ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかif 白兎と雷花の残響・残香   作:青色のラピス

35 / 43
第二話 『悪』の宴

とある夜。

 

オラリオに所属する上位派閥は軒並みが管理機関(ギルド)を旗印とする闇派閥(イヴィルス)殲滅作戦に参加していた。

普段の不仲さをまるで感じさせずに団結しており、この事実はこれからロイマンにダメージを与えていくことは明白だった。

 

全ての人員が位置に着く。

そして流麗としか言えない動きで瞬く間に拠点を制圧していく。

 

経過は順調だった。

……いや、()調()()()()

 

大きな爆発が発生した。

闇派閥(イヴィルス)の策、死神(タナトス)の信徒による自爆が行われたのだ。

 

そして爆発が一つ、また一つと起きる。

最初に起こった爆発を呼び水に無数の爆撃が生まれていく。

 

倒壊する建物に飛散する亡骸。

そして木霊する人間の絶叫。

 

『正義』が砕けるさまを見て愉悦に浸り、『悪』は悪魔が如き下衆な嗤い声を上げる。

 

どれを狼煙としてかは定かでない。

しかし、事実だけを言うならば。

 

この日、この時。

オラリオ史上最悪の一週間―――『正義』と『悪』が紡ぐ『大抗争』が始まった。

 

ある者は現実と理想の格差(ギャップ)に苦しみ。

 

ある者は起こるであろう惨劇にて生まれる悦楽に唇を曲げて。

 

ある者はこれからの未来に想いを馳せて。

 

三者三様。

いる人間の数だけの思いを抱き、『世界の中心』は混沌へ身を委ねることとなる。

 

 △▼△

 

「何だ、何だ、こいつはあああああああああああ!!?」

 

「止めろ……助け―――!」

 

「逃げろ、逃げろーーー!」

 

都市の南西。

多くの上級冒険者を要する上位派閥で構成された防衛網は一刻も持たずに壊滅していた。

 

路上を転がる冒険者の亡骸。

その全てが都市に名を馳せた上級冒険者だとは誰も思わないだろう。

 

正中線で両断された骸。首を刎ねられた骸。手足を斬られ出血多量で死んだ骸。

心臓を穿たれた骸。叩き潰された骸。バラバラにされた骸。

 

数えきれないほどの死因。

数えきれないほどの亡骸。

 

その原因は一人と一振り。

 

黒いマントをたなびかせ、一振りの長剣(ロングソード)を振るう。

前方右方左方後方。

()()()()()()()()()()()()()()、悠然と男は進む。

 

ふと向かう所敵なしと思われた男は不意に足を止める。

その瞬間、金属と金属のぶつかる高い音が鳴った。

高速で突き出された銀槍と同速で振るわれた長剣がぶつかったからだ。

 

「―――ッ!?」

 

男を襲撃した人物―――【女神の戦車(ヴァナ・フレイア)】アレン・フローメルは目を見開く。

『都市最速』の栄光を意のままにする彼にとってこの出来事は到底受け入れられないものだった。

 

『都市最速』―――これはオラリオの中で最も速い人物へ与えられる栄光。

当然、『都市最強』と名高いオッタルでさえも届かない頂だ。

手合わせ(リンチ)の時、不意打ちであれば【猛者】であっても()()()()()()()()()()

 

それなのにこの男は―――

 

「がは……ッ!?」

 

―――完璧に防御し、一瞬で反撃して見せたのだ。

 

その証拠にアレンの胴体は袈裟に斬られ、夥しい量の血を流している。

 

(……俺より、『速い』だと……!?)

