ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかif 白兎と雷花の残響・残香   作:青色のラピス

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第七話 前哨戦

日が昇り始め、空が白み始める頃だ。

城壁から多くの戦士が降り立ち、行進を始める。

 

市民に避難民を全て『砦』に囲い込み、その周囲を冒険者で守っている。

そのため普段の賑やかさが嘘のように静けさで支配されていた。

そのため僅か数日の間に都市は様変わりを遂げており、その様子はゴーストタウンそのものだ。

 

だがそんな事で邪悪の使徒たちの行進は止まる事はない。

殺戮と蹂躙を行い、自身の薄暗い欲求を満たすためだけに足を進める。

目指す先は都市の行政機能を集約したギルド本部のある『中央広場(セントラルパーク)』、そして都市各部にある市民を避難させた『砦』。

 

当然、それを囲い込む形で冒険者が守っていた。

 

「む……やはり騎兵は使えないか。だが野戦ではある。」

 

斥候として都市中を駆けていた【死王子(ダーク・プリンス)】エドワードが呟いた。

だが予想外ではなく、予め参謀である【殺帝(アラクニア)】ヴァレッタが予想していた範囲内だ。

部下たちに指示を出し、信号弾を空に放つ。

 

そしてそれが合図となり、都市に通じる門が次々と破壊されていく。

斥候の役割を持った『闇派閥(イヴィルス)』の構成員は素早く建物の上に避難していく。

 

当然だ。

あけ放たれた扉からは無数の怪物(モンスター)が流れ込んできているのだから。

中央広場(セントラルパーク)にいるギルド長が泡を吹いて絶叫したが、そんな事は関係ないとばかりに次々と都市入りを果たす怪物たち。

屋根の上にいる邪悪の使徒を無視して、脇目もふらずに『砦』へ進む。

 

―――『正義』と『悪』の決戦、一週間の締め括りが始まった。

 

 △▼△

 

「ちぃ……っ! フィンのやつ、面倒事を押し付けやがって!」

 

「全くだ! 兵にモンスター、キリがないわ!」

 

アンドレウが鞭を振るい、ノアールが剣で一閃する。

第二級冒険者、それもLv.4である二人の実力は流石で本拠(ホーム)―――『黄昏の館』への侵入を阻んでいる。

 

「我等の神に……栄光―――ぐぼぉ!?」

 

「自決兵もいるのかよ!?」

 

引き金を引くよりも早く、鞭の先端が喉を奥を貫く。

通常の鞭と異なり、先端が槍の穂先となっており、殺傷力を高めている。

対モンスターという観点ではあまり有効ではないが、対人戦では確かな脅威だ。

 

「町の中だというのに『魔法』も使ってくる……連中、やりたい放題か!」

 

「化け物は地上産だ、大して強くないよ!」

 

ダインとバーバラ―――ノアールの同輩がモンスターを仕留めながら、他の団員たちを鼓舞する。

その言葉通りモンスターは『迷宮(ダンジョン)』の『上層』と比べても遥かに劣る潜在能力(ポテンシャル)でしかなく、落ち着いて対処すれば問題なく相手できる。

モンスターの波に紛れている『闇派閥』も大抵がLv.1。

 

「まさか『数』ですり潰す気か……? だがそれでも『数』が少ない。」

 

『天界』から神が降臨し、『神の恩恵(ファルナ)』を与えるようになった神時代。

『恩恵』を得た眷属は凄まじいまでの身体能力を手にする。

『恩恵』を得た兵士は『恩恵』を持たない100の兵に匹敵する、『量』より『質』。

これが神時代における絶対的なルールである。

 

とはいえ、第一級冒険者とはいえ絶望的な『数』にすり潰されることもある。

ましてや遥かに劣る第二級冒険者や下級冒険者なら尚の殊更である。

しかしそれでも膨大なまでの数を要する。

それをするくらいなら、同等の強者を用意する方が楽な位に。

 

「―――がああああっ!?」

 

「やめろ、来るな、来るなよぉ!」

 

フィンの副官、マック・ロナンが戦況を分析しているとふいに前線から幾つもの絶叫が聞こえた。

小人族(パルゥム)とはいえLv.3の第二級冒険者。

伝令よりも早く、前線で起こっている事を知った。

 

「やっぱり来たか、何だ。何が起こった!」

 

