ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかif 白兎と雷花の残響・残香   作:青色のラピス

4 / 43
第四話 激闘、シルバーバック

フレイヤは悩んでいた。

何故なら、彼女の新たなお気に入りであるベル・クラネルが死にかけているからだ。

確かに銀の野猿(シルバーバック)をけしかけたのは彼女だがこうなったのはある意味では予想外だった。

 

―――話は少し遡る。

 

フレイヤはベル・クラネルに試練を与えるべく【ガネーシャ・ファミリア】が怪物祭(モンスターフィリア)で扱う怪物(モンスター)を捕えている場所へ向かった。

予め用意していた魔道具(マジックアイテム)や『美の権能』により侵入及び怪物(モンスター)の解放も容易に達成できた。

 

「……そうね、やっぱり貴方がいいかしら。」

 

トロール、ハードアーマード、小竜(インファイトドラゴン)、オーク、銀の野猿(シルバーバック)といった面々からフレイヤは銀の野猿(シルバーバック)を選ぶ。

どの個体も上層で出現する怪物(モンスター)だが、高い能力値(アビリティ)が無ければ討伐できない強敵だ。

 

「一つお願いがあるの。私と同じ女神を一柱、私の前に連れてきて頂戴。連れてくることができたら……そうね一晩、私を好きにしていいわよ。」

 

フレイヤはそう妖艶な笑みを浮かべながら銀の野猿(シルバーバック)を誘惑する。

 

フレイヤは美を司る女神だ。つまり、彼女は美の概念そのもの。

万人を魅了し、同胞たる神々でさえも蕩かす傾国の美女。

幾ら下界の絶対悪たる怪物(モンスター)であってもその魔性からは逃れることはできない。

 

銀の野猿(シルバーバック)はフレイヤの言葉に従うという意味を込めて何度も首を縦に振る。

その様子を見てフレイヤは満足そうに頷き、腕を振り彼等を都市へ解き放った。

 

 

―――その瞬間、肉が弾ける音がした。

 

 

不審に思い、フレイヤが音の方へ向くと銀の野猿(シルバーバック)がオークの胸に穴を開け、魔石を貪っている光景が目に入った。

フレイヤが静止しようも間に合わず、次々と同族であるはずの怪物(モンスター)を仕留めてゆき力を蓄えていく。

 

変化は一目瞭然だった。全身の筋肉は膨張し、牙はより鋭く、唯でさえ赤かった瞳はその凶猛を隠すことなく爛々と輝いている。

 

まさかの『強化種』の誕生にフレイヤは驚愕するが、そんな彼女を置いてけぼりに銀の野猿(シルバーバック)は標的へ向かって疾走する。

 

―――そして時計の針は元の場所へ戻る。

 

『強化種』となった銀の野猿(シルバーバック)の戦闘力はLv.2程であり、到底今のベルが打倒できるものではなかった。

しかしそれでもフレイヤは自身の眷属に命じて銀の野猿(シルバーバック)を倒させようとはしなかった。

 

ベルが戦っていた。

今にも死にそうな体で、それでも心は折れず、純白の魂を極限まで輝かせて戦っていた。

 

単純な話、フレイヤは見惚れているのだ。

 

 △▼△

 

銀の野猿(シルバーバック)が剛腕を振るう。

凄まじいスピードで振り上げられた一撃は容易く、石畳を砕く。

しかし、その場に少年はいない。

その瞬間、大剣が銀の野猿(シルバーバック)を襲う。

 

小柄な体躯に見合わぬ一撃は本来ならば銀の野猿(シルバーバック)を粉砕するに至るはずだが、残念ながら今ベルが相対している個体は『強化種』。

通常個体よりも圧倒的に力強く、速く、そして硬い。

 

凄まじい速度で振り下ろされた大鉄塊は獣の分厚い毛皮と異常に発達した筋肉に阻まれ、ダメージに至らない。

むしろ大剣にダメージが蓄積し、今にも砕けそうになっている。

 

(……ッ! 攻撃しているだけでここまで消耗するなんて……!)

 

武器の消耗を抑えるべく、ベルは立ち回りを変えようとするが、そのあからさまな弱点を獣が逃す道理はない。

大振りではなく、速度重視の連撃で猛攻を加える。

 

威力は下がったものの速度は跳ね上がり、回避が間に合わず大剣で防ぐ。

一つ、また一つと罅が生まれていく。

そして罅を狙い攻撃を加え、大剣は今にも砕けそうになっていた。

 

(どうする……!? どうしたらいい……!?)

