ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかif 白兎と雷花の残響・残香   作:青色のラピス

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第八話 戦場、激しさを増して

「【超人】が『バベル』に向かった……。だがそこからの動きがねぇってことはあそこであいつを止められるだけの戦力を配置したのか。」

 

「Lv.8を押さえられる戦力、もしや第一級冒険者を全てあの場所に……!? か、勝てるのでしょうか……?」

 

「Lv.8様がそう簡単に負ける訳ねぇだろうが。真正面で限るならあいつ一人で今のオラリオを蹂躙できる。それに全員って訳じゃねえだろうが……だが相当な数を置いたのは確かだ。」

 

市壁の上でヴァレッタが思案する。

いくら『闇派閥(イヴィルス)』の戦力が増したとはいえ第一級冒険者は依然、脅威である。

特に唯一のLv.6である【猛者】オッタルに対抗できるのは【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】のみである。

 

「【フレイヤ】に【ロキ】の第一級冒険者の位置は割れている……だがムカつく【ガネーシャ】の連中は半分分かってねぇ。」

 

実際、発見できなかった第二級冒険者の大半は【ガネーシャ・ファミリア】所属だった。

第一級冒険者である団長と副団長は戦場で戦っているため直ぐに判明した。

死王子(ダーク・プリンス)】が率いる『暗黒騎士団(デス・ナイツ)』に【喰人鬼(マサーカー)】の対応に手一杯で『砦』の一つに抑え込まれている。

だがLv.4の第二級冒険者は半分もその場にはいなかった。

投入すれば戦局がひっくり返るであろう戦力を温存しているとは考えにくい。

 

「ならアリウスの野郎を止めるために使ったか、『迷宮(ダンジョン)』に派遣したのか……。」

 

推察と思考を続けるヴァレッタ。

現在の戦況は『闇派閥(イヴィルス)』が優位。

戦力も余裕があり、市壁周辺にはヴァレッタが有する部隊が配置されているが前線が変化した時に投入する予備戦力である。

故に軽々しく扱う訳にはいかず、ヴァレッタの攻め手が止まった。

 

―――そしてそれをフィン・ディムナは見逃さない。

 

 △▼△

 

「―――いまだ、かかれぇ!」

 

予想もしない場所から、攻撃を受けた。

如何な強者と言えでも背後からの一突きは簡単に致命傷となり得るのだ。

闇派閥(イヴィルス)』もその事を重々承知していた。

だから不意打ちや奇襲を受けないように、隠れ場所となるようなところにも片っ端から火を放っていぶり出していた。

 

それなのに今になって炎上した建物から冒険者たちが現れ、攻撃を始めた。

予想もしていない挟み撃ちに思いもしない混乱が生まれた。

 

「異形のモンスターを倒せ! あれを倒せばモンスターの制御は失われる!」

 

「っ!? 不味い、『戦闘魔獣(バトルビースト)』を下げろ! 他の雑兵(モンスター)の制御ができなくなる! この状態での乱戦は避けろ!」

 

「む、無理です! 既に囲まれて撤退路が塞がれています! 後続の部隊も全て『砦』の攻略をしているため残りはヴァレッタ様の部隊だけです!」

 

「発見できなかった第二級冒険者が次々と現れます! 【剛拳闘士】に【火炎爆炎火焔(ファイアー・インフェルノ・フレイム)】……どうしますか!?」

 

死王子(ダーク・プリンス)】が最悪を想起して、態勢を立て直そうとするも混乱を抑える事すら困難な状況だった。

しかも彼が相手しているのは【ロキ】や【フレイヤ】に準ずる【ガネーシャ・ファミリア】。

この数日間で最も稼働し、最も損害を被っているにもかかわらず『都市の憲兵』は全力をもって『悪』の排除に動いている。

 

「ふ、敵ながら見事と言うしかないな。攻め手を緩めよ! 集団になって防御陣形を取れ! 作戦の第一段階は終わった。第二段階に移るぞ! 『戦闘魔獣(バトルビースト)』は倒されぬように援護を怠るな!」

