ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかif 白兎と雷花の残響・残香   作:青色のラピス

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第二十五話 魂の輝き

アイズ達の二十七階層への冒険の後は余り語るようなことは無い。

参加した『ファミリア』は何れも大怪我はあれど死者はいなかった。

報酬も過不足なく支払われ、それぞれの秘密を漏らさないという約束を定め、それぞれの日常に戻って行った。

 

しかし全く影響がなかった訳では無い。

怪人(クリーチャー)の暗躍に、挑発。

死人(オリヴァス)の復活とその目的。

それを知った創設神(ウラノス)旅神(ヘルメス)勇者(フィン)の思考は巡り、それぞれの思惑を作り上げる。

そして更なる強さを渇望する剣姫(アイズ)

純粋さを失っていない少女の心は、己の悲願(ねがい)に対して何処までも妥協できないからだ。

その他にも力不足を感じ入り、力を求める者は多く生まれた。

 

だがそれを語るのは次の物語が適切だろう。

この冒険を以て、オラリオ破滅の針は一歩進んだのだから。

なれば物語は加速し、更なる舞台を演者に提供するのだ。

 

 △▼△

 

ベル・クラネルは順調だった。

サポーターとの仲直りを成功させ、薬師との絆を深めるなどの関係強化。

主神曰く成長期によるステイタスの飛躍。

誰がどう見ても順風満帆な生活を送っていた。

 

しかし少年の心中は焦燥に焦がれていた。

己の原点とも言える『誓い』に、新しく生まれた『憧れ』。

強くなることで近づけるとオラリオにて精進を続けているが、彼にその実感はない。

 

強くなった実感がない。

成長を感じる余念がない。

己の主神やサポーター、アドバイザーは強くなったと言ってくれているが実感がないだけに少年は焦っていた。

そして更に追い打ちをかける出来事があった。

 

―――【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインの『ランクアップ』だった。

 

この『ランクアップ』で彼女のレベルは6になり、ただでさえ高かった壁は更に高くなってしまった。

そして一方で自分の変化は特に何もない。

そう、変化がない。

ベル・クラネル自体は何も変わっていない。

 

だから少年は恐れている。

自分がこのまま向上することなく、現状維持と錯覚し、堕落していくことを。

自分の『才能』の無さは十全に理解している。

この降って降りてきた成長期の中でいかに自分自身を高めていくかの重要性を心の底から理解しているのだ。

 

だが何を具体的にすればいいのか分からず、足踏みをしていた。

そんな折に少年は一人の人物と再会した。

青い髪を揺らし、仮面で素顔を隠した半身を失った半妖精(ハーフエルフ)に。

 

 ▼△▼

 

珍しく小人族(パルゥム)の少女との探索がない日。

主神からも休養を取る様に言われ、奉仕活動もなく、滅多にない完全休養日。

主神であるヘスティアはバイトであるため暇を持て余した少年は用も無いのに『ギルド』にまでやって来ていた。

 

冒険者であるなら切っても切り離させない、都市行政の要。

冒険者依頼(クエスト)』も妖精の試練(フェアリーブレイク)にも用が無いのに自然と動く足取りに寄せられたのだ。

入ることも進むこともせずにぼうっと建物を眺めていると、ふと後ろから久しい声が聞こえた。

 

「ん? ああ、ベルじゃないか。武装してないのに『ギルド』に来てどうしたんだい?」

 

「……リタさん?」

 

「おう、リタさんだぜ。」

 

振り向いた先には青髪の半妖精(ハーフエルフ)―――リタがいた。

彼自身もオフなのか冒険者でありながら一切の武装をしていないラフなものだった。

新しく得たのか赤緋をで彩られた義肢は鮮やかで、少年の知識にある『銀の腕(アガートラム)』とは比較できない程だ。

動きも滑らかであり、性能も十分であり、美しさと性能を両立した逸品であることが素人の少年にも見て取れた。

 

「……うん。なあ、今暇かい?」

 

「え……。はい、大丈夫ですけど……。」

 

リタはその台詞によしと頷くと、少年を手招きする。

何の事か分からないが、手招きに応じて少年は近寄っていく。

そして近寄って来た少年を男は捕まえると、一気に跳躍した。

 

「え、え、え~~~!?」

 

「口閉じてろよ、舌噛むぜ。」

 

屋根から屋根へ。

上級冒険者の身体能力(スペック)を遺憾なく発揮することで常人には不可能な機動を見せる。

少年へのものとは違い、周囲への気配りも完璧だ。

着地する場所は頑丈な建物に限定し、仮に無かった時は人気のない場所に降りていた。

そしてオラリオを包む市壁の近くまで辿り着くと、より一層脚に力を込め、跳躍する。

 

