ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかif 白兎と雷花の残響・残香   作:青色のラピス

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第十二話 サポーターの少女

「え、君、無所属(フリー)のサポーターじゃないんだ……。」

 

「ええ、リリもキチンとファミリアに所属していますよ。」

 

『バベル』に設置されたテーブルで少年と子供が向かい合う。

少年が子供から持ち掛けられた話を吟味するためだ。

 

「【ソーマ・ファミリア】です。……聞いたことくらいはあるんじゃないですか?」

 

【ソーマ・ファミリア】という単語を聞き、少年の頭には月と盃の徽章(エンブレム)が思い浮かんだ。

エイナに勧められなかったこともあり、上位派閥の食い込むほどの団員数を誇るという表面上の情報しかベルは知らなかった。

しかし、それでも彼は一つの疑問を拭えずにいた。

 

「……どうして僕に? 【ソーマ・ファミリア】って人が多いし、それに他派閥との繋がりはあんまり良くないって聞くけど……。」

 

それは純粋な疑問だった。

しかし、どれも抱いて当然のものであり、少年は自身の頭では解消できないが故に聞いた。

 

その問いに子供は表情を変えることなく、笑みと共に答えていく。

 

「簡単な話ですよ。―――私、落ちこぼれ出の役立たずでして。ファミリアの方々は愛想をつかしてしまって……。そんな訳で頼んでも仲間に加えてくれないんですよ。」

 

そんな答えを受けてベルは面食らってしまう。

そんな様子のベルを置いてけぼりに子供は言葉を重ねていく。

 

「そんな訳で本拠(ホーム)に居辛くて今は安宿を巡っては寝泊りを繰り返しています。」

 

衝撃続きだったが最後の言葉にベルは耳を疑いそうになる。

ベル・クラネルにとってファミリアは家族だ。

 

【ヘスティア・ファミリア】は己と主神しかいないが、その間には確かな絆があるとベルは信じている。

そしてそれはどのファミリアでも共通のものだとも信じていたかった。

 

何故なら、その絆のお蔭でベルは孤独じゃなくなったのだから。

アルフィア達に出逢えたのだから。

 

ふと、ベルの脳裏にアルフィアの言葉が蘇る。

オラリオに来る前に聞いた忠告だった。

 

―――「ベル、私達はファミリアを家族だと言ったな。しかしそれは所詮、主神の裁量や眷属の意識次第だ。それら次第でファミリアの様子は変わってしまう……。家族や仲間というかけがえのない関係から陥れあいの醜い関係まで何でもありだ。だから、ファミリア選びはしっかりしろ。どれだけ大手でも主神の性根に眷属の関係がイカれているなら絶対に入団するな。……分かったな?」

 

嘘であって欲しいと思った。

しかし、義母の言うことは間違っておらずベルは眩暈がしていた。

 

(どうして苦楽を共にする相手を蔑ろに……。)

 

ベルには分からない、分かりたくもない事実。

周囲から見て分かるほどに動揺しているベルに子供は自身の要望を告げる。

 

「それでですね、その安宿に泊まろうにも手持ちが心許なくなっておりまして。ですから、ぜひっぜひっぜひっ! リリはお兄さんとダンジョンに潜りたいんです!」

 

子供は畳みかけるようにベルヘ説明を続ける。

ベルはその勢いに飲まれて生返事しか返せない。

 

ベルが渋っていると勘違いした子供は補足説明を続ける。

 

「あ、もしかして神様同士の関係について懸念されているのですか? それなら大丈夫ですよ。主神のソーマ様は未来永劫絶対に他の神様のことなんて無関心なんで敵になるならない以前の問題です。そちらの神様がよっぽどでも敵視しない限り派閥間の争いなんてあり得ないですよ。」

 

子供の説明を聞き終え、しばしベルは瞑目する。

その様子を不思議そうに子供が見ているが、やがてベルは目を開けた。

 

「そっちの事情は分かったけど、ええと……。」

 

