ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかif 白兎と雷花の残響・残香   作:青色のラピス

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初投稿でいきなり感想と高評価もらえました。
無茶苦茶嬉しいです。

これからも頑張っていきます!




第二話 騒乱の種

ベル・クラネル

 

【ヘスティア・ファミリア】

 

ヒューマン

 

Lv.1

 

 

《基本アビリティ》

 

力:D511→B788

 

耐久:F329→D541

 

器用:E417→C689

 

敏捷:C642→S904

 

魔力:C618→B732

 

 

《スキル》

 

英雄覇道(ヘラクレス)

・『輝白決意(アルゴノゥト)

・『憧憬追走(リアリス・フレーゼ)

・『雷花血統(リコリス・ブラッド)

・『祝福聖鐘(ブレス・グランドベル)

・『試練踏破(ネオ・ブースト)

・■■■■

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・■■■■

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竜授叡智(ハイベルク・ウィズダム)

・アビリティ『魔力』に高い補正。

・ステイタスに記されていない魔法使用時に発展アビリティ『魔導』が限定発現。補正効果はLvに依存する。

・ステイタスに記されていない魔法使用時に魔力暴走(イグニス・ファトゥス)発生確率低下。補正効果は運とLvに依存する。

 

 

《魔法》

 

【ファイアボルト】

・詠唱の必要がなく、魔法名のみで発動可能な速攻魔法。

 

 

(……何これ。)

 

迷宮(ダンジョン)から帰還し、一段落した所でふとステイタスの更新をした結果がこれだった。

彼女が目を白黒させている原因は間違いなくスキル【英雄覇道(ヘラクレス)】。

詳しく読めていないが、明らかに超高性能のレアスキルだった。

具体的にはスキルの効果一つ一つが一つのスキルとして成立してもおかしくない程の出力を有している。

 

更に驚くべきこととして七つほど解放されていない欄がある。

つまりこのスキルはまだ()()()()()()があるということだ。

元・引きこもりの女神とはいえ出力の上昇なら兎も角、成長するスキルなど聞いたことも無かった。

 

(うう、どうしよう……。こんなスキル、ベル君に知らせるべきか……。いやベル君に隠し事が出来るとは思えないし……。それに絶対、こんなものがバレたら神々の玩具にされる……!)

 

ヘスティアの熟考は止まることを知らない。

しかし、彼女の心配は当然のことだった。

彼女の神友達のように出来た性格を持つ神は少ない。

多くの神々は下界に刺激を求めてやって来たような者達だ。

つまり悪乗りはするし、やらかしは勿論、人の秘密(レアスキル)なぞ格好の得物である。

 

「……神様、どうしたんですか?」

 

何時までも行動を起こさない自身の主神に何か不安を煽られたのかベルが弱い声で尋ねる。

 

「ああっ! すまない、ベル君! もう、ちょっと待ってくれないか? ……よし、終わった。―――ベル君。これが今回の君のステイタスだ。」

 

そう言ってヘスティアは一枚の羊皮紙を渡す。

其処にはヘスティアが記したステイタスが記述されていた。

その内容は―――

 

 

ベル・クラネル

 

【ヘスティア・ファミリア】

 

ヒューマン

 

Lv.1

 

 

《基本アビリティ》

 

力:D511→B788

 

耐久:F329→D541

 

器用:E417→C689

 

敏捷:C642→S904

 

魔力:C618→B732

 

 

《スキル》

 

英雄覇道(ヘラクレス)

・『輝白決意(アルゴノゥト)

・『憧憬追走(リアリス・フレーゼ)

・『雷花血統(リコリス・ブラッド)

・『祝福聖鐘(ブレス・グランドベル)

・『試練踏破(ネオ・ブースト)

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竜授叡智(ハイベルク・ウィズダム)

・アビリティ『魔力』に高い補正。

・ステイタスに記されていない魔法使用時に発展アビリティ『魔導』が限定発現。補正効果はLvに依存する。

・ステイタスに記されていない魔法使用時に魔力暴走(イグニス・ファトゥス)発生確率低下。補正効果は運とLvに依存する。

 

 

《魔法》

 

【ファイアボルト】

・詠唱の必要がなく、魔法名のみで発動可能な速攻魔法。

 

 

このように誤魔化さずにしたものだった。

確かに凄まじいスキルだが、生憎ヘスティアでも十全に理解できていない。

そもそもステイタスは他人に言い触らすものではないから、此処まで情報が少なければ『全知』を謳う神々でもどうにもできないと彼女は踏んだのだ。

 

