ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかif 白兎と雷花の残響・残香   作:青色のラピス

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第三十一話 合流

「……そうだな。俺の、勝ちか。」

 

「……ああ、お前の勝ちだ。」

 

倒れ伏すヨルド。

そしてそれを見下ろすオッタル。

勝者であるはずのオッタルに達成感は無く、敗者であるはずのヨルドには清々しさがあった。

 

明らかな決着だった。

異常とも言える生命力を発揮し、レベル差を覆さんと藻掻いた行為の残酷な結果だった。

 

だけども当人たちの感情はまるで通常とは異なって見える。

 

「……やるじゃないか、小生意気なチビと違って強さか取り柄のないお前は違うな。」

 

「……。」

 

敗北したというのにヨルドの調子は変わらない。

体中から、口腔からドス黒い血液を零しながらも、飄々さを隠すは無かった。

十五年前と同じようにオッタルを下に見て、彼を子供扱いしている。

 

「……お前で、()()()だ。」

 

「そうか。まあ、頑張れよ。」

 

会話もそこそこに盛り上がる事は無く、オッタルが再び大剣を構える。

倒れているヨルドに止めをささんとしているのだ。

目を瞑り、それを受け入れようとしているヨルド。

邪魔は無く、その刃は正に断頭台(ギロチン)の刃だった。

 

「―――待てよぉ。俺達の物語はまだ終わってないんだぜぇ?」

 

ただしそれは、ヨルドの終わりを認められない者がいなければ、という仮定の下に成り立っているのだが。

 

錬金王(アルケミーマイスター)】ホーエンハイム、乱入。

 

 △▼△

 

時は少しだけ遡る。

 

長々と続く冒険者の流れに付き従う形で【ヘファイストス・ファミリア】の上級鍛冶師(ハイ・スミス)達が迷宮の奥深くへ進んでいく。

【ロキ・ファミリア】が前回の『遠征』にて冒険者や武器を問わずに溶かす怪物(モンスター)に遭遇し、その対処の為だった。

腕の良い鍛冶師ならば例え迷宮の中でも材料と道具さえあれば直す事ができるからだ。

 

それに冒険者の手入れと鍛冶師の整備はまるで違う。

『深層』での探索での武器の消耗を押さえるという狙いもあった。

【ロキ・ファミリア】からの依頼という形である為、報酬として『下層』や『深層』といった貴重な戦利品(ドロップアイテム)が提示されているため、鍛冶師たちはやる気に満ちた表情をしていた。

 

だからこそ一人だけ、たった一人だけ沈んだ表情で大荷物を背負う男はとても目立っていた。

 

「……どぉしてぇ、こんな事にぃ……?」

 

「こんな事とは失礼な奴だ。暇そうにしているからお主を態々『遠征』に連れて来てやったというのに。Lv.2にも成れていない下級鍛冶師(レッサー・スミス)なら泣いて喜ぶぞ?」

 

「……ならそいつらを連れてけよぉ。俺は別に嬉しくもいぃ……。」

 

片眼を眼帯で覆い、腰には立派な太刀を佩く褐色の女鍛冶師に痩せぎすの白衣を羽織った男が毒づく。

ハーフドワーフであり、稀代の鍛冶師にしてオラリオ最高位の最上級鍛冶師(マスター・スミス)は椿・コルブランデ。

単眼の巨師(キュクロプス)】の異名を持つ名鍛冶師である。

 

そして毒づいている男は鍛冶師(スミス)であり薬師(ハーバリスト)魔道具職人(アイテムメイカー)など様々な生産系職業の肩書を持つ、言うなれば生産者(プロデューサー)となるのだろうか。

多方面への才能を発揮し、その全てを一流とも言える領域まで磨き上げた鬼才だ。

名をホーエンハイムと言う。

 

「まあ、確かにそうかもしれんが。だが、今となっては『深層』に出向くのも儘ならんだろう? なら、丁度良い機会ではないか。」

 

「……どうせ何か面倒事を押し付ける気だろうにぃ……。」

 

「まあ、そう言うな。【ゼウス・ファミリア】の名が泣くぞ、【錬金王(アルケミーマイスター)】。」

 

そう言われては溜息を吐くしかない男、いやホーエンハイム。

嘗ては最強派閥にて己が技工を極める傍らに強者たちと鎬を削っていた。

 

「しかしまあ、鍛冶工芸を極めるために本業そっちのけで闘争に身を置くとはな。それでよくその領域まで辿り着けたものだ。」

 