 

エドワードの指揮に忠実に従う漆黒の騎士達。

動揺は一瞬で消え、亀のような守りを展開する。

激しい攻勢から一転して、守勢に回ったことに誰もが違和感を持ったがこの流れを奪われないために冒険者達は必至に攻撃を繰り返すのだった。

 

 ▼△▼

 

「燻されてたのに、よく出て来んかったのぉ。まあ、こうなったお蔭で俺は助かるんじゃが。」

 

狼人(ウェアウルフ)の研究者にして【アパテー・ファミリア】の団長【改造魔】バスラムがそう嗤う。

周囲には自信が作り出した悍ましい発明品がおり、その成果を確かめたかったのだろう。

現れた冒険者達に対してまるで欲しかった玩具が与えられた子供の様な視線を向けている。

年齢と行っている所業とはまるで反対の純真な視線に【炎金の四戦士(ブリンガル)】は不快そうに吐き捨てる。

 

「キモイ。」

 

「マジできもいぞ。」

 

「もはや公害だろ。」

 

「いや、公害ですら生ぬるいぞ。」

 

「だあっはっはっはっは!! 数日振りじゃが相変わらず口が悪いのう! じゃが、よくそんな状況で軽口叩けるのう。精鋭の『魔獣騎士(キマイラナイト)』10騎にボコられとんのに。」

 

異形の騎士たちに囲まれてなお、その余裕さを崩そうとしない兄弟に感嘆の声を上げるバスラム。

兄弟たちの鎧や戦衣は傷だらけであり、自慢の連携をもってしても包囲網を崩せずにいる。

命の危機にあるというのにバスラムを煽るとなれば、愚かしさよりも逆に勇敢さを讃えたくなるというものだ。

 

「しかしまあ、【ゼウス】の冒険者に獣との融合を果たした者がおると聞いてモンスターとの融合を指せてみたが……Lv.3やLv.2でも第一級冒険者と遜色ない戦闘力を持つなら大成功じゃな。」

 

「ええ、バスラム様。御老翁の言う事は正しいと思います。【炎金の四戦士(ブリンガル)】、貴方達も同意を。」

 

蜘蛛のような頭をした六本腕の『魔獣騎士(キマイラナイト)』が腕の数と同じだけの剣戟を放つ。

複雑怪奇な剣筋は絶対の連携をもってしても防ぐことは困難で皮膚に新しく切り傷が生まれた。

他の団員は高度な戦闘についていく事ができず、これ以上の加勢を防ぐので背一杯だ。

 

それに加えて―――

 

「【現世は幻想。幻想の中こそが真の現世】!」

 

―――バスラムの転移魔法が炸裂する。

 

効果範囲こそ狭いが、急に発生する攪乱(シャッフル)は非常に厄介だ。

折角倒せそうな敵が居てもこの『魔法』一つで振り出しに戻る。

 

「そらそら、これもあるぞう!」

 

そして義手に内臓された『竜砲』も健在だ。

これがあるだけでLv.1やLv.2でも中距離戦では無類の強さを誇る。

近づこうにも製作者権限なのか強力な『戦闘魔獣(バトルビースト)』が大量に配置されており、これを突破する必要がある。

 

そのせいか【アパテー・ファミリア】には大した動揺は走らず、それどころか秘匿していた『切り札』を切り出す始末だった。

戦場に似つかわしくない大きな檻が崩壊する。

超硬金属(アダマンタイト)』でできた檻や鎖でなければその存在を戒める事すらできないモンスターが解き放たれる。

 

深緑の竜鱗に覆われた姿から『竜種』であることは一目瞭然だった。

だが翼の代わりに異常に発達した前脚は巨人の腕と言ってもさしつかない。

腕の筋肉を歪に震わせながら、竜は獲得した自由に歓喜する。

 

