ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかif 白兎と雷花の残響・残香   作:青色のラピス

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第二十六話 鍛錬

「【ファイアボルト】!」

 

炎声が吠え、怪物を灰に変える。

高熱量で焼かれたモンスターは断末魔を上げる暇すら許されずに絶命する。

 

「ベル様、まだ来ます! ―――オークです!」

 

ダンジョンの『上層』、十階層。

多くの下級冒険者が稼ぎ所にし、上級冒険者を育む暗き草原。

オークという大型級に小柄ながらもすばしこく、鬱陶しいインプで溢れる階層である。

更に怪物の宴(モンスターパーティー)と呼ばれる突発的なモンスターの大量発生が発生するようになり、集団戦法(パーティープレイ)を必要とし始める階層だ。

 

「これで最後ですね、お疲れ様です。それにしても本当にベル様はお強いですねぇ~。」

 

サポーターの少女が少年の倒したモンスターの後始末をしながらそんなことを呟いた。

その言葉を聞いて少年は苦笑いを一つと共に一つの悩みを零してしまう。

 

「ははは……ありがとう、リリ。……一つ相談があるんだけど、いい?」

 

「いいですよ? どうしたんですか?」

 

「―――僕、『魔法』に頼りすぎてないかな?」

 

最近自分自身を思い返し、新しく生まれた悩みだ。

リタとの訓練で身体の動かし方や『技』に『駆け引き』は積み上げることができている。

実際、ダンジョン探索の際に視野は広がり、体力消費は抑えられ、効率的な動きは更なる利益を少年にもたらした。

だが自分自身の物理的な能力が上がるにつれて、『魔法』に対する自身の態度(スタンス)を図りかねていた。

 

『恩恵』を得る前に習得した『魔法』―――【エンヴィ・アンジェラス】は強力すぎるが故に軽々に扱うことを師が戒めた。

この『魔法』は強力だが、強力すぎるのだ。

強力すぎて他を不要と錯覚させ、自分自身の脚を払う程の陥穽を備えているのだ。

だが恩恵を得る際に習得した【ファイアボルト】は違う。

 

無詠唱の速攻魔法。

詠唱を必要とせず、一単語(ワンワード)で放たれる炎雷。

便利な魔法だが、詠唱が無いために威力は低い。

だがそれでも詠唱が無いのは便利であり、高速移動中も失敗を気にせずに扱えるのは大きな強みである。

 

「そうですね……。確かにベル様の『魔法』―――【ファイアボルト】は確かに便利な『魔法』です。詠唱を要せずにオークを一撃で倒せるのはかなり破格と言えますね。頼ってしまう気持ちも分かりますし、それによるしっぺ返しを恐れる気持ちも分かります。」

 

「……これらを踏まえてさせて言わせてもらいますが……あまり気にする必要はないと思います。そもそも無詠唱の『魔法』なんてリリは聞いたことがありません。通常の武器と同じように扱えるならそれと同じように扱えば良いと思います。まあ、『魔法』での『技』と『駆け引き』を積み重ねればいいんじゃないですか? 何より『魔法』の威力を上げるには『魔法』を使いまくって『魔力』のアビリティを上げるのが一番ですし……。」

 

「『魔法』での『技』と『駆け引き』……。」

 

「そういえばベル様は上級冒険者の方と訓練させていただいてませんでしたか?」

 

「あ、うん。リタさんに見てもらってるよ。」

 

「ではそのお方との模擬戦で『魔法』を使ってみたらどうですか? 第二級冒険者なら下級冒険者の『魔法』、それも低威力ですし大事にはならないと思いますよ。」

 

 △▼△

 

「―――成程、『魔法』か……。まさか新しく発現していたとはな。そしてまさかの希少魔法(レアマジック)とはな……。」

 

少年の頼みに男は考える。

男は少年の二つ目の『魔法』を詳しくは知らない。

炎雷と言われてもしっくりこないし、無詠唱と言われても訳が分からない。

 

「よし、とりあえず一発俺に撃ってみてくれないか? それで判断しよう。威力は気にしなくていいぞ。自慢じゃないが二種の炎耐性持ちだからな。」

 

だから取り合えず一発喰らってみることにした男だった。

当然だが、常識人を気取るこの男も大概である。

武闘派閥の斬り込み役であり、本人の不死性もあって尋常ではない闘争本能を宿しているからだ。

 

「え、あ、はい。分かりました!」

 

流石に男にいきなりぶつけろと言われるとは思わなかった少年は面食らう。

だが折角の機会だ。

直ぐに気を取り直し、精神力(マインド)の装填と『魔力』の制御に移る。

そして、咆える。

 

「―――【ファイアボルト】!」

 

少年の掌から『魔法』が放たれる。

業火の如き威力と雷霆が如き勢いを兼ね備えた一撃は迷いもなく男に向かって行く。

『上層』のモンスター程度なら塵に変える程の力を備えた炎雷。

 

