ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかif 白兎と雷花の残響・残香   作:青色のラピス

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第十九話 発見

迷宮(ダンジョン)の下層―――二十四階層にて、冒険者の一団が凄まじい勢いでモンスター達を()()していく。

 

「魔法の一斉射での生き残りが5匹。前衛は処理頼みます。」

 

「……もう終わっている。しかし、数が多いな。」

 

「……なあ、これあたし達要らないんじゃないか?」

 

その殲滅を行っているのは【アトラス・ファミリア】。

一匹の討ち漏らしも許すことなく、淡々と進められる作業。

その手際の良さに都市最大派閥のアイズでさえ舌を巻く程だった。

 

「いえ、それがそうでもないんですよ、【泥犬(マドル)】。私達は戦闘力に振り切ったメンバーですからね。洞察力とか観察力……探索に必要な技能は其処までなんですよ。」

 

「……でも、お前達全員あたし達よりLv上じゃん。直感とかで何とかなったりしないのか?」

 

「流石に其処まで便利なモノじゃないですよ……。」

 

そうやって進んでいると、最前列を進むバクガーが全体へ止まれの手信号(ハンドサイン)を出す。

何があるのかとハミル、アスフィ、アイズの三人が最前列まで進んでいった。

そして思わず顔を顰めることになる。

 

「うへえ……。何じゃこの数。文字通りモンスターの行進だな。」

 

「今まででも層群頻度と数が多いと思っていましたが……流石にこの数は……!」

 

想定外の事態に全員が全員頭を抱えていると、大剣を抱えたバクガーが口を開く。

寡黙な大男は静かにそして正確に為すべきことを見定めているのだ。

 

「……ハミル。雷魔法で薙ぎ払ってくれ。残りは俺で殲滅する。」

 

「はあー……仕方ないですねー……。あんまり切り札は多用したくないんですが。」

 

長魔杖(ロッド)を構えて、魔法の準備を始めるハミル。

瞑想と共に詠唱を始めようという時、アイズが声を上げる。

 

「待って下さい。……一つ、お願いがあります。」

 

「……どうした【剣姫】?」

 

「―――私にやらせて下さい。」

 

誰もが予想していない言葉に場が凍り付く。

その中でも一番早く現実へ帰還したハミルが問う。

 

「ええと……【剣姫】さん? 今から質問しますね?」

 

「? ……はい?」

 

「今、あれ全部倒すって言った?」

 

「はい。」

 

「そっかー……。言ったかー……。」

 

そう言って再び凍結されるハミル。

誰もが口を閉ざす中、反対意見がないとみなしたアイズは剣の柄に手を取り、駆ける―――その寸前。

 

「待ってくれよ! 幾ら【剣姫】でも単騎じゃこの数は無理だって!!」

 

駆けよって来たルルネがアイズの手を掴み、止める。

その反応は当然であり、周囲の他の人間も同様である。

 

―――そう、アイズの認識とは致命的に異なっている。

 

「……まあ、Lv.6が言うなら何かしらあるんだろう。流石に不味くなれば手出しする。それでいいか?」

 

「いいんですか?」

 

「……君が言ったことだろう? それにここで大きな消耗をしたくはない。」

 

バクガーが最終決断を下すとアイズは一陣の風となり、その場から()()()()()

極僅かな選ばれた者以外が知覚できない速度を以てして移動したからだ。

 

「……良いんですか? 流石にあれだけの数は……。」

 

「……彼女はLv.6。精々がLv.5の我々に何か言えた話じゃないさ。しかし、万が一に備える必要は……なさそうだな。」

 

そうやって視線を下に落とせば一人の美少女が先程以上の虐殺を繰り広げる光景が広がっていた。

本来ならベテランの冒険者でも苦戦するモンスター達を塵の墓標に変えていくその様を見て、誰もが戦慄と畏敬を捧げるしかなった。

 

 △▼△

 

「……あれ? 可笑しいな……。」

 

「どうしたんです、ルルネ?」

 

「いやさ、アスフィ。私達はキチンと食糧庫(パントリー)に繋がる道を進んでいた……はずなんだ。だったらこんなものが出てくるはずがないんだよ。」

 

そう言って彼女等が見上げるのは深緑の壁。

まるで生物のような存在感を放つ()()()

 

「……しかし、これではっきりしたな。この先に食糧庫(バントリー)があるとするのなら、モンスター達は別の場所を目指すはずだ。」

 

迷宮(ダンジョン)のモンスター達は食糧庫(パントリー)に生えている石英(クオーツ)の柱から分泌される液体から栄養を補給する。

そのため食糧庫(パントリー)を失うことはモンスターにとっては一大事である。

 

「一応、他の経路(ルート)も調べるか? この調子なら何処も塞がってそうだけど。」

 

「ええ、一応しておきましょう。今、何が起こっているのか。それを正しく把握する必要がありますから。」

 

そう言って、冒険者達は二つのパーティーに分割される。

そうやって周囲の探索を始めるが、地図に記された食糧庫(パントリー)への経路は全て塞がれていた。

誰もがどうしたものかと悩んでいると一人の男が壁の前に立ち、言った。

 