「本当は『魔獣騎士(キマイラナイト)』にするために温存しとったんじゃがどうしても適正者がおらんくてな。でも丁度ええから試させてくれんか?」

 

「―――ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」

 

目をキラキラ輝かせてバスラムはそう言う。

どれ程の犠牲がこの一匹で生まれるのかも知っているのに。

 

 △▼△

 

「殺し合って馬鹿みたいだな。まあ、どうせみんな死ぬからどうでもいいか。」

 

蟲使い(インセクトキープ)】キドウ・蝦夷丸が都市を鼠のように這い廻る。

仕事に対するやる気など微塵も感じさせないが、最低限の役割を果たすべく彼は走り回っているのだ。

とはいえ下準備は終わっており、後は発動させるだけではあるが。

 

「後は心臓だけ……。」

 

錆びたナイフを取り出し、積み上がった亡骸の臓腑を漁る呪術師。

そしてその中からピンク色の心臓を抉り出して、特殊なインクで描かれた魔法陣の上に置く。

どす黒く変色して複雑怪奇な魔方陣は都市中に設置されており、冒険者の血で繋がっている。

 

悍ましいこの行為が都市全体を陥れるための呪術儀式だとは誰も思わないだろう。

仮にそう思ってもまさか本当に効果があるなんて皆が眉唾だと眉を顰めるはずだ。

血で陣を作り、そこで贄を捧げるだけで人が殺せるなら誰も苦労しないと冷笑することが簡単に予想できる。

 

「さて、これで『起点』は完成―――下準備は終わった。」

 

そんな事をキドウ・蝦夷丸が聞けば逆に彼等を鼻で笑い、己の生業の存在を彼等の身をもって証明するだろう。

それと同じようにこの都市を踏みにじる為に大規模儀式の完遂を図る。

蝦夷丸が両手を合わせ、魔法陣に触れる。

 

その瞬間、どす黒い魔法陣が禍々しく発光を始めて都市中に繋がった魔法陣にその光を伝えていく。

 

「成ったか。じゃあ、わっちの役割は――――――!?」

 

四度昇華を果たした歴戦の眷属としての勘が自身の身に迫る危険を察知した。

そのままその危険から逃れるべく全力で地面を蹴った。

蝦夷丸が離れたと同時に『起点』が爆散した。

投擲された大槍によって破壊されたことはすぐに分かった。

 

土煙の向こう側で青い瞳が射抜いている。

エルフにも劣らない輝きを秘めた瞳が【蟲使い(インセクトキープ)】を貫いていた。

その輝きを秘めた者が【勇者(ブレイバー)】フィン・ディムナであることは誰もが知っている事実である。

 

「【勇者(ブレイバー)】か。随分と遅かったのう。『起点』を砕いても都市中にある陣がわっちの呪術を発動させる。―――もう終わりなんだよ。」

 

「いや、終わりじゃないさ。見つけた陣のほとんどは破壊した。少なくとも『砦』周りのはね。後は君だけだ、【蟲使い(インセクトキープ)】。」

 

「ならわっちはおんしを殺してもう一度呪うだけだ!」

 

錆びたナイフが空中を斬り裂いて、フィンへ向かって飛翔する。

当然、フィンはそれを全て叩き落して蝦夷丸向かって突撃した。

穂先が唸り、蝦夷丸の心臓を穿つべく真っ直ぐ突き進む。

 

「舐めんじゃねぇぞ!」

 

だがそんな単純な攻撃では当然Lv.5である蝦夷丸は軽々と避けられる。

それどころか鋭く尖らせた爪でフィンの頬を引っ搔いた。

爪先が柔らかい肉を引き裂いて、少量だが血を流した。

 

「……っ!」

 

だがそれ以上にフィンが気になるのは頬から全身に走る不快な感じだ。

力が抜けていく、虫が体内で這いずり回るなど言葉にすればキリのない不快感がフィンを襲っている。

 

