ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかif 白兎と雷花の残響・残香   作:青色のラピス

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第二十七話 最強の意味を

「……ねえ、オッタル。」

 

「は……。」

 

白亜の塔。その高層部。

誰よりも高き位置にいる一柱の女神は一人の武人へ都市を見下ろしながら口を開いた。

この都市において最も美しいとされる女神と冒険者の『頂天』と畏敬を贈られる二つの存在が話題とするのは一人の少年についてだった。

 

「あの子は数奇な縁を辿り、その輝きを増していた。その縁が私にとって忌々しいものでも、あの子にとっては垂涎ものの『縁』。思いもしない出会いがあの子を彩っている。」

 

そう言われてオッタルの頭に一人の冒険者が思い浮かぶ。

青髪の半妖精(ハーフエルフ)

何時か倒してやると心に深く誓ったオッタルも覚えている。

 

妖精の血を引いているのにも関わらず、重量塊を振り回す。

かと思えば『竜種』にも匹敵する業火で敵を焼き尽くす。

【不死鳥】の異名の通り、死どころか傷にも縁遠そうな男だった。

 

「ええ、奴の技量は現在のオラリオでも随一。育んだ『経験』は無論、継承された『経験』もまた我々と比較できない程に。」

 

「そうね。それにあの子自身の上昇志向も合わさって凄まじいまでの速度だわ……。でも、此処まで輝けば輝く程に()()()()()()が目立つわね。オッタル、貴方なら何か分かるかしら?」

 

澄んだ女神の瞳を受け、武人はしばし熟考する。

そして少しの間をおいて自身が思う原因を女神に伝える。

 

「……それは恐らく、後悔のようなものでしょう。過去に残った悔いが後悔となってしこりになっているのかと。」

 

「ふぅん……。なら、オッタル。()()()()()()()()()()?」

 

再び女神の問い。

しかし今度は迷うことなく、間を置くことなく己の心中を明かす。

 

「決まっています。―――『冒険』をし、過去を乗り越える。それ以外にあり得ない。」

 

フレイヤはその答えにますます笑みを深めていく。

この世ならざる美貌がますます艶やかに彩られていく。

その表情に込められた感情は間違いなく『興味』と『愉悦』。

 

無論、フレイヤとて理解している。

今から自分が行おうとしていることは間違いなく『冒険』ですらない『無謀』であると。

だがそれでも止められない。

己の好奇心が、愛が留めなく溢れて女神の心をどうにかしてしまう。

 

「オッタル。猛牛(ミノタウロス)を一匹、あの子にけしかけて頂戴。選別は貴方に任せるわ。」

 

「は。」

 

女神からの命を受け、恭しくオッタルが頭を下げる。

そして神意を叶えるべく、『迷宮(ダンジョン)』へ潜ろうと決めたとき、もう一つ命令が下りる。

何か思い出したかのように、軽々とフレイヤは言った。

 

「―――後、アレン達を呼んでくれないかしら。」

 

「アレン達を? 護衛ですか?」

 

フレイヤの神意が見えず、思わずオッタルが聞き返す。

 

「それもあるけど……あの好々爺の眷属があの子に変な事を教えたらたまらないじゃない? 純真なあの子が汚れちゃったら、私、耐えられないわ。」

 

 △▼△

 

「……成程、ベル君の訓練を付けてくれていたのはリタ君。君だったんだね。―――でもボクのベル君をあそこまでボコボコにするのはどういう了見だァ!! というか最近やけにベル君がボロボロになっていたのは君が原因かァ!!」

 

太陽がまだ天頂には届かぬも、日の光が強くなる時間帯。

飲食店ではかき入れ時である昼の少し前。

何とか休憩を今日の休憩を代償に先取りした休憩時間を持って二人を路地裏に引きずり込んだヘスティアは叫んでいる。

 

「……いや、全くその通りです。申し訳ない……。」

 

そして責められているリタは平身低頭謝りっぱなしであった。

幾ら良かれと思っても流石にやり過ぎだと自覚はしているのだ。

真実、厳しくするのは必要でも体力に精神力(マインド)を枯渇させるのはやり過ぎだった。

 

「あの、神様……。リタさんを責めないでください。」

 

そんな中、ヒートアップしていくヘスティアを諌めたのは何とか最低限回復したベルだった。

しかしボロボロの眷属を前に主神は止まることを知らない。

 

「いいや! 今回は引かないぞ! そんなにボロボロになられたらボクの心臓が絶えられない! ボクを心配の余り送還させる気かい!?」

 

決して譲歩する気はないと気炎を吐くヘスティア。

だが、それは少年もまた同じだった。

 

