ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかif 白兎と雷花の残響・残香   作:青色のラピス

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アスレコが終わる気がしねぇ……。

オリキャラ出し過ぎた……。


第九話 死に逝く者は

「大丈夫ですか、【勇者(ブレイバー)】!?」

 

傷だらけのフィンを見て、驚愕の声を上げる斥候の冒険者たち。

フィンが都市中に斥候を放っており、その一団が偶然フィンと合流したのだ。

 

「これは……【蟲使い(インセクトキープ)】!? 『闇派閥(イヴィルス)』の幹部を倒したんですか!?」

 

「まぁね。彼を倒したら体の倦怠感も薄れて来た。完全には回復してないけど、時間経過で何とかなりそうだ。それで、何か異常はあったかい?」

 

都市中に放った斥候から直接フィンが情報を得て、敵を排除する。

冒険者全体の総指揮を担うフィンだが、部隊を指揮するに十分な人材が残っていたため前線の指揮を彼等に預けて自由に動けるようになったフィンが『悪だくみ』を片っ端から潰しているのだ。

 

「【超人】は想定通り『バベル』に進軍、【蛮勇の牙剣(ブルーター)】は【女神の戦車(ヴァナ・フレイア)】と交戦中です。先程の呪術儀式の影響は分かりませんが大した影響はないと思われます。」

 

「『闇派閥(イヴィルス)』の幹部の大半が戦線に投入されています。しかし指揮官である【殺帝(アラクニア)】の周りにもかなりの数がいる事から戦力をまだ温存しています。」

 

「余裕だな、ヴァレッタ。だけどモンスターに【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】もいれば余裕は生まれるのは必定か……。」

 

「勝てるでしょうか……。」

 

「神ならぬ眷属の身では分からないよ。でも負ける訳にはいかない。僕も君達もできる事を全力でやるだけさ。」

 

回復薬(ポーション)を頭から被って傷を癒しながらフィンは苦笑した。

幹部を一人討ち、企みを一つ潰したが依然としてオラリオ側が不利なのは変わらない。

『砦』周辺では横やりを入れるのが不可能なほどの大乱戦になっている。

伏兵を用いて相手の戦意を挫こうとしてもその度に『悪だくみ』でオラリオの戦意を逆に挫かれる。

 

(足りない……もっと大きな衝撃がいる……。リヴェリア、ガレス頼むぞ。思っていた以上に地上は余裕がない。)

 

 △▼△

 

十八階層は地獄と変わらなかった。

階層無視の砲撃を見た時点で『階層主』を越える怪物がいる事は明白だったが、まさかここまでとは誰も思わなかった。

羽はない、その代わりに巨大かつ強靭な体躯とそれを支える歪な四肢があった。

長い蛇の様な喉に狼みたいに深く裂けた顎から灼熱を吐く。

最強のモンスターとの名高い『竜種』であることは明白だった。

 

「あれが、『闇派閥(イヴィルス)』の切り札……!」

 

漆黒に覆われた恐ろしい怪物を見たリュー・リオンが戦慄と共に呟いた。

リューだけではない、リヴェリアもガレスもアリーゼに輝夜だって同じく戦慄していた。

特に【ロキ・ファミリア】は『深層』の情報を得ているためにあの怪物が『深層』で生まれたことも理解していた。

 

「五十二階層以下―――『竜の壺』には階層無視の砲撃を放つ『竜種』がいると聞いた。そいつの『亜種』か。」

 

「正体などどうでもいい。私達の手であのモンスターを此処で討つのみだ。」

 

ガレスが戦斧を構え、リヴェリアが呪文を口ずさみ始める。

そして【アストレア・ファミリア】も展開し、二人を中心とした陣形を組み上げる。

 

だが、そんなもの関係ないと金色の少女が躍り出た。

眼は真っ赤に血走り、たった一個の感情に固執した少女―――アイズ・ヴァレンシュタインの暴走だと理解できたのは【ロキ・ファミリア】の二人だけだった。

 

「な、アイズ! 一人で前に出るな!」

 

リヴェリアが諫めようと絶叫するも、既にその声は届いていなかった。

副官(マック)の予感通り、まだ子供で感情に振り回される年頃。

仕方がないと言えば仕方がないが、この場においては余りにも致命的だった。

 

「―――子供連れてくる場所じゃないでしょ、ここ。いえ、子連れが板についた。そう言いかえるべきなのかしら、女王妖精(ハイエルフ)。」

 

