邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第84話 グレイオウル領のダンジョン 黒壁回廊

 

 

朝陽食堂を出たのは、明け方近くになってからだった。大将達と話が弾み、酒食が進んだのだ。

酔ったラザロさんを、ドルヴィスさんが家に送り届けた後、また戻って来て、大将を苦笑させた。

水商売風のお姉さんは、いつの間にか俺の隣に座り、俺の腕をがっしりとホールドしてきた。

前世でいう、高級クラブで働いているとの事。いつかは独立し、帝都で店を構えるのが夢だそうだ……邪神の加護が発動して、やらかされてしまったが──何をしたのかは、言いたくない。

 

結果、嗚咽するお姉さん。大将達とレンディア達から妙な目で見られ、シェーミイからは、「まーた、女殺し」と言われた……邪神じゃ! 邪神の仕業じゃ!!

「必ず……お店を構えるからね!!」

慟哭するお姉さん。うん……頑張って下さい。

今日は、朝の魔力制御は出来ないな……。

 

 

コココン! と小気味良いノック音。ルーリエちゃんだな──「どうぞ」

ルーリエちゃんが、超スピードでドアを開けると、早速注文を聞いてくる。

「お湯貰えるかな。あと、今日の朝食は?」

「えーとねえ。丸パンに、鶏皮とキャベツのスープに、ハムと目玉焼きだよ。あと、酢漬け野菜」

おう。ご機嫌な朝食だな──「うん。ありがとう。あとで行くよ」

出て行こうとするルーリエちゃんに、チップ、心付けを渡す。銅貨五枚──もじもじしながらも、礼をいい受けとるルーリエちゃん。

 

 

グランさんとの二人部屋。今、グランさんはいない。朝風呂に出向いている──誘われたが、俺は……面倒なので“浄化”で済ませた。

ルーリエちゃんに頼んだお湯で、体を拭うくらいかな。お湯が来るまで、煙管でも吸うか……。

 

このあとの予定は、冒険者ギルドの喫茶室で今後の話。俺の昇格についてだ。少しでも早く、中級になりたいんだよな。レンディア達に近付くためにも……。

 

テーブルを囲み、皆で朝食。ハムと目玉焼きは、強めに焼いてもらった。

「食事のあと、冒険者ギルドに向かいましょうか。手頃なのが無ければ……そうねえ、ダンジョンにでも行く?」

上品な仕草で、ハムを切り分けるレンディア。

「グレイオウル領のダンジョンは、二ヵ所だったか」

グランさんは、炭酸水に口をつける。

「“黒壁回廊”に“武人の錬武場”だっけー?」

酢漬け野菜を全て平らげんと、バリバリと口に運ぶシェーミイ。

“黒壁回廊”に“武人の錬武場”……。

「どんなダンジョン何だ?」

切り分けたハムの上に目玉焼きをのせ、一口に頬張る……うん、美味い。

「うん。“黒壁回廊”は難所ね。全十階で五階までは、大した事ないのよ。ただ、その下からは、悪魔の巣窟なのよ。上位の悪魔は、顕現しないらしいけどね」

「“武人の錬武場”は、普通のダンジョンではないと聞いているが?」

茶を啜りながら、グランさんが尋ねる。

「あそこね……出現する魔物が、特殊なのよ。確か、“うろつく鎧(リビングアーマー)”と兄上は言っていたわね」

 

うろつく鎧……なんか聞いた事あるな。

 

「兄上がいうには、アンデッドとゴーレムの中間……そういう、妙な魔物らしいわよ。武装スケルトンの様に、連携組んで向かって来るそうね」

「連携か……楽な相手ではないだろうな」

グランさんが、残ったパンを口に運ぶ。

「まあ、とにかく。冒険者ギルドに向かいましょうよー」

シェーミイが、果実水を呷った。

 

 

朝食が済み、冒険者ギルドに移動する……相変わらずの喧騒。すでに身に馴染んだものだ……。

気安く声を掛けられ、気安く答えるレンディア──ここでは貴族のお嬢様というより、ただの、“お嬢”何だな──

 

「んー、討伐系は無いねー。採取、採掘かー」

掲示板を眺めるシェーミイ。まあ、採取系でもいいんだが──

「シェーミイ、“ラミナ草の採取依頼”を受けましょうよ」

「ふむ、採取か。悪くないが……何か、理由があるのか?」

 

ラミナ草、か──異世界知識発動──錬金術、魔術の触媒に使用される。取り扱いに難あり、一部では劇薬指定にされている。

肌に触れても異常は無いが、何らかの形で体内に入ると、視神経の異常。麻痺。呼吸困難の症状が引き起こされる──こわっ。麻痺から呼吸困難て、死亡ルートじゃないか……。

 

