ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかif 白兎と雷花の残響・残香 作:青色のラピス
「……『グランドマスター・オリヴァス』だぁ? はッ! 何訳の分かんねー事言ってんだ【
「デカくなったのなら好都合! 副団長、あのデカい的ブチ抜いて下さい!」
「……あーもう。気持ちは分からんでもないけどさぁ……。そして分かってたけど俺頼みか……。」
血気盛んな若い団員が逸る。
それを受けて、ハミルは頭を抱えた。
(ふざけた名前だがどう考えてもアレはヤバいぞ。手抜きとはいえ、俺の『魔法』が通じん当たり生半可な攻撃力じゃ無効化されるのが関の山って所か?)
ハミルは考える。
自分達がすべき最善を掴むために必死に思考する。
(駄目だ。戦うにせよ逃げるにせよ戦力が足りない。今のバクガーは戦力外だし……。せめて【剣姫】が居ればまだマシになったものを……。)
「……さて、お遊びは終わりだ。全員この場で死ぬが良い。」
オリヴァスがそう言うと同時に、食人花が吠え、襲い掛かる。
一度殲滅したはずだが、まだまだ隠し持っていた戦力を開放したのだ。
それだけではない。緑肉に作用させ、食人花の生成を加速させ、生まれたばかりの個体もけしかけたのだ。
「クソったれが。ゼド、君が中心になって攻撃を防げ! 【
「引っ掻き回せって……。まあ、できなくはないですが。」
そう言うとアスフィは
何の気兼ねも無く、強く跳躍しただけのはずだが確かに上空に位置している。
『
羽の意匠が施されたサンダル。
しかし、これは唯のサンダルではない。
都市随一の
人類の通常手段では到達できない空。
其処への到達を許す、特級の魔道具。
【
しかし驚愕を終えるにはまだ早かった。
彼女は腰のホルスターから幾つかの試験管を取り出し、投擲する。
勢いよく投げられた試験官は、怪物たちにぶつかると同時に割れて、その中身をぶちまける。
液体をかけられた程度で怪物たちは怯みはしない。
空中にいる哀れな獲物目掛けてその牙を突き立てんとし―――
―――炎上した。
思わぬ攻撃に身を捩り、悶える食人花たち。
その様子に一瞥をくれると更に高度へ飛翔するアスフィ。
「ふん! 羽虫如きがッ!!」
しかしオリヴァスの余裕は崩れない。
全身から生やした触手を伸ばし、アスフィに襲い掛かる。
しかし空を飛ぶアスフィはヒラリヒラリとそれを躱していく。
だがその顔は余裕という訳ではない。
よく見れば攻撃の回避も紙一重であり、今にも倒れても不思議ではない程だった。
「―――んなもん、予想範囲内だ。幾ら【
冷静な分析と共に魔法陣を展開するのはハミル。
超弩級とも言える魔力を迸らせ、巨大な魔方陣でそれを何倍にも引き上げる。
「【約定に従え、大地の風】【儚き
圧縮された空気が塊となってオリヴァスを襲う。
第一級冒険者の火力は凄まじく、例え『深層』のモンスターであっても一撃で粉砕できるであろう威力だ。
アスフィに気を取られたオリヴァスが気が付いた時には既に遅かった。
『魔法』がオリヴァスの首へ牙を突き立てたことを確認するとハミルは溜息一つを吐く。
直撃すれば『階層主』でもタダでは済まないことは実証済みであり、後は止めだけだと気を引き締める。
盛大な火柱で消し炭一つ残さず消し去ってやろうかと考えながら一つの違和感を感じた。
(結構あっさりと上手くいったな……。そーいえば、食人花は『魔力』に反応する。それと似たようなものに成り下がった【
しかし、その違和感を最後まで突き止めることはできなかった。
「がふっ……!?」
―――何処からか伸びた細い触手によってわき腹を貫かれていたからだ。
「【
血を吐いて倒れるハミルを見て動揺するアスフィ。
触手の伸びた元を見ると、ハミルの立つ足元だった。