重撃が轟く。

砲撃ではなく、出鱈目な質量が叩き付けられて大気と岩盤を揺らした。

砂塵が舞い、爆音が駆け抜ける。

それでも隠せない凛とした声にリヴェリアとガレスは目を見開いた。

 

「……ダンジョンの方にいたのか。」

 

「これは、ちと手を焼くのう。」

 

「―――メナだけじゃねぇぞ!」

 

再びの質量投下。

だが察知できたガレスが受け止めた。

ガギィン、と大剣と大戦斧の擦れる音が鳴る。

正に豪快としか言い表せない一撃に、その正体の看破もまた容易かった。

 

漆黒の大剣と大楯。

身も守る武具もまた漆黒。

ドワーフには相応しくない180C(セルチ)を越える巨躯。

 

「お主もいたか、【鉄人】ザス・タイソン!」

 

【ゼウス・ファミリア】の城壁、その一角【鉄人】。

 

そして―――

 

 

「あら、わたしの事無視なんて酷いじゃない。八つ当たりで挽肉(ミンチ)作りたくなっちゃうわ。」

 

 

―――【機動要塞】メナ・ガイアード。

 

Lv.6とLv.7。

圧倒的な暴力が彼等の前に顕現した。

 

 ▼△▼

 

メナ・ガイアードとザス・タイソン。

厳密に言えば【ゼウス】と【ヘラ】の眷属がダンジョンにいる事は予測されていた。

しかし、彼等と接敵するのは目標に相対するまでの道中だと予測していた。

これだけ出鱈目なモンスターと共に地上へ向かうなど常識の範囲外であるからだ。

 

「Lv.5が二人に残りはLv.3の有象無象……随分舐めた真似してくれるわね。図体だけじゃなくて頭の容量も少ないのかしら、あの小人族(パルゥム)。」

 

「がはははは。そう言ってやるな。奴等かて出し惜しみをしている訳じゃなかろう。切羽詰まっとるのは見てるだけで分かるわい。」

 

ザスの視線の先には獣の様に上半身を低く下げて、血走った眼でモンスターだけを見ているアイズがいた。

胸中の奥から溢れ出る憎悪に身を委ね、自らの器を越えた力に酔っている。

さらに年の頃は成人はおろか、十になったかどうか。

とてもこの場に送るには相応しくない人物であることは明白で、言い換えればそんな人物を使わなければならない程に都市側の戦力が追い込まれている証左であった。

 

「そうねえ……まあ、この程度じゃわざわざ邪魔するのも悪いわね。いいわ、行きなさいな。思う存分戦って死ねばいいのよ。」

 

メナがそう言ってアイズから注意を外した。

ザスもアイズから注意を消した。

その瞬間にアイズは彼等の間を抜けて大災厄(モンスター)に突っ込んでいった。

 

ガレスが取り押さえるよりも早く、駆け抜けて剣戟を見舞う。

とてもLv.3の出力ではない圧倒的な火力。

『魔法』も合わさり、凄まじい勢いで怪物の肉を削いでいく。

喉笛を掻っ切り、胴体を斬り裂いて、爪牙を砕く。

 

だが、殺せない。止まらない。

 

邪神の『切り札』である大最悪(モンスター)は少女の憎悪一つで殺せるほどチャチではない。

 

「『深層』の三十七階層で生まれたモンスター……昔、とある邪神の真似をしてみたんだが。どうだ、これでオラリオを潰せるか?」

 

暴れ狂い、階層無視の砲撃を繰り返す『竜種』。

さらに攻撃を受けても再生を繰り返し、その歩みを止める事はない。

『階層主』に匹敵する質量と存在規模(スケール)

地上に出たらどれだけの被害になるのかは考えるまでもない。

 

「え、これのためにアンタ、ダンジョンに潜ったの? ショボすぎないかしら。」

 

「……五十三階層まで下りたんだけどなー……。」

 

【ヘラ】の無茶ぶりに邪神が頬を引きつらせる。

だが、だからといって冒険者たちをむざむざ進ませる気もないらしい。

 

「全く、これじゃ男共の頑張りも無意味ね。さっさと鏖殺して地上に戻りましょうか。」

 

「来るぞ! 儂の後ろに―――

 

ガレスが楯となるべく前に出る。

長年の相棒である大戦斧(グランドアックス)を構えて守ろうとした。

 