「これはね、ついでなのよ。本命は“黒壁回廊”よ」

依頼書を確認しながら、レンディアがいう。

「ラミナ草はね、別名を“瘴気花”というそうなのよ。淀んだ空気の場所で、たまに見られると兄上から教わったのよ……特に、悪魔系が出現する場所にね」

「なるほどな。それで黒壁回廊か」

グランさんが、納得したように頷く。

「この面子なら、余程の相手でもない限り、何とかなるでしょうよ」

依頼書から顔を上げ、俺達を見るレンディア。

「悪魔系かー。結構前に、インプだっけ? あれの討伐以来だよねー」

「下級悪魔だが、火の矢とすばしっこさが面倒だったな……クレイドル、悪魔系とは?」

悪魔系……ああ、そういえば。

「一度。ハルベルトリバーの蠱虫の洞窟で、赤闇の凶殻をジャンさん達と仕留めましたね」

レンディア達が、ジッ、と見詰めてきた……何ぞ?

「通りで、その胸鎧と籠手と兜……赤闇の凶殻素材だな?」

「ええ、そうです。瘴気抜きは、ラーディスさんとメイギスさんにやってもらいました」

「赤闇の胸鎧かー。気持ち悪い色だよねー」

シェーミイが、まじまじと鎧を見詰めてくる……何ぞ?

 

黒壁回廊──グレイオウル領郊外、北西部。馬車で一時間半。何でも、悪魔系が出現する可能性が高いダンジョンには、その入口周囲に防御施設等を作るのだそうだ。

 

「ほら、見えてきたわよ。黒壁回廊、周囲の施設が」

レンディアが、馬車の窓から身を乗り出しながら叫んだ。

グランさんが、レンディアが馬車から落下しないように、ぐっ、とケープを引っ付かんでいる。

周囲の施設か……確かダンジョンの入口周囲を半円で囲むように、防御壁を築いているのだったか。それと衛兵の宿舎に、商店や酒食を提供する食堂等が揃っているそうだ。

窓から頭を出し、周囲の施設を見る……。

「ちょっとした、軍事拠点だな」

 

黒壁回廊監視拠点──最初に目に入ったのは、黒壁回廊入口を囲む防壁。そして、頑丈な鉄門。

おお……賑わっているな。冒険者ギルドの支部もある。武具も扱っている雑貨屋に、飲食店。宿もある……まるで小さな街。生活圏が出来上がっている。

 

「おお……お嬢かい。“碧水の翼”だったよな。うん? 新入りだな。一応、冒険者証見せてくれるか」

古参ぽい、中年の衛兵がいう。

冒険者証を見せる──「羽二つの初級のBかい……初めて見たな」

また揉めるかと思ったが、「お嬢、気を付けてな。あんたらもな」の一言で済んだ。

 

巡回中の衛兵達が、レンディアに気付き、声を掛けてくる。それに気安く、手を挙げ答えるレンディア。慕われているなあ……。

 

「まずは宿ね。衛兵の宿舎でもいいけど?」

レンディアがいう。

「うむ。そこで宿を借りられるなら、それでもいいが?」

「同部屋が、いいかなー。出発が楽だしねー」

シェーミイの発言に、皆が頷く。まあ、そうだよな……シャワー、湯船もあるそうだ。

「私が冒険者ギルドに、移動登録をしてくる。レンディアは宿を取ってくれ」

「分かったわ。あとで宿舎に来て。クレイドル、シェーミイ、行きましょう」

一旦、グランさんと別れ、俺達はレンディアに先導され、衛兵の宿舎に向かう。

 

「待機している衛兵は、どのくらいいる?」

「そうね。確か百人で、週ごとに入れ替えだそうよ」

百人の衛兵が、この拠点で有事に備えているんだな……。

「ダンジョン内から、悪魔が湧いてくるって事なのー?」

シェーミイの疑問。俺も同じ事を、思った。

「そうね。正確にいうと、ダンジョン入口前に、“魔城門(デモンズゲート)”というのが顕現するらしいのよ」

「そこから、悪魔が出てくる訳か……」

「兄上から、そう聞いてるわ。もっとも、無限にってわけじゃなく、限りがあるみたいで、先ずは下級悪魔、中級悪魔、上級……の順に表れるらしいわよ。ただ、それまでに表れた悪魔を全滅させたら、上級が出現するまで間が空くらしいのよ。その時に、“魔城門(デモンズゲート)”を破壊したなら、上級が出現する事は無いとの事よ」

なるほどな。門を破壊、か……。

「上級悪魔って、どれくらい手強いのかなー」

のんびりと、シェーミイが尋ねる。おお、気になるな……。

「強さには幅があるそうだけれど、兄上曰く、『強靭な信仰心を持つ者。尋常ではない戦闘能力を持つ者』が居なければ、討伐は難しいとの事よ」

はえー、とシェーミイ。災害レベルといっていいのか……〈んふふっ、今から怖がらなくもいいよ~大丈夫だから~ふふっ〉

 

邪神の声。その声に、妙な安心感を感じてしまい、少し腹が立った──邪神め! 邪神が!

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