 

余りの出血量と精神的衝撃(ショック)に動けずにいると後ろから男が一歩ずつ近づく。

何時でもアレンの首を斬り落とせるという位置で足を止め、いきなり口を開いた。

 

「……しまったな。どうも腕が鈍っている。確かに、子猫一匹斬ったはずだが……何でか生きている。―――オッタル、君もそう思わないか?」

 

男が振り返る視線の先―――錆鉄色の猪人(ボアズ)、【猛者】オッタルがそこにいた。

その場にいた冒険者の顔に僅かな希望の灯が燈る。

 

当然だ。

彼は現在の『都市最強』。

都市中のあらゆる強豪から羨望に畏敬を持たれる絶対強者なのだから。

 

しかし、そんな彼の鉄面皮は揺らいでいた。

余りの無表情さで気が付いていない者は多いが、同じ『ファミリア』の眷属やその主神であれば瞬時に見抜けただろう程に。

 

「……生きていたのか。」

 

「ああ、生きているよ。この通り、足もついているし、な。」

 

そうおどけて見せる男。

ますます強張っていく男の表情。

 

視線は完全にアレンから外れ、何の注意も払っていない。

その事実を受け止めた彼は怒りでどうにかなった頭をフル回転させ、どう轢殺そうか思案する。

 

が、しかし。

 

「―――退け、アレン!!」

 

それを遮ったのはオッタルの『命令』。

普段からは想像できない程の圧を乗せたその一声にアレンは不満さを隠すことなくこの場から離れる。

仮にも認めた男の必死な一言。

それを聞き流せるほどアレンは子供では無かったのだ。

 

「……追わないのか?」

 

「追う必要はない。結末は、変わらないのだから。」

 

「……分からない! 何故お前ともあろうものが闇派閥(イヴィルス)に加担し、俺達に牙を剥く!? お前ほどの男が、何故!?」

 

「戦う理由が無ければ剣を振るえないのか、君は? それに元来私は口で語るのは苦手なんだ。だから君も早くすると良い。」

 

そう言って男は剣を正面に構える。

所謂『正眼の構え』を取る。

真面な構えなだけあって無造作に剣を持っていた時以上にまるで隙を見せない。

 

オッタルもまた眼前の男との闘争から逃れられぬと知ると手は惜しまぬと切り札を切った。

髪がざわざわと揺らぐと同時に針金のように逆立つ。

顎に収まっていた牙は巨大化し、下顎から突き出ている。

筋肉が膨張し、ただでさえ巨体であったのに更に一回り大きくなっている。

 

『獣化』―――【戦猪招来(ヴァナ・アルガンチュール)】。

同じ第一級冒険者相手との殺し合いでも使わぬ『スキル』。

最早Lv.6を超え、Lv.7にも手が届こうかと錯覚する程の高みへ己を強化したのだ。

 

「【銀月(ぎん)の慈悲、黄金(こがね)の原野、この身は戦の猛猪(おう)を拝命せし。】」

 

―――続けて更に切り札を切る。

 

その切り札は『魔法』。

彼に許された最強の攻撃にして絶技。

 

「【駆け抜けよ、女神の真意を乗せて。】―――【ヒルディス・ヴィーニ】!!!」

 

黄金の光が大剣に宿り、オッタルが全力で振るう。

そして放たれた黄金は全てを破壊せんと突き進む。

 

対して男は何一つ口ずさむことなく、剣を上段まで上げる。

そして淡い光が剣を包み込み―――振った。

 

「『極技(ごくぎ)』―――【山砕き】」

 

凄まじい破壊が吹き荒れた。

たかが猪の突進など意味もないと言わんばかりの破壊が。

 

剣閃と剣閃がぶつかり凄まじい砂埃が舞う。

そして砂埃が収まった舞台にて、倒れ伏すは―――オッタル。

 

そして最強(かれ)を倒したのはアリウス。

【ゼウス・ファミリア】の副団長にしてかの派閥が誇るL()v().()8()

 

神々から賞賛されし男の異名は【超人】。

正真正銘の『最強』がそこにいた。

 

「……まあ、今の君じゃあこんなものかな?」

 

 ▼△▼

 

「矢張りエルフは脆い。王族ともなればそれは顕著じゃ。全く、もう少しくらい気張らんか。」

 

土の民(アンタら)と比べるのはどうかと思いますがね……。……まあ、噛み応えが無かったのは確かだが。」

 

「ド阿保、わしゃあ、ジジイじゃぞ。年寄りに負けちゃあ世話ないじゃろうに。」

 