無論、『憧憬追走(リアリス・フレーゼ)』が恋敵の予感を感じさせたが、スキルの効果が分からないため仮に任意発動(アクティブトリガー)の強力なスキルだった場合、損失と言い切れないことになるため泣く泣く記載した。

 

「こ、こんなに伸びてる……! それにスキルまで……!」

 

「ベル君、君は才能がある。そして成長期みたいなものなんだろう。だから君はきっと強くなれる。」

 

「神様……。」

 

ベルは己の主神の声に驚いた声を出す。

ヘスティアはその様子を見て、構わず言葉を続ける。

 

「ボクは君を応援したい。君の夢を肯定してあげたい。だから君に協力しよう。……でも一つだけ約束してくれ、ベル君。もう無茶なんてしないこと。……ボクを一神(ひとり)にしないでくれ。」

 

「分かりました。僕は神様を一神(ひとり)になんてしません。」

 

ベルは真っ直ぐ見つめるヘスティアの瞳を正面から見据え、しっかりと返事を返す。

それを見て、ヘスティアは満足そうに頷く。

 

ヘスティアが頷いた後、ベルは気になっていたことを問いかける。

内容は二つだった。

 

一つ目はスキルについてだった。

しかし、【英雄覇道(ヘラクレス)】の効果はヘスティアでもまだ理解しきれず、互いに調べていこうという話で終わった。

 

二つ目はベルを本拠(ホーム)へ連れ帰った人物―――リタについてだった。

 

「あ……、そう言えばリタさんはどうしたんですか?」

 

「リタ君? ああ、君を連れ帰ってきてくれた冒険者君のことか。君を連れて帰ってくれたら直ぐに帰っちゃてね。でも伝言を預かっているよ。確か……『無茶はするなよ。後、食事代は心配しなくていい。次はご飯残しちゃ駄目だぜ。またご飯食べに行こう』だったかな?」

 

「そうですか……。迷惑かけちゃいましたね……。」

 

「そうだね。なら今から彼のファミリアの本拠(ホーム)に行って、謝れば良いさ! 何処にあるんだい?」

 

「……そう言えば聞いていませんでした。どうしましょう、神様……?」

 

「あちゃー……。まあ、仕方ない。また今度会った時に言えば良いさ。またご飯を食べに行くんだろう? なら、きっと会えるさ。」

 

狼狽するベルにヘスティアはそう言って励ます。

根拠はない。でもどこか腑に落ちるものがあったのか、その一言で落ち着きを取り戻す。

 

そして翌日、十分に休息を取ったベルは武具を纏い、迷宮(ダンジョン)に向かう。

 

「じゃあ、神様。僕はダンジョンに行きますね。」

 

「ああ、いってらっしゃい。ベル君。約束、忘れないでくれよ?」

 

「はい! 分かっていますよ、神様。行ってきます!」

 

そうしてベルは元気よく、本拠(ホーム)を出ていった。

それを見届けたヘスティアもまた、昨日の時点で見つけた目的のために進み始める。

自身が神々の宴に出席することと、数日間留守にすることを書置きを残し、身なりを整えて彼女もまた本拠(ホーム)を出ていく。

 

向かう先は【ガネーシャ・ファミリア】の本拠(ホーム)

目当ての神物は同郷の十二神の一柱。鍛冶を司る女神ヘファイストス。

 

 △▼△

 

一方でリタはベルを届けた後、本拠(ホーム)に戻っていた。

目的は愚者(フェルズ)からの依頼で迷宮(ダンジョン)の下層へ潜るため武具を取りに行くこと。

 

普段使っている安物の長剣ではなく、かつて扱っていた緋色の大剣を背負い、軽鎧と戦闘衣(バトルクロス)に袖を通す。自信の素性を隠すための仮面とフード付きのマントも忘れることなく装備している。

 

「……意外と何とかなりそうだな。」

 

準備運動代わりに自身の得物を振り回す。

通常、大剣を片手で振り回すなど不可能なはずだがこの男は軽々と振り回す。

しかもこの男は細身のハーフエルフという種族なのだから凄まじいものだ。

 

一頻り動かし、満足した彼は食料や薬品などを詰め込んだ背嚢を背負い迷宮(ダンジョン)へ向かう。

仲間など連れず、たった一人で。

 

依頼内容は『宝玉の回収』。異端児(ゼノス)が回収した闇派閥(イヴィルス)の計画の要を愚者(フェルズ)まで届けること。

 

