ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかif 白兎と雷花の残響・残香   作:青色のラピス

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第三十話 ヨルドvsオッタル

「【励起せよ祭壇(せいか)、不滅の奇跡を此処に。】―――【フェネクス・ドライブ】!!」

 

『詠唱』を終えると同時にヨルドの全身から炎が溢れ出す。

全てが『聖火』であり、今の彼は正真正銘『炎の魔人』といった様子だった。

 

「【フェネクス・ドライブ】……。『増幅魔法』か。」

 

オッタルの言葉通り、【フェネクス・ドライブ】は増幅魔法だ。

強化魔法ではなく、体内にストックされた『聖火』の量を増やす『増幅魔法』。

『聖火』の威力を増すのではなく、数を増やすことで圧倒する物量に比重を置いた『魔法』である。

 

「ああ、増やすことしかできない『魔法』だ。……つーか、何で俺の『魔法』知ってんだよ。」

 

「お前達の情報は全て頭に叩き込んでいる。何時か、お前達全員を乗り越えるために。」

 

「はッ! ファミリア運営もできない癖に余分な知識貯め込んでんじゃねえよ!」

 

振るわれる大剣。

『聖火』によって強化されている膂力は凄まじく、獣人であるオッタルを一歩引かせる程だ。

だが、オッタルの肉体に届いた訳では無い。

武人の握る大剣にぶつかり、その衝撃で退かせただけだ。

 

両手で大剣を握り、鎬を削り合う鍔迫り合いの状態で膠着状態になる。

 

「俺相手に悠長に鍔迫り合いできると思っているのか!?」

 

ヨルドの大剣《バルローグ》が赤く輝き、オッタルの大銀塊を融かさんと灼熱を放つ。

流石に回避は出来ず、炎撃をモロに食らうオッタル。

 

しかし直撃したはずなのに戦闘衣(バトルクロス)はおろか、素肌に火傷一つついていなかった。

 

「……頑丈な奴め。ザスかガンガドロか、お前は。」

 

思わず悪態を零すヨルド。

しかし、オッタルはその悪態に対して言葉ではなく、剣戟を以て返答とした。

轟音と共に大銀塊が受け止められる。

 

幾度もの剣閃が生まれ、火花が散らされる。

だが、煌びやかな戦場とは対照的にオッタルの心中は少しづつ暗くなっていた。

表情には決して出ておらず、僅かな雰囲気でしか察せず親しい者のみが理解できる程だった。

 

「……。」

 

「おい、コラ。何か言いたいなら言いやがれ。生憎、副団長(アリウス)みたく剣で語り合うなんて真似は出来ないんだよ。」

 

激しい剣戟の雨の中、軽口を言う様にヨルドはオッタルに文句を付ける。

オッタルはしばし逡巡した後、その文句に対してこう言言い返した。

 

「いや。―――お前はこんなにも弱くなったとそう思っているだけだ。」

 

そして再度振るわれる大銀塊。

薄っすらと黄金の光を纏っており、先程とは比にならない威力を宿している。

今までがお遊びと言わんばかりの威力だった。

 

(ッ!? 流石にコレは――――――!!)

 

受けるのではなく、回避しろとヨルドの直感が告げる。

 

そしてその直感は正解だった。

体勢も構えも戦術も何もかもを無視した回避行動により辛うじて難を逃れたのだ。

そして難を逃れたヨルドが目にしたものは深く、そして鋭く抉れたダンジョンの岩盤だった。

 

力任せに叩きつけたのではなく、一点に全力を集中させた一撃。

無駄な破壊などなく、過剰とも言える威力を一点に集中させることで効率よく相手を破壊する『絶技』。

そしてヨルドはその『技』を知っていた。

 

「……その光は間違いなく『闘気』によるもの。そしてその『技』は【破獄】。お前、まさかとは思うが……!」

 

「ああ、七年前にアリウスを倒した際に受け継いだ力だ。そして奴の『技』―――『極技』も受け継いでいる。」

 

「あの教育馬鹿の老人……! 死ぬ間際でもそれかよ!」

 

仮面の下で表情を歪ませるも恨み言を言う相手は既にこの下界には存在しない。

いや、そも恨み言を言っている場合ではなかった。

 

「では、終わりにしよう。ヨルド。」

 