「ほい、到着。」

 

途中、届かないかもと少年は思ったが男は落ちることなく、何ならそのまま市壁を駆け抜けてその上に到着した。

少年が余りの出来事の連続に目を回していると男は腰を下ろした。

少年も取り合えず男に習い、市壁の上に座り込む。

 

「……あの、一体どうしてこんな場所に……。」

 

最初に口を開いたのはベルからだった。

いきなり連れ去られ、市壁の上にまで来てしまった少年はおずおずと男の真意を測る。

仮面で素顔を隠す男の表情は見えず、感情を探ることは叶わない。

男との関係がまだ数か月しかない少年では彼の事を深く知らないがために、余計分からない。

 

そんな訳で少年に問われた男はふむと一息置いてから、少年の深紅(ルベライト)を見据える。

 

「まあ、勘なんだが……君、何か焦ってないか?」

 

その言葉に少年はドキリとする。

心臓が跳ね、鼓動の速度が上がる。

自分の隠したいものが、暴かれて思わず動揺しているのだ。

その様子を見て確信を得た男は溜息を一つ吐くと、少年に一つの提案をした。

 

「―――ベル、君が良ければだけど……俺と一緒に訓練しないかい?」

 

その提案が少年にとって思ってもいない提案だった。

重ねることになるがベルはリタを詳しくは知らない。

しかし、普段の身のこなしや市壁への駆け上がり方は下級冒険者のそれではないことは明白だった。

少なくともLv.3……もしかすればLv.4。第二級冒険者は確実なほどの実力は確かだと少年は確信していた。

 

朝日がまだその全てを表さない程の早朝。

少年と男が向かい合う。

お互いに武装しており、少年は軽鎧にナイフ、片手剣(ショートソード)小円盾(ライトバックラー)を。

一方で男は金属鎧(メタルアーマー)に鈍い輝きを放つ大剣だった。

 

「昼からの探索もあるし、さっさとやろうか、ベル。」

 

「はい! ……所で、訓練って言いましたけど、何をするんですか?」

 

「ああ、いい質問だ、少年。先ずは素振り! ……と言いたい所だが、今日は違うことから始めよう。」

 

そう言って男は大剣を構える。

いきなり武器を構えた男に驚きながらも反射で少年も武器を構えた。

 

「―――模擬戦だ。君の実力をこの目で確かめさせてもらうぜ。」

 

 △▼△

 

男は台詞を終えると同時に、踏み込み、大剣を持ちあげる。

肩に背負うような態勢になった男はそのまま大剣を振り下ろす。

ベル・クラネルは誤認していたが彼の本来のLv.は6。

れっきとした第一級冒険者であり、大剣を主兵装(メインウェポン)にするだけあって凄まじい剛力を誇る。

そのため本気の一撃を振るえば少年は無論、この市壁さえ砕いてしまいかねない。

 

だから相当気を使った。速度を落とし、大剣を地面に着弾させない等の必要以上の気を回した。

だがその行為はそれだけ余裕を失うことと同義だった。

『英雄』を目指し、二人の『英雄』の薫陶を受けた少年では辛うじてではあるが対処できるくらいには。

 

「はあッ!」

 

少年が大振りを避ける。

側面にズレた少年はそのまま流れるようにナイフを男に突き刺す。

だが流石は歴戦の冒険者。

片腕を動かし、ナイフを防ぐ。続けざまに振るわれる剣戟も大剣を戻し、剣の腹で防ぐ。

 

「初撃を防いだか……やっぱり分かっていたが、流石はアルフィアの義息だな。」

 

そしてリタは鍔迫り合いになったいた現状を無理矢理力づくで終わらせると力任せの攻めではなく、速さと器用さに比重を傾ける。

流石にこの戦闘形態(バトルスタイル)は少年にも予想外であり、少しづつ被弾が増えていく。

しかも経験豊富な冒険者であるリタは一撃で仕留めることはせずに着実にダメージを累積させている。

 

「―――此処まで、かな。」

 

「は、はい……。」

 

リタの大剣が少年の首筋に当てられる。

ベルは僅か十分にも満たない戦いであるのに息も絶え絶えで、格好もボロボロだった。

一方でリタは傷一つなく、体力もまだまだでありまるで対照的な様子だった。

 

「んー……。ベル、昨日も言ったけど焦ってるだろ。戦い方もそれが出ている。」

 

「よく分かりますね……。」

 