都市北西にて地面に伏すのはドワーフの大戦士とハイエルフの魔導師。

そしてそれに相対するのは黒鉄(くろがね)に身を包んだドワーフの重戦士と身の丈程ある双剣を振るう小人族(パルゥム)の剣士。

 

【鉄人】ザス・タイソン。

蛮勇の牙剣(ブルーター)】フィル・ライガー。

どちらも【ゼウス・ファミリア】が誇るLv.6の歴戦の戦士であった。

 

「……ぐうぅ……ッ! ―――舐めるなァ!!」

 

蹂躙という屈辱に身を焦がし、ガレスが立ち上がり、大戦斧を振るう。

都市内であってもオッタルでしか受けきれない剛撃。

 

―――しかし、その一撃は容易く防がれる。

 

漆黒の前衛大盾(タワーシールド)であっさりと防がれていた。

担い手を一歩も引くことすら出来ず、むしろ逆にガレスがパワー負けし、押されている。

だがそれでもガレスの顔が絶望に歪まない。

 

その後ろで詠唱を完成させたリヴェリアが長魔杖(ロッド)を構え、今にも魔法を解き放たんとしているからだ。

押し返される勢いでその場から逃れ、その瞬間にリヴェリアの発動句が紡がれる。

 

「【我が名はアールヴ!】―――【ウィン――――!?」

 

しかし、その言葉が最後まで続くことは無かった。

鎌鼬が生まれる程の超速は易々と人類の知覚能力を凌駕する。

その場の誰もが知覚できない速度で切り伏せられていたからだ。

 

しかも念入りに杖もバラバラにされ、容赦なく戦闘能力を奪っている。

 

「―――遅っせえんだよ。」

 

風さえも置き去りにしたのは赤の小人族(パルゥム)

嘗ては『都市準速』と讃えられた狂猛の剣士。

 

無意識に顔を歪めるガレスも次には瞬殺される。

無慈悲にも振り下ろされた大剣がガレスを打ちのめしたからだ。

 

―――これ以上ない程の劣勢。しかし、絶望はまだ終わらない。

 

 △▼△

 

「……。」

 

「……何よ。何か言わないの? というか何か言いなさいよ。」

 

相対するのは一人の勇者と魔導師。

 

金色の勇者は【勇者(ブレイバー)】フィン・ディムナ。

オラリオを代表する冒険者であり、策士。

実際、闇派閥(イヴィルス)殲滅戦の指揮官に任命されていることからその能力は疑いようもない。

 

―――そしてそれに相対するのは桃色の魔導師。

 

黒のローブを纏い、竜の尾のような長髪を揺らしている。

手に持つのは長魔杖(ロッド)ではなく、戦棍(メイス)

 

ドワーフでも扱うのに苦労する重量を誇る武器を肩にかけて女は不満を訴える。

 

戦端は開かれていない。

誰もが馬鹿らしいと戦闘を本能的に拒否しているからだ。

 

その証拠にこの広場に至る道には無残な挽肉(ミンチ)がへばり付いている。

誰だって命が惜しい。

命知らずが居ても、名誉を得るためであり、挽肉(ミンチ)になって何が何だか分からなくはなりたくないのだ。

 

そして、それはフィンも同じだった。

 

手が震えている。

『勇気持つ者』たるフィンが敵に臆して、一歩を進めずにいた。

勇者(ブレイバー)】の皮を被り、そうあらんとしている男が怯えと言う衝動に身を委ねているのだ。

 

「―――【魔竜爪牙(クルーグス)】」

 

一陣の風が吹く。

いや風というには荒々しく毒々しい。

短文詠唱よりも短い、最早詠唱と言えるかさえ怪しい魔法は容赦なくフィン・ディムナを打ちのめす。

 

「……呆れた。この程度も避けられないの? 悪知恵ばかり働かすから身体、鈍ってるんじゃない?」

 

吹き飛ばされ、上る土煙に悪態を吐く女魔導師。

明らかな失望。

 

もうどうでもいいかと戦棍(メイス)を構え、纏めて全てを挽肉(ミンチ)に変えようとか決意する。

 

「―――手厳しいな……。でも、それはそっちも同じじゃないかい?」

 