「も、モンスターです! 謎のモンスターが前線を襲っています! 地上でもダンジョンでも未確認の謎のモンスターです! 上級冒険者でも対処しきれません!」

 

 △▼△

 

「ぎひ、ぎゃは、ははははははははははははは!!! おい、おい何だよ傑作じゃねぇか! バスラムの奴、こんなもん隠しやがって!」

 

市壁の上で下卑た笑い声をしているヴァレッタ。

だがそれだけ地上で起きている出来事は衝撃的だった。

 

異形の怪物(モンスター)―――『戦闘魔獣(バトルビースト)』が数多のモンスターを屠った冒険者たちを圧倒しているからだ。

地上やダンジョンの『上層』で捕獲されたモンスターでありながら、異常な改造によって『中層』から『下層』のモンスターを同等の戦闘力を持つ文字通りの怪物が格下を従えて冒険者に牙を剥く。

 

調教師(テイマー)もなしで言う事を聞くモンスター。おまけに有象無象の怪物どもを従えるお蔭で同士討ちの乱戦になることも無い。さて、どうするフィ~ン? こっちは勿論、待ってやる気はないぜ?」

 

ヴァレッタが伝令の指示を出す。

そして伝令が都市各地に配置された部隊の下へ向かう。

当然、この部隊こそが本命である。

 

闇派閥(イヴィルス)』の精鋭で構成された部隊がモンスターや自決兵で疲弊した所を急襲し、一気に壊滅させる。

今回のヴァレッタの作戦の基本である。

『砦』に完全に引きこもっていたなら不慣れな攻城戦を仕掛ける事になり、容易く返り討ちになっていただろう。

 

「しかしヴァレッタ様。【アストレア・ファミリア】に【九魔姫(ナイン・ヘル)】、【重傑(エルガルム)】が確認できていません。それにも他、有力な第二級冒険者もです。しかも相手はかなりの斥候を出しており、こちらの様子を伺っています。」

 

「ああ……? ちっ、フィンの奴()()()()()()()。」

 

ヴァレッタが忌々しそうに白亜の塔を睨みつける。

その地下では最高の悪だくみの結果―――『終焉』が生まれているはずだ。

地上と地下からの挟み撃ちにフィン・ディムナが気付いていなければできない采配だ。

不断なら一笑に付すようなことだが、相手が【勇者(ブレイバー)】なら話は変わる。

 

こちらの策の一つや二つ、見抜かれていても不思議ではない。

 

「第二級どもがいない……いや、流石に大量の手練れをダンジョンには送れねぇ。地上にも『終焉』以上のバケモン―――【ゼウス・ファミリア】に【ヘラ・ファミリア】がいる。フィンのクソ野郎がそれを考慮しないはずがねえ。」

 

しばし熟考するヴァレッタ。

都市の喧騒が聞こえなくなる程、深い思考に身を委ねること僅か数分。

フィンの策を真正面から潰す事を選択し、追加の伝令を走らせる。

 

「―――【鉄人】と【機動要塞(デストロイヤー)】に伝えろ。てめえらのいけ好かない邪神の尻拭いしろってなァ! それともう一つ! 【超人】と【蛮勇の牙剣(ブルーター)】を進軍させろ! 相手が策を弄する暇なく、圧し潰してやれ!! 見せてやるよ、圧倒的で単純な暴力をなァ!!」 

 

 ▼△▼

 

ヴァレッタ・グレーデの予想通り、フィンは『闇派閥(イヴィルス)』がダンジョンから手を打って来ることを予想していた。

だがそれに対抗するために大規模な部隊を派兵することはできず、【アストレア・ファミリア】に二人の首領と幼い剣士を遣っていた。

 

「モンスターどもが興奮、いや混乱している。奴等も下で何かが起きている事を察しているな。」

 

「そりゃそうだ! 足元がこんだけバカみたいに揺れてたらな!」

 

【アストレア・ファミリア】の眷属、ゴジョウノ・輝夜とライラが叫ぶ。

ダンジョンに生息するモンスターも地上の眷属と同様に予測もしない事態に混乱しているのか足並みが乱れている。

 

「みんな、モンスターは無視よ無視無視無視っ! 私達の目的は召喚されたっていう『大最悪(モンスター)』だけ! 進軍(ゴー)進撃(ゴー)進功(ゴー)!!」

 

