ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかif 白兎と雷花の残響・残香   作:青色のラピス

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第三話 怪物、襲来

「……出来たわ。」

 

「本当かい!? ヘファイストス!」

 

ヘファイストスは槌を置き、完成を宣言するとヘスティアは飛び跳ねて喜びを表現する。

その動きは丸一日ヘファイストスの手伝いで働きっぱなしとは思えなかった。

完成したナイフは漆黒で覆われており、刀身には神聖文字(ヒエログリフ)が刻まれている。

 

「……いい?ヘスティア。この武器にはあんたの血と髪を使っている。そのせいか何か知らないけどステイタスを宿している。要するに生きてるのよ、この武器は。装備者が得た経験値(エクセリア)を糧に進化していくわ。使い手が成長したら共に成長する武器なんて鍛冶師からしてみたら邪道だわ。もう作らせないでよね。……後、約束は守りなさいよ。」

 

「ああ、分かってるぜ。ヘファイストス!」

 

ヘファイストスの台詞に対してヘスティアは満面の笑みで答える。

 

「そういえば、このナイフの銘は何て言うんだい?」

 

「名前ね……。そう言えば決めてなかったわ。」

 

「それじゃあ、《ラブ・ダガー》なんてどうだい? これはボクとベル君の愛の結晶だからね!」

 

ヘスティアが阿保丸出しの提案をするが、ヘファイストスは呆れながらその案を否定する。

 

「……やめときなさい。後で悶絶するわよ。そうね……《神の刃(ヘスティア・ナイフ)》なんてどうかしら?」

 

 △▼△

 

都市は喧騒に包まれていた。年に一度の怪物祭(モンスターフィリア)で誰も彼もが浮かれているからだ。

この祭りを見るために態々都市外からやって来たものをおり、この催しがどれ程注目されているか理解できる。

 

とあるカフェテリアにてとある女神はその様子をボンヤリと見ていた。

身体の大半を布で覆い、素性の知れない彼女だがその体から発せられる色香と神威は抑えることができずにいた。

そのため誰も近づこうとせず、人気店であるはずのカフェは不気味な空きを形成することになっていた。

 

そんな中、朱色の髪をした一柱の女神が歩み寄る。傍らには金髪金眼の女剣士を連れていた。

女神に断りも入れずに朱色の女神は向かいの席に座る。

朱色の女神が座ったと同時に挑発するかのように女神は口火を切る。

 

「あら、ロキ。一体どうしたのかしら?」

 

「それはこっちの台詞や。色ボケ――フレイヤ。」

 

口撃を受けた朱色の女神――謀略を司る女神ロキもまた、負けじと挑発をする。

お互い都市最大最強派閥を率いる主神であるが、仲はこの通り悪い。

派閥間の抗争が起きていないのが不思議なほどである。

 

「今まで引きこもっとったのに、急に出て来よって……。何するつもりや?」

 

「……。」

 

ロキが問い詰めるも美神はどこ吹く風だ。

完全に何も言う気がないと察したロキは自身の予測を突きつける。

 

「まあ、どうせ男やろ。違うか?」

 

「あら、よく分かったわね。」

 

ロキの予測にフレイヤは別段驚いた様子も無く答える。

その反応を受けてロキは薄く目を開き、眼前の女神を睨みつける。

 

「全くこの色ボケ女神。年がら年中盛りおって……。」

 

「失礼ね、そこまで見境が無いわけじゃないわよ?」

 

「嘘つけ。何時も男神誑しこんどる癖によく言うわ。」

 

フレイヤはロキの避難がましい目線を気にすることなく、話を全く別の話題に変える。

 

「そう言えば、貴女が連れている子まだ紹介してもらってなかったわね。」

 

「ん? そう言えばそうやったな。アイズたん、一応挨拶しときい。」

 

ロキに促され、金の少女――アイズ・ヴァレンシュタインはフレイヤにお辞儀をする。

 

「……アイズ・ヴァレンシュタインです。」

 

「あら、貴女が【剣姫】? 成程ね、神々が騒ぐはずだわ。」

 

「なあ、ええやろ? 今日は念願のデートやねん!」

 

ふと。フレイヤが目線を外に移した。

何かを瞳に移したフレイヤは急いで席から立ち上がる。

 

「ごめんなさい、ロキ。私はもう行くわ。」

 

「待て、最後に一つ聞かせろや。……そのお気に入りってのはどんな奴なんや? 散々迷惑かけたんや、それくらいええやろ?」

 

ロキの問いかけにフレイヤは立ち止まり、少し考えて口を開ける。

 

「そうね……。……あの子は泣き虫で気が弱くて、才能なんてものもなくて……正直英雄の器なんてものじゃないわ。」

 

「……何やそれ。」

 

「でもね、魂が真っ白なの。私が見たことないくらいに。強いて言うならこんな感じかしら。」

 

 ▼△▼

 

ベルは人が大勢集まっている広場へ向かっていた。

理由としては、シル・フローヴァの財布を届けるためだ。

 