「……ああ、そうだな。時間がないんだ。さっさと終わらせてやる!」

 

再び大剣を構えなおす二人。

だが最初の時とは異なり、オッタルの大剣には淡い光が。ヨルドの大剣には燃え盛る業火が纏っていた。

そして全身の筋肉が膨張し、喉から戦意が溢れ出す。

後先の考えていない全力。

お互いがお互いを討ち果せねば意味がないからだ。

 

「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」」

 

ダンジョンに響く戦哮(ウォークライ)はそれだけで迷宮を揺らす。

更に叩きつけられ、剣脊を削り合う大剣の音もそれだけで衝撃波を起こし、岩盤に罅を入れる。

 

Lv.6とLv.7。

共にオラリオにおける一角の猛者。

地上なら都市全域に響き渡るであろう轟音を鳴り響かせ、お互いの命を貪っていた。

 

幾度となく剣戟をぶつけていると、急にヨルドが後退する。

片手には炎の塊が生み出されており、撃ち合いを狙っていた。

 

「燃え尽きろ、【焼の輪】!!」

 

「【空裂牙】!!」

 

生み出される炎の戦輪(チャクラム)

『征伐の聖火』で生み出された刃はオッタルを両断せんと、襲い掛かる。

 

だがオッタルも負けてはいない。

己の生命力を纏わせた大剣を振るい、猛獣の牙を飛ばす。

 

生み出された数はヨルドの三に対してオッタルは一。

剣戟を飛ばしたが故に範囲はオッタルが勝っていても、軌道の定まらない戦輪(チャクラム)を捉える事は叶わず、攻撃を受けてしまう。

 

中距離戦はヨルドの有利だった。

なら接近して破砕するしかないとオッタルが突撃を始める。

大剣だけに纏わせていた『闘気』を全身にまで及ばせる。

薄い膜でしかないが、気休めにはなる程度の防御力はあった。

 

オッタルの突撃に対してヨルドは受け止めることを選択する。

後退しようにも今のオッタルは追い付くまで突撃を敢行するだろう。

そうなれば逃げる獲物とそれを追う狩人という構図になり嬲り殺しになると考えたためだ。

 

「まあ、その勢いは殺すがな! 【大炎海】!」

 

灼熱の海を召喚し、真紅の津波でオッタルを飲み込む。

やはり猪は突進を止めることは無い、だが目論見通りオッタルの勢いを少しは殺すことができた。

 

「―――ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

振るわれる大剣。

振るうその直前に全身を覆っていた『闘気』を大剣に移し、黄金の斬撃を放つ。

 

力任せに振るわれた一撃。

だがそれだけだ。誇るべき『技』は無く、正真獣の爪牙と変わりは無かった。

 

「純粋な暴力が相手ならァ!」

 

ならばどうとでもできる。

如何に強力でも神ならぬ人の身ならば何処かしらに欠点があることをヨルドは知っているからだ。

 

(一々『闘気』を移しているという事はアリウスと違って、この猪は全身を覆う事ができない! 練度は圧倒的に下! ならばやりようはある! 『闘気』による身体強化や防御ができず、武器の保護及び強化だけなら留意すべきは『極技』に【黄金猪の毛皮(ヒルディス・ヴィーニ)】の合わせ技!)

 

完全とはいかなかったが、ヨルドの推察は当たっていた。

オッタルが新たに得た『発展アビリティ』は『闘魂』。

『闘気』を含む幾つかの『希少(レア)アビリティ』を複合したもの。

比較対象が悪いが、半世紀近く鍛えられた武技と比べればお粗末なものだった。

 

「ウオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

大剣を捻り、思い切りオッタルの胴体に叩き付ける。

灼熱を宿す刃は、ただ斬り裂くのではなく、溶断という結果をもたらす。

 

「ッッ!!?」

 

「一々、手前を打ち合っていられるかよ! だったら真っ二つにして中から丸焼きにしてやるさ!」

 

火花が走り、オッタルに中身にも熱が走る。

焼ける、焼けている。

都市最強の内外を問わずに焼き焦がしていく。

 

『深層』でも滅多に現れないであろう炎熱。

限られた者しか発現しない『奇跡』。

数多の強者を下した業火。

それが本気の火力でオッタルを飲み込もうとしていた。

 

「ッッ……――――――ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!」

 