「まあ、【ゼウス】に入る前は色々な派閥を渡り歩いていたぁ。一、二年だが、それだけあれば大体は掴めるぅ。それに『恩恵』を伸ばす方が手っ取り早かったしなぁ。」

 

昔を思い返すように遠い目をするホーエンハイム。

脳裏に浮かぶ懐かしい情景に想いを馳せるが、直ぐにそれも霧散する。

どうしても先頭にいる冒険者達に気を取られてしまうからだ。

そして先頭で冒険者達を率いる彼等もホーエンハイムを気にしているのかあからさまではないが警戒しているのは確かだった。

 

「……やっぱり警戒されているぅ。はあ、面倒だぁ……。」

 

「まあ、仕方あるまい。あやつらはお主等を追い落としたのだ。何時その座を奪還しに来るか気が気ではないのだろう。」

 

「別に恨んじゃねえよぉ。それにやるんだったらもっと真面にやるさぁ。」

 

―――その時、迷宮が揺れる感覚が冒険者達に走った。

 

いや、感覚ではなく実際の衝撃が彼等の全身を通り抜ける。

先頭を歩む冒険者に、その後ろを続く鍛冶師に関係がなく通り抜けた。

 

「……何だ? 『迷宮(ダンジョン)』に異変でも起きたのか?」

 

「違うぅ。迷宮が鳴動するならもっと悍ましいはず……それに『娘』が反応するはずだぁ。大方、第一級冒険者が殺し合っているんだろうぅ? 脳筋(パワータイプ)同士なら閉鎖空間を揺らす位、訳ないはずだぁ。」

 

「第一級同士の殺し合いか……。まあ、Lv.5以上の眷属はこの都市に50人はいる。【ロキ】や【フレイヤ】、【ガネーシャ】といった最上位がその多くを握っているとはいえ、それ以外で対立している有力派閥は多い。表立っての抗争こそ無いが管理機関(ギルド)の目が無い『迷宮(ダンジョン)』の内部ならあり得なくはない、か。」

 

「態々面倒事に首突っ込む事もないだろうぅ。どうせ、あのチビ助だって無視していくだろうさぁ。」

 

ホーエンハイムの言う通り、フィン達は揺れの原因を探る事無く『遠征』を続ける事に決めていた。

矢張り無用な面倒事を背負うのは勘弁なのだろう。

特に、『迷宮(ダンジョン)』を揺らすような特級戦力とぶつかると仮定すると損耗を避ける事は不可能だろう。

そうなれば膨大な費用を投じた『遠征』が失敗する可能性が高くなり、何より死傷者が発生する可能性もある。

金銭の損害はまだ何とかなるが人材の損害は金銭以上に回復が難しい。

単純に時間や労力もあるが、個人の資質に関する『スキル』や『魔法』は再現性が無い。

つまり、一度失えば二度と戻らない可能性が高いのだ。

 

「何だ、つまらん。冷やかし位していけば良いだろうに。」

 

「頭のネジ飛んでるなぁ……。俺が言うんだから相当だぜぇ。」

 

そう言いながら進む間にも空間が揺れる感覚は止まらない。

それどころか、重く硬い武器がぶつけ合う音も聞こえ始めた。

小さい音は進むごとに大きくなり、無視しようにも強制的に耳に入り、どうしても気が取られる。

 

後ろ髪を引かれる感覚に抗いながら、進んでいると再び先頭が止まった。

また何かあったのか。しかし、未だ彼等彼女等が居るのは『上層』。

突発的なモンスターの大量発生である怪物の宴(モンスターパーティー)は起こるはずがなく、仮に大量のモンスターが雪崩を打っても【ロキ・ファミリア】ならば難なく通り抜ける事ができる。

 

「……こうまで進みが遅いと気にはなるなぁ。」

 

「まあ、確かにそうだな。……よし、冷やかしに行くか。」

 

「まあ、冷やかしなら良いかぁ……。」

 

椿という鍛冶師は止めた所で止まらない事を知っているホーエンハイムは何も言うことなくその背を追う。

なんやかんや言っても彼自身、何が起こっているのか知りたいという欲求はあるのだ。

 

「おお、いたいた。おい、ラウル! 一体どうした。さっきから全く動いていないぞ。」

 

「え、椿さん!? どうして此処にいるっすか!?」

 