不気味に蠢く緑肉から触手が伸び、第一級冒険者を喰い破っていたのだ。
「な、地面から!?」
「嘘だろ、こっちからも生えてきたぞ!」
次々と発生していく動揺。
柱とも言える第一級冒険者が次々と倒れたことから生まれていたものはこの異常で顕在化した。
そして更にそれを煽る存在が立ち上がる。
「無様なものだな、冒険者。」
「【
巨体を揺らしながら再び立ち上がるオリヴァス・アクト。
風塊を受けて、表面の甲殻は破壊されていたが再生し、何事も無いように聳え立っている。
その圧倒的な存在感は手練れの冒険者でも思わずしり込みしてしまう程だった。
更にオリヴァスの復活に連なって食人花が活性化する。
「何だよ、何で来ないんだよ!?」
「おい、どうしたんだよ! ルルネ!?」
極限状態に弾けたのかルルネが突如叫ぶ。
手には砕けた水晶片が握られている。
此処に来るまでに使ったのか小さく、数が多かった。
「
【剣姫】という言葉を思い出し、冒険者達の顔に活力が戻る。
【ロキ・ファミリア】のLv.6。現在におけるオラリオの最強戦力の一角。
彼女ならばこの事態をどうにかできるはずだろうと全員が瞳に希望を宿す。
「―――【剣姫】は、こない。」
しかし、男の重い言葉が狭い空間に走る。
静かに、されど絶対的に男は宣言する。
冒険者の全てを踏みにじる様に、叫ぶ。
「【剣姫】は来ることは無い! お前達全員は此処で虚しく死ぬだけだ!!」
その言葉にルルネの顔が歪む。
ルルネだけではない。【アトラス・ファミリア】の冒険者も、地面に倒れる第一級冒険者も、空中で苦戦するアスフィも。
皆、等しく顔を歪めていた。
「―――そうだな、オリヴァス・アクト。このままじゃあ、ちょいとばかし分が悪そうだ。」
だが一人だけあっけあかんとそう言った男がいた。
脇腹を赤で滲ませた兜で顔を隠している戦士―――バクガーだ。
気絶から回復したのか、のそのそと歩きながら、それでも肩に大剣を置いて戦意はそのままにそう言った。
他の冒険者と違う様子にオリヴァスはほうと頷くと上機嫌そうにする。
「どうやら現実を知ったらしい。賢いヤツだ。業突く張りの
「ああ、でも何故勝った風にしている? 俺は負けるつもりはないぞ。お前を殺して地上に帰らせてもらう。」
だが決してそれは自棄でもなければ勝負を放棄したわけでもなかった。
彼は諦め悪く、抗うつもりなのだ。
「……勝てない者に負けるつもりはない、だと? やはり畜生は畜生か。妄想と現実の区別がついていないな、
オリヴァスが手を上げ、食人花の顎が開かれる。
無数の食人花が鎌首をもたげ、今にも襲い掛かりそうだ。
誰もが何をしているのだと驚愕する中、バクガーは堂々と立っている。
「オリヴァス・アクト。お前こそ現実を直視、いや正しく認識できていないんじゃないのか? 戦線離脱していたお荷物がこうやってお前を煽っている。それを死にそうになって自棄を起こしたと都合の良い解釈をしているのはお前の方なんじゃないか?」
「何を、言っている?」
「別に……だが、成程。お前のお
その台詞にオリヴァスの顔が真っ赤に染まる。
臨戦態勢になっている食人花に命令を下そうとする。
無論、目標はバクガーだ。その生意気な口をこの物量で塞いでしまおうと考えたのだ。
だが、それをする前に一つの異変に気が付いた。
ドガンという大音が鳴った。
魔法か重武器でも使ったのかという重苦しい破壊音だった。
音をなった方を見てみれば緑肉の壁に大穴が開いていた。
破壊によって生まれた煙が収まっていくにつれてその奥にいる人物が露になっていく。
「【ロキ・ファミリア】、だと!?」
オリヴァスが驚愕する。
オリヴァスだけではない。その場にいる冒険者達も同じように驚いている。
獰猛さを隠すことない
彼等の視界に入った冒険者の正体だった。