ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかif 白兎と雷花の残響・残香   作:青色のラピス

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第四話 激動、そして邂逅

三日目の朝。

その日の目覚めはきっと最悪だっただろう。

 

中央広場(セントラルパーク)とはまた別の避難所。

一連の事件で冒険者を信じられなくなり、自警団の様なもので自らを守っている者達の集まりだ。

神はいない。

そのため全員が『恩恵』を持たない一般市民に毛が生えただけの存在だ。

 

「―――殺せ、一人残らず。」

 

刃が鞘から抜かれる音がした。

指揮官、【死王子(ダークプリンス)】が抜刀したのを皮切りに配下の騎士達が次々を刃を抜いていく。

この場にいる騎士の全員が『恩恵』を宿している。

その上、一度は昇華を果たしたLv.2が大半を占めている。

 

『恩恵』を得た眷属とその他では大きな差がある。

ましてや『昇華(ランクアップ)』を果たした精鋭の戦力など言うまでもない。

そして不幸な事に避難民たちの態度から刺激をさせないための配慮で冒険者達のパトロールが少なかった。

 

朝日が地平線からゆっくりと顔を出し始めた時、金切り声がつんざいた。

目覚まし時計代わりの断末魔は都市の朝焼けによく響いた。

超人的な感覚を持つ冒険者達が襲撃だと気づき、近場にいた者達が急行するも時すでに遅し。

太陽が地平線から完全に顔を出し、朝日が地上を照らした時には冷たい亡骸が広がるのみだった。

 

 △▼△

 

死王子(ダーク・プリンス)】とその一味『暗黒騎士団(デス・ナイツ)』の凶行から僅か数時間後、また事件が起きた。

 

冒険者に市民と無数の死者が出た。

火葬するにせよ、土葬するにせよ準備は必要である。

そのため医療系ファミリアでは遺体の安置所として場所を提供している所もある。

大抵は地下室など遺体を腐敗させないため、冷涼な空間であることが多かった。

 

「あー……取り合えずこの部屋は全部火葬だったけ……?」

 

「取り合えず棺に入れて火葬場まで持って行くぞ……。」

 

神の恩恵(ファルナ)』を得た眷属と言えでも連日連夜続く負傷者の治療に死者の葬送にすっかり精神が参ってしまったのか疲れを隠さずに作業へ取り組もうとする二人。

だがそんな彼等でもドアノブを掴んだ瞬間、その表情が鋭い物に変わる。

『発展アビリティ』の一つ、『調薬』を得るために昇華を果たしている二人は薬師(ハーバリスト)でありながら下級冒険者を一方的に倒す事の出来る実力者だ。

 

研ぎ澄まされた直感で部屋の内部の異変を感じとるのは訳なかった。

 

「……遺族か?」

 

「いや、此処に来るのは眷属である俺達だけだ。」

 

短杖(ワンド)或いは短剣を取り出し、戦闘準備に入る。

先手を取らせてなるものかと一気に扉を蹴破り、入った。

 

しかし、そんな彼等が見たのは世にも悍ましい光景だった。

 

「人、美味っ! 死体、美味っ! 子供、女、エルフ、肉柔らかっ、美味っ! ドワーフ、男、固っ、不味っ! 獣人、獣臭っ、でも癖っ!」

 

一心不乱に亡骸を貪るヒューマン。

それが彼等の目に入った光景である。

 

「てめえ、何してやがるッ!!」

 

「―――おい、止めろ! そいつ、【喰人鬼(マサーカー)】だっ!」

 

余りの光景に一人が激昂し、短剣を振りかぶる。

もう一人が制止しようとするが、もう遅い。

 

「―――新鮮な肉、美味っ!」

 

顎が首筋を噛み砕いた。

喰人鬼(マサーカー)】ビーンズが獣じみた動きで一瞬で距離を潰し、薬師(ハーバリスト)の肉を貪る。

そしてもう一人に狙いを定め、鉄爪が閃かせた。

振り払われた刃は強靭なはずの胸を容易く斬り裂き、大量の血を噴出させる。

 