「あ、そういえば自己紹介がまだでしたね……。いけません、いけません。―――私の名前はリリルカ・アーデ、です。気軽にリリでいいですよ。」

 

因みに種族は犬人(シアンスロープ)です、性別は見ての通り女ですよと目深に被っていたフードを取り、ぴょこんと獣の耳が自己主張をする。

そして少年は少しの逡巡の後、彼女を真っ直ぐ見やる。

 

「……じゃあ、リリルカさん。今日一日お願いします。」

 

少年の出した答えは『承諾』だった。

その答えを聞き、少女―――リリルカは顔を輝かせる。

 

「ありがとうございます、ベル様!」

 

「……あれ、僕って自己紹介してたっけ……?」

 

突如、自身の名前を言われて、少年は混乱する。

自己紹介をしたか、定かではない少年は頭を捻るが、少し驚いた顔でリリルカは言う。

 

「おや、自覚がなかったんですか? ちょっとは有名ですよ、『ダイダロス通り』の銀の野猿(シルバーバック)退治。」

 

銀の野猿(シルバーバック)退治。

その単語を聞いてベルは気恥ずかしそうに頬を掻く。

確かに自分は頑張ったとは思うが、こうまで周りに持ち上げられると誇らしさ以上にこそばゆいなあとベルは感じたのだった。

 

 △▼△

 

ダンジョンの七階層。

サポーターと冒険者で出来た即席コンビは他を席巻する動きでダンジョンを駆けてゆく。

 

少年は手に持つ紫黒でひたすらに敵を切り刻む。

念願のサポーターという存在を得た少年は戦闘以外の事物を全て押しやり、ひたすらに得物を振るう。

 

キラーアントにパープルモス、ウォーシャドウ……。

Lv.1にとって油断できないはずの存在達は自身の能力を引き出すことなく、骸が清算され続ける。

最早、少年にとってこの階層は脅威ですら無くなってしまったのだ。

 

「ベル様、お強い~!」

 

一方で少女も負けてはいない。

おもむろに転がる骸を集め、手早く魔石を回収していく。

その動きに淀みは無く、流石は専門職(プロ)だと感嘆してしまう程に。

 

少年の邪魔にならないように注意を払い、そして同時に少年が戦闘に集中できるよう最善の状況を生み出していた。

 

(うん、やっぱりいい調子だ!)

 

少女の存在もあり、快適な戦闘を行える少年はギアを加速させる。

心地よさは少年の状態に好転を齎した。

 

そして、その結果―――

 

「ちょ、ベル様、飛ばし過ぎ……ッ!?」

 

―――白兎の猛攻(ラビット・ラッシュ)

 

最早、少女の眼にも止まらない速度で只管にモンスターを切り刻む。

圧倒的なスピードは白と赤の残光を残し、僅かに黒閃が煌めくばかり。

 

時間にして僅か十分。

()()の襲撃者を殲滅するに要した時間である。

 

 △▼△

 

(あり得ません、あり得ませんッ! 何ですかこの冒険者はッ!!)

 

リリルカ・アーデは驚愕していた。

いや、ダンジョンに入ってから驚愕しっぱなしであった。

 

速いネタバレだが彼女は冒険者相手に盗みを行う盗賊である。

実入りの良いパーティーや有望株の冒険者を狙っては魔石や装備を盗む。

 

今朝、話題の少年―――ベル・クラネルに会ったのは勿論偶然ではない。

彼が銀の野猿(シルバーバック)を討伐する以前から目を付けていた。

 

しかしその時は別の冒険者を標的としていたため直ぐにコンタクトを取ることが出来なかった。

 

先日、彼を一瞬を見てリリルカ・アーデは決めた。

いや、厳密に言えば手に持つロングナイフ―――《神の刃(ヘスティア・ナイフ)》を見て決心したのだ。

 

オラリオでも最高の武器ブランド―――『ΗΦΑΙΣΤΟΣ』のロゴが刻まれた武器は少し見ただけでも凄まじい性能を伺わせた。

 

リリルカ・アーデには金が必要だった。

手段を選ばなくてはならない程に金を欲している。

 

(それでもここまでとは思っていません……!)