【アストレア・ファミリア】の団長アリーゼ・ローヴェルが一心不乱に前に進んでいく。

そしてその勢いに追いつくべく他の団員と【ロキ・ファミリア】が追っていく。

その勢いで大抵のモンスターは振り切れるが、恐慌(パニック)になっているモンスターが多く突発的な戦闘に巻き込まれることは避けられない。

そしてその度に【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインが全てを塵に変えていった。

 

今まで温存されていた鬱憤を晴らすかのように剣を振るい、振り返る事無く進んでいく。

『剣士』というより『修羅』と言うべきその様子に思わず戦慄する【アストレア・ファミリア】だったがこのような状況では頼もしい戦力だった。

 

「でも、『大最悪(モンスター)』を討伐するって言っても何処で仕留めるんだ? 相手は階層主なみのデカブツなんだろ?」

 

【アストレア・ファミリア】の団員ネーゼがそう疑問を上げる。

彼女の言う通り、目標は階層主に匹敵する超大型級。

通常の迷路での戦闘は困難である。

 

「ああ。戦える場所も限られる上に周囲から現れる雑兵(モンスター)も厄介―――ならば巨大な空間かつ別のモンスターが現れない階層を戦場に選ぶ。」

 

「……ということは、つまり―――。」

 

「ええ、決戦の地は『迷宮の楽園(アンダーリゾート)』―――十八階層ということね。」

 

 △▼△

 

「……おい、副団長。ヴァレッタとかいうのから命令が来たぜ。」

 

「フィル。もう【ゼウス】は解散したんだ。もう副団長だなんて呼ばなくていい。私の事はアリウスと呼べばいい。」

 

「っつてもなー。かれこれ10年は一緒にやって来たんだぜ? そう簡単に抜けたら苦労してねぇよ。」

 

「そうだな。それも、そうだ。」

 

市壁の上で二人の男が笑う。

とても下では凄惨な戦いが起きているとは思えない程に和やかだ。

 

「ザスとメナは……?」

 

「あいつらは別。エレボスのとこだな。」

 

「そうか。そっちに行ったのか。それで私達は?」

 

「五か所の『砦』の攻略と第一級冒険者の討伐だってさ。簡単に言ってくれるな、腕でも斬り落とすか?」

 

遠くにいる闇派閥(イヴィルス)の使徒がびくりと震える。

流石に最強派閥の団員が凶行に及ぶかもとなればそのような反応になるのは当然だが。

とはいえ長い付き合いのあるアリウスは普段の雰囲気を崩さない。

 

「……止めなさい。今の私達は彼女の麾下にある。命令は大人しく聞くものさ。そうだな、さっきの言葉と矛盾するが副団長命令なら聞いてくれるかい? それとも師匠からのお願いにしようか。」

 

「どっちでもいいよ。冗談、本気にされると調子狂うぜ。」

 

そう言ってフィルが市壁から飛び降りる。

そしてそのまま最高速度(トップスピード)にまで加速すると都市の戦いに消えていった。

最後でも変わらないとアリウスは苦笑し、そして今までが嘘のように表情を引き締めて、跳んだ。

 

「よし、これで最後だ。―――せいぜい私の無様。何処かで笑ってくれよ、主神様(ゼウス)。」

 

「なんだ、上から一体!?」

 

「待て、こいつ【超人】―――Lv.8だ!」

 

「【ゼウス・ファミリア】だと!」

 

偶然だが、アリウスは着地地点に斥候と会敵する。

面倒だなと思いながら剣閃を放つとそれだけで骸が三つ、生まれた。

長年の愛剣《アイゼン》の切れ味を確認すると白亜の塔に顔を向けた。

 

「呼ばれている、か。老いぼれとはいえ剣士の端くれ。こうまで剣気を放たれちゃあいかざるを得ないな。なあ、オッタル?」

 

錆色の猪人(ボアズ)を脳裏に浮かべながらアリウスは寂しそうにそう言った。

 

 ▼△▼

 

「ひゃははははは! やっぱり最高だなぁ、剣を振るうっていうのは!」

 