その瞬間、長槍が空気を裂く。

それだけじゃない。周囲に居た【ロキ・ファミリア】の精鋭達も抜刀し、斬りかかる。

フィンが渾身の力で放った槍は女の肩を破壊し、動きを止めたすきに全員で滅多刺しにするつもりだった。

 

だが、何か()()()()()にでも阻まれたのか、空中で静止する。

 

「―――あら、私の二つ名忘れたの? それとも私みたいな小娘、眼中にも無かったのかしら?」

 

戦棍(メイス)を振るい、その()()()()()()()挽肉(ミンチ)に変える。

最低でもLv.3、第二級冒険者に分類されるであろう冒険者は断末魔を上げる時間すら無く、無残な屍に変化した。

 

「で、貴方の虚勢もそれで限界でしょう? 大人しくしてあげたら、此処に居る全員優しくしてあげるわよ?」

 

「ははは……。優しく、ね……。できればその物騒な武器(もの)を下ろしてくれると助かるんだけどね、【機動要塞(デストロイヤー)】。それとも、メナ・ガイアードの方が良かったかな?」

 

「本ッ当に人の地雷を踏み抜くのは上手いわね……! そういうことするからモテないのよ、キザ男。」

 

動けないフィンに対して止めを指すべく、手に握るその重量塊を天高く掲げる。

そしてそのまま―――一気に振り下ろした。

 

だが、その場にあるはずの肉塊は存在していなかった。

 

「だ、団長……。」

 

息も絶え絶えな少年。

精も根も尽き果てたという表情だが、それもそのはず。

本陣にてフィン達の補助をしていた駆け出しのラウル・ノールドは敬愛する存在を助けるべく、誰もが動けない中、恐怖を忘れて飛び出したのだ。

 

「へえ、男にはモテるんだ……。まあ、その駆け出しに免じて今日は此処までにしてあげましょうか。貴方を殺すと【殺帝(アラクニア)】が五月蠅いでしょうしね。」

 

そう言うと身を翻し、都市の争乱に消える女魔導師。

 

「……見逃された……?」

 

メナの姿が消えると同時に誰かがぽつりと呟いたその一言。

それは悲しいまでの現実を突き付けられた証拠であり、苦々しいまでの『敗北』を告げるものだった。

 

 ▼△▼

 

「おお、おお! よう動く! よう殺す! 俺あ、吃驚だぜ。流石はモノホンのLv.4、ガリバー兄弟! 俺達【不正派閥(アパテー・ファミリア)】の培養モノじゃあ相手にもならんか!」

 

心底愉快そうに嗤う初老の老人。

自身の感情と共に頭に生えた獣耳と尾がこれでもかという程揺れている。

【改造魔】バスラム。

狼人(ウェアウルフ)でありながら、学問の道へ進み、外道に落ちた【アパテー・ファミリア】の団長だ。

 

周囲には無数の戦士と怪物(モンスター)が倒れている。

何れも通常ではありえない要素を内包しており、外見にそれは現れている異形であった。

だが、【炎金の四戦士(ブリンガル)】の相手ではなく、会敵してから一瞬で倒されている。

 

「ふん、こんなもので僕等を倒す事なんてできないだろ。」

 

「残るはお前だけだ、ジジイ。」

 

「さっさと終わらせよう。終わらせて次だ。」

 

「ああ、流石にあいつらには同情するからな。」

 

護衛と思しき存在を全て殲滅したガリバー兄弟は残る老人を始末するべく己等の獲物を閃かせる。

だが、その四つ全てはどれもバスラムには届かなかった。

新たに現れた戦士達に阻まれたからだ。

全員が調教師(テイマー)なのか、怪物(モンスター)と連携してガリバー兄弟を攻め立てる。

 

「いやいや、まだまだこの老骨と遊んでもらうじゃて。さて、そいつらは―――ってもう終わっとるのか。」

 

「連携で僕等に敵う訳ないだろう。」

 

「僕等の事知らないのか?」

 

「手間をかけさせるな、死ね。」

 

「寧ろ惨たらしく死んで反省しろ。」

 