だが、メナ・ガイアードはそれを容易く超えていった。

 

「―――【フルメタル・ジャケット】。」

 

突風に吹かれる広告(チラシ)の様に吹き飛んだ。

飛ばされた影を追えば、逞しいドワーフが呆然とした表情で倒れていた。

おかしい事だった。

 

レベル差はあるが種族、役割(ジョブ)、体つきに筋肉量を鑑みればガレス・ランドロックはメナ・ガイアードに力負けすることなんてあり得ない。

 

「言ったでしょ? 鏖殺するって。」

 

 △▼△

 

地上でも激戦続きだった。

後方を突いた伏兵による闇派閥の混乱は一時的なもので、現在は入り乱れての大乱戦と化していた。

冒険者に使徒、モンスター。

『数』は闇派閥が勝り、『質』では冒険者が勝る。

 

だが膨大な数と異質とも言える質が冒険者の首筋に牙を立てる。

 

(―――押されている。)

 

フィン・ディムナの副官、マック・ロマンは自分達の劣勢を誰よりも理解していた。

老いも若いも、熟練も新入りも関係なく戦い、死んでいく乱戦の戦場。

半端な『質』や『連携』は意味もなさず、死にたくないという意志に生き延びるという意志だけが確かな力として発揮されていた。

 

(駄目だ、負ける。もう『詰み』だ。)

 

少し前に【蟲使い(インセクトキープ)】が死んだという情報が大声で届けられた。

数少ないLv.5の喪失に通常なら、絶望が直面するが既に狂気に落ちた連中。

真面な事績では、その心に何の波も起こす事ができない。

 

(隊長格に幹部たちが死んでもお構いなし。自爆にモンスター入り乱れる大乱戦。じわじわ削られる以上、絶対数に劣る冒険者は追い詰められる一方だ。しかも一度守りの態勢に入った以上、攻めに回る事もできない。)

 

「マック、不味いぞ! 余りにも数を勢いが強い。このままだと押し切られる―――守り切れんぞ!」

 

「んなこと言われなくても分かってんだよ! でもな避難民もいる以上は逃げれないし、『砦』の中にも入れないから立て直しようもないんだよ!」

 

器用に片腕で戦うマックが怒鳴る。

だがノアールも傷だらけで、どれだけの激戦と劣勢かを物語っている。

 

「死ねぇ、冒険者!」

 

「クソが、俺の所に来るな!」

 

自爆兵が撃鉄を起動する前にナイフで首筋を抉る。

『恩恵』を得て数日しかない元一般人はそれだけで絶命し、地面に骸と転がる。

無数に転がる自爆兵の骸を鬱陶しく思いながらマックは指揮と応戦に没頭する。

 

だが、()()()

 

これ、使えないか? と。

 

「おい、ノアール。死ぬ気はあるか? ないなら、今作れ。」

 

 △▼△

 

オリヴァス・アクトは苛立っていた。

蟲使い(インセクトキープ)】を始めとする幹部の戦士に思うように進まない『砦』の攻略。

切り札としている【超人】に【蛮勇の牙剣(ブルーター)】も動きが見えない。

まとめ役である神エレボスは何を考えているか分からず、参謀役のヴァレッタの見下すような視線は気に喰わない。

【顔無し】や【妖魔】に【改造魔】も使命を果たそうとせず、我欲を優先する態度が気に喰わない。

 

「ええい、冒険者どもめ。いい加減に諦めろ! 同志たちよ、『魔剣』に『魔法』の有りっ丈を叩き込め! 多少の同士討ちは気にするな! 諸共灰燼に帰してやれ!」

 

苛立ちの収まらないオリヴァスがその感情のままに更なる攻撃を命じる。

部下たちが命令通りに行動し、更なる戦火が巻き起こる。

邪悪も正義も、人も怪物関係なく焔に巻き込まれて物言わぬ骸と変わった。

 

もはや、正気を疑う事すら生ぬるい現状に冒険者の士気が再び下がる。

脚を前ではなく、後ろに下げて今にも潰走しそうだ。

いや、後ろに守るべき存在―――避難民がいなければ『砦』を今すぐにでも放棄していただろう。

 

「皆の者、行くぞォ!」

 