 ▼△▼

 

「はあああっ!」

 

ベルが大剣を振るい、複数のゴブリンを両断する。

腕が振り切ったことを確認した他のゴブリンがその隙をつき、攻撃を仕掛けるも脚の速さを生かし、危なげなく回避する。

独特な戦闘スタイルだった。通常大剣使いは大剣の攻撃力と防御力を活かし、前衛で盾役(タンク)をこなす。攻撃を回避するのではなく、受け止め、相手のガードの上から圧倒的な威力を叩き込む。

 

しかし、ベルは今の戦闘のように軽快に動き回り、反応できない速度から凄まじい斬撃を繰り出すという戦い方をしていた。それも付け焼刃のお粗末なものではなく、努力に裏打ちされた堅実なものだった。

 

「シャアアアア!」

 

ゴブリンを殲滅し終えた後、ダンジョンリザードが天井から襲い掛かる。

先程まで戦っていたゴブリンの数は数十に届くほどで、単独(ソロ)では疲弊しているだろうと踏んでのことだった。

しかし、少年は先程と同じように攻撃を回避し、すれ違いざまに両断する。

 

全て僅か一瞬の出来事だった。

そして全てを終えたベルは武器を収め、魔石やドロップアイテムを回収しポーチへ詰め込んでいく。大量のモンスターを倒したことにより直ぐに一杯になる。

 

「今日はこれくらいでいいかな? ……本当は下の階層へ行きたいけど神様との約束があるし、エイナさんにも無茶するなって言われてるし……。」

 

ベルはそう呟きながら迷宮を上がっていく。

その呟きには焦りが含まれていた。無理や無茶をしないと約束したが、こればかりはどうにかなるものではなかった。

 

迷宮(ダンジョン)から出たベルは獲得した魔石やドロップアイテムを換金すべく管理機関(ギルド)へ向かう。

時間帯は夕刻ということもあり少し待つことになったが、問題なく換金を終える。

換金を終えたベルは攻略階層を増やしてもらうべくダメ元で頼むべく、ギルド職員へ声をかける。

 

「すみません。エイナさんはいらっしゃいますか?」

 

「エイナ・チュールですか? ……少しお待ちください。」

 

声をかけられたギルド職員は奥で作業をしていたベルの担当アドバイザーであるエイナ・チュールを呼び出す。

呼び出されたエイナはベルを連れて奥の相談ボックスにて彼から話を聞く。

 

「ベル君、どうしたの? 何か相談事かな?」

 

「はい、そろそろ攻略階層を増やしたい思ったのでその相談です。」

 

「攻略階層を増やしたい? ……ベル君。前に言わなかった? ゴブリンやコボルトで油断した初心者がウォーシャドウやキラーアントに殺されちゃうって? それにベル君、オラリオに来てまだ一週間しか経っていないんでしょう? 幾ら何でも早すぎると思うな。」

 

「う……。で、でも五階層なら無傷で切り抜けられるようになったんです。」

 

「五階層~~~!? ベル君、また無茶したんだね! 忘れちゃったの? 五階層で死にそうになったの忘れたの? それなのに五階層へ行ったの!?」

 

「ひいっ、ごめんなさい。ごめんなさい!」

 

エイナの雰囲気が変わり、蹴落とされたベルが夢中で謝罪をする。

それでもエイナの勢いは止まらず、ベルに詰め寄る。

 

「いい、ベル君! 君が五階層へ行けたのはあ・く・ま・で、運がいいからなの! いい、幾ら才能が有っても五階層に到達するには半月はかかるのよ! なら、冒険者歴一週間のベル君に行ける訳ないでしょう!? ……ベル君、君にはまだまだお勉強が必要みたいねッ!!」

 

「ごめんなさい、ごめんなさい! で、でもエイナさん、僕の能力値(アビリティ)凄く高くなったんですよ。もう最低でもD評価あるんですよ。」

 

ベルの言葉にエイナは思わず反応し、何か言おうとするが寸での所で言葉を喉の奥に抑える。

 

(一週間で最低D評価? あり得る訳ないじゃない……。でもベル君の様子からして嘘を言ってるようには見えないし……。もしかして神様が態と嘘の情報を知らせた?)