だが、オッタルの斬撃を止めることにはならない。

『頂天』を望む彼の精神力を屈するにはまだまだ足りていなかった。

振るわれた獣の爪牙は確かにヨルドを真っ二つにする。

肩から股へかけて一直線に斬られていた。

 

「……ッ!」

 

終わった。こうなれば生きている者は誰もいない。

オッタルの知る限り、両断されてなお動き回る生物はモンスターのみ。

人類はこうなれば死ぬのみだとオッタルは確信していた。

 

その証にヨルドの全身からは一切の覇気が失われている。

力も抜けており、今にも倒れそうだった。

それを悲しそうにオッタルは眺めながら、呟いた。

 

「……俺が先に進み、お前は其処にいただけなのだろう。だが―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――なぁに、終わった気になってるんだよ、猪小僧!」

 

驚く暇も与えずに剛腕がオッタルの首を掴む。

切断されずに繋がっていた腕がオッタルの首を確かに掴んでいた。

 

「左腕だけだと思ったか? 馬鹿野郎。俺の異名を忘れたのか!?」

 

「【不死鳥】……。まさか、お前は―――!?」

 

「ああ、どうだよ! 文字通りの意味だったのさ!」

 

切断されたはずの半身が『浄罪の聖火』に導かれ、あるべき姿に戻る。

一瞬で全身を取り戻したヨルド。

再び大剣を振り上げ、オッタルに振り下ろす。

 

流石に密着した状態では剣腹での防御はできず、やむを得ずに腕で刃を防ぐ。

流石にヨルドでもオッタルの腕を切断することはできず、受け止められて剣は動かない。

 

「……ったく、本当に硬いな。」

 

「まさか、本当に不死身だとはな。」

 

「いや、不死身(そいつ)はもう昔の話さ。竜に焼かれてな。即死したらもう御終いだ、よ!」

 

オッタルの腕払いとヨルドの振り上げ。

お互いに仕切り直しだった。

ヨルドもオッタルも大技だったり、意表を突かねば決着を付けることができない。

 

さて、どうしたものかと二人は思案する。

わざとらしいまでの大技は妨害されることは間違いなく、意表を突こうにも岩盤で構成された階層ではどうしようもない。

 

(……クソッたれが。予想以上に時間を使わされている。今からコイツを振り切るか? いや、無理に決まっている。直ぐに追いつかれる。……この猪め、一体どれだけ鍛えた? 『技』に『肉体』、『精神』。認めたかないが極まっている。下手を打った瞬間、一撃で即死だな。かといって、真正面から打ち合うのは……。)

 

「―――【銀月(ぎん)の慈悲、黄金(こがね)の原野。】」

 

最悪だとヨルドの表情が強張る。

いっそ荘厳なまでに唱えられる『詠唱』にヨルドは戦いの主導権を奪われたことを察した。

 

レベルの差を覆すことがどれ程難しいのかを彼は良く知っている。

そしてそれが上位になればなるほど困難さが飛躍的に伸びていくことを経験則から理解していた。

 

オッタルは撃ち合いを望まない。

オッタルが狙うのは斬り合い。

大剣を大剣をぶつけ合う、純粋な力比べなのは明白だった。

 

「―――【聖火は落ち、我が身は永遠(とわ)へ指をかけた。】」

 

ならば仕方が無いとヨルドも『詠唱』を始める。

そして更にオッタルに対して攻撃を仕掛けた。

目的は明白。『魔法』発動の妨害だった。

 

「【この身は―――ッ!?」

 

「【故に我は死なずの朱雀、灰と炎を循環する紅蓮の鳳凰。】」

 

通常と何ら変わらぬ猛攻。

オッタルのように防御と詠唱だけに絞らず、完璧な『並行詠唱』を整然と行う彼はやはり『最強』の一角だった。

一瞬、オッタルの詠唱が()()()

そしてヨルドの『詠唱』が加速する。

 

「【加速せよ魂の鼓動、その鼓動を共有するは心の臓。】【励起せよ祭壇(せいか)、不滅の奇跡を此処に。】―――【フェネクス・ドライブ】!」

 

再び『聖火』が増幅され、男の内部に留まらない程に溢れ出る。

『征伐』が戦力を強化し、『浄罪』が害悪を消し去っていく。

消耗したはずの活力は元に戻り、武器防具の傷すら見当たらない。

 

