ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかif 白兎と雷花の残響・残香   作:青色のラピス

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第二十八話 汝は冒険者なりや?

「はぁ……今日も疲れたな……。どうして女神の眷属って奴はどいつもこいつも面倒臭いんだ?」

 

襲撃者から逃れ、何とか本拠(ホーム)に辿り着いたリタ。

幾ら『恩恵』で体力を維持しているとはいえもう五十代越え(アラフィフ)

精神的な余力はそこまでないのだ。

 

「……しかしフレイヤが、な。まあ、何かしらに目を付けられるとは思っていたが……。」

 

想定外の大物に目を付けられていると知り、リタは少し思案する。

 

「まあ、今の俺に何ができるという話か……。なる様にしかならん、な。」

 

今の彼には社会的な影響力などあるはずがない。

Lv.3の第二級冒険者。与えられた異名は【緋炎】リタ・ナラティブ。

それが今の彼の肩書なのだ。

 

「とはいえ、何かしらはしておくか……。」

 

「―――ヨルド、今良いか?」

 

低く、重厚な声がした。

威厳で満ち、思わず頭を垂れてしまうそうな声だった。

 

しかしリタは寧ろ嫌そうな顔で振り向いた。

 

「あのですね……。いい加減、俺の事はリタって呼んで欲しいんですがね。」

 

振り向いた先にいたのは大男だった。

身長は2M(メドル)すら越え、250C(セルチ)にもなろうかという大男だった。

 

この大男こそ、神アトラス。

【アトラス・ファミリア】の主神であり、創設神ウラノスにつき従う従属神である。

 

「別に今は誰もおらぬ。ならば問題あるまい。」

 

「確かにそうですけど……。いや、それでもですね……。」

 

「それに、そも貴様は正道を歩めよう。なれば何故、偽りを是とし続ける?」

 

痛い所を突かれたとリタは仮面の下で表情を凍らせる。

 

(さて、どう誤魔化す?)

 

神に嘘は通じない。

わざと騙され、事の推移をニヤニヤ眺める神もいるがアトラスはそうではない。

何度がやって来たやり取りだが、そろそろ誤魔化し続けるのも無理が出て来たのだろう。

何時もすらすら出てくる言葉が今に限っては油の乗りが悪く、出て来ない。

冷汗が頬を伝るのを否に感じながらも時間は容赦なく、過ぎ去っていく。

 

だが、その時間を断ち切ったのはアトラスだった。

 

「―――いや、やはりいい。」

 

「は?」

 

「今までは無理にでも背を押す必要があると考えていた。だが、今の貴様を見て改めた。それだけの事だ。」

 

(なんじゃい、そりゃ。)

 

「さて、話を戻すぞ。……リタ、そろそろ【蒼閃】と【死神騎士】を呼び戻したい。都市にも騒乱の種が蒔かれ始めた。手札を増やしておきたいのだ。」

 

上げられたのは何れもLv.6の精鋭。

【不死鳥】ヨルドとも色々と縁のある二人だった。

リタと同時期に都市に来たが、【黒竜】との戦いの後遺症が再発し、それぞれ療養中なのだ。

 

「成程。まあ、少なくとも半獣人(ハーフ)の方、バルトロメイの奴は港町(メレン)にいるだろうから直ぐに来るはずですよ。だけど、リチャードの奴はまだ治りきってないから駄目ですね。来ても戦力にならんだろうし、グラシアスを代わりに呼びましょうか?」

 

「……良いのか? 魔族(デイモン)は龍族や翼人(セラフ)に並ぶ絶滅種族。血を引いているだけならまだしも純血の【冥王】ならいらぬ騒動が起こるぞ?」

 

「それは上手い事隠れなければの話ですよ。グラシアスの奴なら大丈夫ですよ。ええ、()()()()()()()()()。」

 

そう言って黄昏るリタ。

思わずアトラスでさえ、一歩下がってしまう程の暗いオーラを放っていた。

 

流石にこの空気は不味いと察した巨神は場の空気を変えるべく話題を進めることにした。

 