 

難しい顔を続けたエイナは一つ決めて居心地の悪そうなベルに声をかける。

 

「……ベル君、君の背中のステイタス、見せてもらってもいいかな?」

 

「え!? でもステイタスって一番ばらしちゃ駄目なんじゃ……。それにエイナさん、読めるんですか『神聖文字(ヒエログリフ)』?」

 

「うん、学生時代に総合神学を専攻してたからね。……それで、どう? 絶対に漏れないようにするし、誓う。君に絶対服従するよ。」

 

エイナの真剣な様子にベルは少し考える素振りを見せる。

そしてエイナの提案に頭を振る。

 

「分かりました、エイナさん。僕は……、脱ぎます!」

 

「言い方あっ!!」

 

ベルが顔を真っ赤にして宣言するが、エイナも頬を染める。

スペースのある部屋の隅で、ベルが直ぐに上半身の衣を脱ぎ、背中を露にする。

外見からは想像しにくい鍛えられた体に耳を赤くしながらエイナはステイタスの解読を始める。

 

(嘘……。本当に一週間で此処までになったの!?)

 

半分程ベルの言う通りではないかと思っていたが実際にそうであったのなら驚くのも無理のない話だった。

通常を明らかに逸脱した成長――否、飛躍とも言うべき其れの原因にエイナは一つ、予測を立てていた。

 

(ベル君はLv.1だから、レアスキルそれとも魔法? ……ちょっとだけなら、良いかな……?)

 

逸る好奇心を抑えきれず、エイナはゆっくりと視線を下ろしてゆく。

 

(あ、駄目だ。読めない。)

 

しかし、エイナは何故かスキルと魔法の欄を見ることは出来なかった。

これは万が一を考えたヘスティアによるプロテクトだが複雑怪奇な『神聖文字(ヒエログリフ)』の羅列を少し齧った程度のエイナには理解できるはずがなく、読めない理由をベルの主神特有の癖と認識する。

 

「エイナさん、もういいですか?」

 

ベルの声にハッとしたエイナは耳を揺らしながらベルに衣服を着るように告げる。

心の中で謝罪しながら、元々の目的について考える。

 

今のベルのステイタスの数値だけ見るなら十一階層や十二階層にも通じる。

しかし、今のベルの装備や心構え、状況を加味してエイナは一つの結論を下す。

 

「……どうでしたか?」

 

「うん、ベル君。確かに君の言う通りのアビリティだったね。九階層までなら許可を出すよ。」

 

「え、良いんですか!?」

 

エイナの答えにベルの顔色は喜色に染まる。

 

「うん、いいよ。今のベル君なら大丈夫だから。……でも十階層から下は駄目だからね! 分かってる?」

 

「はい、分かっています。確か、十階層からは『怪物の宴(モンスターパーティー)』っていう怪物(モンスター)の突発的な出現があるから単独(ソロ)では危険だから、でしたね。」

 

「うん、よく覚えてるねベル君。もう行っても大丈夫だよ。」

 

「はい! ありがとうございます! エイナさん、大好きです!」

 

「ちょ、ベル君!? 全く、もう……。」

 

ベルが部屋に出ていく時に残した爆弾でエイナが顔を耳まで真っ赤にしたのは言うまでもない。

 

 △▼△

 

「あ、そうだ。シルさんにバスケット返しに行かなくちゃ。」

 

管理機関(ギルド)を出たあたりでベルは給仕の少女から貰った弁当の存在を思い出す。

 

……別にベルは彼女のことが嫌いなわけではない。

唯、何というか、微妙だったのだ。それも、凄く。

料理の色がケミカルで味が得たいの知れないエゲつないものだっただけのなのだ。

因みに其れを思い出したベルの顔色は若干悪くなったが、まあ、些事であろう。

 

「あ、おミャーは白髪頭! シルに貢がせて、逃げていった食い逃げ野郎ニャー!」

 

店の前まで行くと猫人(キャットピープル)の給仕がベルを見るなり、大声で叫ぶ。

不名誉な呼び方をされたベルは当然動揺するが、更に酷いことにならないために弁明する。

 

「うぇええっ!? 違いますよ! 僕はシルさんに貢がせてなんていませんし、お金はリタさんが払ってくれましたから食い逃げ野郎じゃありません!」

 

「ニャ? そうなのかニャ?」

 

「そうですよ! 本当です!」

 

そんな感じの言い合いをしていると、店の中から薄鈍色の少女――シル・フローヴァが現れる。

シルはベルを瞳に映すや、その貌を喜色に染める。その光景は誰が見ても彼女は恋する乙女だった。

 

「あ、シルさん。お昼、ありがとうございました。」

 