「これでも『ランクアップ』した上級冒険者だし、五十越えてるんだ。立派なベテランだぜ?」

 

「―――え?」

 

「え?」

 

少年の本気の困惑。

しかし確かに男の外見は若々しい。

肌艶も良く、声もエネルギーに溢れている。

知識の無い者が見れば外見に騙されることは明白だろう。

 

「ん、あ~……もしかしてだけど『恩恵』について深く知らないのかな?」

 

「えぇっと……すみません。よく知らないです……。」

 

「まあ、神と縁の無かった君じゃあ知らないのは無理ないさ。」

 

そう言って柔らかく笑う男。

微笑ましさを与えられた男はそのままゆっくりと説明を始める。

 

「君も俺も背中に宿している『神の恩恵(ファルナ)』は全て同じもの―――つまり、どの神から与えられても効果に変化のない促進剤だ。そしてこの主たる効果の他に副次効果で全盛期の延長、つまりは老化防止の効果があるんだ。」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「ああ、本当だ。俺が半妖精(ハーフエルフ)だから分かりにくいから……そうさな、【勇者(ブレイバー)】は知ってるかい?」

 

「あ、はい。【ロキ・ファミリア】団長の小人族(パルゥム)の人ですよね。」

 

少年は一人の男を思い浮かべる。

現在のオラリオにおいて【勇者(ブレイバー)】の名声は絶大だ。

金髪碧眼でベルよりも小柄な美少年。小人族(パルゥム)という最弱種族でありながらLv.6という第一級冒険者である。

更に【九魔姫(ナインヘル)】を始めとする傑物を率いる程の魅力(カリスマ)と智謀を持っている。

 

そして肝心の外見だが小人族(パルゥム)ということもあり、ヒューマンの子供と同じような外見をしているとベルは認識していた。

体躯の程はサポーターの種族と同じこともあり、簡単に想像できた。

そして子供と同じことからかなり若々しいことも容易に想像した。

 

「ああ、そのチビ助……いや、【勇者(ブレイバー)】だがな。何と吃驚(びっくり)、もう四十を超えた立派なオッサンだ。」

 

「え!?」

 

少年は本日二回目の驚愕。

話の流れから年を取っていることは明白だったが、まさかの年齢だった。

 

「ははは、驚いたか。まあ、普通は驚くわな。」

 

そう言ってカラカラ笑う男。

その笑いに釣られ、ベルも少し顔を綻ばせる。

場の空気が少し緩むことを確認した男は空気を一変させ、真面目な顔で少年に向かう。

 

「さて、少し脱線しちゃったな。で、ベル。どうして君は焦っているんだい?」

 

男の問いかけ。

それに対してベルは顔を下に俯いてしまう。

少しの間、言葉に詰まり、ゆっくりと己の心中を吐露する。

 

「……アイズさんがLv.6になったんです。」

 

「ああ、そう言えばそんな事があったな。『階層主』を単独で撃破して見事昇華を果たしたと。」

 

アイズ・ヴァレンシュタインのランクアップは劇的であった。

階層の支配者にして、多くのモンスターを従える巨大なる魔物。

『遠征』をする『ファミリア』が集団で倒すのが定石(セオリー)とされている程だ。

 

ダンジョンは複数の層域に分類される。

下級冒険者が潜る『上層』。上級冒険者が戦う『中層』。経験を積んだ上級冒険者、それも第二級冒険者が『遠征』する『下層』。そして都市随一の『ファミリア』が挑む、別世界たる『深層』。

下へ降りれば降りる程モンスターの力を増し、魔窟の悪意は増していく。

それは『階層主』―――『迷宮の孤王(モンスターレックス)』も例外ではない。

故に当然、『深層』の『階層主』を単独で撃破したという事実は紛れもない『偉業』であった。

 

「でも、僕は何も変わってなくて……アイズさんに追いつくって決めたのに、『英雄』になるって決めたのに、お義母さん達が背中を押してくれたのに何も変わってなくて……。」

 

「でも、何をしたらいいのか分からなくて……。だから、今している事を今以上に頑張るしか分からなくて……。」

 

「成程な……。」

 

少年の焦燥を見て、男は考える。

リタからすれば良くある出来事ではあった。

いや、厳密に言えば冒険者全員が患う可能性のある『病』であった。

だが、解決方法は全員で違う。

 

しかも解決せねば『病』は癒えずに『傷』が残る。

苦々しく、耐え難い疼痛を残す『傷』が。

多くの戦士がこの『傷』に耐え切れずに脱落していく。

強くなることを諦め、惰性に剣を振るい、時に(けだもの)に堕ちていく。

 