そしてそのまま両腕を圧し折り、抑え込む体勢になる。

そしてビーンズは舌なめずりと共に、更なる冒涜を犯す。

 

「がああっ……! この犯罪者ァっ!?」

 

「―――新鮮な内臓、美味っ!」

 

咀嚼音と啜る音が響く。

食う側は至上の幸福を得たような恍惚感を表情に刻み、食われる側はどうしようもない程の嫌悪感と絶望を表情に刻んで。

『神時代』では予想もできない野蛮極まりない行為。

『帝国』最悪の死刑囚―――【喰人鬼(マサーカー)】ビーンズの食事は、この場にいる人体全てを平らげるまで続いた。

 

 ▼△▼

 

「【死王子(ダーク・プリンス)】に【喰人鬼(マサーカー)】か……。【蟲使い(インセクトキープ)】に当てられたか。」

 

都市の喧騒を聞き流しながら、男は呟く。

白亜の塔を除けば最長である建物の上で男は都市を眺めている。

Lv.8、【ゼウス・ファミリア】の副団長の称号を持つ老剣士―――アリウスは今も続く争乱に参加せず、ただ眺めているばかりだった。

 

「ああ、どいつもこいつも抑えが利かなくてな。俺の眷属―――ヴィトーだってそうだ。表立って動いていない【殺帝(アラクニア)】や【改造魔】が可愛いくらいだな。」

 

老剣士の独白に対して想定していない答えが返って来た。

闇派閥(イヴィルス)の首魁にして邪神、エレボスだった。

 

「……そうか。なら私は引っ込ませてもらいます。若者がはしゃいでいる中、老人が出張るのも鬱陶しいでしょう。」

 

(おや)の前で言う台詞じゃないぜ、アリウス。だが……そうだな。万が一があると『契約』が果たせなくなる。使うなら【鉄人】達にするとしよう。」

 

「……『契約』は覚えていますね。なら、結構。」

 

主神と眷属の様な気安い関係ではなく、取引相手の様な距離を置いている事が分かる。

お互いに必要以上に距離を詰めようともしないから、きっと最後までこのままなのだろう。

 

「部屋に薬を置いておいた。【鉄人】と【蛮勇の牙剣(ブルーター)】の分もな。」

 

「死人に薬は不要ですが……いえ、万全の為にいただきましょう。何時も何時も感謝しますよ。」

 

都市を見るのも飽きたのか、アリウスは城壁を下りるべく、歩き始める。

だが何故かエレボスがそれを呼び止めた。

どうしたのかと目で問うと、邪神はこう宣ったのだ。

 

「いやあ、俺さ。お前の後を付けて来ただけだから護衛いないんだよね。」

 

「……貴方ねえ……はあ、選択間違えたかもな、私。」

 

嘆息するも、もう賽は投げられた以上、引くことはできない。

これからの未来はどうなるのかと悩みながらアリウスはエレボスを連れて帰るのだった。

 

 △▼△

 

そして太陽が再び巡り、朝が来る。

四日目が始まったのだ。

 

「昨晩は久しぶりに平和だったな。お蔭様でグースカ惰眠を貪れたぜ。なあ、アンドレウ。」

 

「【蟲使い(インセクトキープ)】の襲撃を諦めただけだけどな……。200人近く死人が出たそうだぜ。」

 

睡眠で快調なマック・ロマンに対してやるせなさを感じているアンドレウ・ジャイロ。

同郷にして同時期に入団した彼等は気安い関係で、気難しいマックからすれば珍しい関係性だった。

 

「気にする必要なんてねえだろ。対策できないもんに資源(リソース)突っ込むより対策できることに費やした方がマシさ。フィンだってそれを理解しているから対策を【都市の憲兵(ガネーシャ・ファミリア)】に投げているんだろ? あいつらは立場が立場だ。逃げられないんだろうさ。」