「だっはっはっはっは!! 老人相手になんて言い様じゃ! ……じゃが、本当に終わっとるのか?」

 

一瞬、何を言われているのか理解できずに困惑する四人。

終わっているも何も、既に増援はガリバー兄弟の手により沈黙している。

殺しきる事はできずとも、腕や脚を斬り落とし、胴体を傷つけて戦闘能力は喪失させている。

再び立ち上がる事も、武器を振るう事もできない状態だ。

口からのでまかせだと切って捨てて、倒れ伏した者達から注意をそらし、老人へその殺意を向ける。

 

「おうおう、老木の言う事ぁ、よぉく聞いといた方が良いぞい? お主等もそう思うよなぁ?」

 

「―――そうですね、バスラム様。御老翁の言の葉は耳を傾けるべきと私めは存じます。貴方達も、同意を。」

 

「「「「ッ!?」」」」

 

ガリバー兄弟の全く予想もしていない方向から襲い掛かる凶刃。

新たな増援かと思うが、凶刃の持ち主は全く違う人物達だった。

倒したはずの者達が何故か立ち上がり、その獲物を再び振るっているのだ。

 

「……それがどうした。例え、怪物(モンスター)が蘇っても―――

 

「―――同じ事の繰り返し、かの? まあよく見ておれ。俺達の『不正』をな。」

 

そう言って手を翳すバスラム。

よく見れば両手は鋼鉄仕掛けの義手になっている。

明らかに只物ではない、それは掌にある砲門で明らかだった。

 

そして、砲門に熱が走る。

一条の連なりと化した熱は、狙いを間違うことなくベーリングの脇腹を貫いた。

超高温の熱戦は一瞬で身体の内外を焼き尽くす。

当然、そのダメージは甚大であり、思わず彼が膝をつく程だ。

 

「どうじゃ? 『竜種』の息吹(ブレス)を参考にした火砲。呼んで『竜砲』よ。速度に威力はこの通り。おまけにこの通り超小型でな。義手は勿論、身体に直接埋め込む事もできる優れモノじゃ。当然、量産も成功しておる。」

 

その一撃を幕切れとして、無数の光線が放たれる。

炎に水、風に雷、土や光と闇。

先程倒したはずの者達からのものだった。

戦士だけではなく、怪物(モンスター)も蘇り、同様の攻撃を繰り出している。

 

「ほっほっほ、流石に直ぐの対応は出来んか。なら次に行くとするかのう。代わりに行け、『絡繰兵士(サイボーグ)』!」

 

そして再び現れる増援。

何れも『竜砲』を取り付けられた戦士であり、中遠距離での一斉射は流石のガリバー兄弟でも如何ともしがたく、攻勢転じて防戦に回る事になった。

そして、狙い通りガリバー兄弟を封じ込めるとバスラムは最悪の命令を下した。

 

『全隊に通達じゃ。「魔獣騎士(キマイラナイト)」は今すぐに「違法能力(メディカルスキル)」【人獣合一(ザ・ビースト)】を発動させよ!』

 

拡声器を通して伝えられる命令。

その命令が伝わると対象者は腰鞄(ポーチ)から固形薬を取り出すと、それを液体薬で流し込んだ。

 

変化は直ぐに始まる。

まるで耐え切られないと言わんばかりに対象者は薬と飲み込んで倒れていく。

集団自殺かと見紛う程の不気味な光景だった。

 

「何だ……。何をするつもりだ!?」

 

「何ってのう……お、もしかして聞いてくれるのか? 俺の話は長いぞう?」

 

予想もしない、そして見る事もない異常な光景に思わず平静を崩すアルフリッグ。

アルフリッグの叫びに嬉々として説明を始めるバスラム。

そしてその内容は非常に悍ましい物だった。

 

「えいか? 俺等【アパテー・ファミリア】は『不正』で強くなる事を第一とする派閥じゃ。お前達のように正攻法で強くなることを唾棄し、薬物や魔道具(マジックアイテム)でそれを行う事を旨とするロクデナシよ。」

 

