ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかif 白兎と雷花の残響・残香 作:青色のラピス
次は3月頭か2月の終わりからを予定しています。
ナァーザと別れた後、ベルは軽くなった財布の心配をしていた。
すっかり買わされてしまった
(はあ、どうしよう……。でもエイナさんやお義母さんは不測の事態には備えろって言ってたから神様も分かってくれるかな……?)
そうやって悩んでいるとふとベルの視線に己の主神の姿が映った。
黒髪ツインテールの幼女という姿をしている女神は目立ちやすく、己の主神ということもあり直ぐに分かった。
バイトの帰りだろうかとベルは声をかけようとして止めた。
彼女はとある店のショーウインドウを食い入るように見ていた。
やがて諦めたのか、トボトボと帰路につく。
ベルはヘスティアが離れると同時にそのショーウインドウに近づく。
其処に展示されていたのは髪飾りや耳飾りといった女性向けのお洒落品だった。
その中には一つベルの目にも止まるものがあった。
恐らくヘスティアの目線を予想するにこれだろうとベルは目星をつけ、同時に決心をした。
ベル・クラネルは最早先程の悩みからは完全に解き放たれていた。
▼△▼
「はああああっ!!」
少年の手に持つ黒刃が閃き、美しい軌道と共に血潮が零れる。
何時もより長い時間を
一心不乱、無我夢中。そんな言葉が似合う程の戦いぶりだった。
防具が胸当てと肘当て、膝当てという考えられない軽装でありながら、全く頼りなさを感じさせなかった。
遠目で彼のことを見ていた冒険者達はそのあまりの強さに唖然とするしかなかった。
しかし、唯一人だけとあるパーティーのサポーターをしている栗鼠だけは彼を値踏みするかのように見ていた。
ポーチを一杯にするたびに
それを繰り返すこと三度。
そしてそれを三日程。
計十回に近く
幾ら比較的換金率の低い上層とはいえ何度もポーチを一杯にするなら当然の結果だ。
「うん、これで代金ぴったりだね。はい、ベル君。」
大量の金貨を受け取ったエイナはベルにラッピングされた小包を渡す。
「それにしてもベル君も隅に置けないね。女の子に贈り物なんて。」
エイナはベルを揶揄う。
無論、それが唯の贈り物ではないことを知っている。
が、ベルはエイナの揶揄いで顔を真っ赤にする。
「エイナさん、揶揄わないで下さぁい……!」
「ふふ、ゴメンね、ベル君。……それにしても男の子って本当に成長が早いんだね。ついこの前まで駆け出しであたふたしてたのに、
「え、エイナさぁん……!」
まるで姉が弟の成長を喜ぶような目を向けられ、ベルが恥ずかしそうに身を揺する。
やっとを顔色を元に戻すと、はあと一息漏らし、表情を引き締める。
「じゃあ、ありがとうございます。」
「どういたしまして。神ヘスティアにもよろしくね。」
受け取った小包を大切に抱え、
その足取りは何処までも軽快で、道行く少年の顔見知りが思わず声をかけてしまう程だった。
「神様、今帰りました。」
【ヘスティア・ファミリア】の
今にも崩れそうな廃教会の地下室が彼等の
その部屋の中に置かれているソファの上でベルの主神―――ヘスティアは思い切りだらけていた。
前身をベッドに任せ、頭をクッションに押し付けていた。
長時間のバイトと最近増えた新しいバイトのせいで今までにない程の疲労具合だった。
「ベル君もお疲れ様~~~。いや~今日もバイトが忙しくて疲れたよ……。……全くおばちゃんめ~、これでもボクは女神なんだぞぅ……!」
クッションに顔を埋めながら、ヘスティアはバイトへの愚痴を零す。
ベルはそれを聞きながらヘスティアに気取られないように近づいていく。
「ん、どうしたんだいベル君? ……あ、そうかステイタスの更新かい? 悪いね、もうちょっと待ってくれないかい……ってどうしたんだよ、そんなお洒落な小包。」
そう言って驚いているヘスティアの様子にベルは微笑みながら片膝をつく。