豊穣の女主人は迷宮(ダンジョン)へ向かう途中にあり、朝方の開店前の店の前を通っていた。

そのため彼は都合よく彼女等の頼みを引き受けたのだ。

 

迷宮(ダンジョン)に向かうため、武装していたため広場では多少目立ったがそのせいか直ぐに目当ての少女を見つけることができた。

 

「シルさん! 見つけましたよ!」

 

「ベルさん! どうしたんですかって私の財布! 届けてくれたんですか!」

 

「はい、アーニャさん達に頼まれたので。」

 

シルはベルから財布を受け取り、何か思いついたのか微笑みながらベルに提案をする。

 

「ベルさん、時間はありますか? もしあるなら一緒に怪物祭(モンスターフィリア)、行きませんか?」

 

怪物祭(モンスターフィリア)?」

 

「そう言えばオラリオの外からやって来たので知らないんですね。ベルさん、怪物祭(モンスターフィリア)は【ガネーシャ・ファミリア】と管理機関(ギルド)が主催するフィリア祭の催し物なんです。」

 

「【ガネーシャ・ファミリア】と管理機関(ギルド)が?」

 

【ガネーシャ・ファミリア】、象面を被った男神ガネーシャを主神とするファミリア。

規模は【ロキ・ファミリア】や【フレイヤ・ファミリア】にも負けず、都市の治安維持を担うことから『都市の憲兵』とも綽名されている。

 

「はい、その二つの組織が主催しているこの催しですが名前の通り怪物(モンスター)が関わっています。」

 

怪物(モンスター)が? 大丈夫なんですか?」

 

怪物(モンスター)は凶悪な生物だ。下級のゴブリンやコボルトは現在でこそ駆け出しでも容易く撃破することができるが千年以上の過去、所謂古代と呼ばれた地上が怪物(モンスター)で溢れかえっていた頃は勝手が異なっていた。

 

例え最下級のものであっても人類を容易く蹂躙しており、対応するには訓練を受けた兵士でなければならなかった。オラリオによって大穴が閉じられた現在でも小さな村が怪物(モンスター)に蹂躙されることは普通に存在し、怪物(モンスター)が危険視されていることに変わりはない。

 

「はい、【ガネーシャ・ファミリア】にはたくさんの優秀な調教師(テイマー)がいますから。」

 

ベルはそれを聞いてなるほどと思った。

 

調教師(テイマー)とは怪物(モンスター)の調教を行う者達のことだ。

怪物(モンスター)調教(テイム)は難しい。そのため調教師(テイマー)は都市内外を問わずに珍しい存在なのだ。

 

実際にベルや故郷の村人たちは見たことが無く、かつてオラリオにいたという義母や祖父たちだけが知っていた。

 

「……すいません、シルさん。お金を稼がないといけないので……。またの機会で良いですか…?」

 

ベルは申し訳なさそうにシルへ伝える。

シルも駄目元で誘っていたため、特に嫌な顔をすることなく、ベルの答えを受け入れる。

 

「仕方ないですね……。また今度デートに連れて行ってもらいますからね。」

 

「ありがとうございます……ってうぇぇ!? ちょっ、シルさぁん!?」

 

ベルは驚いて、シルへ詰め寄ろうとするもシルは一足先に群衆の中へ入っていき消えてしまった。

一人残されたベルは顔を赤くして呆然とするしかなかった。

 

 △▼△

 

しばらくして赤くなった顔色が肌色に戻った頃、ベルは当初の目的を思い出し迷宮(ダンジョン)へ向かおうとする。

 

―――その瞬間のことだった。

 

突如、群衆の方から大きな叫び声が、それも複数の声が響いた。

原因とは少し距離がありベルの場所からはただ砂埃が上がっているくらいしか見えなかった。

 

「ガアアアアアアアアッ!!」

 

凄まじい咆哮が青空を揺らす。

特にその咆哮に異能があった訳ではない。しかしその瞬間、その場にいた誰もが静止した。

いや、せざるを得なかった。その場にいた全員が察したのだ。

 

純然たる"力"の差を。

 

そしてそれは武装し、鍛錬を積んだベルであっても例外ではなかった。

そして既に戦場と変わったこの場では命取りとなった。

ベルは何かを知覚する間もなく、盛大に吹き飛ばされた。

 

「ごほっ、がはっ……。」

 

壁をブチ抜く程の攻撃を受けながら何とか立ち上がり、息つく間もなく襲い掛かる次撃を回避する。

ここで初めてベルは敵の正体を認識した。

 

全身はくすんだ銀の体毛で覆われていた。顎には鋭い歯が幾つも並んでおり、瞳は血のように赤く凶暴だ。

そして引きちぎられた鎖のついた腕輪と首輪をつけている。

 

「し、銀の野猿(シルバーバック)……。」

 

離れた場所にいた誰かがそう呟いた。

そう、獣の名は銀の野猿(シルバーバック)

迷宮(ダンジョン)上層でも一、二を争う強敵。

 

「ガァルルル……。」

 

獣は目を細め、眼前の獲物に狙いを定める。

全ては己の欲を満たす、唯それだけの異端とも言うべき理由のために。

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