突然、冒険者の一部隊が前線を抜けて『闇派閥』の陣地へ突っ込んできた。

先頭を征くのは【ロキ・ファミリア】の老練ノアール・ザクセン。

そしてダインやバーバラといった熟練も後ろに続いている。

いや、彼らだけじゃない。

駆け出し、中堅、上位関係なく壮年や老年に至った手練れたちが堰を切ったように敵陣深くに斬り込む。

 

上級冒険者の決死の吶喊の威力は凄まじく、『闇派閥』の勢いを挫くには十分だった。

 

「はははは! 燻っている老いぼれ共はワシ等に続けぇい!」

 

「黙れ、ノアール! 【大派閥(ロキ・ファミリア)】に何時までもデカい顔させられるかよ!」

 

「アンタらはいい加減にしな、みっともないったらありゃしないよ!」

 

『黄昏の館』だけじゃない。

近くで戦っている冒険者の一団や近くにある『砦』からも、老練の冒険者たちが次々を撃って出る。

誰に言われた訳でもなく、流れに引き寄せられた冒険者の群れが『闇派閥』に噛みついている。

 

「黙ってろ、ノアール。後輩頼みのお前達に言われるまでもないわ!」

 

「【勇者(ブレイバー)】や【九魔姫(ナイン・ヘル)】のおこぼれ預かっているだけで先輩面してんじゃねぇよ!」

 

得物を振るい、その首筋を貫く。

傷口から吹きこぼれた赤い血潮が勢いよく噴き出して、冒険者を濡らしていく。

手練れの命がけの吶喊は、狂気の軍勢に確かに牙を突き立てた。

 

しかし、猛獣の牙とはいえ手傷を負ったもの。

その命脈を断ち切るには足りていなかった。

 

 

「消えろ、老いぼれ共!」

 

苛立ちと共に放たれる『魔剣』の砲撃。

炎に氷、雷と様々な属性の速射が冒険者たちを吹き飛ばした。

そして倒れた冒険者がモンスターと武器の餌食になる。

 

「もういい加減に諦めろ、冒険者! 貴様たちの敗北は決まっている! こんな破れかぶれの突撃程度で我等が揺らぐものか!」

 

「く、は、はははっはっはは! ―――そのようなつまらぬことを言うな【白髪鬼(ヴァンディエッタ)】! ただ、踊ろうぞ!」

 

狂ったように笑った後に剣を振るうノアール。

戦場の狂気が伝播したのか冷静を保っていた老冒険者が堰を切ったかのように暴れ始める。

ダインもバーバラも、後ろに続く名も無き彼等彼女達も。

長年連れ添った得物を持ち、斬りかかる。

 

当然、『闇派閥(イヴィルス)』はそれに抵抗する。

『魔剣』を放ち、武器をもって斬り返す。

 

冒険者も『闇派閥』も老人たちが起こした狂騒に目が釘付けになる。

全ての感覚が僅か5M四方の空間に集中される。

冒険者に兵士たちは当然として、モンスターさえも調教師(テイマー)の命令で狂騒に意識が強制される。

 

 

―――そして、それがマック・ロマンの求めたものであるとは誰も気づいていなかった。

 

 

「クソ首領(フィン)! 後は知らねぇぞ! 精々苦労するんだな!」

 

小人族(パルゥム)、何を―――

 

マックが走り出し、Lv.3の身体能力を駆使して人とモンスターの波の間をすり抜けていく。

想定していない、予想もない出没者に完全に出遅れた『闇派閥』は彼の前には全くの無力だった。

そして、その隙を突くようにいつの間にか集めていた無数の自爆装置を大型級に叩き付けた。

 

それは一瞬の出来事だった。

 

爆音が響き、その爆心地に目を向けた時には全てが終わっていた。

改造され、誰が倒せるのかと絶望させた大型級は物言わぬ肉塊に代わり、動くことはなかった。

 

「ま、まずい……アレがいなくなるとモンスターの制御が……! 調教師(テイマー)、早く何とかしろ!」

 

仮にも幹部であり、大型級の役割をよく知っているオリヴァスが焦る。

そして最悪の事態を避けるべく命令を下すが返答はない。

代わりに返って来たのは物言わぬ骸だった。

 

鋭利な剣によって首を斬られ絶命した調教師の首。

そして投げられた元には血みどろになって笑みを浮かべた老剣士の姿。

 

「はははははは! お前もここまでのようだな、オリヴァス・アクト。」

 