「ベルさん! お昼食べてくれたんですか。味、どうでしたか?」

 

当然シルは弁当の味について尋ねるが、ベルは急にしどろもどろになる。

その様子を見て猫人(キャットピープル)の給仕は全てを理解したかのような顔をする。

この数日間、彼女の独創的な料理(げきぶつ)を摂取し続けてきたことは伊達ではないのだ。

 

因みにシルはそんなベルの態度である程度察していた。というか元々自覚はあった。

何なら第一級冒険者達をノックアウトした時からもしかして……?とか思ってたりする。

 

「じゃ、じゃあ失礼します! シルさん、お昼ありがとうございました!」

 

そう言って、ベルは駆けだす。

決して店の奥から怪しい気配を感じたとか、近くにいる猫人(キャットピープル)の給仕の目線に耐え切れなくなったとかそういう訳ではない。

 

 ▼△▼

 

「……ヘスティア、あんた何時までそうやっているつもり?」

 

鍛冶神ヘファイストスは『DOGEZA』を続ける自身の神友へ呆れの声をかける。

神の宴からずっとこうしているのだ。今日で丸二日になる。

 

「ヘファイストスが頷いてくれるまで。」

 

ヘスティアの返答にヘファイストスは溜息を漏らす。

天界から付き合いのある二人は当然、お互いがどういう性格の神物かを熟知している。

ヘスティアはこうなれば梃でも動かない。

 

「……ヘスティア、うち――【ヘファイストス・ファミリア】の武器が一体どれくらいかかるか知ってる? 数百万から数億ヴァリスよ。あんたが時間をかけてまで完済することは分かってる。でも眷属(こどもたち)の生活がかかってるの。」

 

「分かってる……! でも、ボクはベル君の助けになりたい…! 何もできないのは嫌なんだ!」

 

神は不変だ。老いることも劣化することは無い。しかし、それは同時に成長することもないということだ。

それが天界における彼等彼女等の常識。

 

だが、その常識は下界においては砕かれる。

誰かが言った。下界とは未知と神秘でできている。行く末など誰も分からない。

神々は変わった。

傍若無人な振る舞いを改めるもの、趣味を見つけ打ち込むもの、苦難に身をおき超克をこりかえすものと様々だった。

 

原因は論ずるまでもなかった。下界の住民(じんるい)だった。

生粋のトリックスターのロキも、頑固一徹職人気質なんてものじゃなかったヘファイストスも、変わった。

だからヘファイストスはヘスティアも変わろうとしていると理解した。

グータラで、面倒くさがりな女神はたった一人の眷属のために、できることの全てをすると誓い、その誓いを果たそうとしているのだ。

 

「……はあ、分かったわよ。」

 

ヘスティアのそんな様子を見て、ヘファイストスは根負けしたのか椅子から立ち上がる。

驚いたヘスティアは顔を上げる。そして顔を上げたヘスティアの瞳には槌を持つ鍛冶神の姿が映った。

 

「武器を打ってあげる。ただし、必ず借金は完済すること。分かった?」

 

 △▼△

 

真っ暗な部屋の中、一人の男が作業をしている。

明かりは手に持つランタンのみで作業をするには心許ない。

更には部屋は腐臭で満たされており、常人なら卒倒してしまう程だった。

しかし、男はそんな状況をまるで苦にもせず、黙々と作業を進める。

 

そうしているうちに一人の女がやって来た。

赤い髪と煽情的な服装をした女だった。

 

「マーダイン、手を貸せ。」

 

「おや、後輩。いきなりやって来てどうしましたか?」

 

「……『宝玉(たね)』を奪われた。犯人は分かっている。あの出来損ない共だ。」

 

「あららら、流石に不味いですね。丁度良い。手伝いましょう。……ああ、出来損ない共は無視しますよ。流石に面倒ですからね。確実に取り返しますよ。」

 

「……ちっ。分かっている。『迷宮の楽園(アンダーリゾート)』で仕掛ける。」

 

「なら陽動はこちらで。取り返せないようなら破壊して下さい。奪われる方が面倒くさいので。」

 

「……良いのか?」

 

「構いません。一つくらいなら直ぐに造れます。最悪似たようなもので誤魔化します。」

 

その言葉を最後に男と女の会話は終わり、女は暗闇から消えていく。

残ったのは腐臭と男だけだった。

男の作業は、終わらない。




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※追記 2023/3/28 スキルの名称を一部変更しました。
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