ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかif 白兎と雷花の残響・残香 作:青色のラピス
「【血に濡れよ、果て無き狂心】―――【バーサーク】」
静かに唱えられ、完成した呪文は確かにその効果を発揮した。
赤黒い魔力が彼の全身を覆い、その瞳からは完全に理性が喪失している。
全身を覆う魔力が筋肉を一回り膨張させ、理性を失ったことにより秘められた獣性が余すことなく解放されている。
見るからに、危険だった。
だが、それを嘲笑うのが白い男。
余裕綽々の態度を崩すことなく悠然と立ちはだかる。
「ふん、身体強化か? 態々、
しかし、その言葉が最後まで続くことは無い。
何故なら、凄まじい速度で突撃するバクガーに食人花諸共吹き飛ばされたからだ。
武器を使った一撃ですらない唯の
「き、貴様ぁあああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!」
自身のプライドを傷つけられたのか、激昂する男。
空中で上手いことバランスと取り、着地と同時に食人花に命令を下す。
「行け、
その命令を受け、無数の食人花が唸り、飛び掛かる。
男の命令によって凶悪性を増した怪物の群れ。
普通なら食い荒らされ、何も残らない。
―――そう、普通ならば。
「グゥウうウううウうおオオオおおオオおおおおおオオオオオオオおオオオおおおおおオオオおおおオオオおおおオオオおおおオオオおおおおおおッッッ!!!」
縦横無尽。
剛力豪快。
正にそう表現するしかない圧巻の攻勢に大量にいたはずの食人花は打倒されていく。
それどころか、食人花を殲滅し終えると勢いそのまま男へ襲い掛かる。
「クソッ……! 冒険者風情がぁ!!」
襲い掛かる狂戦士に向かって、十分な反動をつけて跳躍する男。
「ガああアアアアあアアアアああアアアああアアアアあああアアあああああああアアアッッッ!!!」
「うおおおおお―――ぐぶあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!?」
しかし、狂戦士の勢いには敵わず、大剣の腹で叩きのめされ、再び吹き飛ばされる。
吹き飛ばされ、壁に打ち付けられる男。
しかし中々にタフであり、ダメージなど見当たらない。
「おのれぇ……! 人間風情が私が本気を―――ごぶっ!?」
だが、今のバクガ―にとってタフなだけの相手は絶好のカモでしかない。
突き放たれた右の
吸い込まれるように男の顔面にぶつかり、兜に罅が入る。
いや、兜が衝撃を受けきれず男の素肌をしっかりと裂き、流血させている。
「いい加減に、しろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」
壁に身体を乗せ、両足で放たれる
流石に胴体へ喰らえば、如何な狂戦士でもどうしようもなく土埃と共に後退する。
だが、バクガーは怯むことなく大剣を構えなおし、再び爆走した。
「オおオオおおオおおオオオオおおおオオオおおおおオオおおおオオオおおおおオッッッ!!!」
「死ねええええええええええええええええええええええええええええええええええッッッ!!!」
振るわれた大剣。
それと同時に振るわれる男の鉄拳。
ならば当然、当たるのは大剣の方が先となる。
男の肉体を巻き込みながら抉り取る大剣。
袈裟に斬られ、血を流す男は誰の目から見ても絶命したと映るだろう。
しかし、男の身体を両断した狂戦士はそれでも満足しないのか、拳を握りしめ―――顔面に叩き込む。
凄まじい衝撃で空間が揺れ、骨で出来た武具はあっさりと崩壊する。
鼻っ柱をへし折られた男の顔面は陥没し、前歯もへし砕かれ、盛大に流血する。
そして醜い叫び声を発しながら、地面に叩きつけられる。
「ゥうウゥうウウうう……ッッ! ―――るグおおおオオオオオオオおおおオおおおオッッッ!!!」