 

巨大蟻(キラーアント)にウォーシャドウ、パープル・モスの群れ。

何処かの冒険者が対処しきれずに群れとなってしまった集まりだった。

 

遭遇したときは死を覚悟した。

何せ、単体では言うに及ばず、群れることで更なる戦闘力を見せる巨大蟻(キラーアント)にウォーシャドウ。

 

これだけでも並の下級冒険者では死ぬしかないというのに、止めと言わんばかりのパープル・モス。

『対異常』という『発展アビリティ』があれば難なく対処出来るがそれはLv.2以上の上級冒険者だ。

 

なのでリリルカ・アーデは少年を囮に逃げようと考えた。

折角の獲物を失うのは惜しかったが、命あっての物種だと自分を納得させる。

 

「ベル様、逃げま―――

 

しかし、彼女の言葉の言葉が最後まで出ることは無かった。

 

敵を見るや否や少年は凄まじい勢いで突撃する。

 

自棄を起こしたかとリリルカは思った。

しかしそれは彼女にとって好都合だった。

自分から囮になりに行ったのだから。

 

―――しかし、それはあくまで彼女の主観だった。

 

「【ファイアボルト】!」

 

突撃と共に炎雷が放たれる。

凄まじい威力とスピードを内包した砲撃はバープル・モス相手に直進し、鱗粉ではなく塵をばら撒かせた。

堅牢な甲殻を持つ巨大蟻(キラーアント)はバターのように切り裂かれ、ウォーシャドウの斬撃はヒラリと回避する。

 

その様子を見て、少女はもしかして、と考えた。

 

それからは早かった。

 

少年の動きに合わせて、怪物(モンスター)の死骸を集め、塵に変えていく。

無論、敵から狙いにくい位置をキープし、少年の戦闘の邪魔にならぬよう細心の注意を払って。

 

魔石に戦利品(ドロップアイテム)でバックパックは満たされ、普段よりも圧倒的なペースで稼ぎを得ているのは明らかだった。

 

(……うう、こんなに危ないのはコリゴリです……。)

 

しかし、少女はこの少年を狙うのは辞めようかと既に諦め気味だった。

 

その後は特に目立った異常事態(イレギュラー)に遭遇することなく、探索を続けた。

……強いて言うならば少年の弁当で腹を破壊されかけたことくらいだろう。

なんで弁当、どうして弁当とは少女の心の声だ。

 

地上に上がり、ギルドで換金を済ませる。

 

「……30000ヴァリス……!」

 

漏れた言葉は少女のものだ。

しかし、それは当然のことだった。

 

10階層以下を探索する下級冒険者がパーティーで稼ぐ額が凡そ25000ヴァリス程。

それなのに少年は単独でこの額を稼いでしまった。

 

「凄い、凄いよ、リリルカさん! 僕、こんなに稼げたのは初めてだよ!」

 

「ええ、ええ! リリもそうです! こんなに金貨で一杯になった袋を見るのは初めてです!」

 

二匹の小動物はもう小躍りせんばかりにはしゃぎ回る。

一頻りはしゃぎ、それに疲れた頃、ベルは徐ろにリリに一つの袋を渡す。

 

小さいがこちらも金貨で一杯になっており、貨幣がこすれる音と独特な重さを感じさせる。

 

「はい、これがリリルカさんの分。丁度半分だよ。」

 

「……え?」

 

少女の口から呆然とした声が漏れる。

手に感じる重さでようやく現実に戻る。

 

リリルカにとって重さだけで金貨の量を計ることは容易い。

だから、この袋が今日の儲けの半分―――15000ヴァリスが入っていることは瞬時に理解した。

 

「! そうだ、美味しいお店を知っているんだ! リリルカさんもこれからどう!?」

 

「―――いえ、遠慮しておきます。リリは明日の用意があるので。」

 