(面倒だな……しかし、何と言ったら良いものか……。)

 

男には才能があった。男の所属した『ファミリア』は最大最強であった。

だから男の周りには切磋琢磨する多くの眷属がいた。

だから己よりも先に場所にいる多くの先達がいた。

だから自身が指導する後輩もまた多く居た。

 

そんな訳で自身が悩んだとき、どうされたか、どうして欲しかったのか、どうするべきだったのかを思い出す。

しかし、どれが正解なのかまるで分からない。

 

だから自分の正直な気持ちを渡すことにした。

 

「―――ベル。確かに君の気持ちも、分かる。周囲の奴等が一方的に強くなって、自分が取り残されるのは分かるつもりだ。」

 

「でも、そんな時こそ慎重になって欲しい。『蛮勇』に身を追いやらず、『臆病』であって欲しい。」

 

「冒険者にとって『臆病』は悪い事じゃないんだ。というか何で死に急ぐ事を美点とするのか私には理解できない。」

 

「だって、生きて帰って来れなきゃどうにもならない。『夢』を叶えることも『願い』を達成することも、何なら強くなることだって叶わない。」

 

「だから、生きて帰って来てくれ。君が死んだら俺は悲しいよ。」

 

そう言われ、ベルの脳裏に一柱の女神が思い浮かべる。

己の主神は言った。一柱(ひとり)にしないでくれと。

ベルだって誰かが死んだら悲しい。それが顔見知りや家族であれば尚の殊更である。

 

「冒険者は危険と切っても切り離せない。それなのに危険を遠ざけろは可笑しいかもしれないけど……まあ、取捨選択ってやつだ。冒す時は、冒すんだ。そうじゃないなら、そういうのは駄目。」

 

「強くなることは時間がかかる。いや、かけなきゃいけない。何せ冒険者において一番重要なのは『技』と『駆け引き』だ。これらはどうしても時間がかかる。そして俺が君に教えるものでもある。」

 

「まあ、そんな不安そうになるな。幸運にも君は『土台』がよく出来ているし、一番大切なことがしっかりしている。だから、これだけは断言できる。君は、強くなれる。」

 

「本当に……なれるんですか?」

 

「ああ、今すぐには無理だけど確実に強くなる。」

 

男が断言する。

少年の『決意』は変わらない。

強さに貪欲である少年は真っ直ぐ進むだけだから。

 

 ▼△▼

 

「……面白くないわね。」

 

神塔(バベル)の一室で女神が呟いた。

『美』を司り、都市最強と名高い派閥を率いる女神は誰よりも高い位置でそう言葉を零した。

 

彼女はベル・クラネルに執着している。

その執着は非常に歪んでおり、怪物祭(モンスターフィリア)の際に銀の野猿(シルバーバック)をけしかけたのが良い証拠だ。

それ以降は自粛し、何もしていなかったが少年の鍛錬を見て考えを変えようとしていた。

 

フレイヤは『魂』を直接見ることができる。

他の神では持ちえないフレイヤ自身が持つ技能である。

この能力を以て様々な勇士を迎えてきた。

それは『古代』や『神時代』を通して変わっていない。

 

フレイヤは多くの『英雄』を見てきた。

彼等の魂の輝きは何れも似通ったものがあると彼女は知っている。

そして『英雄』でなくとも様々な輝きをしているということも。

 

―――だが、そんな女神をして少年の魂は初めて見るものだった。

 

純白にあるいは透明とも形容できる魂はフレイヤでも見たことがなく、思わず惹かれてしまった。

粗削りだが、輝きは強く、この魂が一体どうなるのかフレイヤは心奪われてしまったのだ。

()()のせいで輝きを少し曇らせているが、寧ろ女神にとっては好都合。

その曇りが失われた時の輝きを想起するだけで

 

だが、彼女は少年を手元に置こうとはしなかった。

自分の手元に置いたがために輝きを損なった傑物は少なからず存在する。

もしという僅かな可能性があり、少年がそうなるのを避けるためだ。

 

だがそれはそれとして己ではない他者の手によって少年の輝きが磨かれるのは面白くなかった。

それも忌々しい大神の眷属となれば猶更だ。

 

「……嫉妬、だけじゃないわね。」

 

だが女神にはそれ以上に気になることがある。

理論と実践。この都市では珍しい教育を受け、その愚直さと素直さでみるみる吸収し、強くなる少年。

それを見て、気になることと言えば一つだ。

 

「―――あの子、どれくらい強くなったのかしら?」

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