まるで
「その、神様、これを。」
「これってこの小包かい?」
ベルが小包を手渡し、ヘスティアが恐る恐るその包装を剝がしていく。
全ての包装がはがし、蓋を開けた時、贈り物の正体が初めてヘスティアの瞳に映る。
青い花弁と彷彿とさせるデザインに小さな鐘がついた髪飾り。
数日前、ヘスティアがショーウィンドウにて釘付けになっていたもの、そのものだった。
「神様の髪飾り、もうボロボロでしたし……それに【ヘファイストス・ファミリア】の武器を贈ってくれまし……。少しでもお返しがしたかったので。」
ベルは少し恥ずかしそうにヘスティアにそう伝える。
【ヘファイストス・ファミリア】の武器はオラリオでも有数の武器ブランドの一つであり、最高峰のものである。
多くの冒険者の羨望を集めるこのブランドは当然、ベルも何時かは扱ってみたいと思っていた。
しかし、最高峰ブランド。それも
代金については心配しなくて大丈夫だとヘスティアはベルに与えた武器―――《
しかし、お人好しかつ己の主神への敬意を絶やさぬ少年は何らかの返礼をしたいと常日頃から考えていたのだ。
そして、その思いが今回の行動に繋がったのだ。
「……なあ、ベル君。この髪飾り、君がつけてくれないか?」
「え、でも……。男が女性の髪に触れるのは……。」
「君からのプレゼントだ。ボクは君に着けてもらいたい。」
ヘスティアのその言葉には逆らえずベルはおずおずとヘスティアに髪飾りをつける。
あまりこういったことに慣れていないベルはゆっくりと不器用な手つきで、少しヘスティアは擽ったそうにする。
しかし、不快という訳ではなくにやけそうな顔を必死で律している。
「……できました、神様。」
「……うん、ありがとう。ベル君。」
鏡を見て、ヘスティアは微笑む。
髪飾りはキチンと彼女の美しい黒髪を装飾しており、ツインテールを形どらせている。
ヘスティアの表情を、己が主神が喜ぶ所を見て、ベルもまた自然に頬を緩ませる。
「へへへ……。」
余りに感極まったヘスティアがベルに抱き着く。
当然、そうなれば体型に似合わぬ豊かなものがベルに密着することになり―――
「―――え、ちょ……! 神様ぁ!?」
初心な少年はその顔を真っ赤に染める。
赤く染めるだけに留まらず、顔から湯気まで出している。
その様子を見たヘスティアはどんどんと密着を強めていく。
(ありがとう、ベル君。―――これで僕等は相思相愛だ。)
そんな、何処かズレた思いを抱きながら。
……無論、言うまでもないがベルがヘスティアに向ける感情は家族愛や敬愛である。
△▼△
翌日、何時も通りベルは
胸当てに肘当て、膝当てという貧相な防具。そしてそれと対照的に【ヘファイストス・ファミリア】のロゴが入った黒いナイフというある意味目立つ格好をしている。
―――だからこそ、彼女に目を付けられるのは当然だった。
「お兄さん、お兄さん。白い髪のお兄さん。サポーターは必要ありませんか?」
ベルの前にいるのは少女……いや、子供だ。
フードを被り、その身程の大きなバックパックを背負っている子供だ。
とても
彼女は自分のことをサポーターだと言った。
サポーター。これは数多くの意味を持つ言葉。
縁の下の力持ちと称賛するものがいる。
彼等のお蔭で安心できると信頼を寄せるものもいる。
―――そして、その一方で落ちこぼれと蔑み、虐げられるものでもある。
いきなり声をかけられて混乱しているベルを他所に眼前の子供は言葉を続ける。
「初めまして、お兄さん。そんなに警戒しなくても状況は簡単ですよ? 冒険者のお零れに預かりたいだけの貧乏なサポーターが一人、お兄さんに売り込みをしているんです。……それで、どうですかお兄さん?」
濁った瞳がベルを貫く。
その目を受けて思わずベルは一歩後退ってしまう。
無論、その子供がベルを逃すはずがなく距離を縮め、ベルを見つめていた。
濁った瞳は怪しく光っており、ベルは人知れず息を呑んだ。
次回からリリ編です。
三話もすれば終わるかな?