「まあ、当然こんなもん上手くいかん。最初にお主等が皆殺しにした奴等がいい例じゃ。奴隷や攫ったりかどわかした貧民。こんなもん弄った所で何にもならんわい。」

 

「それに薬物や魔道具(マジックアイテム)だけというのものう……。どう考えても足りん、いや限度が知れとる。例え『呪詛(カース)』を使っても同じ事よ。お主等みたく常人の何倍もの戦力になる化物には到底及ばんのじゃ。」

 

「じゃから、足す事にした。足りんなら足す。簡単な話よ。どうせお主等オラリオは知らんじゃろう? 興味ないじゃろう? 魔法工学に物理工学に怪物(モンスター)の生態学、神理学……都市外で発展した学問など。」

 

「異常に発展した武器を盛り込み、改造し超強化した肉体でそれを扱う。更に違法改造した『恩恵』でそれを何倍にも昇華させる。俺達が夢見たもの。『不正』による『最強』への挑戦、その集大成よ。お主等が相手にするのはな! 己が身に絡繰り仕掛けを仕込んだ『絡繰兵士(サイボーグ)』! 戦闘用に改造した『戦闘魔獣(バトルモンスター)』の融合! 人類の知恵と技術の悪性結晶!」

 

「さあ、見よ! そして、死ね! これが、『魔獣騎士(キマイラナイト)』よ!」

 

 △▼△

 

「殺せ、殺せ! 【ガネーシャ】も市民も関係ない! すべて殺せ、我が騎士達よ!」

 

漆黒の騎士とその騎馬が都市を駆け抜ける。

黒で統一された武具を身に纏い、一つの乱れもなく密兵騎団となって突撃する。

騎馬の勢いと突破力は流石の一言であり、対策も何もない冒険者達は蹂躙されるだけだった。

 

「【死王子(ダークプリンス)】に『暗黒騎士団(デス・ナイツ)』!? 『王国(ラキア)』は『闇派閥(イヴィルス)』に加担してたのか!?」

 

「『帝国』の死刑囚―――【喰人鬼(マサーカー)】だって居たんだ! 何が居ても驚かねえよ!」

 

何とか態勢を立て直した冒険者が頭上を取り、騎士達に『魔法』や弓を放つ。

突破力と防御力において類を見ない強力さを誇る騎士という兵科だが、弱点は明白。

弓矢や大砲といった遠距離攻撃だ。

特に密集していることから火薬や広範囲殲滅魔法が有効である。

 

だが、当然そのような弱点は対策されるものだ。

 

「クソッたれが、やっぱ効かねえか! これでも魔導師だぞ!」

 

「お前はLv.2だろ。第二級冒険者を呼ぶぞ! 真面にやり合えるか、あんなのと!」

 

光を飲み込みそうな程の漆黒に塗られた全身鎧(フルプレートメイル)凧型盾(カイトシールド)、そして馬体にも装備された鎧は全て魔法耐性を有している。

更に鎧の下に着こんでいる戦衣(バトルクロス)の防御力も生半可な鋼鉄鎧を凌ぎ、例え流れ弾でも穿つことはできない。

自分達でどうにもできないと判断した冒険者の動きは迅速だ。

その場を放棄し、味方との合流を目指す。

地上に降りれば『闇派閥(イヴィルス)』の餌食になりかねない為、慎重に屋根を伝いながら。

 

だが、突然二人は失速を始めた。

全力疾走をしているが、超人と化した身体能力を前では些細な事だった。

上位冒険者である彼等なら都市一周だって容易い事だった。

 

だけど確かに彼等は疲弊している。

筋肉に乳酸が貯まり、脂肪に蓄えられた燃料が燃えている。

 

―――そして、それ以上に身体が重いのだ。

 

まるで、冒険者じゃなかった時の様に重い。

 

「―――冒険者じゃなかった時みたいに?」

 

ふと、足が止まる。

疲労に集中力と体力が限界になったのもあるが、それ以上の異常事態を見ているからだ。

既に下りた夜の帳、それを塗り返すほどの光。

白亜の塔にも匹敵する、いやそれ以上の威光を見せる『光の柱』。

神が持つ『神の力(アルカナム)』、その一端。

神々の全能を担保するその権利は地上において一部の例外を除き、禁止されている。

 

