ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかif 白兎と雷花の残響・残香   作:青色のラピス

8 / 43
お気に入り100件突破ありがとうございます!

これからもどうかよろしくお願いします!


第八話 その名はゼウス

食人花が『街』の至るとこに出現した時、リタは直ぐに騒動の鎮静化へ貢献しようとした。

広場から離れた普段なら誰も来ないような場所で夜を明かした彼は何時でも動けるように準備をしていたため直ぐ様突風のように駆けていく。

 

広場へ向かっていた時、不意に足を止める。

 

「―――しっ!」

 

確認などせず、研ぎ澄まされた直感に従い、炎撃を放った。

鋭く、圧縮された突槍(スピア)が如き炎撃はすれ違いざまに大鎧を着た誰かを焼き尽くす。

余りにも高い威力を誇るその一撃は対象を破壊するだけに留まらず、大量の土埃と煙を巻き起こした。

 

「……何故分かった?」

 

土埃と煙が収まるとリタを襲った追手の女の声が聞こえた。

女の声が聞こえるとリタは仮面に隠された顔を不快そうに顰める。

それは声にも表れており、圧を滲ませて女に問いかける。

 

「おい、その顔は何だ?」

 

「見ての通り、人間の顔だ。一度お前に顔を見せてしまった以上、仕方あるまい。」

 

「……何人殺した?」

 

「二人だ。余りにも人間は脆くてな。余計に殺してしまった。」

 

「おいおい、やけに素直だな。何だ、大人しく捕まる気になったのか?」

 

リタがおどけてそう言ったが返ってきたのは無言の敵意だった。

無事だった片刃の大剣を構え、呪い殺さんばかりの殺気を帯びる。

 

リタはやれやれと頭を振ると大剣を構え―――瞬時に距離を詰める。

片足が粗末な義足とは思えない縮地を披露した彼は、女の驚愕を置き去りにして炎剣(つるぎ)を振るう。

圧縮された炎の威力は凄まじく、剣戟が舞う度に女を焼き、剣を溶かす。

 

「うらあッ!」

 

「くう―――!?」

 

遠心力を付けた、一際強力な一撃が女を襲う。

女は剣で守ろうとするも、容易く砕かれ左腕を斬り落とされる。

 

「チッ! 『エニュオ』め、よくも騙してくれたな……!」

 

「おいおい、待てよ。『エニュオ』だあ? 初めて聞くぞ、そんな単語。少しばかり気になるから、色々と聞かせてもらおうか!」

 

リタが攻撃の勢いを増し、女を捕えようとするも、女は既に戦意を無くしていた。

故に逃げの一手を取り続け、リタの一瞬の隙をつき何処かへ消えていってしまった。

残されたリタは頭を掻きながら溜息を吐くしかなかった。

 

「はあ、ブランクが響くな……。取り合えず他の冒険者の救援に回るか。……全く『宝玉(こいつ)』は一体何なんだ?」

 

リタはそう言って大剣を納め、『街』の中を疾走する。

 

 △▼△

 

場面は戻り、男とリタは向かい合う。

 

「……驚きました。まさか【ゼウス】がいるとは……。」

 

「……おいおい、俺が分かるのかよ?」

 

「ええ、分かります。―――貴方が『宝玉(たね)』を持っていることもね!」

 

そう言うと男は腕を振るう。

その瞬間、リタの背嚢が揺れた。

揺れは大きくなり、中から喰い破るように一匹の()()()這い出る。

這い出た何かは勢いよく、男の手に向かい跳躍する。

跳躍した何かを受け止め、リタとアイズが驚いているのを置き去りにして言葉を続ける。

 

「『アリア』は死んでいても構わないそうです。――ならば諸共皆殺しにするとしましょう!」

 

「『アリア』……? ―――ああ、成程。この子が『娘』か!」

 

「貴方達、何で『アリア』を知っているの……!?」

 

思わず満身創痍のアイズが二人に疑問をぶつける。

しかし、誰もその疑問に答えることは無く事態は進行する。

 

「あちらを御覧なさい。驚きますよ?」

 

男が『街』の外を指さした。

彼等彼女等がいる場所は高台であり、十八階層全体がよく見える。

 

―――だからこそ、悠然と進行する超大型級(モンスター)に驚愕した。

 

蜘蛛のような姿をしていた。

全身には無数の触手が生えており、自身を小型化させたような怪物(モンスター)を無数に腹から生み出している。

そうして男は左腕を翳し、宣告する。

 