「……ああ、確かに彼ならば問題あるまい。では、いきなりで悪いが近いうちに頼む。」

 

「分かった。だがこちらも事情があってな。少しばかり都市外に行くのは後になる。」

 

「いや、構わない。手続きに時間がかかるからな。手続きは三日もすれば終わる。それまでに終わらせておいてくれ。」

 

 △▼△

 

「―――と、いう訳で俺は後三日で面倒な冒険者依頼(クエスト)をしなくちゃならない。だから特訓は後三日しか見れないんだ。すまないな。」

 

翌日の朝、特訓で市壁の上でリタは申し訳なさそうに少年に告げた。

流石に前日にあったアトラスの頼みごとをそのまま伝える訳にはいかず、やむを得ずに冒険者依頼ということで誤魔化すことにしたのだ。

 

「そうですか……。分かりました。クエスト、頑張ってください。」

 

「本当にすまないな。一応、知り合いで特訓相手を見繕っておくよ。」

 

そんな会話を終えると何時も通りに特訓を始め、何時も通りの時間には終わった。

 

相も変わらず少年は疲労困憊といった様子だが、初日と比べると生傷は少なく、服装の乱れや汚れも余り付いてなかった。

 

(……しかし、本当に『成長』が早い。飲み込みと発展のスピードは最早異常だ。というか早すぎて、編み出せないのは不思議な位だぞ。)

 

「本当に君は凄いな……。昨日と今日で別人かと思ったぞ。」

 

「そ……そうですか?」

 

「ああ、本当だとも。今の君の状態がその証拠さ。しかし、この調子なら『ランクアップ』も近いかもな。」

 

『ランクアップ』。

その言葉にベルは喰い付く。喰い付いてしまった。

 

「……あ、あの! 『ランクアップ』はどうしたらいいんですか!?」

 

「お、おお……。君にしては珍しい程勢いが強いな。まあ、そうさな……『迷宮(ダンジョン)』で『冒険』をする。それだけさな。」

 

「……『冒険』を、する。」

 

噛みしめるように少年は男の言葉を反芻する。

その反芻に男は頷いて、更に言葉を続けていく。

 

「ああ、『冒険』だ。俺達冒険者が求める『冒険』、これをするしかない。」

 

「だけど、それは決して『無謀』であってはならないんだ。下級冒険者が単独で小竜(インファイトドラゴン)に突っ込むことは決して成功しないように。かといって確実に倒せる相手を甚振ることもまた、『冒険』ではないのは明白だろう。」

 

「決して侵してはならない一線、それを侵される時に意思を奮い立たせ、その脅威へ立ち向かうこと。それこそが『冒険』だと俺は思う。」

 

「だけどまあ、人間生きてたらカッとなる時はあるし、義憤に駆られる時もある。そういう時はよく、『錯覚』してしまう。戦うべき時だとな。特に力自慢の猪武者はその傾向が強い。」

 

「だからこそ、君には『臆病』であって欲しい。戦いの場を冷静に選び、剣を執る時を賢明に判断できる人物であって欲しいと俺は思う。」

 

「それにそもそも君は冒険者だろう? なら小難しい事を考えなくても直感で理解する時もあるさ。『冒険』するべき時は、今だって。」

 

そう言って手練れの冒険者は台詞を締め括る。

その言葉を受けて、少年はじっと考え込む事になった。

 

 ▼△▼

 

……何でこうなったと少年は思った。

 

サポーターの少女が珍しく急用で探索が休みとなり、行く当てもなければやることもなく、鍛錬に時間を当てようと思案していたのだ。

フレッシュな苦みに溢れた昼食を終え、バスケットを返却しに行っていた時だった。

 

既に昼頃の忙しい時間帯は抜け、今なら返せると思い『豊穣の女主人』に立ち入った―――それが間違いだったのかもしれない。

 

「……どうしてこんな事に……?」

 

「オラオラ、きびきび働くニャー!」

 

「いやあ、ごめんねえ冒険者君。シルの奴が賭けに負けちゃったからね……。」

 