地面に叩きつけられ、ピクリとも動かない男。
それでも理性を失った狂戦士が止まるはずがなく、手に握る大剣をひたすらに男の残骸に叩きつける。
「……どういう状況ですか、これ。」
「……流石にそろそろ止めるか。」
アスフィとバクガーだけではなく、【ヘルメス・ファミリア】の団員たちも、比較的見慣れている【アトラス・ファミリア】の団員たちもドン引きしていた。
何時ものようにハミルが『魔法』でバクガーを気絶させようとした瞬間のことだった。
「―――
壁から生えていた食人花が蠢き、蔓の一つが槍のようにバクガーへ突き刺さる。
腹を貫通し、臓物も傷ついている一撃に思わず喀血と共に後退する狂戦士。
それと同時に響くのは不愉快な男の声。
「……全く、だから無駄だと言っただろう。」
兜が砕けたことによりその素顔が明らかになっている。
そしてその顔が冒険者達の瞳に移った瞬間、思わず硬直する。
厳密に言えば七年前の『大抗争』を体験した者達全員が硬直している。
「……なぁーんで死人のお前が此処に居るんだ? ―――なあ【
「【
死んだはず。
そうアスフィが言葉を続けようとした所で男―――オリヴァス・アクトの嘲笑がそれを阻む。
「ふ、ふはははははははは!! 流石は神など言う愚蒙に与する愚か者達だ。しかし、教えてやろう。―――私は祝福を得たのだ。他ならぬ『彼女』からな!!」
そう叫ぶと胸に手をやり、そのまま肉を引き裂く。
引き裂かれた胸からは体内が露出している。
そして其処には極彩色に輝く魔石が備えられていた。
「そう、そして私は生まれ変わったのだ! 脆弱なヒトではなく、愚鈍なるモンスターでもないより高次の生命体―――
その場にいる誰もが絶句して、立ち尽くしている。
何に酔っているのかその反応に上機嫌なオリヴァスは更に畳みかける。
「だから、私は決意した! 『彼女』の望みを叶えてやろうと! この忌々しき都市を滅ぼしてやろうと!!」
「しょ、正気ですか!? この都市を滅ぼす、その意味を正しく理解しているのですか!?」
「理解? しているとも。そも、このような都市に一体どんな価値がある? 無価値ならば『彼女』の為に消し飛ばされても文句はあるまい。」
「―――【フレイム・オベリスク】!!」
オリヴァスの御高説が途切れた瞬間、ハミルの炎魔法が炸裂する。
大炎柱が立ち上がり、オリヴァスを飲み込む。
しかし―――
「……どうした? そんなに
―――オリヴァスの肌には火傷の一つもついてはいなかった。
流石に予想外の光景にハミルが慄く。
「おいおい……今まで三味線引いてやがったな?」
「……ふん。流石にあれだけの狂戦士の攻勢では無傷とはいかんよ。だから、お前達には勿体ないが切り札を切ることにしたのだ。」
オリヴァスがそう言うと、突如地面―――いや、階層が揺れる。
揺れは段々と大きくなり、
這い出て来たのは巨大な生物だった。
四本の巨大な脚と二つの大鋏を持つ悍ましい魔虫。
いや、それだけではない。
全身を甲殻で覆われ、その隙間からは触手を生やしている。
無数の顎を持つ獣頭を尻尾とし、しかし頭は持たない怪物。
「……ほう。聞いていたよりも頼りになりそうではないか。」
オリヴァスがそう呟き、
まるで食人花の触手のように下半身を変貌させると、その下半身を魔虫と
文字通り怪物と一体化したオリヴァスは魔虫の性質を受け継ぎ、甲殻を纏う。
ただ魔虫と異なり、小さく密度の高い甲殻は隙間が現れることを許さず、凄まじい防御力を実現している。
自身の力が溢れていくことを実感しながらオリヴァスは咆哮する。
「ふははははははは!! 見るがいい、虫けら共!! これが我が真の姿―――『グランドマスター・オリヴァス』だ!!」
『グランドマスター・オリヴァス』の姿形は言うまでも無いかもしれませんが『グランドマスターガンダム』でイメージすると分かりやすいかもしれません。