引き込まれそうになるのを抑え、少年の手を払う。

しかし、少年は嫌そうな顔をせずに仕方が無い、と諦める。

 

「……リリは朝なら此処に居ます。御用があるなら来てください。……それでは。」

 

少女は振り向くことなくその場から去っていく。

 

「変な人……。」

 

でも、その顔は少しだけ、ほんの少しだけ―――笑顔が、浮かんでいた。

 

 ▼△▼

 

少年は一人、『バベル』から本拠(ホーム)に帰る。

一人だけでも食事に行こうかと悩んだが、一人の食事に頬を歪ませ、そのまま帰路につく。

 

「―――あ、リタさん!」

 

帰路についた少年が思わず嬉しそうな声を上げる。

目線の先にいるのは一人の男だ。

 

青い長髪をうなじのあたりで纏めている。

水、というよりも炎を連想させる冒険者―――リタ・ナラティブだった。

 

「ん? ……ああ、ベルか! 大きくなったなぁ……! 一瞬、分からなかったぞ!」

 

リタはベルに気がつくと、久しぶりにあった甥っ子を相手どるような仕草で近づく。

そして、自然に頭に手を乗せ、白い髪を揉みくちゃに撫でる。

 

「ちょっ、いきなりはやめてください!」

 

「あ、ああ、ごめん。……つい、自然に手が出ちまった。」

 

いきなり頭を揉みくちゃにされて、ベルが少し怒った声で抗議する。

 

「……それにしても成長してるんだな……。」

 

そんな少年を見て男は感慨深そうに呟く。

 

「? どうしたんですか?」

 

「いや、何でもないさ……。迷宮(ダンジョン)帰りかい?」

 

その言葉を皮切りに二人はゆっくりと進み始める。

無論、会話も一緒だ。

 

傍から見れば都市の離れた兄弟や親戚のようで暖かなものだった。

 

―――しかし話している内容は全くそうでは無かったが。

 

「へえ、もう九階層か。……銀の野猿(シルバーバック)討伐してるもんな、当然の結果だな。」

 

「……修行で巨大蟻(キラーアント)を? ウォーシャドウやホーンラビットなら素手で真っ二つにできる? ダンジョンリザードの不意打ちも食らわなくなった? ……え、Lv.1だよね?」

 

「詠唱なしの魔法……? ……いや、俺も聞いたことがないな。」

 

「所で、修行ってもしかしなくてもだが……? ―――成程……やっぱりか。……頭真正の怪物(アルフィア)かよ……。……ああ、いや、何でもないぜ!」

 

話せば話す程出てくる少年の出鱈目エピソードの数々。

最早男は微妙な表情をするしかなかった。

仮面がなければ少年が訝しむ程だった。

 

後少しで『教会の隠し部屋』に着くといった所で何気なしにリタが聞いた。

 

「なあ、ベル。君の装備は、それだけなのかい?」

 

罅割れた胸当てに、肘当て、膝当て。

武器は腰に一本のロングナイフ。

 

……正直な所、誰が見ても田舎出身の下級派閥の駆け出し未満でしかなかった。

 

「……よし、わかった。―――なぁ、明日は暇かい? 暇ならさ、色々と買い物に行こう。」

 

少年の返答を聞き、男はそう言った。

その言葉に少年はキョトンと目をパチクリさせた。




「なあ、ホーエンハイム。お前今、【ヘファイストス】とこの工房間借りしてるんだろ? 実際、ここそうだし。……下級冒険者相手でさ、丁度良い職人知らないか?」

「……そうだなぁ。ヴェルフ・クロッゾにトトナン・ヴァルカス、ネーナ・メタルスミスなんかじゃあないかぁ? ……いきなりどうしたんだぁ?」

「いやな、ベル―――あの子を明日、買い物に連れて行くことにしてな。防具も目当てだからお前に聞いたんだ。」

「―――そうかぁ。じゃあこいつら全部持っていけぇ。」

「……いや、流石にお前謹製の第一等級武装は駄目だろ……。」
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