だが、だからとってオッタルもまた止まらない。

態勢を立て直し、すぐさま『魔力』の制御を安定させる。

そして再び詠唱を再開させた。

 

「―――【聖火は落ち、我が身は永遠(とわ)へ指をかけた。】」

 

そして再びオッタルは先程聞いたはずの一節が耳朶を打った。

だが驚愕する間も無ければ、悠長に言葉を交わす余裕もない。

 

「【この身は戦の猛猪(おう)を拝命せし】!」

 

「【故に我は死なずの朱雀、灰と炎を循環する紅蓮の鳳凰。】【加速せよ魂の鼓動、その鼓動を共有するは心の臓】!」

 

激しい攻防と共に歌われる戦士の歌。

妖精のものとは違い荒々しく、決して雅さなど感じられない。

だがそこには確かに、決して朽ち得ない戦士の誇りがあるのみだ。

 

「【駆け抜けよ、女神の真意を乗せて。】―――【ヒルディス・ヴィーニ】!」

 

「【励起せよ祭壇(せいか)、不滅の奇跡を此処に。】―――【フェネクス・ドライブ】!」

 

完成する『強化魔法』と『増幅魔法』。

片や剣戟を強化するだけの『魔法』。

片や炎を増やすだけの『魔法』。

 

それ単体では脅威とならず、積み重ねた『経験』によって生み出された『技』と『駆け引き』こそが彼等の真髄なのだ。

 

これまでから一転し、静謐が場を包み込む。

僅かばかりの瞑想で精神を統一し、己の全霊を注ぎ込む二人。

 

漲らせた戦意や殺意を収束させ、大剣にそれらを統べるオッタル。

聖火を大剣に抑え込み、内部で反射させ、さらなる増幅をするヨルド。

 

―――そして、決着が来る。

 

「―――【破断・炎王剣】!」

 

速かったのはヨルドだった。

 

《バルローグ》に集め、増幅させた『聖火』を振るう。

最早限界まで内部反射で増幅された炎は、飛ばされた剣戟と共に外の世界に解放された。

一瞬で本来の姿にまで膨張し、超大型級をも飲み込まん程の攻撃規模(スケール)

 

これを喰らえば流石の【猛者】といえでもタダでは済まないだろう。

 

「―――【山崩し】!」

 

だから当然、オッタルはそれを迎え撃つ。

剣身ではなく、敢えて剣腹を表に構えて叩き付ける。

頑丈な部位に集中された『闘気』は、その武器の剛性を高め、極限まで破壊力を高めていた。

 

岩盤を撫でながら進む炎の濁流とそれを討ち砕かんとする黄金の剣。

 

最早(ページ)の中で筆墨(インク)に綴られても不思議ではない幻想。

 

二人の戦士が今まで積み重ねた全てが、今ぶつかった。

 

「「――――――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!」」

 

 

一瞬の均衡。

しかし。

 

波状攻撃と一点集中攻撃。

Lv.6とLv.7。

 

この差がこの激突の明暗を分けた。

 

「があああああああああああッッ!!」

 

己の獣性を戒める事無く暴力性を解き放つオッタル。

膨れ上がった剛腕と共に振るわれた大剣は黄金の光を撒き散らしながら炎の波を打ち払った。

 

眼前から炎が消え失せていくのを見ながらオッタルは大銀塊を握り直す。

少し先には大剣の切っ先を下ろし、地面に視線を落としているヨルド。

止めを刺すべく、黄金の剣を叩き込みに行く。

 

「―――終わりだ。」

 

まるで処刑人の様に。

あるいは指先一つで全てを握る権力者の様に。

もしかしたら口先一つで全てを殺し尽くす独裁者の様に。

 

オッタルはヨルドに死刑(まくひき)を宣告する。

 

 △▼△

 

黄金の光が近づく。

次の両断されれば今のヨルドなら呆気なく息絶えるだろう。

 

そんな中、どうして此処まであの少年に肩入れするのか考えていた。

 

失った左腕と左足に鈍い幻肢痛が走る。

加速する血流がささくれ立つような苦しみを運ぶ。

潰れた左目が焼き付いた光景を再送する。

 

己等の『英雄』を失い、団長を失った。

そして未来の象徴とも言える二人すら失った。

意味も意図も何もかもを失い、失意の底に落ちた。

 

まるで頸木だ。

後悔と失敗が何時までも自分を痛めつけていた。

茨に縛られて全身が鬱血し、端々が腐っている。

 

(なのに、なのに何で俺は此処に居る?)

