ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかif 白兎と雷花の残響・残香 作:青色のラピス
ベルとヘスティアは
巨体に見合わぬ俊敏性を持つ獣は元来有する剛力も合わさり、ベルとヘスティアを確実に追い詰めていた。
「! ベル君、右だ!」
ヘスティアの言葉に反射的に反応し、右へ曲がる。
その瞬間、明らかに雰囲気が変わった。
雑多な街並みに、まるで整備されていない道の数々。
その瞬間、ベルは己がいる場所を知覚した。
此処は『ダイダロス通り』。度重なる区画整理で狂いに狂った領域。
一度入れば、簡単には逃げられない
「確かに危険な場所だが、此処なら簡単には追い付かれない、ベル君!」
「はいっ!!」
ヘスティアの声に応じて、無茶苦茶に進む。
後先考えずに唯ひたすらに
道は狭いため
「はあ~~。取り合えず逃げれたね、ベル君。」
緊張が緩んだのか、ヘスティアがホッとした声を漏らす。
そしてベルも緊張が緩み、つい強い語気でヘスティアを問い詰める。
「神様! 何で此処にいるんですか!」
いきなりの強い語気にヘスティアは驚いた。
しかし、当然のことだった。何の戦う力の無い神々がこのような場所にいることは自殺行為だ。
「……ゴメンよ、ベル君。君に心配させちゃったね……。」
ヘスティアも流石に自分の行いが危なっかしいことこの上ないことを自覚し、反省する。
ベルもその様子を見て、必要以上に何か言うことは無かった。
「ーーーーーーッ!!!」
「「!!」」
遠くから咆哮が響く。
「……ベル君、今オラリオは謎の新種
そう言われてベルが凍り付く。
先程まで戦っていたベルが一番それを理解していた。
「おいおい、ベル君。そんな心配そうな顔をするもんじゃないぜ。ボクは君の手助けをしに来たんだ。」
そう言って布に包まれた一振りのロングナイフを渡す。
そして自分に背中を向けるように促す。
「それは君を助ける新しい武器だ。そしてここでステイタスの更新を行う。そうすれば君はあの
ヘスティアが
結果は――
ベル・クラネル
【ヘスティア・ファミリア】
ヒューマン
Lv.1
《基本アビリティ》
力:B788→A895
耐久:D541→B781
器用:C689→B763
敏捷:S904→SS1042
魔力:B732→B751
《スキル》
【
・『
・『
・『
・『
・『
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【
・アビリティ魔力に高い補正。
・ステイタスに記されていない魔法使用時に発展アビリティ魔導が限定発現。補正効果はLvに依存する。
・ステイタスに記されていない魔法使用時に
《魔法》
【ファイアボルト】
・詠唱の必要がなく、魔法名のみで発動可能な速攻魔法。
(……何だよSSって……。)
スキルや魔法の数こそ変化はなかった
しかも一つは限界突破を起こしており、ヘスティアは絶句するしかなかった。
「……神様?」
何の反応も出さないことを不安に思ったベルがヘスティアに問いかける。
その声にはっとしたヘスティアは何でもないように振る舞い、己の眷属に成長を伝える。
全てを終えたベルは立ち上がる。
しかし、今からのことを思ってか緊張で手が震えていた。
それを見てヘスティアはベルの手を握り、優しく微笑む。
「……ベル君、そんなに気負う必要はないぜ。付き合いの短いボクが言うのもなんだけど……。君の努力に想い、その全てをボクが保証しよう。――だから大丈夫。」
何の意味があるのか分からない慰めだったが、不思議と肩の力が抜けていくのをベルは感じた。
ふうと一息をつくと真っ直ぐ見つめている己の主神の瞳を真正面から見つめる。
答えは短く、はっきりと。
「分かりました、神様。ありがとうございます。」
ベルが振り返る。
其処に獣はいた。
顎から白い息を吐き、赤い瞳は真っ直ぐにベル・クラネルを貫いている。
ベルもまた、眼前の獣を睨みつけ、再び戦意を漲らせる。
―――いざ、決着を。
△▼△
ベルは目の前にいる
思考は揺らぐことなく、冷静だった。
エイナの授業で聞いたものよりも大きく、凶暴なこの個体は恐らく『強化種』なのだろうとベルは思った。
目を閉じ、双剣を抜く。
無意識に瞼の裏では四人の英雄を思い浮かべていた。
叔父なら、祖母なら、そして祖父や義母ならどうするのか。彼等彼女等はどうだったのかを思い出していた。
―――小さい
リンリンと小さな音が純白の光と共に鳴っていた。
その瞬間、ベルは双剣を投げる。
限界ギリギリだった一対の剣は
余りの衝撃と双剣の破片により思わず体を背ける。
そしてベルはその一瞬を逃すはずはない。
全身に力を籠め、
今までの武器と一段違う威力を持つその刃は容易く獣の肉を裂き、その奥にある魔石へ届いた。
あらゆる
それは魔石だ。何処にあるのかは
魔石が弱点とされるのは魔石を砕かれた
『強化種』であろうと『
故に
圧倒的な耐久力を持つ筋肉は易々と貫くことは敵わず、一撃で仕留めることはできない。
しかし、確かに魔石に攻撃は届き、小さな罅が入っていた。
実際に動けば動く程、罅は大きくなっており確実に獣の命を削っている。
だが、止まらない。
憤怒を力に変えて、凄絶な剛撃を繰り出す。
―――この兎だけは絶対に殺す。
最早、自身の願望が叶わないことも自分が死ぬことも理解していた。
ならば目の前にいる敵を全力で否定したいと思うのは当然のことだろう。
しかし、
仮に当たる攻撃であっても、防がれ、流される。
確かにベルの身体能力が上がった。それでも
ベルが恐怖を克服し、肩の力が抜けたことも理由の一つでもある。
しかしそれ以上に
(お義母さんはもっと速かった! 叔父さんはもっと剛力だった! あの二人はもっと巧みだった!)