部隊の最前であたふたしている青年に声をかける椿。

青年はラウル・ノールド。

超凡夫(ハイ・ノービス)】の二つ名を与えられたLv.4の第二級冒険者だ。

中堅派閥の団長でも勤める事ができる実力者なのだが、本人の気質もあってかどうにも目立たない。

寧ろ、弄られたりする苦労人である。

 

「で、どうして止まっている? 何かあったのか?」

 

「え、いやそういう訳じゃないっす。どうやら、猛牛(ミノタウロス)が『上層』にまで登って来たらしいっす。」

 

「……で、【勇者(ブレイバー)】達が駆除に行ったって訳かぁ。其処に居るパーティー、襲われたのかぁ? 随分、血みどろの娘がいるがぁ。」

 

「え、あ、はい。どうやら最初に襲われた二人一組(ツーマンセル)の片割れみたいっす。もう一人は残っているらしいっすけど。……というか、誰っすか?」

 

「し、仕方ねえだろ……! あんな怪物、どうしろってんだ!」

 

責められていると勘違いしたパーティーのリーダーが声を上げる。

まだ、恐怖に震えているのか声は上擦っている。

しかしそれを責める者は(性根の捻くれた狼(ベート・ローガ)がいないので)誰もいない。

自分達に当てはめた時、何もできない事を十分理解しているからだ。

 

「いや、責めちゃないさぁ。―――君は、よくやったよぉ。」

 

「……でも、白い髪のガキが戦っていたのに。俺は、俺達は……!」

 

脳裏にこびり付いた光景が拭えない青年は安全な場所に居るというのにガタガタと震えている。

周囲に居る冒険者はその様子を気の毒そうに眺めているが、一人だけは全く別の表情をしていた。

 

「―――おい、お前、今白い髪っていったかぁ?」

 

胡乱げな視線が真っ直ぐに青年を睨みつけている。

普段の気だるげな表情や態度からは想像できない程の真面目くさっかた顔だ。

 

「お、おい、ホーエンハイム。一体どうした?」

 

思わず椿もその様子に驚き、ホーエンハイムに詰め寄る。

しかし、そんな彼女をまるっきり無視して青年に質問を繰り返す。

 

「あ、ああ。白い髪だった。」

 

「武器はぁ?」

 

「ナイフだ。」

 

「階層はぁ?」

 

「九階層の大広間だ! 八階層と九階層を繋ぐ回廊に近い大広間だ!」

 

「あそこかぁ……! ちっ……階層をブチ抜いた方が早いかぁ!」

 

その瞬間、ホーエンハイムは背負っていた大剣型の『魔剣』を抜き放つ。

それだけで『魔剣』に込められた力は解放され、容易く階層を貫く破壊を引き起こした。

到底、劣化した『魔法』とは思えない威力に全員が閉口しているとホーエンハイムは大穴に飛び降り、一心に下りて行った。

 

 ▼△▼

 

「……【錬金王(アルケミーマイスター)】か。いいだろう相手にとって不足はない。」

 

「オッタル……。ちっ、最悪だぜぇ……。」

 

オッタルの大剣を弾くと、彼は追撃を諦めて後退する。

全身に火傷があり、戦衣(バトルクロス)も破けている。

彼が良く使うミスリルの大剣も傷だらけで激戦であったことを想起させる。

 

「……ホーエンハイム。俺が特攻する。」

 

「馬鹿野郎、お前もう動けないだろぉ。邪魔だからすっこんでなぁ。これでもお前と同じLv.6―――そうは遅れをとらんさぁ。」

 

ホーエンハイムが『魔剣』を構える。

勝ち筋は薄いが勝算はある。

 

魔道具使いである彼が誇るのは武技ではなく、有している道具類だ。

魔道具(マジックアイテム)は勿論のこと、『魔剣』や道具(アイテム)類に回復薬(ポーション)と奇々怪々な戦闘法が彼の真髄。

実直を体現したオッタルとは相性が良いのだ。

 

「……安心しろぉ。きちんと焼き豚にして腐れ女神に送り付けてやるさぁ。」

 

「俺が此処に居る事と主には何の関係もない。」

 

「飼い主ってだけで責任はあるものさぁ!」

 

その瞬間、ホーエンハイムが懐から魔道具を取り出す。

竜の石像だった。

複雑に絡む鎖に厳重に戒められている。

 

「『蛇竜(みずち)の涙』。」

 

ポツリと零した道具の名、そして発動句。

それだけで紫色に変色した流水が蛇のように蠢き、オッタルを縛り上げる。

『魔法』の力を持つ拘束はかなりのもので、【猛者】の渾身を以てしても喰い破れずに蜷局(とぐろ)を巻いている。

 

