ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかif 白兎と雷花の残響・残香   作:青色のラピス

5 / 43
第五話 神の戯れ、人魔の闘争

ベルとヘスティアは銀の野猿(シルバーバック)に追われていた。

巨体に見合わぬ俊敏性を持つ獣は元来有する剛力も合わさり、ベルとヘスティアを確実に追い詰めていた。

 

「! ベル君、右だ!」

 

ヘスティアの言葉に反射的に反応し、右へ曲がる。

その瞬間、明らかに雰囲気が変わった。

雑多な街並みに、まるで整備されていない道の数々。

 

その瞬間、ベルは己がいる場所を知覚した。

此処は『ダイダロス通り』。度重なる区画整理で狂いに狂った領域。

一度入れば、簡単には逃げられない迷宮(ダンジョン)都市における地上の迷宮(ダンジョン)と揶揄される場所。

 

「確かに危険な場所だが、此処なら簡単には追い付かれない、ベル君!」

 

「はいっ!!」

 

ヘスティアの声に応じて、無茶苦茶に進む。

後先考えずに唯ひたすらに銀の野猿(シルバーバック)を撒くために慣れない地を疾駆する。

 

道は狭いため銀の野猿(シルバーバック)が通り辛く、幸運なことにベル達は銀の野猿(シルバーバック)から逃げることが出来た。

 

「はあ~~。取り合えず逃げれたね、ベル君。」

 

緊張が緩んだのか、ヘスティアがホッとした声を漏らす。

そしてベルも緊張が緩み、つい強い語気でヘスティアを問い詰める。

 

「神様! 何で此処にいるんですか!」

 

いきなりの強い語気にヘスティアは驚いた。

しかし、当然のことだった。何の戦う力の無い神々がこのような場所にいることは自殺行為だ。

 

「……ゴメンよ、ベル君。君に心配させちゃったね……。」

 

ヘスティアも流石に自分の行いが危なっかしいことこの上ないことを自覚し、反省する。

ベルもその様子を見て、必要以上に何か言うことは無かった。

 

「ーーーーーーッ!!!」

 

「「!!」」

 

遠くから咆哮が響く。

銀の野猿(シルバーバック)のものだった。聞いて理解した。まだ諦めていないということを。

 

「……ベル君、今オラリオは謎の新種怪物(モンスター)の襲撃を受けている。第一級冒険者が出るような事態だ。多分、あの怪物(モンスター)を倒せるのはこの場においてベル君、君しかいない。」

 

そう言われてベルが凍り付く。

銀の野猿(シルバーバック)を倒す、言うのは易いが実行するのは難しい。

先程まで戦っていたベルが一番それを理解していた。

 

「おいおい、ベル君。そんな心配そうな顔をするもんじゃないぜ。ボクは君の手助けをしに来たんだ。」

 

そう言って布に包まれた一振りのロングナイフを渡す。

そして自分に背中を向けるように促す。

 

「それは君を助ける新しい武器だ。そしてここでステイタスの更新を行う。そうすれば君はあの怪物(モンスター)に対抗できるはずだ。」

 

ヘスティアが神血(イコル)を背に垂らし、ステイタスの更新を行う。

結果は――

 

 

ベル・クラネル

 

【ヘスティア・ファミリア】

 

ヒューマン

 

Lv.1

 

 

《基本アビリティ》

 

力:B788→A895

 

耐久:D541→B781

 

器用:C689→B763

 

敏捷:S904→SS1042

 

魔力:B732→B751

 

 

《スキル》

 

英雄覇道(ヘラクレス)

・『輝白決意(アルゴノゥト)

・『憧憬追走(リアリス・フレーゼ)

・『雷花血統(リコリス・ブラッド)

・『祝福聖鐘(ブレス・グランドベル)

・『試練踏破(ネオ・ブースト)

・■■■■

・■■■■

・■■■■

・■■■■

・■■■■

・■■■■

・■■■■

 

 

竜授叡智(ハイベルク・ウィズダム)

・アビリティ魔力に高い補正。

・ステイタスに記されていない魔法使用時に発展アビリティ魔導が限定発現。補正効果はLvに依存する。

・ステイタスに記されていない魔法使用時に魔力暴走(イグニス・ファトゥス)発生確率低下。補正効果は運とLvに依存する。

 

 

《魔法》

 

【ファイアボルト】

・詠唱の必要がなく、魔法名のみで発動可能な速攻魔法。

 

 

(……何だよSSって……。)

 

スキルや魔法の数こそ変化はなかった能力値(アビリティ)は大幅に向上した。

しかも一つは限界突破を起こしており、ヘスティアは絶句するしかなかった。

 

「……神様?」

 

何の反応も出さないことを不安に思ったベルがヘスティアに問いかける。

その声にはっとしたヘスティアは何でもないように振る舞い、己の眷属に成長を伝える。

 

全てを終えたベルは立ち上がる。

しかし、今からのことを思ってか緊張で手が震えていた。

それを見てヘスティアはベルの手を握り、優しく微笑む。

 