「―――仕方ない。ブチ破るか。」

 

「はい?」

 

バクガーがそう呟くと徐に大剣を振り上げ―――振り下ろす。

第一級冒険者の膂力で放たれる重撃は容易く壁を喰い破り、大きな穴を作り出す。

 

「……貴方も大概ですね【同士討ち】。」

 

第二級冒険者以下では到底再現できない結果に、そしてその光景にアスフィ達は息を飲む。

破壊され、開いた穴の先に広がるのは気味の悪い緑色に包まれた空間だった。

明らかに不気味で普段なら見ない振りをしている程である。

 

だが、原因追求と原因の排除が任務である以上、彼等には進む以外の選択肢は無かった。

少しの休憩と武装の整備を挟んだ後、意を決した彼等は壁の中に入って行く。

 

「……! 穴が!」

 

全員が穴を越えて、内部に侵入するともぞもぞと壁が動き、穴が塞がれる。

まるで生物のような動きに冒険者達の気味悪さは更に加速していく。

 

「……この壁、随分ブヨブヨしてるよな。さっきのことと言い、まるで生きてるみたいだぜ。」

 

「まさか……こいつら全部生物の肉……!?」

 

「臭いもだ。嗅いだことがないぞ、こんな臭い。」

 

ヒューマンに小人族(パルゥム)、獣人達が感じたことを吐き出していく。

その言葉に最悪の予想が過り、冒険者全員の顔が青くなるが、ハミルが一喝する。

 

「はいはい、全員少しは落ち着け。此処がモンスターの体内なら体液か何かで溶かしにくるでしょう? その気配も何もないなら悩むだけ無駄です。」

 

その言葉に冒険者達は少しずつ落ち着きを取り戻していく。

冷静に陣形を維持しつつ、進んでいると突然だが、分かれ道に遭遇する。

 

「これは……地図にあったか?」

 

「いや、無い。」

 

「そうか。なら既存の地図は役に立つまい。地図作成(マッピング)を頼んでいいか、【ヘルメス・ファミリア】?」

 

「構いませんよ。それが私達の役割なんですから。」

 

そう言って、ルルネを中心として地図作成(マッピング)を始める。

アイズは後ろからその様子を眺めているが、方位に構造、軽い情報が記載されており、予想しているよりもしっかりした地図だった。

 

迷宮(ダンジョン)の中でも、方位が分かるんですか?」

 

そして中でも一番驚いた部分はそこであった。

迷宮(ダンジョン)において方位磁針は使えない。

原因は不明だが、中で使うと針の向きが安定しないからだ。

 

「ああ、それはですね。ルルネの特技なんですよ。」

 

「……アスフィ、そんなに持ち上げないでくれよ。こんなの訓練次第で誰でもできるって。」

 

「あら、私は無理でしたよ。」

 

「うー……。まあ、でもあんまり期待しないでくれよ? あたし達が今作ってるやつはあくまで即席だからな。管理機関(ギルド)が配っているような奴とは精度も情報量も全然なんだよ。」

 

管理機関(ギルド)迷宮(ダンジョン)に纏わる数多の情報を持つ。

階層の構造に出現するモンスターとその生態……取り上げていけば切りがない程に。

 

中でも地図情報は全冒険者にとって重宝されるものであり、現在の冒険者の大半が地図作成(マッピング)の技術なしで探索ができる重要な要因である。

そしてそれは同時に現在は『完全なる未知』に挑むということが無くなっているということだ。

 

―――ここにきてアイズは気づいた。

 

己が『完全なる未知』に挑まんとしていることに。

自分の行動が思わぬ理不尽を呼び、命を散らしてしまうような『未知』に。

 

自分は今日、死ぬのかもしれない。

自分は絶対に生き残って見せる。

 

矛盾したこの二つの思いを抱えて、アイズは奥へと進んでいく。

 

 ▼△▼

 

「レヴィス。侵入者だ。今回はモンスターではない。冒険者だ。」

 

とある緑壁に覆われた空間に二人の男女がいる。

男の方は上半身裸で頭に怪物の頭骨で出来た兜を被っており、とても禍々しい。

一方で女は豊かな肢体を隠さない煽情的な姿をしている。

 

しかし、女も自身が放つ独特な妖気(オーラ)から格好と実態が釣り合わない異形の存在であると伺わせる。

 

緑壁には一枚の水晶で出来た鏡が付いており、遠見の能力が刻まれている。

そのため一定の空間を見ることができる。

 

男はこの鏡を用いて、内部の情報を把握しているのだ。

女が気怠そうに身を起こし、映像に目をやる。

 

女にとって大半が価値のない有象無象だが、たった一人、たった一人の少女に視線を止める。

 

「……成程、老人の戯言かと思ったが確かに『アリア』だ。」

 

「……何? 今、何といった、レヴィス。」

 

「マーダインの奴が【剣姫】を『アリア』とか抜かしていたと言ったんだ。この感じなら間違いではないみたいだが。」

 

男は信じられないといった様子でいるが女は冷めたものだ。

冷静に、そして冷徹にこう言った。

 

「冒険者達と『アリア』を切り離せ。私が行く。」

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