「ぬぅ……!」

 

「目覚めよ『沼の王国』。一切蹂躙せよ『無道無残』。」

 

地面に泥濘(ぬかるみ)が生まれ、オッタルの足さばきを奪う。

泥への圧倒的な支配権限を有する『沼の王国』は地下世界であってもその効力を遺憾なく発揮する。

本来ではない用途だが、次に控える魔道具を考慮すれば仕方が無い事だ。

 

「『無道無残』だと……!」

 

大気中にて不気味な点滅を繰り返す光球の存在を認識するや否やオッタルの抵抗は激しさを増す。

歯を食い縛り、筋肉を隆起させる。

顎を噛みしめ、牙と牙が擦れて不快音を響かせる。

隆起する筋肉は拘束を飲み込まんとする程膨張を続けている。

 

しかしそれほどまでにあの光球―――『無道無残』は危険な代物なのだ。

 

「慎重さが身を滅ぼ―――なぁっ!?」

 

「ゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」

 

拘束を破壊し、ホーエンハイム目掛けて爆走するオッタル。

鋼の如き肉体と大柄な体躯はそれだけで破壊力を有し、六度の昇華を果たした『恩恵』と組み合わさるだけで圧倒的という形容詞が付く程には。

当然、枯れ木の様な身体をしたホーエンハイムにその暴威から留まることなど出来はしない。

 

「ッ! 《雷花》!」

 

体当たりを喰らい、その剛腕に首を掴まれるもすぐさま『魔剣』を炸裂させる。

雷鳴が轟き、猪の体躯を焼き焦がす。

だが、ヨルドの『聖火』を喰らっても死ななかった男に劣化魔法程度では動揺させることもできない。

 

「『無道無残』を解除しろ。」

 

「……じゃあ先に手を放せぇ。」

 

「それはできん。お前が先だ。」

 

しばし、沈黙が場を支配する。

オッタルが元いた場所は抉れており、その中心に光球が不気味な点滅を繰り返している。

未だ予断を許さない状況である事に変わりは無く、オッタルも気が抜けない。

だがそれは首筋を握られているホーエンハイムも同様である。

 

一言も言葉が発せられる事は無く、静謐に時が過ぎていく。

時間経過は今のヨルドとホーエンハイムの大敵だ。

 

(……ちっ、ヨルドの奴が回復した以上、この猪諸共自殺するかぁ。)

 

だからこそ、平気で自爆を試みる。

視線をやれないが、ホーエンハイムの記憶では一分もあれば全快するのが【不死鳥】だ。

気がかりは『無道無残』でヨルドも殺してしまう可能性だが……。

 

しかしそれを気にしていられない。

兎にも角にも眼前の邪魔者を消し飛ばす、それを達成するために――――――

 

 

「―――そこまでだ。オッタルに【ゼウス・ファミリア】。」

 

 

視線が一点に集まる。

ヒューマンの少女でもなく、女戦士(アマゾネス)の双子でもなく、王族妖精(ハイエルフ)の魔導師に狼青年でもない、小人族(パルゥム)の勇者に。

金髪碧眼、容姿端麗の少年程の体躯をした冒険者の声はよく通る。

 

「何があったのか分からないけど……僕達は下に行きたいんだ。だから、どいてくれないかな? それか戦闘行為を中断して欲しい。」

 

フィン・ディムナの要求は至極当然と言えばそうだが、いきなり割って入って来た者が言う台詞では無かった。

だからオッタルもホーエンハイムも悩む。

単純にフィンが気に喰わないという事もあるが、眼前の存在が大人しくするのかが信頼できないからだ。

 

だけど、此処で【ロキ・ファミリア】との抗争をする方が面倒だと二人、いや三人は考えた。

オッタルは掴んでいた首筋を話し、ホーエンハイムは光球を消した。

邪魔が消えるや否や誰にも用はないと言わんばかりに激走するヨルド。

 

「……うーん、まさか彼があそこまで余裕がないとはね。」

 

「……はぁ、まあ、訳は分かるがなぁ。」

 

「……面白いものが見れた。これで満足という事にしておこう。」

 

その光景に三者三様の答えを出しながら、それぞれの目的地に向かって行くのだった。




フィン「ところで【錬金王(アルケミーマイスター)】。僕達より後ろにいたはずなのにどうして僕達よりも先にいたんだい?」

ホーエンハイム「階層や壁ぶち抜いてきたぁ。」

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