「でも、僕は強くなりたいんです! 確かに神様に心配させちゃうかもしれませんけど……確実に強くなっているんです!」

 

何時にない強い姿勢の少年に思わず飲まれる幼女神。

近づけられた顔に刻まれた表情には短くもずっと見てきた『決意』を感じさせる。

少年は意外なことに結構頑固だ。

一度決めるとそれを撤回することは中々ない。

 

「……ホントにボクは君に甘いなぁ……。」

 

少年の頑固さをよく知っている主神は溜息一つ。

真面目な顔でリタの方へ向く。

普段は見せない厳粛な空気を出し、冒険者の真意を確かめる。

 

「……ベル君がこう言ってるんだ。なら、ボクはこれ以上責めないよ。」

 

「……はい。」

 

「ただし! この子が強くなりたいのは本当だ。お願いしている立場で言うのは何だけど……キチンと強くしてやって欲しい。」

 

「それは無論です。神ヘスティア。この子―――ベル・クラネルの事は任せて下さい。」

 

その言葉に満足そうに頷くヘスティア。

 

神は人の嘘が分かる。

そのため、今の彼の言葉が偽りでないとはっきりと分かったためだ。

 

「分かった。じゃあ、ボクはもう何も言わない。ベル君、頑張れよ。」

 

「……っ! はい、ありがとうございます、神様! 勿論です!」

 

歓喜の笑みを浮かべた少年。

それに対して穏やかな笑みを浮かべる保護者達。

 

「じゃあ、そろそろ休憩も終わるからボクは戻るよ。それじゃあ、ベル君。また後でね。」

 

「はい! お仕事、頑張ってください!」

 

そう言ってヘスティアが慌ただしく去って行く。

それと同時に冒険者二人も『迷宮(ダンジョン)』に向かうべく、大通りへ戻って歩みを再開させる。

 

やがて中央広場(セントラルパーク)に入り、白亜の塔が目と鼻の先になった所で、少年がむず痒そうな素振りを見せた。

まるで誰かに見られているような、それも不審者に睨まれた子兎の様だった。

 

「ん? どうした、何かいるのか?」

 

「あ、いえ。特に何かある訳じゃないんですけど……()()()()()()()()()()()……。」

 

「……見られている?」

 

「はい、オラリオに来てからずっとなんですけど……。ここ最近は多い気がするんです。」

 

「……そうか。まあ、これだけ人が多いんじゃ不審者だって多いだろうさ。冒険者だからといって気を抜いちゃ駄目だぜ。」

 

そう言ってその場で分かれる二人。

特訓を時間を終えた後は普段の日常に戻り、彼等の全うすべきことに精を出す。

そして日々を勤めを終えた後、今日は良い一日だったと終えるだろう。

 

―――たった一人を除いては。

 

 ▼△▼

 

夜、日が沈み、魔石灯が空間を照らす時間帯。

大通りなら兎も角、少し離れて人通りが少ない道は灯りが弱く、完全に夜の帳が落ちている。

そんな道をリタは一人で歩いていた。

 

派閥の都合上、拠点が隠れた場所にある【アトラス・ファミリア】ではこのようなことはありふれているため慣れた足取りで進んでいく。

そうしていると、ふと足を止めた。

何かを感じ取ったのか、腰に佩いている長剣を抜く。

 

「……おい、何者だ。居るのは分かってる。出て来い。」

 

リタの問いかけに答えるように黒ずくめの男たちが現れる。

数は三人。全員が武装しており、それぞれが長槍、長刀(ロンパイア)長大剣(クレイモア)を持っている。

服装も武器も黒く、完全に夜闇に溶け込んでいる。

 

一体何の用だと問い詰めようと口を開く男。

だが、言葉を発する前に放たれた銀突。

お前と会話する気はないと言わんばかりの意思表示であった。

 

短気(はんひ)損気(ほんひ)だぞ(はほ)。」

 

だが、口腔目掛けて放たれた一撃はリタの顎で止められている。

上顎と下顎、そのから生えている歯だけで止められたのだ。

 

仮面を外して受け止めているから素顔が露になっている。

左半分の火傷痕は痛々しく、未だ治り切っていないのか赤々しい。

表皮を通る血管が不気味に脈動し、奇妙さを否が応でも感じさせる。

 

「動かねえ……!? 化け物が!」

 

それでも押しても引いても槍の穂先は動かない。

男の嚙力が襲撃者の腕力を完全に上回っている証拠だった。

 