 

大剣が罅割れていくたびに、ベルの脳内は目の前の怪物(モンスター)への恐怖が渦巻く。

恐怖は体を硬直させ、本来の能力を見る見るうちに奪っていく。気が付けば正答を告げる機会すら失い、大剣を砕かれる。

思考力が鈍り、決断を遅らせた結果だった。

 

しかし、ベルにはそれを悔やむ暇などなかった。

恐怖した己を無理矢理鼓舞し、腰に佩いていた一対の双剣を抜く。

 

だが、最早銀の野猿(シルバーバック)はベル・クラネルという少年のことなど目に映っていなかった。

彼に襲い掛かったのはあくまで自分の力を試すため。

嘗て冒険者に捕らえられるという屈辱を得た彼だからこその行動だった。

 

自身の今の力を持ってすれば、あの時のような屈辱を得ることは無いと確信した獣は獲物(めがみ)探しへ比重を傾ける。

彼の心中と脳髄を満たすものは銀女神への情欲のみ。

ならば一刻も早く、女神の望みを満たそうとすることは道理であった。

 

銀の野猿(シルバーバック)は体勢を低くし、一気に駆け上がる。

余りにも早い疾走に少年は目で追うこともできない。

そして懐まで潜り込んだ獣は思い切り剛腕を振るう。

 

少年は反射で双剣を盾代わりにして受け止めるも、威力を防ぐことは愚か、殺すことすらできずにブッ飛ばされる。

ブッ飛ばされた少年はそのまま建物に突っ込み、立ち上がらなかった。

勝利を確信した銀の野猿(シルバーバック)は勝利の証として咆哮を残し、都市を駆けてゆく。

 

「……くひっ、くひっ、くひひひっ!! 全くぅ、何やってんだよぉ、クソチビぃ達はよぉ……。子供に怪我させるなよなぁ。」

 

 ▼△▼

 

怪物祭(モンスターフィリア)にて扱うはずだった怪物(モンスター)が脱走したという知らせにより都市は混乱の渦中に落とされることになった。

【ガネーシャ・ファミリア】は主神のガネーシャの神意により速やかな事態収束を図るも此処で異常事態(イレギュラー)が発生する。

 

―――都市中に人を喰らう花の怪物(モンスター)が出現したのだ。

 

下級冒険者は勿論、第三級冒険者でも歯が立たず、上級冒険者のパーティーでやっと撃破できるような新種が都市中に出現したのだ。

打撃が効かず、魔力に反応するという性質もまた厄介であり、騒動を大きくする要因となった。

 

故にヘスティアも素直に避難していた。

しかし、避難する途中で泣いている子供に出会った。

 

緊急事態であるため、誰も見ず知らずの子供に手を貸す余裕ない。

だが彼女は慈愛の女神だった。帰るべき家の守護者だった。

 

「君、そんなに泣いてどうしたんだい?」

 

「うぐっ……、ひぐっ……。お母さぁん……。」

 

「おやおや、お母さんとはぐれちゃったのか。……じゃあ、一緒に見つけてあげるからさ。一緒に行こうぜ?」

 

「……お母さん、見つかる?」

 

「ああ、見つかる。いや、見つけるさ! 絶対にね!」

 

そう言ってヘスティアは子供の手を握り、歩み始める。

避難途中で似たようなことをしたり、子供がついてきたりして気が付けば幼女神を先頭にした子供の行進が完成していた。

 

「! お母さん!」

 

「ミト? ミトなの!?」

 

とある再開を切っ掛けに、子供と親が次々と再会していく。

子供も親もお互い嬉しそうに微笑みながら、お互いの無事を喜んでいた。

ヘスティアはその様子を離れた場所で見守っていた。

 

そうしていると子供が親を連れてやって来る。

どうやら、お礼を言いに来たらしい。

ヘスティアは嬉しくて恥ずかしくて、威厳もへったくれもない姿を晒すことになった。

因みに親子共々女神と気づいておらず、女神と知れば驚いたのは言うまでもない話だろう。

 

そうしている時だった。

彼女を言いようのない不安が襲った。

しかし、その不安は直ぐに解消された。

 

ヘスティアはこの不安の正体に気が付いた。

神の恩恵(ファルナ)』を刻んだ主神は己の眷属について察知することが出来る。

故にヘスティアは己の唯一の眷属――ベル・クラネルに何らかの危機が訪れたとうことだと気づくことが出来た。

 

(ベル君に何かあった? ……まさか怪物(モンスター)に襲われている?)

