ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかif 白兎と雷花の残響・残香   作:青色のラピス

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大スランプで中々続きが書けません……。
書きたいことはあるのに筆は動かない……うごごごご。

ゼウスにヘラの冒険者達、このままいけば全員出すのに何年かかるやら……。


第二十三話 vsレヴィス

時は少し遡る。

 

【剣姫】―――アイズが分断された時の頃だ。

分断された少女はゆっくりと進む。

その足取りは確かで、この先に何かがあると確信しているが故だった。

そしてその先には確かに在った。

 

赤い女だった。

髪も衣服も赤かった。

着ている服はとても煽情的で娼婦かと見紛っていただろう。

 

しかし異変の起こる階層。

そして女から発せられる異様な邪気から只者ではないのは明白だった。

 

女はアイズをじっと見つめると納得したような顔で口を開いた。

 

「……成程。遂にボケたかと思ったが。真実(ほんとう)だったか。お前が『アリア』なんだな。」

 

「……貴方もアリアを知っているの?」

 

そうアイズに言われた女は忌まわしそうに顔を歪めて言い放った。

 

「ああ、良く知っている。うざったらしい声に散々聞かされてきたからな。」

 

「ここを作ったのは貴方? 何を企んでいるの?」

 

「知る必要はない。お前は私と一緒に来るんだ。『アリア』―――お前に会いたがっている奴がいる。」

 

そう言って近づく女。

しかしアイズがついていく訳にはいかないのだ。

アイズには帰る場所と、仲間がいるからだ。

愛剣を鞘から抜き、鞘を地面に落とす。言うまでもないが拒絶だ。

 

しかし女はそんなことは織り込み済みだといわんばかりに武装する。

不愉快な感触の緑肉から一振りの大剣を抜いた。

怪しい魔力を放つその一振りは間違いなく尋常ではなく、それを涼しい顔で振るう女も間違いなく普通ではない。

間違いなく難敵だろうとアイズは気を引き締める。

 

「嫌、それに私は『アリア』じゃない。『アリア』は私のお母さん。」

 

「ふん、どうでも良い。お前が何であろうと、私達にとってお前は『アリア』なんだから。」

 

その瞬間、女が消えた。

いや、凄まじい踏み込みで消えたように見えただけだ。

実際にアイズはそれを目に捕らえ、大剣を打ち返している。

大剣を打ち返された女は一歩下がると再び剣戟を挑む。

 

しかしその剣戟は全て弾き返され、一発もアイズを傷つけることはできない。

そうやって戦っていると女は顔を顰めながら呟いた。

 

「そうか、『ステイタス』を昇華させたか。老害竜(マーダイン)め、負けず嫌いに燃料を与えたな。……面倒だ。」

 

剣戟を諦め、女はアイズから距離を取る。

身体を深く沈め、大剣を肩に担ぐ女。

脚に力を込め、後退した反動を利用する。

 

「生きているなら、それでいい。手足の一本や二本構うものか。」

 

そして、まるで弾丸のように女は突撃する。

 

(防御を……捨てた?)

 

アイズが見破った通り、女の突撃は防御を捨てていた。

しかし、唯捨てただけではない。

確実にアイズを倒すという意思をひしひしと感じる。

 

しかし迫る脅威に対してアイズの心中は凪いでいた。

水面に波は一つも起こっておらず、動揺など何処にも無かった。

 

―――何故ならアイズは女のことを脅威だなんて一欠片も思っていないからだ。

 

もっと言うなら、眼前の存在を鼻歌交じりで蹴散らせねば彼女の悲願は達成できないのだ。

だから彼女は昇華を果たした。

古くなった皮を脱ぎ捨て、新たな次元に立ったのだ。

 

「―――何!?」

 

その証拠に女は初めてその表情を少しだけだが動かした。

アイズの圧倒的な技量に驚愕したのだ。

細い剣一本で完全に女の剛力を流してみせた、その腕前に。

 

「……『魔法』を使わずにか。」

 

そう。更に驚くべきことだが今の攻撃をアイズは使わずに凌いだ。

アイズの魔法―――【エアリアル】は最強の付与魔法(エンチャント)だ。

消費コストに詠唱、威力に持続性とどれをとっても最高峰であり、アイズ・ヴァレンシュタインという剣士の切り札にしてもう一つの愛剣とも言える存在であった。

 

昇華(ランクアップ)から敢えてこの使い勝手の良い切り札を封印している。

これは連日の苦戦を鑑みて、もう一度己の『技と駆け引き』を鍛えなおすためだ。

強すぎる『魔法』は却って彼女の成長の妨げになっていたのだ。

 

―――しかし、それは女にとって面白い話ではなかった。

 

実際、今まで無表情で能面みたいだった女は初めて誰が見ても分かるほどはっきりと表情を動かした。

自分が格下だと思っていた少女に見下ろされる。

それは凄まじいまでの屈辱だった。

 