 

「ビックリするくらいにアレな発言だな。だけど、余裕が限られている以上は仕方ないか……何だかんだこの本拠(ホーム)にも襲撃があるし……初日で手練れ(ベテラン)が軒並み死んだからなァ……。」

 

「嘆いていてもどうにもならんさ。面倒事はクソ団長に任せてオレ達はオレ達のやることやろうぜ。」

 

嘆息するも、眼前のどうしようもない現実はどうにもならない。

取り合えずのパトロールと物資の管理をしようと二人が腰を上げた時、バタバタと慌ただしい足音が聞こえる。

本陣からの伝令が来たことを悟り、嫌な予感が彼等の脳髄の走る。

 

「マックさん、団長からの司令っす! 都市北西に邪神エレボス及びその軍勢が出現! 今すぐ捕縛するようにと!」

 

「大捕り者かよ。……でも無理だぜ。首魁なら護衛に第一級クラスが居るだろ。Lv.3やLv.4が幾ら居ても無駄死にだ。飲兵衛か婆さんが居れば考えてやるがな。」

 

「既にガレスさんと【象神の杖(アンクーシャ)】が向かってるっす。それに【フレイヤ・ファミリア】も向っているらしいんで……。」

 

戦力を理由にマックは逃げようとするが当然それを見越しているフィンは退路を塞いでいた。

忌々しい男の顔に辟易としながらも伝令(ラウル)の言葉に頷くのだった。

 

「……逃げ場、なさそうだな。マック。」

 

「ケッ……! 死んだら化けて出てやるさ。」

 

 ▼△▼

 

都市にあるとある廃教会。

嘗ての繁栄ぶりは最早夢幻と化した廃墟に一人の少女が閉じ込められていた。

少女の名はリュー・リオン。

正義の女神を主神とする派閥―――【アストレア・ファミリア】のLv.3である。

 

劇的に動く事変の流れに耐え切れず、正義を見失った少女は何の因果か彼女に執着するエレボスに捕らえられ、この場に居るのだ。

 

そして彼女を連れて来た張本神(ちょうほんにん)―――エレボスもまた、相対する形で立っていた。

しかしそれ以上に少女の心を焦燥に駆らせるのは廃墟の外の闘いだった。

当然神であるエレボスもそれに気づいている。

危険が近くに迫っているのにそれをまるで気にしていなかった。

 

「リオン、気にするな。外ではヴィトーがいる。誰も此処までは来ないさ。」

 

「そんな事はどうでもいい! 無辜の民が……!」

 

「そうか。でも俺に取ったらそれこそどうでもいい話だ。」

 

邪神の返答に息をのむ少女。

エレボスの台詞に嘘はない。

この邪神は心の底から無辜の民を見ていない。

神々らしく自身の望みに忠実なのだ。

 

「さて、リオン……そうだな。命令だ。この場から動くな。動けば、お前の仲間を全て殺す。仲間だけじゃない、市民も全て纏めてだ。」

 

(あなた)は人の命を何だと思っている! それにそんな事ができるはずがない! あれだけの軍勢、きっと第一級冒険者も来る! Lv.3の【白髪鬼(ヴァンディエッタ)】でどうにかなるはずがない!」

 

「おいおい、リオン。忘れたのか? 俺が態々連れて来た切り札たちを。―――【鉄人】と【機動要塞(デストロイヤー)】を近くに置いてある。俺かヴィトーが合図を出せば一瞬さ。」

 

「【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】……!?」

 

少女の背中に冷たい物が走る。

嘘は言っていない事は人生経験に乏しい小娘(リュー)でも十分に理解できる。

思い通りにならぬのなら眼前の邪神は嘗ての英傑たちを使役して、都市を更なる地獄に変えるであろうことは明白だった。

 

「俺はな、リオン。聞きたいんだ、お前の『選択』を。」

 

神は問うた。

偽証も偽心も許さぬ、彼女自身の『選択』を。

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