原因はすぐに当たりが付いている―――呪術だ。

だが今まで儀式によって呪術を発していた男がまさか直接戦闘で使ってくるとは思いもせず、内心フィンは驚いていた。

 

「そういえば君は呪術師だったね。まさかそういう風に攻撃に織り交ぜてくるとは思わなかったよ。」

 

「爪に蟲の体液を塗ったくっただけさ。それにわっちも鼠人(ラットマン)―――獣人の端くれだ。」

 

両手の爪を晒し、フィンの猛攻を仕掛ける蝦夷丸。

かすり傷が生命に直結するとなれば如何に【勇者(ブレイバー)】とはいえ消極的にならざるを得ない。

槍で爪を防ぎ、何とか隙を見つけようと守勢の構えを見せた。

 

「守る事しかしないのか、小人族(パルゥム)の英雄よ! そんな事でよく勇気を口にできるなぁ!」

 

蝦夷丸の攻勢が強くなる。

爪撃は嵐の様に激しさを増し、苛烈さも同様に増していった。

小さな顔には相応しくないしわがついた顔を歪ませてフィンに恨み辛みをぶつけている。

 

(……随分と感情的だな。報告だと口も開かずに逃げ回るばかりだと聞いたけど……。)

 

フィンの中で蝦夷丸の情報は少ない。

呪術師と呼ばれる謎の存在であること。主に『極東』を中心に活動していたこと。絶滅種族、鼠人(ラットマン)であることの三つだ。

 

「分かる、分かるぞ! その小さい身体の奥にあるドス黒い情念が! あの図体しか誇る事のない愚物どもへの憎悪と侮蔑を!」

 

(絶滅種族、鼠人(ラットマン)―――小人族(パルゥム)以上に追いやられた弱小種族。随分と劣等感(コンプレックス)を持っている。つけいるなら、そこだな。)

 

嵐を凌ぎながら蝦夷丸の心中を推察するフィン・ディムナ。

肉体に刻まれた傷と心身を蝕む呪いをもってしても勇者(フィン)は崩れないのだ。

 

「何とか言えば―――

 

「そうだな、じゃあ言わせてもらいけど……僕は君と違ってみっともない真似はしたく無いかな。そうやって言っていても何も変わらないからね。」

 

「―――ああ言えば、こう言う!」

 

その瞬間、鼠が空高く跳躍した。

周囲の建築物を利用して、常人にはできない軽業を見せた。

今までにない行動に思わずフィンも思考が加速し、身体の動きが凍結する。

相手が逃げるのか、それともまた攻勢をかけるのかの判断がつかなかったからだ。

 

跳躍、そして急降下。

両手合わせての十指に生えた爪でフィンの腸目掛けて突っ込んできたのだ。

急いで防御に意識を向けるが既に遅かった。

 

「……感情的に、なり過ぎたな。」

 

腹を掴むような形で蝦夷丸がフィンに爪を立てている。

深々とフィンが着込む戦衣や鎧に食い込んでおり、傍から見れば致命傷なのは確実だった。

 

だが蝦夷丸はすぐにその異変を感じ取った。

 

(わた)の感覚が、ない……! しかも抜けん!?)

 

直ぐに爪を引き抜こうとしたが深く食い込んでおり、抜けない。

 

「……重装備にして正解だったね。」

 

地面と縫い合わせるかのように槍が蝦夷丸を貫いた。

小さく細い身体には大きすぎる穂先はあっさりと鼠の心臓を穿った。

これだけで即死だが、Lv.5の生命力を侮らないフィンは念のために首を刎ねた。

 

老いのせいか老けた首が石畳の上を転がる。

憎悪と理不尽を一身に浴び、それを返し続けた男の末路を見てフィンは嘆息したくなった。

虚勢で肥大化していく自分と憎悪で膨らんだ男を重ねずにはいられないからだ。

 

「……僕もこうなるのかな。」

 

どうしようもないこの嫌悪感が身体に走る不快感のせいだと、フィンは一蹴できなかった。

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