ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかif 白兎と雷花の残響・残香   作:青色のラピス

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やっと書けました。
一話だけですが投稿です。


第十八話 冒険者の追走

「―――『冒険者依頼(クエスト)』、ですか?」

 

思いもよらぬ言葉にアイズは驚愕する。

しかし、その表情は一切揺らぐことが無いため傍から見れば誰も分からないが。

 

「ああ。―――二十四階層の怪物(モンスター)の大量発生。これを調査して欲しい。」

 

二十四階層。

迷宮(ダンジョン)において下層に位置する階層。

 

第一級冒険者のアイズにとって別段、苦難を感じるような階層ではないが『遠征』が近づいている以上、勝手な真似はできない。

心苦しいが断ろうとした時、黒衣が一つの『爆弾』を落す。

 

「……そう言えば十八階層の異常事態(イレギュラー)。それに関係持つ謎の人物達……それに『宝玉』。これらと関係する勢力の出入りが疑われている。……事態は深刻だ。どうか力を貸してくれないだろうか?」

 

その一言を聞き、アイズはクエストの受注を決めた。

黒衣の人物に幾つかの伝言を頼み、集合場所―――十八階層へ降りていく。

 

 △▼△

 

十八階層―――『迷宮の楽園(アンダーリゾート)』。

その中にある『リヴィラの街』。

荒くれ者の街は少し前に壊滅したというのに素早い復興を見せている。

 

その中にある酒場―――『黄金の穴蔵亭』。

それも隠れた場所にあり、知る人ぞ知るといった雰囲気を出す店。

そこが黒衣の人物に指定された場所である。

 

酒場には多くの冒険者がいるが、誰も酒や料理を注文せず、手も付けず、何処か異様な空間となっていた。

 

「……注文は?」

 

ガタイが良く、厳つい店主がアイズにそう問いかける。

常人なら逃げ出してしまいそうな威圧感だが、アイズは一切気にすることなく『合言葉』を口にする。

 

「『じゃが丸くん抹茶クリーム味』。」

 

その一言に思わず場がざわつく。

騒然とする場の中から三人のヒューマンがアイズに近づいた。

 

「……驚きました。助っ人がまさか貴方だとは。」

 

青い短髪と眼鏡が目立つ女性―――【万能者(ペルセウス)】アスフィ・アル・アンドロメダ。

【ヘルメス・ファミリア】の団長であり、魔道具職人(アイテムメイカー)として名を馳せる異色の冒険者だ。

 

そして―――

 

「……Lv.6が援軍とは心強い。頼りにさせてもらう。」

 

「ええ、ええ。名高い【剣姫】が来たからには百人力というものでしょう。」

 

眉庇(バイザー)があり、顔全体を覆う鉄兜(ヘルム)を被った戦士―――【同士討ち】のバクガー・アウルス。

魔法衣で出来たローブの上に軽鎧を纏った魔導師―――【破滅の雷(ペインサンダー)】ハミル・トマステスラ。

【アトラス・ファミリア】の団長と副団長であり、共にLv.5の第一級冒険者。

 

まさかの人物達にアイズは思わず目を見開いてしまったのだった。

 

 △▼△

 

「……アイズたん、マジかー……。」

 

朱色の女神が頭を抱える。

『ギルド』からの使いから手紙を受け取ったのはつい先ほど。

 

内容は簡潔。『クエストを受けたのでダンジョンに行きます。』

 

……別にクエストを受けたことはいい。(本当は『遠征』前だから駄目だが。)

 

しかし、この場ではよろしくない。

現に相対する男神―――ディオニュソスは疑いで双眸を細めている。

 

ディオニュソス。酒神ディオニュソス。

【ディオニュソス・ファミリア】の主神であり、多く上級冒険者を抱える中堅派閥の長だ。

 

『フィリア祭』の後から協力関係にあるこの男神はどういう訳か『ギルド』を、厳密に言えば創設神ウラノスを激しく敵視している。

一度真意を問いただしたロキからしてみればウラノスは確かに『隠し事』があるが、それは都市崩壊―――『極彩色のモンスター』に連なるものではないと確信している。

そもそもオラリオ創設に深く関わった大神が都市を滅ぼすなんて可笑しいなんて話ではないのだから。

 

