昼過ぎに城塞都市を出て、到着は夕方ちょっと過ぎ。早いな、さすがネルソンさんと二頭の軍馬。馬車も良い物らしいからな──
「さて、皆さん。お疲れ様でした」
カリエラさんが、頭を下げる。
「ええ、どういたしまして」
レンディアが、カリエラさんに答える。
場所は商会の応接室。副会長のマーティさんが淹れてくれた茶を啜る──美味い。いいお茶なんだろうな……「美味しいですね」
思わず、口に出していた。
「グレイオウルの特産品の一つ、香草茶よ。他国にも、出荷しているのよ」
レンディアが、茶を啜る。
「そういえば、レンディア嬢様。山葵の生産は順調なのですか?」
「ああ、あれね。今、新しい畑を開拓中よ。成長まで時間かかるから、まだまだらしいわよ」
カリエラさんとレンディアの話。なるほどな、ワサビ生産計画は、着々と進んでいるのか……。
「遅れたけど、依頼書にサインを頂戴」
「ええ。護衛依頼……完了、と」
レンディアが差し出した依頼書にサインをし、商会印を押すカリエラさん。
「マーティ、感謝状を書いて頂戴」
カリエラさんが、マーティさんにいう。カリエラさんより年下だが、なかなかに優秀な副会長らしい。切れ者らしい雰囲気と、きびきびとした動きが特徴的な、好青年といった感じだ。
「感状は大袈裟よ」
「いいえ、必要な事です。お嬢様」
断ろうとするレンディア。断固として感状を発行しようとするカリエラさん。
今、この場にはグランさんとシェーミイは居ない。二人とも、自由行動となっている。
「まあ、仕方ないわね。これもギルドへの貢献になるでしょうからね」
茶を啜るレンディア。嬉しそうに頷くカリエラさん。
感状はギルドに届くそうだ。それによって“碧水の翼”の格が上がる──うん、悪い事じゃない。ランク上げの助力になるだろうか……。
そろそろ、夕食の時間。お
直ぐに、マーティさんに阻まれた。私は会長よ! と強権を発動しようとしたが、駄目だった。
「仕事です。近くの食堂で、軽食を出前させますから」
キッ、とマーティさんを睨み付けるカリエラさんだったが、マーティさんはそれをスルー。
「今後とも、カリエラ商会をご贔屓のほどを」
丁寧に礼をする、マーティさん。
「ん。じゃあ、またね」
ひらり、と手を振るレンディア。何か言いたげなカリエラさんを尻目に、俺達は応接室を出た。
カリエラ商会から出たあと、グランさん達と合流。取り合えず、宿を取る事になった。
俺はいつもの灰月亭。レンディア達は定宿があるそうだが、グランさんは俺と同じ、灰月亭に移るそうだ……何ぞ?
「夕御飯はー、どこにするー?」
「う~ん……ああ、ちょっと値は張るけど、“
闇夜の灰梟亭? 聞いた事無いな……名前からして、高級そうだな。というか、グレイオウル家の成り立ちが、そのまま店名になってないか?
お、異世界知識発動──グレイオウル家初代。ラウディオは、覇王公が今だ王の時代の人。
斥候部隊の一員として任務を受けたが、ラウディオ曰く、斥候は少人数で行うもの。大勢では気付かれる怖れあり──と進言したが、聞き入れられなかった。
その結果、斥候部隊は敵軍に発見される。敵軍の情報を抱えた斥候部隊は、当然追撃される。
部隊は壊滅。ただ一人生き残ったラウディオは、情報を伝えるべく走ったが、夜の森に迷い混んでしまった……まごまごしていたら、追っ手が来る。かといって、夜の森を進むのは危険過ぎる──そう思っていた矢先、梟の鳴き声が聞こえた。
枝に止まる、灰色の梟。夜の森に浮かび上がって見えたそうだ。一声鳴き、悠々と飛んで行く灰色の梟の後を、思わず追ったラウディオ。
結果、森を抜ける事が出来た──その先に見えたのは本陣。冠を戴いた黒山羊の頭部の旗印が翻っている。
ミルゼリッツ陛下の本陣──ラウディオはすぐさま、駆け込んだという──おおう。初めて異世界知識に感心したかも知れない。
そして、闇夜の灰梟亭に到着。店構えからして、他の食堂とは一線を画している。
例えば、高級料亭とでも言おうか──玄関の左右に飾られるは、石灯籠に灯る明るい灯火。魔力によるものだな。やはりここ──老舗だな。
「さ、行きましょうよ」
スタスタと、軽く敷居を跨ぐレンディア。おい、大丈夫か……。
少々揉めたが、店に通して貰った。女将の狼狽振りは凄かった。連絡も無しに、グレイオウル家の次女が来たのだからな……。
レンディアの、というかグレイオウル伯の権威、凄いな……。
酒を中心に、色々な料理が出た。肉に野菜に煮物──うん。さすが老舗、美味かった。梟の、氷の彫刻には少々、驚かされたが。
夜。しかし、宿に戻るにはまだ早い時間だ。
「う~ん。何か、物足りない感じー」
シェーミイが、背伸びをしながらいう。
確かに。闇夜の灰梟亭の料理は、本当に美味しかったのだが、一品の量がちと、少なかったんだよな。
「私もだ。腹一杯食べるような店ではないからな」
次いで、グランさんも、シェーミイと同じ様な事を言った。
ああ、それだ。あと、“お上品”な味だったからな……。
「まあね。あそこには、私が顔を出したかっただけだから。冒険者向けのレストランじゃないからね」
あっさりと、レンディアがいう。
「あそこ行きましょうよ。ラザロさんの店の近くの、“朝陽食堂”」
「あ、いーねー。そこにしよー」
「いいな。うん、久し振りだ」
おう? 何か良さげな感じがするぞ。
早速、路地裏に移動する。あそこの雰囲気、老舗の飲み屋街て感じで、情緒あるんだよな……。
その朝陽食堂。夜から朝までの営業で、メニューは各種酒類と、豚、鶏、野菜と茸の各三定食のみ。だそうだが……。
「言えば、大概の物作ってくれるわよ」
「客層は色々な人達が、やって来るのよー」
なるほど、何か楽しそうだな。
「なかなか、面白い店だぞ。楽しみにしているといい」
グランさんが笑った。