「……ベル君、そんなに気負う必要はないぜ。付き合いの短いボクが言うのもなんだけど……。君の努力に想い、その全てをボクが保証しよう。――だから大丈夫。」

 

何の意味があるのか分からない慰めだったが、不思議と肩の力が抜けていくのをベルは感じた。

ふうと一息をつくと真っ直ぐ見つめている己の主神の瞳を真正面から見つめる。

答えは短く、はっきりと。

 

「分かりました、神様。ありがとうございます。」

 

ベルが振り返る。

其処に獣はいた。

 

顎から白い息を吐き、赤い瞳は真っ直ぐにベル・クラネルを貫いている。

ベルもまた、眼前の獣を睨みつけ、再び戦意を漲らせる。

 

 

 

―――いざ、決着を。

 

 △▼△

 

ベルは目の前にいる銀の野猿(シルバーバック)を見据える。

思考は揺らぐことなく、冷静だった。

エイナの授業で聞いたものよりも大きく、凶暴なこの個体は恐らく『強化種』なのだろうとベルは思った。

 

目を閉じ、双剣を抜く。

無意識に瞼の裏では四人の英雄を思い浮かべていた。

叔父なら、祖母なら、そして祖父や義母ならどうするのか。彼等彼女等はどうだったのかを思い出していた。

 

―――小さい(チャイム)の音が鳴った。

 

リンリンと小さな音が純白の光と共に鳴っていた。

銀の野猿(シルバーバック)はその音を不審に思ったが、特に気にすることなく突撃を敢行する。

 

その瞬間、ベルは双剣を投げる。

限界ギリギリだった一対の剣は銀の野猿(シルバーバック)の頭に直撃した衝撃と共にバラバラに砕け散る。

 

余りの衝撃と双剣の破片により思わず体を背ける。

そしてベルはその一瞬を逃すはずはない。

 

全身に力を籠め、蓄力(チャージ)した全てをつぎ込み、主神から賜った新しい武器――《神の刃(ヘスティア・ナイフ)》を獣の胸に突き立てる。

今までの武器と一段違う威力を持つその刃は容易く獣の肉を裂き、その奥にある魔石へ届いた。

 

あらゆる怪物(モンスター)の弱点として挙げられる物が一つだけ存在する。

それは魔石だ。何処にあるのかは怪物(モンスター)の種類によって異なるが人型の怪物(モンスター)は胸にあるのが定石だった。

魔石が弱点とされるのは魔石を砕かれた怪物(モンスター)は全て塵に変わるからだ。

『強化種』であろうと『迷宮の孤王(モンスターレックス)』であろうとも。

 

故に怪物(モンスター)である銀の野猿(シルバーバック)も塵に変わる――はずだった。

圧倒的な耐久力を持つ筋肉は易々と貫くことは敵わず、一撃で仕留めることはできない。

 

しかし、確かに魔石に攻撃は届き、小さな罅が入っていた。

銀の野猿(シルバーバック)は確信した。己の命は持って数分であるということを。

 

実際に動けば動く程、罅は大きくなっており確実に獣の命を削っている。

だが、止まらない。

憤怒を力に変えて、凄絶な剛撃を繰り出す。

 

―――この兎だけは絶対に殺す。

 

最早、自身の願望が叶わないことも自分が死ぬことも理解していた。

ならば目の前にいる敵を全力で否定したいと思うのは当然のことだろう。

 

しかし、銀の野猿(シルバーバック)の攻撃は当たらない。

仮に当たる攻撃であっても、防がれ、流される。

確かにベルの身体能力が上がった。それでも銀の野猿(シルバーバック)との能力差は厳然と存在する。

 

ベルが恐怖を克服し、肩の力が抜けたことも理由の一つでもある。

しかしそれ以上に銀の野猿(シルバーバック)以上の強者を知っていたことが大きかった。

 

(お義母さんはもっと速かった! 叔父さんはもっと剛力だった! あの二人はもっと巧みだった!)

 

攻撃を受けるたびに嘗ての光景を思い出す。

大地をも砕くザルドの剛剣(けん)怪物(モンスター)や金属をも断つアルフィアの手刀(いっせん)

ベルが英雄になると決意した時から見続け、受け続けたモノに比べたら銀の野猿(シルバーバック)の剛撃など比べるべくも無かった。

 

「はあああああッ!!」

 

少年が吠える。

勢いをつけた刃の一閃は、銀の野猿(シルバーバック)の腕を切り落とす。

勢いを殺すことなく、そのまま連撃(ラッシュ)を叩き込むも殺しきることは叶わず途中で逃げられる。

 

距離を取った銀の野猿(シルバーバック)は四つん這いとなり、唸り声を上げる。

猛牛(ミノタウロス)を彷彿とさせるその体勢はベルを無意識に委縮させる――はずだった。

 