 

ヘスティア――地上に降臨した超越存在(デウスデア)には戦闘力を持たない。

しかし、ヘスティアの手元にはある。彼の助けとなるモノが。

少しばかり躊躇したが、迷いを振り切ったヘスティアは己の眷属の下へ駆けていった。

 

 ▼△▼

 

銀の野猿(シルバーバック)は苛立っていた。目の前の白兎(しょうねん)が邪魔で仕方が無かったからだ。

己の一撃を受け、倒れたはずの少年が再び立ち上がり、挑んでいるのだ。

 

吹き飛ばされ、傷を負っても何度でも立ち上がる。いい加減に鬱陶しく思っていた銀の野猿(シルバーバック)は殺気を全開で戦っているが中々地に伏さない。

我武者羅に自身の強みを押し付けられ、銀の野猿(シルバーバック)が攻めあぐねているということもあるが、ベルが敵のスピードに目が慣れ始めたということも大きいだろう。

 

「ウオオオオオオッ!!」

 

銀の野猿(シルバーバック)が自身の苛立ちを表すかのように咆哮する。

生物の本能を刺激する強者の怒りの波動はベルを問答無用で畏怖させ、体を硬直させる。

しかし、ベルも次に来るであろう危険を察知し、過剰ともいえる動きでその場から離れる。

だが硬直した体は上手く動かず、結果的に過剰な動きに救われることとなった。

 

ベルはちらりと双剣を見る。

刃は刃毀れし、刀身には罅が入っている。

そこまで品質が悪いものではなかったが、上層の怪物(モンスター)を想定して鍛えられたためLv.2に匹敵する怪物(モンスター)相手には分が悪い。

 

相手にペースを握らせる訳にはいかないベルが仕掛ける。

斬撃を放つたびに剣が悲鳴を上げる。

罅は更に大きくなり、刃こぼれが加速する。

しかし、これほどの代償を支払っても銀の野猿(シルバーバック)には僅かなダメージしか与えることしかできていない。

 

何とか【ガネーシャ・ファミリア】といった上位派閥にバトンタッチをするまで持ち堪えたいベルだったが、正直な所、想定外の消耗を強いられ撤退も視野に入れなければならない程だった。

しかし、ベルはそのような考えが頭によぎるたびに否定する。

 

(コイツを無視して逃げる? そんなことできる訳ないだろう!!)

 

自分の甘い考えを打ち払うように健脚を動かし、双剣を激しく振るう。

勢いよく、更にスピードの乗った一撃は銀の野猿(シルバーバック)の表皮を裂く。

しかし、骨は愚か筋肉を切り裂くことはできなかった。しかも罅が更に大きくなり、誰が見てもあと一度で砕けそうになっていた。

 

―――その時だった。銀の野猿(シルバーバック)が急にベルから興味を無くし、全く逆の方向へ疾走する。

 

不審に思ったベルが銀の野猿(シルバーバック)の行く先を見て、限界まで目を開ける。

其処には、己の家族である黒髪の幼女神がいた。

そして、あり得ないスピードで駆けだす。

 

「神様ぁッ!!」

 

格上であるはずの銀の野猿(シルバーバック)をも超えるスピードを叩き出したベルは間一髪でヘスティアを抱きかかえることに成功する。

 

「え? ベル君!?」

 

「神様、失礼します!」

 

銀の野猿(シルバーバック)の殺気が膨れ上がったことを察したベルはヘスティアをお姫様抱っこの体勢で抱え、脱兎の如く逃げ去る。

 

後一歩で成就する己の情欲を妨げられた銀の野猿(シルバーバック)の脳内は憤怒の嵐が吹き荒れていた。

それも自分が取るに足らぬと断じた兎に邪魔されたとなるなら、その怒りはさらに跳ね上がることとなった。

しかし、同時に銀の野猿(シルバーバック)は白い少年の評価を上げる。

当然の話だった。格下でありながら己の全力から生き残ったのだ。

 

「グオオオオオオオオッ!!!」

 

銀の野猿(シルバーバック)は咆哮する。

其れは敵を竦ませるためのものではなく、決意の咆哮。

 

―――認めよう。お前は有象無象にあらず、我が障害である。

 

故に、全力で、後先考えることなく―――殺しにかかる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。