邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第85話 黒壁回廊 行く先は地獄か

 

 

 

衛兵宿舎で宿の交渉。あっさりと決まった。

「四人部屋だな。空いてるよ」

宿舎の責任者。古参の、フィリップさんだ。五十代のベテラン。日に焼けた肌の、逞しい体付きがベテランという事を証明している様だ。

対悪魔戦も数度、経験しているらしい──「お嬢、態々言う事も無いが、体だけは気を付けてくれよ」

「ん、大丈夫。頼れる仲間がいるから。それにヤバくなったら逃げるわよ……ありがと」

フィリップさんに、ウィンクするレンディア。

「部屋は、入口一階のすぐ左だよ」

鼻先を掻きながら、フィリップさんがいう。なんか、照れているな。

 

 

四人部屋──広い。中央に、四人掛けのテーブル。部屋の端にクローゼット。寝台側には棚。

部屋の奥には、机と椅子。ペン立ても。中宿以上の部屋だろうな──

「ふむ……いい部屋だな」

グランさんが荷物を置き、窓を開ける。昼前の陽射しが部屋を照らす。

「私、こーこ!」

一番、陽当たりの良さそうなベッドに身を投げ出すシェーミイ。自由だな……。

清潔感が充分の部屋だ。清潔さを、重要視している国は強兵。という言葉を思い出した……。

 

「ま、取りあえずは昼食ね。着替えて食堂に行きましょうよ」

レンディアがいう。その前に……「浄化」

皆を身綺麗にする。

「下着まで変えなくて、助かるわー」

にひひ、と笑うシェーミイ。それは下ネタか? 自分、下ネタ嫌いなんすよ……。

「男女混成パーティーで、いちいち着替えがどうこうなんて、言わないわよ」

と、レンディア嬢。う、うむ、そうだなと答えるグランさん。

何か、色々あったのだろうな……。

 

昼食、宿舎の食堂──レンディアを特別扱いする事なく、衛兵達と同じ食事。

野菜たっぷりの雑炊に、鶏肉の野菜炒め。そして、酢漬け野菜。

充分に満足な食事。美味い食事は士気を上げるという事なのだろう……普通に、衛兵に混じって食事が出来るのは、レンディアがいるからだろうな。

「採取ついでに黒壁回廊に?」

「そうなのよ。今の面子なら、五階から下を見る事が出来ると思うのよ」

「確か、若は単独踏破していましたよね」

「そうなのよ。三度成したけど、上位の悪魔には出会ってないそうよ」

 

食休み中の、レンディアと衛兵達の会話。若、というのはラーディスさんの事だ。ダンジョンの単独踏破って……。

 

食堂から出て、探索の準備のため部屋に戻る。

「ダンジョンの単独踏破って、普通にあり得るのか?」

ふと、レンディアに尋ねる。まあ、答えは分かりきっているが……。

「まず、無いわね。大体、ギルドからは良く思われないのよ」

ケープを羽織り、首元のベルトを閉めるレンディア。ベルト中央に、梟の形をした銀色のブローチ。

「真似する馬鹿がねー、たまーにいるみたいよー」

毛皮のブーツを履き、ボスボスと床を踏むシェーミイ。いつぞや、ラザロさんの店で購入した投げナイフを、肩掛けにしたベルトに差し込んでいる。

「上級冒険者であり、“当代無双”とまで言われている魔導士の真似をするとはな……」

交差する短剣が装飾された、黒いマントを身に着けるグランさん。暗黒騎士の装い。暗黒騎士の装備品で、黒色ではないのは剣の刀身のみ。とまで言われている。

 

「さ、行きましょうか」

レンディアに先導され、宿舎から出る。いざ、黒壁回廊へ。

「皆、気を付けてな。お嬢を頼むぜ」

フィリップさんに見送られる。

「遅くならないうちに帰ってくるわよ」

フィリップさんに笑って手を振るレンディア。

 

 

黒壁回廊入口前。開かれた鉄門側に、衛兵の詰所。こちらを確認すると、衛兵が出てきた。

「お嬢か。久し振りだな」

ハスキーボイスの、大柄の女性衛兵──竜の顔付き……竜人? 体のサイズが明らかに違う。百七十はあるレンディアが見上げている。

 

お、異世界知識発動──竜人族(ドラグニア)。竜を崇拝している、竜神皇国を祖国とする 種族。国の成り立ちは、神話時代まで遡る事が出来るとの事。その真偽はともかく、竜の気脈が強い土地に建国されているのは確かだ。

 

種族の特性としては、他種族を圧する強靭な体と意思。環境の変化に強く、強固な意思の力による魔力耐性。それに肩を並べる種族は、獅子族と牛人族くらいと言われている。

竜の血脈を引いているという自負から来る誇りは、他種族から見れば傲慢と見られがちだが、実際は、やや内向的な性格で他種族との付き合いが苦手なだけである。その分、友人付き合いが出来れば背を任せるにたる種族──今回、長くないか。何ぞ?