だが、本当に時機(タイミング)が悪い。

 

アイズはド天然(おバカ)だが愚かではない。

『遠征』前に『クエスト』なんていう面倒事を抱え込むような真似はしない。

だから、研ぎ澄まされた直感から『何か』を感じ取ったために首を突っ込んだのだと理解できる。

 

しかし『クエスト』という形ではあるが、秘密裏に接触し依頼したことから何か()()()()()()()()、と疑われるのは仕方ないことだろう。

 

「……しゃあないわ。ベート、レフィーヤ。頼めるか?」

 

ロキは近くに控えていた二人に視線を向ける。

狼人(ウェアウルフ)の青年は嫌そうな顔を隠しもしないが、仕方が無いことを理解しているため頷き、山吹色の少女は一々答えるまでもないだろう。

 

「―――待て、ロキ。私は君の協力者だ。何かあるのに君だけにやらせては私の名が廃る。」

 

そう言うと控えていた()()()()()()が前に出る。

片方は白い巫女服を纏った漆黒の妖精(エルフ)

もう片方は蛮刀を腰に佩く女剣士。

 

【ディオニュソス・ファミリア】()()()―――【白巫女(マイナデス)】フィルヴィス・シャリア。

【ディオニュソス・ファミリア】団長―――【水面の月(ディオ・ミラージュ)】マリナ・アルクリウス。

Lv.3とLv.4の第二級冒険者であり、【ディオニュソス・ファミリア】が誇る最強戦力である。

 

 ▼△▼

 

「よっ! 久しぶり! まさか【剣姫】が援軍なんてな!」

 

人ごみの中から一人の少女が現れる。

アイズにも見覚えがある犬人(シアンスロープ)の少女―――ルルネ・ルーイだった。

 

「貴方、貴方達も依頼を?」

 

「……ああ。数日前に黒ローブがやって来てさ。流石に怖かったから断ろうとしたんだけど―――

 

「―――受けなければ『ギルド』にLv詐称をバラす、と脅されたんですよ。……全く、貴方は盗賊(シーフ)でしょう。その程度の追及、しらばっくれればいいんですよ。」

 

呆れた声でルルネの言葉を引き継いだのはアスフィだ。

苦労人である彼女にとって今回の事態は避けたいものである。

証拠に頭痛を堪えているのか眉間にしわを寄せ、手で押さえている。

 

「……すまないな。本当なら【支える者の派閥(アトラス・ファミリア)】―――俺達だけでやるはずだったんだが。」

 

申し訳なそうにするのはバクガーだ。

頭全体(フルフェイス)の兜ではその表情を推し量ることはできないが、声色からは申し訳なさが滲み出ている。

 

「……別に貴方を責めている訳ではありませんよ、【同士討ち】。私達はあくまでサポート、ですから。でも―――」

 

「ははは、分かってますよ【万能者(ペルセウス)】。貴方達を強請ろう、なんて考えませんよ。」

 

釘を刺そうとしたアスフィの言葉を遮り、続けたのはハミル。

何処か飄々とした掴みどころのなさを感じる男であり、所作の端々からも油断できないということが十全に伝わる。

アイズやアスフィ達の警戒した視線を知ってか知らずか一歩下がり、自分達の構成を知らせる。

 

「前衛は八人、後衛は六人です。基本的にLv.3ですがLv.4が前衛と後衛に一人ずついます。結構強いでしょう? 【ヘルメス・ファミリア】と【剣姫】には中衛……つまりは前衛や後衛の補助を頼みます。下手に歩幅を合わせる方が面倒くさいですし。」

 

「ええ、構いません。『数』も『質』もそちらの方が上なんですから。……【剣姫】もそれで構いませんね?」

 

何か提案するようなことも無いのでその言葉にアイズは頷いた。

そして少しの調整を終えると、冒険者依頼(クエスト)が始まった。

 

 △▼△

 