攻撃を受けるたびに嘗ての光景を思い出す。
大地をも砕くザルドの
ベルが英雄になると決意した時から見続け、受け続けたモノに比べたら
「はあああああッ!!」
少年が吠える。
勢いをつけた刃の一閃は、
勢いを殺すことなく、そのまま
距離を取った
ベルは恐怖を克服していた。
その姿を見て、恐怖ではなく戦意を高揚させていた。
瞳を閉じ、思い浮かべる。
そして白い光と共に再び
「はああああああああああッッ!!!」
「グオオオオオオオオオオッッ!!!」
有りっ丈の力を籠めた一人と一匹は同時に駆け出す。
己が今出せる正真正銘の全力と共に。
獣は尋常ではない剛力を秘めた鉄拳を。
少年は白い輝きを秘めた昇華された刺突を。
後僅か、数メドルで接触するという場所で少年のスピードが限界を超えて更に上がる。
スタイタスを昇華させたことによる更なる飛躍の証拠だった。
余りのスピードに
本来なら意味もない行為だろう。生み出した隙は僅か一撃分。
ベル・クラネルの一撃では殺しきることは出来ない。
少なくとも、
一瞬で
そしてあらゆる力を込めた刃を獣の胸に突き立てた。
秘めた力は
魔石は完全に消滅していたからだ。
その歓声が耳に届いたことでようやく少年は実感した。己が勝利したということを。
「……やった、やりました! 神さま! 神様!?」
喜色満面の笑みを浮かべ、ベルはヘスティアの方を向く。
しかし、ベルは絶句することになる。
何故なら彼の瞳に映ったのは、力なく倒れるヘスティアの姿だったからだ。
▼△▼
最後の食人花の
食人花の
その様子を見かねたアマゾネスの双子や山吹色の
そうしていると都市の一角が騒がしくなっていた。
誰も悲壮な声や表情を出すことなく、むしろ何か良いものを見たとでも言うべき和気藹々とした雰囲気だった。
「なあ、おばちゃん。これどうしたん?」
「あら、知らないの? 白い髪をした男の子が脱走した
「……はあ、
気になったロキが近くにいた女性に訳を尋ねるが先程まで食人花との死闘を演じていた彼女達には知らない情報であり、首を傾げる。
ロキはぶつくさと何か言って考え事をしているが、アイズは全く別のものに釘付けになっていた。
「すみません、どいてください!」
群衆をかき分けて進む少年がいた。
黒髪の幼女を抱え、白い髪を揺らしている。
体中に傷を作り、ボロボロだった。
アイズは直ぐに彼が先程まで
そして彼が自分が助け、傷つけてしまった少年だとも、気が付いた。
(どんな
アイズの思いは言葉に現れることなく、風に溶けてゆく。
白兎と少女の出会いはもう少し、後になりそうだ。
△▼△
「……凄いわね、正直予想外だったわ。ええ、大満足よ」
そう女神は呟いた。
女神は先程まで少年と獣の死闘を見ており、そして見届けた。
いや、死闘だけではない。少年が都市に来てから、この女神が目に留めたその瞬間からずっと見ていた。
「でもヘスティアには嫉妬しちゃうわ。それに、まだ少し情けない所があるわ。……でも、そうね……また遊びましょう? そして楽しませてね、ベル?」
そう言ってフレイヤは妖艶にも邪悪にも取れる表情で微笑み、都市の雑踏へ消えていった。
話の区切りが良いので一旦のストップです。
話のストックが貯まり次第また投稿を再開します。
ここまで読んでくださりありがとうございます!
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