 

都市から逃げ出し、己等に課せられた全てから見ないふりをしたあの日。

全ての歯車が狂ったあの日。

騎士でなければ兵士でもない。

あらゆる制約と無縁な冒険者だと誤魔化して地面に俯き続けた。

 

想起されるには七年前。

あらゆる事象のターニングポイント。

あの日、あの時、抜け殻でしかなかった自分は何を言われた?

 

『―――ヨルド、格好悪いより格好良い方が良いだろう?』

 

(確かに負けは惨めだよ。)

 

幾度となく被った汚辱の泥。

それは冒険者である以上、一度は被るもの。

例え『最強』の一角であっても変わらない。

 

(―――でも恥じゃない。)

 

人は痛み無くして成長できない。

失敗、敗北、喪失。

耐え難い苦痛を糧に人は再び立ち上がるのだ。

 

つまり、苦痛を得る事は必ずしも悪い事だけではない。

 

(一番惨めで恥ずかしいのは……負けたままな事だ。)

 

だけど、苦痛に屈し、蹲ったままでは駄目だ。

打ちのめされた壁に向き合う事もなく逃げ続ける事も駄目だ。

戦略的撤退や雌伏の時を過ごすのは良い。

何れ来るべき時を見つけ、それに備える事は悪くはない。

 

「それに……あの子の親を失わせたのは俺達の過失だったしな……まあ、もう一度くらい立ち向かわなきゃ駄目だろうさ。」

 

前を睨む。

仮面越しにオッタルを、いや此処にはいない()()を見る。

幻視するのは黒い怪物。

竜鱗に覆われ、地獄の炎を噴く終末。

 

「だから、俺の為にもどいてもらうぞ。猪小僧。」

 

再び『聖火』が活性化する。

《バルローグ》が炎上する。

剣に秘められ、残っていた全ての『聖火』だ。

 

「―――【破牢・炎王剣】!」

 

再び、炎剣が振るわれた。

 

 △▼△

 

「―――【破牢・炎王剣】!」

 

振るわれた炎剣に対してオッタルは動揺しなかった。

寧ろ、それでこそだと思っていた。

 

彼が見上げ続け、焦がれた場所は()()()()()()()()()からだ。

不可能だと錯覚させ、何度も膝を砕いたあの圧倒をオッタルは望んでいた。

頂に立ちながらも、未だに頂を目指し続けるその姿勢。

正に冒険者の『頂天』というべきに相応しかった。

 

「【剛刀一閃】!」

 

赤緋塊と大銀塊。

灼熱を宿す剣と黄金毛皮を纏った剣。

たった一撃。

されども全力全快。

先程と変わらぬ豪快無双。

 

ならばこそ、『迷宮(ダンジョン)』が揺れる。

攻撃による直接の衝撃か、はたまた発生した爆発によるものか。

いずれにせよ地下世界が振動し、複数階層にその影響が伝わる。

 

だが、その中心での拮抗は崩れていない。

鍔迫り合いになったまま二人の男はまるで動かない。

 

だが、何事には終わりが来る。

奇跡的な均衡は崩壊の兆しを見せた。

武器が欠け、鍔迫り合いに優勢ができたのだ。

 

「終わりだぁあああああああああッッ!!」

 

そして、歴戦の冒険者がその好機を見逃さない。

高速で獲物を振るい、胴体を袈裟に斬り裂く。

 

斬り裂かれた傷は焼き尽くされ、血が吹き出ない。

だが、体内まで高熱が通り暴れ狂ったのは確かだった。

外から見れば万全に見える剛躯も、その中身は焼き焦げて真っ黒だ。

 

現に―――オッタルは膝を地面についている。

 

「……俺の負けか。」

 

だが、敗者は彼ではなかった。

ヨルドの手から大剣が落ちる。

限界をとうに越え、体力の精神も尽きた男は虚しく前のめりに倒れた。

 

「いや……俺の負けさ。」

 

オッタルの勝ちだった。

何故なら、オッタルは最後に立ち上がったからだ。

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