「【剣姫】だぁ? いや、見てねえぞ。」

 

「ちッ……。そうかよ。」

 

『リヴィラ』の元締め―――ボールスはベートの質問にそう返した。

それを聞いたベートは不機嫌そうに舌を鳴らす。

獰猛という言葉が似合う彼はその荒々しさを隠すことなく『街』の雑踏を踏み荒らしていく。

 

一方でレフィーヤはいたたまれない空気の中、すっかり委縮してしまっていた。

そんな彼女に近づくのはマリナ。

少女よりも一回り年上の彼女は申し訳なさそうな顔で告げる。

 

「ごめんねえ。彼女―――フィルヴィス、どうしてもああなのよねぇ……。」

 

その謝罪を受けるが、レフィーヤは仕方が無いことだと割り切る。

 

妖精(エルフ)は潔癖な生き物だ。

生まれた里の都合でレフィーヤは社交的かつ柔軟だが、普通ならそうもいかない。

他種族を見下し、他者との接触を避ける。いや忌み嫌うと言ってもいいかもしれない。

 

その法則はフィルヴィス・シャリアにおいて例外ではない。

怜悧な瞳は他を突き放すほどの冷たさであり、その振る舞いも何処か刺々しい。

 

戦闘の際も手助けに礼を言おうとしても直ぐに離れてしまい、中々距離を詰められない。

 

「……ねえ、もしかして貴方―――フィルヴィスのこと憐れんでいるの?」

 

その一言にドキリとするレフィーヤ。

思わず振り返り、マリナの方を振り向く。

真っ直ぐな視線で、レフィーヤ・ウィリディスという一人の人間を見定めているのか何処か居心地が悪くなる。

 

しかし、そんなレフィーヤの気分なんて無視してマリナは更に畳みかける。

 

妖精(エルフ)も捨てたものね。誇りとかいう言葉で薄っぺらさをを誤魔化す不出来の中の不出来。どうせあなたもあの娘を【死妖精(バンシー)】と蔑むのかしら?」

 

その言葉にかっと頭に血が上る思いのレフィーヤだが、それ以上に気になる言葉があった。

 

「あの……マリナさん。」

 

「どうしたの?」

 

「【死妖精(バンシー)】って何ですか?」

 

そう言われて、待っていたと言わんばかりの表情の女。

底意地の悪い笑みを口端に引っ付けて、純真な妖精には到底受け入れられない表情を奥に隠しながらゆっくりと口を開いていく。

そして、ゆっくりとその言葉の意味を紐解いていく。

 

 ▼△▼

 

「『二十七階層の悪夢』って知ってる?」

 

「……確か、中心戦力を失った闇派閥(イヴィルス)が引き起こした事件だったはずです。」

 

レフィーヤがこの都市に来た頃には表立った抗争が起きなかったため詳しくは知らないが、この一件は酷く有名であり、彼女でも知っていた。

 

「ええ。【白髪鬼(ヴァンディエッタ)】が中心となって引き起こした惨劇。……情報を掴んだ管理協会(ギルド)の鎮圧部隊が到達と同時に見たものは『階層主』をも巻き込んだ怪物進呈(バス・パレード)。笑える話よ。中堅派閥や上位派閥の精鋭部隊は闇派閥(イヴィルス)諸共壊滅。……あれだけ強かったのに、呆気ないものね。」

 

「……いたんですか、其処に。」

 

「ええ。居たわ。私も、フィルヴィスも。―――そして地獄を見て、苛まれた。」

 

「見て、苛まれた……?」

 

「あれだけの事柄、何かあったら尾を引くものよ。私もフィルヴィスも五体満足であるけど、それだけよ。……特に酷いものよ、フィルヴィスなんて。折角立ち直ってまた頑張っているのに……。運が悪いって奴かしら。立て続けに仲間を失っていった。」

 

「―――ッ!」

 

仲間を失う。

その重い言葉は未だレフィーヤが味わったことのない苦痛を伴っている。

レフィーヤには想像できなかった。

自分から大切な仲間を失ってしまうことを。

 

