

 

昼過ぎに城塞都市を出て、到着は夕方ちょっと過ぎ。早いな、さすがネルソンさんと二頭の軍馬。馬車も良い物らしいからな──

 

「さて、皆さん。お疲れ様でした」

カリエラさんが、頭を下げる。

「ええ、どういたしまして」

レンディアが、カリエラさんに答える。

場所は商会の応接室。副会長のマーティさんが淹れてくれた茶を啜る──美味い。いいお茶なんだろうな……「美味しいですね」

思わず、口に出していた。

「グレイオウルの特産品の一つ、香草茶よ。他国にも、出荷しているのよ」

レンディアが、茶を啜る。

「そういえば、レンディア嬢様。山葵の生産は順調なのですか?」

「ああ、あれね。今、新しい畑を開拓中よ。成長まで時間かかるから、まだまだらしいわよ」

カリエラさんとレンディアの話。なるほどな、ワサビ生産計画は、着々と進んでいるのか……。

「遅れたけど、依頼書にサインを頂戴」

「ええ。護衛依頼……完了、と」

レンディアが差し出した依頼書にサインをし、商会印を押すカリエラさん。

「マーティ、感謝状を書いて頂戴」

カリエラさんが、マーティさんにいう。カリエラさんより年下だが、なかなかに優秀な副会長らしい。切れ者らしい雰囲気と、きびきびとした動きが特徴的な、好青年といった感じだ。

 

「感状は大袈裟よ」

「いいえ、必要な事です。お嬢様」

断ろうとするレンディア。断固として感状を発行しようとするカリエラさん。

今、この場にはグランさんとシェーミイは居ない。二人とも、自由行動となっている。

「まあ、仕方ないわね。これもギルドへの貢献になるでしょうからね」

茶を啜るレンディア。嬉しそうに頷くカリエラさん。

感状はギルドに届くそうだ。それによって“碧水の翼”の格が上がる──うん、悪い事じゃない。ランク上げの助力になるだろうか……。

 

そろそろ、夕食の時間。お(いとま)しようとしたら、カリエラさんに止められた。良い所があります、是非に、と言われかけたが──「会長、仕事があります。夕食はその後で……」

直ぐに、マーティさんに阻まれた。私は会長よ! と強権を発動しようとしたが、駄目だった。

「仕事です。近くの食堂で、軽食を出前させますから」

キッ、とマーティさんを睨み付けるカリエラさんだったが、マーティさんはそれをスルー。

「今後とも、カリエラ商会をご贔屓のほどを」

丁寧に礼をする、マーティさん。

「ん。じゃあ、またね」

ひらり、と手を振るレンディア。何か言いたげなカリエラさんを尻目に、俺達は応接室を出た。

 

カリエラ商会から出たあと、グランさん達と合流。取り合えず、宿を取る事になった。

俺はいつもの灰月亭。レンディア達は定宿があるそうだが、グランさんは俺と同じ、灰月亭に移るそうだ……何ぞ?

 

「夕御飯はー、どこにするー?」

「う~ん……ああ、ちょっと値は張るけど、“闇夜の灰梟亭(あんやのはいふくろう)”に行きましょうよ。久し振りに、顔を出したいわ」

闇夜の灰梟亭? 聞いた事無いな……名前からして、高級そうだな。というか、グレイオウル家の成り立ちが、そのまま店名になってないか?

 

お、異世界知識発動──グレイオウル家初代。ラウディオは、覇王公が今だ王の時代の人。

斥候部隊の一員として任務を受けたが、ラウディオ曰く、斥候は少人数で行うもの。大勢では気付かれる怖れあり──と進言したが、聞き入れられなかった。

その結果、斥候部隊は敵軍に発見される。敵軍の情報を抱えた斥候部隊は、当然追撃される。

部隊は壊滅。ただ一人生き残ったラウディオは、情報を伝えるべく走ったが、夜の森に迷い混んでしまった……まごまごしていたら、追っ手が来る。かといって、夜の森を進むのは危険過ぎる──そう思っていた矢先、梟の鳴き声が聞こえた。

枝に止まる、灰色の梟。夜の森に浮かび上がって見えたそうだ。一声鳴き、悠々と飛んで行く灰色の梟の後を、思わず追ったラウディオ。

結果、森を抜ける事が出来た──その先に見えたのは本陣。冠を戴いた黒山羊の頭部の旗印が翻っている。

ミルゼリッツ陛下の本陣──ラウディオはすぐさま、駆け込んだという──おおう。初めて異世界知識に感心したかも知れない。

 

そして、闇夜の灰梟亭に到着。店構えからして、他の食堂とは一線を画している。

例えば、高級料亭とでも言おうか──玄関の左右に飾られるは、石灯籠に灯る明るい灯火。魔力によるものだな。やはりここ──老舗だな。

「さ、行きましょうよ」

スタスタと、軽く敷居を跨ぐレンディア。おい、大丈夫か……。

 

少々揉めたが、店に通して貰った。女将の狼狽振りは凄かった。連絡も無しに、グレイオウル家の次女が来たのだからな……。

レンディアの、というかグレイオウル伯の権威、凄いな……。

酒を中心に、色々な料理が出た。肉に野菜に煮物──うん。さすが老舗、美味かった。梟の、氷の彫刻には少々、驚かされたが。

 

夜。しかし、宿に戻るにはまだ早い時間だ。

「う~ん。何か、物足りない感じー」

シェーミイが、背伸びをしながらいう。

確かに。闇夜の灰梟亭の料理は、本当に美味しかったのだが、一品の量がちと、少なかったんだよな。

「私もだ。腹一杯食べるような店ではないからな」

次いで、グランさんも、シェーミイと同じ様な事を言った。

ああ、それだ。あと、“お上品”な味だったからな……。

「まあね。あそこには、私が顔を出したかっただけだから。冒険者向けのレストランじゃないからね」

あっさりと、レンディアがいう。

「あそこ行きましょうよ。ラザロさんの店の近くの、“朝陽食堂”」

「あ、いーねー。そこにしよー」

「いいな。うん、久し振りだ」

おう? 何か良さげな感じがするぞ。

 

早速、路地裏に移動する。あそこの雰囲気、老舗の飲み屋街て感じで、情緒あるんだよな……。

その朝陽食堂。夜から朝までの営業で、メニューは各種酒類と、豚、鶏、野菜と茸の各三定食のみ。だそうだが……。

 

「言えば、大概の物作ってくれるわよ」

「客層は色々な人達が、やって来るのよー」

なるほど、何か楽しそうだな。

「なかなか、面白い店だぞ。楽しみにしているといい」

グランさんが笑った。

 

 

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