それに対して男は特に防ぐ構えを見せない。

 

「―――ふんっ!」

 

寧ろ、腕を一振りしてその炎雷を一撃で打ち砕いた。

握りしめた拳から白い煙を流しながら、ふむと考える男。

 

「よし、いいぞ。模擬戦の時、撃ってこい。」

 

「っ! ありがとうございます!」

 

『魔法』をも模擬戦に組み込んだ二人の鍛錬は白熱し、見る人が見れば抗争かと錯覚する程だった。

焔が躍り、迅雷が舞い、鉄と鉄がぶつかり火花を産む。

生まれた熱は男たちの肌を焦がし、更なる闘争へと加速させていく。

迷える少年はその迷いが嘘かの様に、愚直に、ただひたすら愚直とも呼べる素直さで男と戦っていた。

男が次から次へと披露する『技』に『駆け引き』を吸収し、己の土台へ組み込んでいく。

 

少年が非才だった。

それはもう絶望的なまでに少年は『才能』が無かった。

男からしてそれは明白だった。

千年もの間『最強』を維持し続けた派閥に身を置き、一角に至った男はたくさんの傑物を見てきた。

そんな男だからこそ、少年に何をしてやるのかを何となくだが直感していた。

 

理屈と実践を以て少年に『経験』を叩き込む。

己が嘗てそうされたように、自分が先達に同輩、後進達と共に育んだ『最強』の証を。

弱点を減らし、長所を伸ばす。

手札を増やし、掛け合わした組み合わせを膨大なものとする。

 

冒険者、いや戦う者にとっての才能とは強くなることだけではない。

寧ろ戦闘における柔軟さや発想力、つまり『技』に『駆け引き』を生み出す能力の方が重要視される。

少年はその才能が致命的なまでに欠けていた。

 

傑物たちは一を知れば勝手に十を知る。

だが少年はそうはいかない。一には一を。十には十をといった風に与えられた数値に対し、そのままの数字しか返すことが出来ない。

だから惜しみなく己の積み上げた経験を少年に移していく。

 

「冒険者は『スキル』や『魔法』を誇る奴が多いが、俺達の真髄はそこじゃない! 『技』と『駆け引き』、即ち経験だ。『スキル』に『魔法』はあくまで武器と同じ道具(ツール)に過ぎない! 高性能であるに越したことは無いが、それ以上にこの道具(ツール)を如何に上手く扱うか……それが一番重要だ!」

 

「君が目指す嘗ての英雄……『古代の英雄』は『恩恵』を有してはいなかった。『スキル』に圧倒的な身体能力はなく、『魔法』は魔法種族(マジックユーザー)の特権だった。故に彼等が鍛えたのは『技』と『駆け引き』だった。鍛え上げた肉体を十全以上に活用し、『偉業』を成した!」

 

「君には『意思』がある。十分なほどにある! ならば『技』に『駆け引き』だ! 全力を賭せ、俺はそれに応えよう!」

 

男の咆哮。

それに負けじと少年も咆え返す。

少年が猛る度に、その『魂』の輝きは更に光を増していく。

 

 ▼△▼

 

昼時、模擬戦に素振りといった訓練を終えた男二人は白亜の塔―――『バベル』に向かっていた。

午前の訓練を終え、二人とも午後はダンジョンに稼ぎに行くからだ。

因みに少年は訓練の苛烈さでヘロヘロになり、男に背負われている。

 

「ははは……いい年してはしゃぎ過ぎたな……。」

 

そうして中央広場(セントラルパーク)に繋がる路地を進む二人。

大広場に繋がるだけあって人の賑わいはかなりのものだ。

そしてそれに比例するかのように道の両端で商いに励む露店もかなりの賑わいを見せている。

 

露店は大抵が飲食店であり、手早く食べられるファストフードが特に人気なようだ。

朝食を食べていたとはいえ朝早くから訓練をしていた。

そして背負う少年は絶賛育ち盛り。

少しは何か腹に入れたほうがいいだろうかと思い、リタは一つの店に寄って行くことにした。

 

「すまん、じゃが丸くんを二つ頼む。」

 

因みに彼がその店を選んだのは全くの偶然だ。

 

「―――はいよー! じゃが丸くん一つお待ちー!」

 

程よく人が集まるのは人気の証拠。

熱された油の良い香りは美味の証拠。

長年通って来た道に累積された美味への嗅覚。

 

「すまん、じゃが丸くん二つを頼む。」

 

「はーい! ただいまー! ―――ってうええええええええええええええええええええええッ!!? ボクのベル君がボコボコにされているゥうううううううううう!!?」

 

そして全くの偶然だが、その店はじゃが丸くんを司り欠けている幼女(ロリ)神が店員をしている。

ならば当然、己唯一の眷属がボッコボコにされ、背負われている状況に心底驚愕して、絶叫することもさもありなんであった。

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