「それが、何度も。何度も起こるものだから、皆噂し始めたのよ。味方殺しの妖精。血を求める妖魔。【死妖精(バンシー)】ってね。酷い奴なんて『二十七階層』で起こったことも繋げちゃってグチャグチャ……。」

 

それで言葉を終えるマリナ。

小さな静寂が場を支配する。

 

何を言えば分からないレフィーヤとそれを唯見ているマリナ。

そうしていると不意に一つの言葉が響く。

 

「―――要するに、あの女は仲間を見捨てたってことかよ。」

 

声のする方を振り向けばそこにいるのは一人の狼人(ウェアウルフ)

獰猛さを隠そうともしないこの青年の言い草に流石に気分を悪くしたのかマリナは表情を曲げる。

 

「言い方、悪くないかしら。―――ねえ【灰狼(フェンリスウルフ)】?」

 

「テメェ……!」

 

「あら、自分は良くて他人は駄目? 随分我儘な子犬ちゃんだこと。」

 

不穏になっていく空気に流石にレフィーヤが仲裁に入る。

 

「ちょ、ちょっと二人とも喧嘩しちゃ駄目ですよ。」

 

「……チッ。俺はテメェみたいなやつ気に入らねえな。」

 

「あら、私は何もしないわよ。それに奇遇。私も貴方、あんまり好きじゃないわ。」

 

そう言ってベートがその場から離れ、本来の仕事に戻っていく。

彼が離れたと同時にマリナも本来の役割を果たすべく、行動を再開する。

 

急に一人残されたレフィーヤは当然、混乱する。

しかし、何か妙案が浮かぶ訳もなく自分もアイズの行き先を追おうかと歩み始める。

互いに見えずらい街角。

 

そこを曲がり、出会った。

 

「……あ、シャリア、さん。」

 

「……。」

 

いまだ寡黙を貫く、妖精(エルフ)―――フィルヴィス・シャリアに。

 

 △▼△

 

レフィーヤ・ウィリディスは気まずかった。

これ以上ない程の気まずさを感じているのだ。

 

何せ会話がない。

彼女―――フィルヴィス・シャリアが必要が無ければ一切口を開かず、聞いた話から何を話題にすればいいのかも分からないからだ。

 

「―――ウィリディス、余り私と関わらない方が良い。」

 

だからいきなり口を開いたフィルヴィスに心底レフィーヤは驚いた。

しかしそんな彼女の驚愕を無視してフィルヴィスは言葉を続ける。

 

「マリナ団長から聞いただろう? 私の過去を。……私が近づけばお前達は傷付く。だから関わるな。今回のことが終わったら、忘れてくれ。」

 

「で、でも! 何でシャリアさんがそんな―――!」

 

「何でって、決まっている。―――私は、穢れているからな。」

 

余りにも重い、拒絶の言葉。

言いたいことを言った彼女はそのまま進んでいく。

 

しかし、レフィーヤにはそうもいかない。

その背中が哀愁と孤独を訴えていたことを見逃さなかったからだ。

 

離れていく背中目掛けて走る。

僅かしか生まれなかった距離は容易くなかったことにされ、レフィーヤはフィルヴィスの手を掴んだ。

 

「違います! 貴方は穢れてなんかない!」

 

「ウィリディス、どうした……?」

 

「私なんかよりずっと美しくて、優しい人です!」

 

「……何でそんなことが分かる。お前と私は出会って数刻も経っていないだろう。」

 

「―――それは今からいっぱい見つけていきます!!」

 

思わず、失敗したという顔になるレフィーヤ。

答えになっていない回答であり、どう弁解しようか迷っていると―――

 

「くっ……! 何だ、それは。結局、答えになっていないぞ。」

 

―――笑っているフィルヴィスの顔が彼女の瞳に移った。

 

心底面白いのか、エルフにしては珍しく隠すことなく笑顔を曝け出している。

 

「本当に、不思議なエルフだな。お前は。」

 

その笑顔を見てレフィーヤはこう思った。

 

(同族だから、としか言えないけど……やっぱりシャリアさんは誇り高く、そして美しい人なんだなって本当に思う。)

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