「そうして()()をこうします。」

 

「――ッ! させん!」

 

嫌な予感に従い、リタは大剣を投げつけるも意味はなく、男の左手は不気味に脈動する。

そして脈動の果てに男の手が地面に落下する。

 

落下した左手改め不気味な肉塊はやがて一つの形へ変化する。

牙を生やす怪鳥だ。紫黒色の肉塊で出来た怪物は迷わず超大型級(モンスター)へ向かって飛翔する。

 

「チイっ!!」

 

炎の矢が数えきれない程飛び、怪鳥を打ち落とさんとするが全てスレスレで躱され怪鳥は超大型級(モンスター)の頭に辿り着く。

そして怪鳥は再び、不快な肉塊に戻り、ゆっくりと()()()を始める。

蜘蛛の複眼と複雑に不気味に絡み合い、――開花する。

 

まるで女のようだった。

胴体も腕も触手を束ねたようで太く、下半身はなく超大型級(モンスター)がその代わりを担っている。

頭には顔は無く、唯牙を備えた口があるのみだ。

到底、女特有の色気など感じさせず、それどころか人型とすら判別できないだろう。

 

それでもその場にいる全員には女に見えていた。

何故かは理解できない。だが、あれは女であった。

 

「―――ァァァァァアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

怪物は産声を上げる。

生誕の喜びを余すことなく世界に告げる。

悍ましき絶叫は地下世界(ダンジョン)を揺らし、冒険者達を絶望させる。

 

「それでは、サヨウナラ。後輩が心配なので帰らせてもらいます。」

 

男はそう言って地面に溶けるかのように消える。

しかし、生憎リタもアイズも男に気を回す余裕などなかった。

 

(不味いな。『聖火(ほのお)』を使い過ぎた……! 流石に今の俺では骨が折れるぞ……!)

 

「が、仕方ない。身から出た錆だ、やるしかない。……動けるか?」

 

「……。」

 

「無理か。幸い此処には万能薬(エリクサー)がある。これで十分だろう。」

 

アイズの頭を上げ、万能薬(エリクサー)を口に流し込む。

即興の『奇跡』は瞬く間に傷を癒し、アイズに活力を与える。

倒れていたアイズは立ち上がり、目の前の存在に先程からの疑問をぶつける。

 

「……貴方、一体何者なの? どうして『アリア』を知っているの……!?」

 

「……あー、まあ、色々あるんだよ。そんなことより生意気なチビすけ、いやフィンはいるか?」

 

「フィン? フィンがどうしたの?」

 

「じゃあ、伝言を頼む。『あのデカ物は俺が燃やす。街の方は頑張れ』と。」

 

 ▼△▼

 

「な、何だあ、()()わぁッ!!」

 

冒険者の誰かが絶叫する。

しかし、それはその場にいる全ての人間の本音を代表していた。

 

それは小人族(パルゥム)の勇者も例外ではなく、突然の脅威の出現に絶句し、一瞬の空白を生み出していた。

だが流石は英雄候補の一人というべきか。直ぐに冷静さを取り戻し思考を開始する。

 

(『街』に出た怪物(モンスター)はほとんど倒した。ティオネとティオナ、アイズはまだ帰ってきていない。恐らくまだ戦っているのだろう。出現したのは新種の超大型級、リヴェリアとレフィーヤの魔法で何とか出来る……はずだ。前衛で僕やボールス、残っている冒険者なら……。)

 

「……フィン!」

 

「ッ! アイズ、無事だったのか!」

 

「仮面の人からの伝言、『あのデカ物は俺が燃やす。街の方は頑張れ』って。」

 

「……すまない、アイズ。詳しく話を聞かせてもらってもいいかい?」

 

フィンはそう言ってアイズに何があったのか聞き出すべく、話を促す。

促されたアイズはゆっくりとしかし、簡潔に述べていく。

 

謎の男の襲撃を受けたこと。

仮面を付けた隻腕の戦士に助けられたこと。

助けてもらった戦士が自分達が探している人物とそっくりなこと。

『アリア』という言葉を知っていたこと。

 

―――そして、戦士は【ゼウス】と呼ばれていたこと。

 

「成程……。アイズ、戦えるかい?」

 

「戦えるけど……。フィン、どうするの?」

 

アイズの問いにフィンは不敵な笑みと共に答える。

 