ベルは恐怖を克服していた。

その姿を見て、恐怖ではなく戦意を高揚させていた。

銀の野猿(シルバーバック)の構えを見て、ベルもまた構える。

瞳を閉じ、思い浮かべる。憧憬(えいゆう)の姿を、その一撃を思い浮かべる。

そして白い光と共に再び(チャイム)の音が鳴り始める。

 

「はああああああああああッッ!!!」

 

「グオオオオオオオオオオッッ!!!」

 

有りっ丈の力を籠めた一人と一匹は同時に駆け出す。

己が今出せる正真正銘の全力と共に。

 

獣は尋常ではない剛力を秘めた鉄拳を。

 

少年は白い輝きを秘めた昇華された刺突を。

 

後僅か、数メドルで接触するという場所で少年のスピードが限界を超えて更に上がる。

スタイタスを昇華させたことによる更なる飛躍の証拠だった。

余りのスピードに銀の野猿(シルバーバック)の視界から一瞬だけ消え失せた。

 

本来なら意味もない行為だろう。生み出した隙は僅か一撃分。

ベル・クラネルの一撃では殺しきることは出来ない。

少なくとも、銀の野猿(シルバーバック)はそう考えた。

 

一瞬で銀の野猿(シルバーバック)の懐に潜り込む。

そしてあらゆる力を込めた刃を獣の胸に突き立てた。

 

秘めた力は銀の野猿(シルバーバック)の胸板を貫くだけでは飽き足らず、凄まじい光の奔流となり胴体に大穴を穿つ。胸に大穴を作った銀の野猿(シルバーバック)はゆっくりと塵に変わっていった。

魔石は完全に消滅していたからだ。

 

怪物(モンスター)が塵に変わったことにより『ダイダロス通り』の住民が一斉に歓声を上げた。

その歓声が耳に届いたことでようやく少年は実感した。己が勝利したということを。

 

「……やった、やりました! 神さま! 神様!?」

 

喜色満面の笑みを浮かべ、ベルはヘスティアの方を向く。

しかし、ベルは絶句することになる。

何故なら彼の瞳に映ったのは、力なく倒れるヘスティアの姿だったからだ。

 

 ▼△▼

 

最後の食人花の怪物(モンスター)が魔石を失い、塵へ変わる。

食人花の怪物(モンスター)を倒した金の少女―――アイズ・ヴァレンシュタインは自身の負荷に耐え切れず自壊した細剣(レイピア)を見て、黄昏ていた。

その様子を見かねたアマゾネスの双子や山吹色の妖精(エルフ)が慰めるが、嫌な予感を拭うことが出来ない少女は中々立ち直ることが出来なかった。

 

そうしていると都市の一角が騒がしくなっていた。

怪物(モンスター)がまた突然現れたのかと身構えるが、どうやら様子が異なる。

誰も悲壮な声や表情を出すことなく、むしろ何か良いものを見たとでも言うべき和気藹々とした雰囲気だった。

 

「なあ、おばちゃん。これどうしたん?」

 

「あら、知らないの? 白い髪をした男の子が脱走した怪物(モンスター)を倒しちゃったのよ。さっき『ダイダロス通り』の連中が知らせてくれたんだけど、あの魔窟の奥まで誘いこんで一瞬で倒しちゃったそうよ。」

 

「……はあ、怪物(モンスター)? それに脱走?」

 

気になったロキが近くにいた女性に訳を尋ねるが先程まで食人花との死闘を演じていた彼女達には知らない情報であり、首を傾げる。

ロキはぶつくさと何か言って考え事をしているが、アイズは全く別のものに釘付けになっていた。

 

「すみません、どいてください!」

 

群衆をかき分けて進む少年がいた。

黒髪の幼女を抱え、白い髪を揺らしている。

 

体中に傷を作り、ボロボロだった。

アイズは直ぐに彼が先程まで怪物(モンスター)と戦っていたのだと気づいた。

そして彼が自分が助け、傷つけてしまった少年だとも、気が付いた。

 

(どんな怪物(モンスター)を、倒したのかな? ……君に、謝りたいな。取り合えず、ゆっくり話しても見たいかな……。)

 

アイズの思いは言葉に現れることなく、風に溶けてゆく。

白兎と少女の出会いはもう少し、後になりそうだ。

 

 △▼△

 

「……凄いわね、正直予想外だったわ。ええ、大満足よ」

 

そう女神は呟いた。

 

女神は先程まで少年と獣の死闘を見ており、そして見届けた。

いや、死闘だけではない。少年が都市に来てから、この女神が目に留めたその瞬間からずっと見ていた。

 

「でもヘスティアには嫉妬しちゃうわ。それに、まだ少し情けない所があるわ。……でも、そうね……また遊びましょう? そして楽しませてね、ベル?」

 

そう言ってフレイヤは妖艶にも邪悪にも取れる表情で微笑み、都市の雑踏へ消えていった。




話の区切りが良いので一旦のストップです。

話のストックが貯まり次第また投稿を再開します。

ここまで読んでくださりありがとうございます!
感想や高評価等をいただけると励みになります!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。