 

「ん? 碧水の翼の新入りか?」

「そうなのよ。最近ね」

ふむ……と見詰めてくる、女性衛兵。

「そのフェイスガードを、上げてくれるか。お嬢と行動を共にする者の顔は、拝んでおきたい」

あ~、とレンディアがいい、グランさんとシェーミイが顔を見合わせる。

まあ、顔を見知っておくにこしたこと無いだろう。

黒鷲の兜を、取る──「む」と、一言唸った女性衛兵が、フラフラと近付いて来る……この状況、覚えがあるぞ!

直ぐに兜を被り、フェイスガードを引き下げる。

「むう……」

名残惜しげな声を上げ、動きを止める女性衛兵。わきわきと、指を動かしていたのが怖かったんだよ……。

「グリネア、もういいでしょ? クレイドルが怯えているわよ」

「……むむむ」

「何が、むむむよ。黒壁回廊の立ち入り申請をお願いよ」

 

立ち入り申請。警戒度の高いダンジョンには、詰所が設けられ、冒険者の出入りが管理されている。いつ、誰が、どのパーティーが入ったのか記録される。

黒壁回廊も、その一つ……悪魔の出現するダンジョンとして、警戒度が高く設定されているのだ。

 

「よし……碧水の翼パーティー四人。リーダーはレンディア……と」

落ち着きを取り戻したグリネアさんが、書類を整える。

レンディアが書類にサインをし、グリネアさんに確認する。

「私達以外に、入った人達はいる?」

「ああ……複数名はいたが、ほとんど戻っている。ただ、二日ほど、四人組のパーティーがまだ戻ってないな……初級ランクの、“猛き剣”だっけか」

初級クラスが、ダンジョンに潜って、二日戻っていない……それがどういう意味かは、習っている。初心者訓練、受けたのだろうか……。

 

「ふん。まあ、いいわ。取り合えず私達は五階下の探索をするつもりよ。対悪魔の経験を積んでおきたいしね」

「気を付けてな」

レンディアと竜人族グリネアの会話。消息不明の初級ランクの事は、きれいさっぱり消えているらしい……グリネアさん、未練がましく、俺をチラチラ見るのは止めていただきたい。フェイスガードは、引き上げないからな……。

 

鉄門を潜り、黒壁回廊の入口前。

「第一目標はラミナ草の採取。二束ね。それほど行かないうちに、採取できるわよ」

ふむ。依頼書のイラストを見るに、分かりやすい──白色の葉と花の色。花と根は無害。劇薬になるは、葉。丁寧に葉をつまみ、慎重に解体ツールのハサミで回収すればいい。

十枚一束を二つの二十枚。少し大目に三十枚の三束──回収は俺とレンディア。グランさんとシェーミイは、周囲の警戒。

そう決めて、黒壁回廊内に進む──「大した魔物は出ないと言ってたが、どんなのが出る?」

「本当に、大したことないのよ。大赤蜘蛛や大黒ネズミ、魔獣とも言えないのが出るくらいで、実入りは小さな魔石くらいなのよ。あと、黒ネズミの尻尾は触媒になるわよ。回廊の五階までは、ほぼ真っ直ぐで、小部屋がいくつかよ」

レンディアが、黒ネズミという度にグランさんが顔をしかめていた。

 

レンディアの言った通り、五階まで危険は感じなかった。大黒ネズミ、大赤蜘蛛のみ出現。しかも、ほとんど単体。多くても二、三匹。

しかし、黒壁回廊という割には、壁や通路は灰色──「黒壁回廊は、六階からと聞いてるわよ」

なるほどな。五階までは、前座か……。

「初級クラスのパーティーは、ずっとこの調子だと思って、奥まで進んだのだろうな……」

「うーん……入口前の衛兵さんや、ギルド支部から、忠告受けなかったのかなー」

グランさんとシェーミイ。受けてはいたんだろうが……。

 

魔石とネズミの尻尾を回収しつつ、先に進む──「さて、ここから先よ」

巨大な、鉄で補強された堅牢な木の扉。

「扉の先は、ちょっとした広場になっているのよ。私が兄上に連れて来られたのは、ここまでなのよ」

レンディアが、扉を押す。大した力を入れているように見えないが、巨大な扉が音もなく開いた──「さ、行きましょうか」

俺達は、広場に踏み込む……さて、ここから先は地獄かな?

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