「決まっている。――僕等もあの超大型級(モンスター)を倒しに行く。過去に何時までも良い顔をさせる訳にはいかないからね。」

 

 △▼△

 

広場より離れた場所でヒリュテ姉妹は戦っていた。

人型の食人花に新しく出現した食人花。

 

人型は兎も角、新しく出現した食人花は第一級冒険者である彼女等にとって何の障害にもならないが数だけはあり、拙いながらも連携を取って来るため彼女等は苦戦していた。

 

「だあああああああッッ!!」

 

ヒリュテ姉妹の姉の方――ティオネが方向と共に人型へ斬り付ける。

食人花は打撃には強いが、斬撃等は普通に通じる。

 

しかし、目の前にいる個体は違う。

時たま、斬撃が通じなくなるのだ。

ティオネ等は恐らく、硬質化能力を有しているのだろうと予測していた。

 

そして実際、この予測は的中している。

人型食人花、改造されたこの怪物(モンスター)が与えられた能力は【肉質反転】。

打撃に強く、その他の攻撃に弱い自身の肉体の性質を反転させる。唯それだけである。

範囲も限られており、正に初見殺しともいえる能力だがこのような乱戦では()()()

 

無数の食人花と共に攻め立てることにより相手の選択肢を奪い、自身の強みを押し付ける。

此処に魔導師が居れば話は変わったのかもしれないが、所詮仮定の話でしかない。

 

―――だがこの姉妹は迷宮都市(オラリオ)を代表する第一級冒険者だ。

 

「うりゃあああああああ!!」

 

ティオナの一閃が躍り、食人花がバラバラにされていく。

無数かと思われた食人花は数える程にまで減り、連携を取ることは出来なくなっていた。

人型も能力を見破られ、一方的に攻撃を受けている。

 

「ティオナ、合わせろッ!」

 

「言われなくてもッ!」

 

双子が地面を蹴り上げ、一気に加速する。

目も合わさず、しかし呼吸のあった流れるような連携。

反転できる肉が限られている以上、複数方向からの剛撃を防げる道理は無く。

 

「「うりゃああああああああああッッ!!」」

 

全身を四分割され、――塵と消えた。

余談だが魔石ごと破壊してしまったため、軽い姉妹喧嘩が起きるのだが……。

まあ、言うまでも無いことだろう。

 

 ▼△▼

 

炎波が押し寄せ、蜘蛛に触手を燃やす。

余波で木々や植物に火が付き、炎上し最早此処が穏やかな『迷宮の楽園(アンダーリゾート)』だとは思えないほどだ。

怪物(モンスター)達が予測の出来ない事態に怯える。

いきなり現れた突然の脅威に超大型級(モンスター)も驚き、思わず足を止める。

 

男だ。男がいる。

炎を帯びた戦士だ。

 

たった一人。

確かに絶大な力を有している。

しかし、その身は終末の息吹を受けて弱っている。

怪物(モンスター)達は男を見ただけでそのことを十全に理解していた。

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

己の弱気を拭うように彼女は絶叫する。

脳や喉が未成熟なため歌うことは出来ないが、己の生み出した子供達を昂らせることは出来る。

 

「「「――――――――ッッ!!!」」」

 

不気味な唸り声を上げ、蜘蛛型の怪物(モンスター)――晶黽(ヴァルグ)が襲い掛かる。

特殊能力など持たないありふれた怪物(モンスター)だが数だけはある。

その数という単純明快な優位性で圧殺することを得意とするが、相手が悪かった。

 

「燃えろ。」

 

戦士がそう呟いた瞬間、再び炎波が起こり怪物(モンスター)達を焼き尽くす。

魔石以外の肉を文字通り焼滅され、塵一つ残さず消えてゆく。

同胞達が為す術も無く消えていったのを見た怪物(モンスター)達は無いはずの恐怖感がその身を襲い、動けなくなる。

 

「終わったのか? ―――ならばお前自身も終わりだ。」

 

戦士の放つ殺気がより濃密となり、彼女を貫く。

殺気を受けたことにより、少しの正気を取り戻した彼女は全身から生えている触手を動かし、己の子供達を喰らう。そして腹の働きを止める。

 

大量の魔力を取り込み、体を作り変える。

生産と拠点に比重を置いた城塞型(ベースタイプ)から虐殺と侵略に比重を置いた重戦車型(チャリオットタイプ)への改造を果たす。

 