通常の家ではお目にかかれない大きなシンク。

泡立った石鹸水で満たされたその中には汚れのついた大小さまざまな皿に飲み物を注いだコップにグラスが山の様に積み上がっている。

不用意に触れば崩れてしまうそうな程に積み重なっており、成程恩恵を得た冒険者でなければ、いや冒険者であっても面倒な程だ。

 

どうやら賭け事に負けて仕事を押し付けられた給仕の娘―――シル・フローヴァが流石にこの量は無理だと悟ったのだろう。

無論、職場内の友人達を頼ったが賭けに負けた事を知られており、いい笑顔で断られたのだ。

それでも諦めきれなかった少女は丁度良くバスケットを返しに来た少年の腕を掴み、こうやって厨房奥に連れ去ったのだ。

 

「ははは……。」

 

予想もしていない出来事にベルは乾いた笑みを浮かべるしかない。

しかし今まで昼食を用意してくれた少女の好意へ少しでも返せたらいいなと思い、ゆっくりと積み上げられた山に手を伸ばす。

 

皿洗いは何時もやって来たことだから、大して苦でも無かった。

実家にいた時も、廃教会に住んでいる今でも皿洗いは少年の仕事であった。

そのため終わりの見えない膨大な作業量(タスク)も少しづつではあるが減っていき、三十分もすればその大半が片付いてしまった。

 

額を流れる汗を拭いながら、一息を吐く。

あと少し、気を入れて終わらせてしまおうと気を引き締める。

 

「シルに白髪頭、追加ニャー!」

 

そして追加される惨たらしいまでの皿山(タスク)

隣で黙々と作業をしていたシルも思わず硬直する程だった。

 

そんな中、真っ白い手が伸び、積み上げられた皿を手の取った。

 

「これだけの量は殺人的だ。手伝ってもよろしいでしょうか、クラネルさん。」

 

若葉色の制服に身を包んだ黒髪の妖精(エルフ)だった。

緑黒色のショートカットで怜悧な表情を刻んだ少女が山を崩さないようにさらに手を取ったのだ。

 

「は、はい! お願いします。……所で、貴方は……?」

 

「そういえば自己紹介がまだでしたね。私はリュー・リオン。貴方を連れて来たシルの知己に当たる存在です。」

 

強い人だと少年は思った。

何か証拠がある訳では無い。

些細な動きや雰囲気から何となくそう思っただけだ。

 

「あの、リオンさんは冒険者なんですか……?」

 

「……ええ、今でこそ違いますが昔は冒険者でした。それがどうかしましたか?」

 

「―――『冒険』に挑んだ時、どういう感覚でしたか?」

 

思わぬ問いかけにリューはしばし閉口する。

どう答えたものかと思案しながら少年の顔をちらりと見やる。

 

少年の表情は不安があるものの引き締まっており、決して軽い気持ちで聞いた訳では無いことは明白だった。

ならば偽らざる気持ちを語るべきだろうとリューは口を開いた。

 

「『分水嶺』だと、思いました。」

 

「『分水嶺』……?」

 

「ええ、何かの『決意』を貫けるかどうかの『分かれ道』に直面した。膝を抱えそうになるような困難を前にして、自分の意思を貫けるかという『試練』を突き付けられたと今なら思います。」

 

少年はその言葉を受け、ゆっくりと考える。

己が心中に抱くこの『決意』を貫く事ができるのか、自身に問いかける。

答えは当然ながら決まっている。何度繰り返してもこの『決意』を曲げることは少年にはできないのだから。

 

「……本当に『冒険』は必要あるんですか?」

 

ふとシルがそんな事を呟いた。

 

「そんなに危ない事をしなくても生きていけるんですよね? お腹一杯ご飯が食べれて、温かい寝台(ベッド)で眠る事ができる。それにベルさんの帰りを待っている(ひと)だっている。それなのに態々危ない橋を渡ることは無いんじゃないですか?」

 