「こ、このっ、クソ老人がぁ!」

 

自分の末路を幻視したオリヴァスが激昂と共に拳を振るう。

くたびれた老人一人なら束になっても粉々にできる鉄拳を真っ直ぐに放った。

 

「おお、やっと躍る気になったか【白髪鬼(ヴァンディエッタ)】! だが悪いな、先に上がるぞ。」

 

「貴様―――!?」

 

懐から取り出される自爆装置。

そして迷いなく引き金を引いた。

自爆する気かとオリヴァスが叫ぶ暇もなく、爆発し爆風がオリヴァスを打ちのめす。

 

「冒険者めぇ……! どれだけ私をコケにするつもりだ! 同志たち、怯むな! これは冒険者共の悪あがきにすぎん……あと一押しで潰せる! この特攻は奴等は自分達の苦しさを吐き出しただけにすぎん!」

 

オリヴァスが怒りに任せて兵をまとめ上げる。

そして再び『砦』への猛攻を再開する。

ただ、頼みの綱であるモンスターの制御は完全に失われ、先程までの苛烈さは失われていた。

 

それだけじゃない。

縦横無尽に駆けまわる鋼の穂先が『闇派閥』の喉元を貫いている。

音速に準ずる鞭がその速度を殺すことなく、確実に命を奪っているからだ。

 

「―――後輩(ラウル)に約束したんでな、マックにノアールの働きを無駄にしないと。だから、ここで皆死ね『闇派閥』。」

 

Lv.4の第二級冒険者―――【技巧の知恵者(へカントンケイル)】アンドレウ・ジャイロ。

大派閥でも随一の小器用な男である。

そして現オラリオ、いや下界で数少ないLv.4。

圧倒的な『個』が何か枷でも外れたかのような暴れ振りを見せる。

 

 ▼△▼

 

そして、この『砦』での自爆劇は思わぬところにも影響があった。

 

「おーい、もしも~し、もう終わりかい? ……おいおい、君が馬鹿にしていた小人族(パルゥム)に瞬殺されちゃあ世話ないぜ?」

 

二振りの凶刃を地面に突き刺し、倒れ伏すアレン・フローメルを足蹴にするのはフィル・ライガー。

元『都市準速』と現『都市最速』の勝負の結果だった。

翻弄するフィルに突っかかるアレンが直線的になった所で一瞬で切り刻まれたという決着だった。

 

余りにも呆気ない結末に気が抜けたフィルがアレンを立ち上がらそうと弄っているがアレンは何の反応も返さない。

敗北のダメージが大きすぎて、単純に立ち上がる余力がないのだ。

 

いい加減にあきたので、次の獲物を探そうかと意識をアレンから離した時だった。

 

マック・ロマンの自爆が轟いた。

かなり離れているはずなのに音が響いた。

振動と音が若干ながらにでもある事からその威力は察せるだろう。

 

「……方向的に【ロキ】の方か。誰がいたのか知らないけど、よっぽど根性のある奴いたんだな。【フレイヤ】の口だけのゴミとは大違いか。こいつ瞬殺してあっちに行きゃあ良かったかなぁ……。」

 

「だ、れが口だけ野郎だ……! クソパルゥム……!」

 

振動の影響か、アレンが目を覚ました。

とはいえ、既にダメージも大きく立ち上がる事にも難儀している。

 

「お、起きたのか。そのまま寝といた方が幸福だったのに。主神同様に【フレイヤ】の連中は馬鹿丸出しなのか?」

 

「うるせぇ……!」

 

フィルの言う事は正しかった。

アレン・フローメルは立ち上がった所で勝機はない。

奇跡が起こっても無駄だ、また切り刻まれるだけである。

それだけの『力』の差があった。

 

それなのになぜ、自分は立ち上がったのか。

アレンには分からなかった。

反射的に心の内から湧き上がる、訴えかけるこの感情がアレンには理解できなかった。

 

「【金の車輪、銀の首輪。】―――

 

だけど、それに答えを出す事よりも重要なことがあった。

 

目の前にいる怨敵を轢殺することだ。

敬愛すべき女神を侮辱した敵をこの世から欠片一つ残さずに消し去ることだ。

 

「『魔法』か。いいぜ、少しは興味が湧いた。詠唱が終わるまで、待ってやるさ。」

 

フィルは不敵に笑った。

アレンの挑戦を待っていたかのように笑ったのだった。

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