やがて、変化がないことを察した襲撃者の一人が槍を振るった男を諫める。

フードで顔を隠してはいるが、長い耳は隠しきれずエルフであることは明白だった。

 

(こいつ……長い尻尾からして槍持ちは猫人(キャットピープル)。それに向こうにいるのも妖精(エルフ)だな……。)

 

「逸るな、愚猫(ぐびょう)。」

 

「……うるせえ、羽虫。轢き殺されてぇのか。」

 

「弁えるのは貴様の方だ愚猫。女神の命を忘れたか? それとも貴様にとって女神はその程度の存在だったのか? ……やはり副団長を譲るべきではなかったな。」

 

「テメェ……!」

 

(そしてこの異常なまでの仲の悪さ……美神(フレイヤ)の派閥か。おいおい、一人完全に置いてけぼりだぜ……。)

 

リタを前にしながら喧嘩を始める二人。

襲撃者のもう一人はリタの予想通り、どうするべきか分からず狼狽えている。

狙われているのに感じる謎の居心地の悪さに背中を冷やしながら、口腔から穂先を取り出すリタ。

 

そして仮面を被り直し――――――煽ることにした。

 

「……全く、【フレイヤ・ファミリア】は何時だってそうだ。何も見ていない、自分の見たいモノしか見ない。試練ではなく、蹂躙に逃げる軟弱者だな。何だ? そんなに弱い者イジメが好きか? それとも何か、乳繰り合っているのか? 人の趣味に文句言うつもりはないが、場は選べよ。……まあ、所詮己等の主神は品のない阿婆擦れ、その眷属に品が無くても不思議じゃないか。」

 

―――その瞬間、再び高速の穂先が走る。

 

いや、銀槍だけではない。

白刃に黒剣も異常とも言える殺気と共に振るわれた。

 

連携などない。

唯、幾千もの殺し合いの果てに理解はしている。

だから奇蹟的にその攻撃は折り合うことなく、三つの軌道を生み出した。

本来ならば確殺を約束された攻撃。

第一級冒険者でも倒れるかもしれない程の猛攻。

 

しかし、それは不死鳥の羽を落すにはまだ足りなかった。

 

「やれやれ、相も変わらず沸点が低いな。幾ら世代交代しても悪癖が改善されないなら意味ないだろう。」

 

脇に穂先を挟み、長槍を、抜き放った長剣で長刀(ロンパイア)を、空いた片手で長大剣(クレイモア)を握る両手を掴み猛攻を無意味とした。

リタはたった二本の腕と一本の武器だけで三人の攻撃を防いだのだ。

一点に狙ったのではなく、狙いがそれぞれ異なるが為に、そして標的であるリタの技巧が合わさることで奇跡的な状況を生み出したのだ。

 

「それでどうする、【女神の戦車(ヴァナ・フレイア)】に【白妖の魔杖(ヒルドスレイヴ)】、【黒妖の魔剣(ダインスレイヴ)】?」

 

膠着した状況でもリタの舌は止まらない。

直ぐに見抜いた彼等の正体を暴き、どうするのかと問いかける。

 

そして、それに対する女神の眷属の回答は何時も一つ。

 

「「「決まってる。ブッ殺す!」」」

 

そしてそれに対する回答だって、何時も一つ。

 

「そうか。ならさっさとそうして見せろ。傷つける事しかできない未熟者(クソガキ)が。」

 

 △▼△

 

裏に通っている道は何時だって暗い。

昼間は高い壁に日が遮られ、夜中は灯される明かりが少ないためだ。

そんな道で眩い閃光が生まれては消えていく。

 

鋼鉄と鋼鉄が高速でぶつかり、無数の火花を生み出している。

まるで踊っているかのような美しさを感じさせる滑らかな動き。

だが鋼鉄とぶつかるその瞬間、その動きは肉食獣を彷彿とさせる荒々しいものに変化する。

 

(ちッ……! まさか三人がかりでもどうにもできんとは!)

 

そんな中、たった一人誰よりも速く冷静さを取り戻したのが白妖精(ホワイトエルフ)だ。

白妖の魔杖(ヒルドスレイヴ)】ヘディン・セルランド。

勇者(ブレイバー)】フィン・ディムナにも劣らない頭脳を持ち、【フレイヤ・ファミリア】の参謀役(ブレーン)である男。

実力も折り紙付きであり、『都市最強魔導師』であるリヴェリアに魔法剣士でありながら射程距離と最大精神力(マインド)量で上回っているヤバいエルフなのだ。

 

無論、フレイヤの信者あるあるを全コンプリートしており、そっちの面でもヤバい奴なのだ。

だが、この場では誰よりも頭が回り、誰よりも忠義に篤い騎士であるために今の状況が悪い事を十全に察知したのだ。

 