断末魔よりも早く、剣閃を輝かせるフィル・ライガー。

【ゼウス】と【ヘラ】の全盛期においてもLv.6でありながら二番目に早かった男はひたすらに殺戮を続けていた。

どれか特定の『砦』ではなく、都市全体を駆け抜けて目に入った冒険者を無差別に斬り殺しているだけだが動きを捉える事すら困難な小さい殺戮者を前に誰も抵抗する事ができずに死んでいく。

 

最初の方は一方的な殺戮が心地よかったが、一刻も続けていれば飽きが来る。

そろそろ流石に第一級冒険者を殺すかと思った瞬間だった。

 

「―――お?」

 

一陣の風が吹いた。

それと同時に銀色の穂先がフィルの胸目掛けて走った。

最高速度で疾走している自分にまさか追いつく者がいると思っていなかったが、流石は歴戦の冒険者。

小さな体躯にはまるで不釣り合いな二振りの刃で穂先を弾く。

 

不快な金属音が鳴り、刃の腹を滑る銀槍。

外れた槍に不快感を隠さずに、鋭い殺気と共に再び穂先が唸る。

だが当然、軽くいなされて小さな体には傷一つ残す事ができない。

 

「クソが……!」

 

『都市最速』の賞賛を一身に受ける【フレイヤ・ファミリア】の副団長―――アレン・フローメルが歯噛みする。

自身の不甲斐なさを呪いながら、矢継早に速攻を仕掛けるもやはり全て紙一重で防がれてしまう。

 

「ははは、面白い。速度勝負なんて【処刑の銀蹄(グリゴロス)】以来だ。」

 

余裕振りを崩さず、鍔迫り合いに興じるフィル。

その余裕さ加減にアレンは苛々するが、その表情を崩す事は出来ない。

 

「安心しろよ。逃げたりなんてしない。きちんと殺してから次に行くからさ。」

 

「黙れ。死ぬのはお前だ、クソ野郎。」

 

最速と最速がぶつかり、風が生まれる。

竜巻や嵐を彷彿とさせる戦いは都市全体を戦いの場として激しい戦音と共に開始を告げたのだった。

 

 △▼△

 

フィル・ライガーとアレン・フローメルが戦いを始めた全くの同時刻に二人の男が向かい合っていた。

長剣を腰に佩いたヒューマンと大柄な体躯を誇る猪人(ボアズ)

白亜の塔の真下、その入り口近くで対照的な二人が向かい合っている。

 

黒いフード付きのマントに防具は鎧籠手(ガントレット)のみであり、武器もまた腰に佩いている愛剣一本であるアリウス。

一方でオッタルは全身を一等級武装に匹敵する装飾品(アクセサリー)に防具、魔道具(マジックアイテム)で固め、武器もそれらに劣らない名品に特殊武装(スペリオルズ)だった。

特に武器は吟味しきれなかったのか墓標の様に地面に突き立てられている。

大槍(ジャベリン)大剣(グレートソード)戦鎚(ウォーハンマー)とその種類は様々である。

 

「……随分と着飾るじゃないか。前に見た時はもうちょっとすっきりしていたと記憶しているけど。」

 

「お前達を倒すために用意していた物を全て使った。今、お前を倒せねば意味がないからだ。」

 

オッタルが大剣を構え、振り下ろす。

断頭台(ギロチン)が如き刃がアリウス目掛けて食らいかかるが、アリウスは涼しい顔を崩さない。

そしてその表情通り、いつの間にか抜いていた剣でオッタルの斬撃を逸らしていた。

 

逸らされた剣戟は地面にぶつかり、衝撃の全てが吸われていく。

罅割れた大地がその威力の恐ろしさを無言で語っているが、アリウスは何の脅威も感じていない。

 

「いきなりだな。老人相手にせっかちすぎやしないか?」

 

「言葉ではなく、剣で語る……お前の言ったことだ。」

 

「そうか、いやそうだったな。私は、言葉は苦手なんだ。」

 

無造作に振るわれる剣。

回避はできないと悟ったオッタルが防御を選択するが、その行為をあざ笑うかのように剣は大剣を粉々に砕いた。

衝撃を逃すこともできず、姿勢を崩さずに後退することで精一杯だった。

 

「じゃあ、オッタル。戦おうか、全力で。」

 

轟音はならない。

剣を交える事も無い。

一方的な虐殺の宣言だった。

 

嘗ての『最強』と現在の『最強』。

都市の行く末を託すはずの戦いはとても静かに始まった。

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