蜘蛛の頭にへばりついた女体はより禍々しく変貌し、全身から生える触手も先端が硬質化し、最早大槍(ジャベリン)と言っても差し支えない程だ。

彼女は恐ろしい顎を開き、再び己が得た偽りの全能感に従い、絶叫する。

 

「アアアアアアア――――――ァァァアアアアアアアアアアアアアア!!?」

 

しかし、目の前にいる戦士がそれを許すはずがなく、彼女の咆哮は惨めな苦悶の叫びへ変える。

彼女は痛みへの復讐のために触手へ命令を下し、串刺しにせんとする。

 

無数の触手は空間を裂きながら、戦士に襲い掛かり、あっさりと全身を貫く。

頭、首、腹、量腿に脛。

最早串刺しすら生ぬるい針地獄。

 

その光景を生み出した彼女は思わず唇を歪める。

忌々しい存在を打倒した歓喜、自身の力を証明したことへの達成感。

愉悦に類する一頻りの感情を味わった彼女は凄惨な骸を見たいという子供じみた欲動に従い、触手に力を籠める。

 

―――しかし、どうしてか触手はピクリとも動かない。

 

それどころかミシリミシリと嫌な響きが伝わっている。

触手を通じて身体で感じるこの嫌な響きはゆっくりと彼女の直感を刺激する。

彼女に近づく新手達もあり、一刻でも早く八つ裂きにするべきだと決断した。

 

だから触手に命じようとした瞬間―――炎上した。

詠唱なぞ聞こえず、魔剣を振るう隙も、魔道具(マジックアイテム)を使う暇すらなかったのに彼女は燃えている。

だがしかし、全身を余すことなく焼く炎を受けて理解したことがある。

 

(―――フェネクス?)

 

何時か会ったはずの同胞。

脳裏に思い起こされるのはぐうたらで、誰もよりも慈悲深い炎鳥の姿をした精霊。

神格の高い神に仕えているせいか、かなりの力を持つ上級精霊。

司る事物は――『聖火』、その性質は『征伐』及び『浄罪』。

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

彼女は発狂した。

周りが見えない程に、己の現状を正しく認識できない程に。

誰にも理解できない狂気を帯びた彼女は尋常ではない程に猛る。

 

「うるせえよッ!!」

 

だが、燃え盛る戦士はそんなことなど知らんと言わんばかりに赤緋を振るう。

遠心力と有りっ丈の力を込められたソレは轟雷が如き威力を有し、蜘蛛の脚を一本破砕する。

そしてそのまま、勢いを殺すことなく突進し、脚を次々に破砕していく。

彼女が自身の惨状に気が付いた時には脚が四本砕かれ、全身の触手は燃え尽きていた。

片側の脚を全て砕かれ、立つこともままならなくなり彼女はついに地に身体をつけることとなった。

 

「ア、アア、アアア………。」

 

全身を焼かれた彼女は中身の方もこんがりと焼かれたようで最早声を出すことすらできていない。

戦士はゆっくりと近づいていく。その様子はさながら処刑人のようだった。

 

そして赤緋を振るう。先程までとは比べ物にならない程弱い一撃だったが抵抗もできない彼女には十分であり、あっさりと首が落ちる。

 

ごろり、と首は落ちてゆき、地面にぶつかる音がした。

その瞬間、残った身体と分かたれた首は塵に変わり、其処には不気味な色をした魔石が残されるのみだった。

 

 △▼△

 

「僕達の出番がまさかないとはね……やはり凄まじいな。」

 

リタと超大型級(モンスター)の戦闘を見てフィンはそう言った。

 

「まだ生き残りがいたとは【ゼウス・ファミリア】……!」

 

リヴェリアは予想外の出来事に珍しく動揺したような声を出す。

他の面々の反応は似たようなものだった。

ヒリュテ姉妹やレフィーヤのような大抗争(ななねんまえ)を知らぬ者は己等以上の存在への驚愕、それを知る者はその強さへの畏敬を向けていた。

 

彼が半ば伝説と化したファミリアの所属ということもあるが、それ以上に単騎であれほどの怪物(モンスター)を蹂躙することはこの場にいる冒険者はいないことが大きいだろう。

 

「後衛並みの火力に前衛にも引けを取らないパワー、間違いねえ……! というか、あんな出鱈目野郎がそうそういてたまるか!」

 

ある者は純粋な恐れと共に、ある者は畏敬と警戒を込めて彼の戦士の真名を叫ぶ。

 

「「「―――【不死鳥】ヨルド!!」」」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。