同族(エルフ)随一の白兵戦力であるヘグニでも、愚かだが実力はある愚猫。そしてそれらを補佐する私。そして相手はLv.6とはいえたった一人。それでも、それでも尚、奴を倒せない。)

 

幾度も火花は生まれるが、一向に血煙が吹く兆しはない。

戦闘衣(バトルクロス)を薄く裂く事は出来ても、その下の素肌を斬り裂くにはまだ足りていない。

だが、戦況は襲撃者側がやや有利。

体力にも差があるようには見えず、スタミナ切れを狙うかとヘディンが長期戦を視野に入れた瞬間だった。

 

「―――じゃあ、負荷(ギア)を上げるぜ。」

 

―――一閃。

 

急激な加速とそれに伴う威力の激上。

予想だにしない一撃に迎撃し損ねた黒妖精(ダークエルフ)が袈裟に斬られる。

予想もしない一撃に血を零しながら倒れるヘグニ・ラグナール。

黒妖の魔剣(ダインスレイヴ)】の異名を持ち、エルフ随一の白兵戦能力を持つ彼がたった一撃で倒れたのだ。

 

「な……ッ!?」

 

「まずは一人。」

 

一人を倒したところでリタは、いや【不死鳥】ヨルドは止まらない。

 

再び走る閃光。

夜闇を斬り裂く純白の光は確かに振るわれた。

 

だが、狙いは『都市最速』。

如何にリタが優れた冒険者であっても、その優位性は覆らない。

彼はリタより早く、リタは彼よりも遅い。

瞬時の判断と一瞬の防御。

 

交差もまた、一度で終わる。

 

「良い反応をする。反射速度も『最速』か。だけど、やっぱり軽いな。」

 

しかし猫人(キャットピープル)の力負けだった。

女神の戦車(ヴァナ・フレイア)】の異名を取る『都市最速』、アレン・フローメルの敗北であった。

深々と片肺を貫く剣。

刃を体内から引き抜けばそれだけで滝のように血が溢れて、石畳を赤く濡らしていく。

 

「第一級冒険者ならこの程度で死にはしないさ。それに【フレイヤ】なら薬師(ハーバリスト)治療師(ヒーラー)は山の様にいるんだろう? 治るのも一瞬さ。で、やっと静かになったな【白妖の魔杖(ヒルドスレイヴ)】。それで、一体俺に何の用だったんだ?」

 

二人を無力化させたリタはヘディンの方へ向き、再び問いかける。

 

「……ベル・クラネルに近づくな。女神からの警告だ。」

 

「はあ……本当にお前らの主神はさあ……。いや、俺等も大概だったけどさ……。」

 

予想以上の下らなさに思わず肩の力が抜けるリタ。

長剣を鞘に納めると頭を掻きながら、溜息を吐く。

仮面のせいで素顔は隠れ、その表情は明らかでないが明らかに呆れた様子だった。

 

「本当にお宅の女神は馬鹿だな。ヘラの様にイカれてはいない分マシだが、はた迷惑に変わらん。」

 

再び気色ばむ【フレイヤ・ファミリア】。

しかし相手するのも面倒なリタはどこ吹く風だ。

 

「そんなに気になるなら自分から行け。そうフレイヤに伝えておけ。第一、俺だってあんまり関り合いになる気は無かったんだ。」

 

 ▼△▼

 

戦闘が終わり、再び路地裏は静寂に包まれる。

既に半妖精は去っており、残っているのは倒れている襲撃者だけだった。

何時までもこの場に残っている訳にはいかず、ヘディンは手早く倒れた者達を介抱する。

 

「愚猫にヘグニ、何時まで倒れている。既に万能薬(エリクサー)は被せてある。さっさと立ち上がれ。」

 

「うるせえ……。大体テメェ、何で『魔法』を使わなかった?」

 

「使えば騒ぎになる。女神からの密命である以上、騒ぎにする訳にはいかん。大体、そんなに『魔法』が欲しければ命令するなり、自分のモノを使えば良かったのでは? 副団長。」

 

「……チッ! あのクソ野郎、何時か轢き殺してやる……!」

 

悪態を吐くアレン。

ヘグニは険悪な二人の空気についていけず、口を噤んでいる。

やがて、体力が回復し、後始末を終えると彼等はバラバラに本拠(ホーム)へ帰還していく。

 

「しかし……ベル・クラネルか。女神が興味を持つ男……。フン、心底気に入らんが少しは興味が湧いたな。」

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