アドバイザーであるギルド職員の言葉を彷彿とさせる街娘(シル)の言葉。

冒険者の立ち位置ではなく、戦火から遠い場所にいる一市民としての立ち位置からの台詞だった。

 

……もしかしたら少年はこの時、彼女の言葉に別の反応を返したのかもしれない。

 

『決意』を抱くことなく、そも肉親との『出会い』を経ることなく、たった一つの『契機』のみを導としてこの『英雄の都』に辿り着いた少年は、この少年とただの同一人物でしかないのだから。

『願望』のみを共通項とする同一存在ではない少年は少女に向かってこう言った。

迷うことなく、惑うことなく、決して譲れないと言わんばかりに。

 

「確かに、シルさんの言う通り、『冒険』をする必要はないのかもしれません。」

 

「―――でも、僕は違う。『英雄』になる。そのためにこのオラリオに来ました。」

 

「挑んで、強くなって、生きて帰って来るって大切な人達と約束しました。」

 

「だから僕は『冒険』から逃れられない、目を背けちゃいけないんだと思います。」

 

そう言うと悲しそうに瞳を下に落とすシル。

 

「―――だからシルさんとも約束します。生きて帰って、このお店のご飯を食べに来るって。」

 

だがその後、続けた少年の言葉に顔を上げる。

そして小悪魔染みた笑みを浮かべる。

 

「……なら、毎日来てくれるように私もたくさんお弁当を作りますね。ベルさん、これからも食べて頂けますか?」

 

「はい、勿論です。」

 

少年達は笑った。

声は大きくなかったが、作業が遅れ、女将からどやされた。




絶滅種族
本作オリジナル設定。
龍族、魔族(デイモン)翼人(セラフ)鼠人(ラットマン)吸血鬼(ヴァンパイア)海人族(トリトン)の『古代』において絶滅したとされる亜人(デミヒューマン)種族。

龍族
最優の獣化に最高の能力に生命力を宿した魔法種族(マジックユーザー)
正真正銘の最強種族であるが生殖能力が低く、その上『迷宮(ダンジョン)』からの刺客(モンスター)との戦いで数を減らしたことにより古代前期には集落が消滅。絶滅したとみなされる。

魔族(デイモン)
『力』に『耐久』に優れた魔法種族。
紺色じみた浅黒い肌に、額には『魔力』を増幅させる秘石が備えられている。
額の秘石は魔術儀式における道具として扱われ、未熟な子供や弱った老人が人狩りの被害を受ける事もあった。
そのため過酷な環境に集落を築き、身を守っていた。
彼等の暮らす地は『辺獄』と呼ばれ、第一級冒険者でも命の危機に脅かされる程。
しかしモンスターの跳梁跋扈により、外界と遮断され緩やかに絶滅したとされる。

翼人(セラフ)
獣人の一種であり、背中から鳥類の翼を生やしている。
人類種族の中で唯一飛行能力を有しており、都市間の連絡において重要な存在であった。
しかし有翼のモンスターの出現に伴い、それらと誤認される事故が起こり数を減らした。最終的には山野の深部に逃れるもそこに住まう、移住した妖精(エルフ)と争いになり、その争いに敗れる形で絶滅した。

鼠人(ラットマン)
獣人の一種。小人族(パルゥム)と同じ小柄かつ非力な種族。
元来から迫害された種族であり、病を持ち込むという迷信から小人族(パルゥム)からも迫害されていた。
人類からもモンスターからも追いやられ、絶滅した。

吸血鬼(ヴァンパイア)
血を吸うことでも栄養を得る事ができる種族。中には吸血行為で傷を癒し、活力を取り戻す個体も存在した。
魔法種族であり、夜闇を好む。
強力な種族だったが、鼠人(ラットマン)同様に迷信によって滅ぼされた。

海人族(トリトン)
水中でも呼吸や移動ができる種族。
男性しか存在せず、他種族と交わることで子孫を残した。
半亜人(ハーフ)は存在せず、海人族と交わった女性は必ず海人族を出産する。
海にモンスターが溢れた事で、水棲モンスターと戦うも太刀打ちできずに絶滅した。
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