そしてその例外は『戦争遊戯(ウォーゲーム)』における『千里眼』のみ。

この例外の禁を侵した神は『天界』への送還がなされるとされている。

だが、全知零能の身になっても『神の力(アルカナム)』が無くなる訳では無い。

その身に傷がつき、命の危機に瀕した際でもこの力は無条件で発動させる。

分厚い岩盤を穿つほどの威力と大きさを備えた『送還の柱』を伴って。

 

つまり、この光柱は神が送還されたという異常事態を示すものだ。

 

「嘘だろ……! あのバカ主神死にやがった!」

 

「俺達のバカだけじゃねえよ! おい、どうなってんだよ! どうして主神が()()()()()()()()()()()()()!!」

 

一つ、二つ、三つ……。

数えるが嫌になる程の光柱が生まれる。

そしてその柱が生まれるたび、『恩恵』が力を失い冒険者が無力と化す。

そしてそれを『闇派閥(イヴィルス)』が刈り取る。

勢力均衡(パワーバランス)は完全に崩壊し、不利であったはずの『闇派閥(イヴィルス)』がその命脈を復活させていた。

 

 ▼△▼

 

「――――――時は、満ちた。」

 

屍の山。

血で出来た河川。

 

正に地獄としか表現できない場所に一柱の男神が現れる。

光を吸い尽くすほどの黒、それのみでしか表現できない印象を与える男だ。

畏怖堂々とした態度に、全身から放たれる神気も相まって正に邪神という風貌をした男神である。

 

「そして、生贄もまた満たされた。」

 

黒騎士たちが跪き、獣憑きらもまた頭を垂れる。

狂人が祝詞を唱え上げ、凶人が礼賛を続ける。

そして札付きの悪人に、高額賞金頸たちが離れた場所で厭らしく笑っていた。

 

「―――聞け、創設神(ウラノス)原初の幽冥(エレボス)の名の下に下界の希望を摘みに来た。」

 

男神が口を開く。

ようやくの出番に心躍る役者の様に朗々と言葉を出しながら。

 

「『約定』は待たず。『誓い』は果たされず。この大地に結ばれし契約は我が神意によって握りつぶす。」

 

わざとらしい身振り手振り。

煽る様に、あるいは嘲る様に。

腕を振り、脚はステップを刻んでいる。

 

「全ては全知でさえ見通せぬ最高の『未知』―――純然たる混沌を導くために!」

 

『闇』が吠える。

そして『悪』が喝采を上げる。

 

最早、この場が己の独壇場だと理解した男神はさらに言葉を続けていく。

 

「傲慢と呼べば良い。最悪だと詰るが良い。だがその憎悪と怨嗟は我等『悪』にとっての至福。怒り、嘆き、我が禍いを受け入れよ。」

 

壊れて散った瓦礫が声なき怒りを代弁する。

燃え盛る焔が消えゆく嘆きを代弁する。

しかしそれらを全てを本懐と嗤う者達にとってはどうしようもない程の愉悦であった。

 

「冒険者は蹂躙された! 神々もまた天に還った! より大きな力によって蹂躙され、耳障りな雑音を残して!」

 

市民と冒険者達の顔色が曇る。

少し前に起きた蹂躙と『送還』を思い出したからだ。

 

「貴様達が『巨正』を以て混沌を退けんというのなら、我等もまた『巨悪』を用いて秩序を壊そう!」

 

傍らに四騎の猛者が現れる。

ヒューマンの剣士、ドワーフの重戦士に小人族(パルゥム)の凶剣士、そして桃髪の魔導師。

 

此処で都市全体が正しく認識する。

己等を『絶望』の淵にまで追いやった者達を。

 

嘗て誰もが憧れた『最強』にして『最恐』達を。

 

「告げてやろう、貴様達に相応しい言葉を。―――脆きものよ、汝の名は『正義』なり。」

 

―――この瞬間から、オラリオ史上最悪の一週間が始まった。

 

死と嘆き。

或いは迷いと決断に満ちた呪われし日々が。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。