「ああ、ああ。本当に……面倒だ!」

 

握る剣に罅が入るほどの力が走る。

そしてその力に劣らない程の怒りを乗せて女はアイズに斬りかかる。

アイズは涼しい顔で剣戟に応じるのだった。

そしてその表情は女の苛立ちと危機感を加速させるのには十分すぎる程であった。

 

 △▼△

 

「【ヒュゼレイド・ファーラリカ】!!」

 

無数の火矢が無数の食人花を焼き尽くしていく。

それを執行したのはLv.3とはいえ20にも満たないエルフの小娘であった。

その様子を見て、魔導師たちはその凄まじさに下を巻いた。

中にはレフィーヤよりもレベルが上の者もいた。

 

「……(ドラゴン)かよ。」

 

「魔力馬鹿、魔力馬鹿とは聞いていたが……ここまでとは。」

 

上級冒険者でも手を焼く食人花のモンスターが駆逐されていく。

そして足の踏み場を確保した彼等は空いた穴から飛び降り、倒れている冒険者に近づく狼青年ことベート・ローガ。

 

「おい、アイズは何処だ?」

 

そう言って冒険者に問いかけるベート。

しかし普段の行いというか彼自身に付いて回る風評のせいか誰も目を合わせようとしない。

それどころか、誰もが距離を置こうとそそくさと離れているくらいだ。

 

「【剣姫】とは分断されている。彼女がどうなっているのかは分からない。」

 

「……おい、テメエは誰だ?」

 

「【アトラス】の団長をやっているバクガー・アウルスだ。」

 

「ちっ、使えねえな。」

 

ベートの悪態。

失礼極まりない行為だが、バクガーは気にした素振りを見せない。

そしてバクガーはそれを咎めることをせず、オリヴァスを指さす。

 

「そうか、しかし。あのデカブツをどうにかしなければ話が先に進まない。悪いが手伝ってもらうぞ。」

 

「……手伝うもなにも、あいつの視線見たら逃げられないわよ。―――それに随分と懐かしい顔じゃない、アレ。」

 

バクガーの言葉にそんな台詞を返したのはマリナ・アルクリウス。

ベートやフィルヴィスと共にこの階層にやって来た彼女はオリヴァスへ凄まじいまでの目つきで睨んでいた。

マリナだけではない。

魔法剣士のフィルヴィスもだ。

 

「……面倒くせえが付き合ってやる。おら、剣寄越しやがれ。」

 

そう言うと近くにいた冒険者が自身の剣をベートに渡す。

ベートが渡された剣を装備したと同時に、残っていた食人花が襲い掛かる。

 

迎撃しようとするベート等。

しかし周囲の冒険者が一足早く食人花に立ち向かう。

どちらのファミリア問わずに武器を取り、走っていた。

皆、どうすれば生き残れるかを本能的に理解しているのだ。

 

「雑魚はこっちでどうにかする! しっかりやれよ、【凶狼(ヴァナルガナント)】!!」

 

「うるせえ!」

 

冒険者に悪態を返す狼青年。

そしてその悪態以上の苛烈さをもって、オリヴァスへ進んでいく。

 

「死ね。」

 

「来るか。」

 

底冷えするような冷たい声と共に放たれる剣戟。

狙うのは頭部、即ち一撃必殺。

常に全力全霊で狼は獲物に喰らい付くのだから。

 

キンッと甲高い音が響く。

硬いものと硬いものがぶつかった時によく鳴る音だ。

つまり、それは狼の牙は魔人の甲殻に阻まれた証左であった。

 

「な!?」

 

「弱い……憐れんでしまう程に!」

 

魔人の触手が狼青年に喰らい付く。

防ごうにも無数にある触手は狼青年の手数を完全に超えている。

都市最大派閥(ロキ・ファミリア)最速の冒険者であっても純粋な数の暴力はどうにもできず、地面に倒れた狂戦士(バクガー)と同じ結果を晒す。

 

「ハハハ!! 都市最大の冒険者でもこの程度! やはり私は選ばれたのだ!」

 

誰も聞いてない中、男は声を上げる。

邪悪な笑い声と共に己の心中を打ち明ける。

 

「そうだ、私だ! 私だけが、『彼女』の願いをかなえることができる! 最早レヴィスも、マーダインも必要ない!」

 

「……願い、だと?」

 

「ああ、そうだ。願いだ。この『迷宮(ダンジョン)』の地下深くに封じられ、純粋にも青空を望む『彼女』の細やかな願いだ! だから私はこの都市を滅ぼす! 『大穴』を塞ぐ蓋の役割を持つこのオラリオを!!」

 

「そんなこと―――!」

 

「できない、させないとでも? この状況を見て、同じことを言えるのか?」

 

そう言うオリヴァスは片手間で第一級冒険者達をあしらっていた。

狼青年(ベート)の牙も、狂戦士(バクガー)の剣も、魔導師(ハミル)の魔法も全て決定打になり得ることなく叩き落されている。

アスフィとマリナという第二級冒険者が援護に回っているが、それでも届いていない。

その様子を見て、冒険者達の表情に苦いものが走る。

 

狂人(オリヴァス)の台詞は決してホラや流言の類ではないということを。

このオラリオを大真面目に崩壊させようとする勢力がいるという証拠であるということを。

 

そしてそんな台詞に平常心を保てない存在がいた。

誰よりも高潔で、同時に潔癖であるエルフ―――フィルヴォスだった。

挨拶代わりに魔法を叩きつけると己の心中に秘めた激情を解き放つ。

 

「お前は、お前は! あれだけの惨状を引き起こし、まだ足りないというのか!?」

 

「……? あ、ああ! もしかするとあの時にいたのか、小娘? だが、当時は私は神という愚物に目を眩まされていた。お前達も私も、お互いにの柵から解放されたということで水に流さないか?」

 

「お前は――――――! もういい、消えろ! 【一掃せよ、破邪の聖杖(いかづち)】―――【ディオ・テュルソス】!!」

 

何処までも自分勝手なオリヴァスの言葉。

余りの怒りに目を見開き、溢れる感情に呼応して荒々しく詠唱を唱える。

そして放たれる魔法はまるでフィルヴィスの感情を写し取ったかのようであった。

 

だが、悲しいかな。

それだけの激情、悲劇を背負おうとも彼女はLv.3、第二級冒険者でしかない。

第一級冒険者の魔導師であるハミルの魔法でさえ、傷つけられないのに彼女の魔法がどうにかできるはずがない。

本来なら下層程度の怪物(モンスター)を詠唱通り一掃できる魔法であっても恍惚の表情をする魔人には何の痛痒も与えない。

 

「―――何か、したのか?」

 

「――――――ッ!!」

 

余裕を崩さない魔人に表情を歪める少女。

しかし狂人は冒険者達の相手に飽きてきたのか、何処か暇そうだった。

 

「ふむ……しかし此処まで弱いと一々私が相手どる必要もないな。―――だから押しつぶせ、巨大花(ヴィクスム)!」

 

その瞬間、地響きがした。

地震でも起きたのかという程の揺れが起こった。

勘の良い、第六感すら研ぎ澄まされた精鋭達が瞬時に何が起こるのかを把握した。

いや、精鋭でなくとも理解できる程の圧倒的な暴力の前兆を感じ取った。

 

顔が引き攣る。最悪の予測に身を凍らせた。

後先を考えることなく、絶叫する。

 

「「「全員、逃げろォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」

 

―――一拍。僅か一拍後に轟音が鳴り響く。

 

荒れ狂う超巨大のモンスターは身をよじるだけで破壊を巻き起こす。

この食糧庫(パントリー)の柱に匹敵する巨体では当然のことだった。

同胞(モンスター)に冒険者関係なく暴れ狂うモンスターは、緑肉に包まれた壁へ身を打ち付ける。

その衝撃で緑肉が剝げ落ち、その下にある岩壁が露になる。

そしてその岩壁が衝撃の勢いで罅割れ、崩れていく。

 

岩石の雨が降った。

小粒、大粒を問わない質量の雨は生命という生命を蹂躙していく。

 

「ふん、他愛もない。」

 

恐れ惑う冒険者達を尻目に狂人は鼻を鳴らす。

倒れ、逃げ惑う冒険者達を見下ろしながらどう甚振ろうか思案していた。

邪悪と狡知しか取り柄のない暴力者は与えられた偽りの全能感に支配され、常日頃抑制されていた嗜虐心を開放している。

 

因みにだが、オリヴァス・アクトが与えられたのは純粋な暴力だけではない。

起源を同一とし下位に位置するモンスターの支配権。

圧倒的な性能を持つ肉体維持のためのエネルギー補給方法と最大限の効率を約束された身体機構。

効率よく外敵を排除し、目的を達成するための感知能力及び第六感。

 

特に元来有していた人間離れした感覚と合わさり、自身の先達とも言えるレヴィスを凌駕するものになっていた。

そんな感覚が警鐘を鳴らした。

オリヴァスが怪人(クリーチャー)になってから初めてであるほどの強さだった。

 

「……何だ? まさか、まだ冒険者の援軍がいるのか?」

 

思考するも答えは出ず、いや答えを出す前に正答が彼の前に落ちてきたのだ。

 

分厚い岩盤が崩れ、一人の女が落ちる。

赤い女だった。

髪の色も、煽情的な服も赤いオリヴァスの同胞の女だった。

 

「な……レヴィス!?」

 

落ちてきた人物を捉えたオリヴァスは思わず、落ちてくる前に空いた穴を見上げる。

そこには悠然と立ち、オリヴァス達を見下ろしている金色の少女―――【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインの姿があった。

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