相変わらず
──だが、
知ったのは、浜辺の倒木の側に生えている
「聖女様」
振り返ると吟遊詩人の格好をした男が立っていた。第一聖女隊のジャン・セルピコが遣わした伝令だった。
「輝聖が顕現なされた
「何……? 誰?」
「──リトル・キャロルです」
「……そう。下がって」
男はさらりと立ち去るが、ニスモは暫くその場から動けなかった。
──キャロルが光の聖女。私の上に立つ。
日蝕の聖堂で、ニスモは火の聖女に選ばれた。その時の気分は
光の聖女は聖女を束ねる存在。それに選ばれなかったことは、神に実力を認められなかったのと同義に感じた。見放されたようだったし、それが悔しくもあった。
そして『聖女全員を殺し、世界を滅ぼす』と
──神はあの鈍感な女を輝聖に選んだ。
ニスモは神に虐げられているように感じた。
神は何も救ってはくれない。救ってくれないどころか
ニスモは胸に光る姉のロザリオを力強く握り、
「こんなもの……ッ!」
だが、思い止まる。姉の言葉が蘇った。
『ニスモにこれを預けるわ。ロザリオを握って祈れば、きっと神様が助けてくれる。絶対に私たち2人をまた一緒にしてくれる』
捨てる事など出来るはずがなかった。ロザリオを握ったまま、ニスモは力無く砂浜に座り込む。
(リトル・キャロルは理想を捨てなかった。それで輝聖に選ばれたのだとしたら、姉さんの人生は何だったんだ。私、耐えられない)
ぐっと涙を噛み殺し、ロザリオを握って自身の幸福を願った。
夏にしては穏やかな日だった。
□□
それから数日が経ち、再び第一聖女隊の伝令が現れた。その男はヴィルヘルムからの書簡、つまりは
これを受けてニスモは文官ジャン・セルピコと王都で再会した。彼の屋敷で接待を受けながら、今件について話を進める。
「隊を再編するのはどれくらいかかる?」
「器楽隊は暫くかかりましょう。それ以外は
ニスモは舞を用いた魔術を得意とすることから、武や魔術に
「大白亜の護りを固める理由は何? ヴィルヘルムは何か言っているの?」
「勅書に書いてある以上のことは分かりませぬな。大白亜に何らかの敵が迫っているとお考えなのでしょう。それは果たして魔物か、もしくは別物か……」
ニスモは紅茶を
「まあ良い。ヴィルヘルムも大白亜にいるんでしょう? 直接問いただしてみる」
「兵は
「王都にいる隊員は連れて行く。各領の
聖女隊には予備役が存在する。その数は巡礼に
「
個人的に聖女達に協力を申し出る諸侯もいる。特に故郷の軍は聖女達にとっても頼もしい存在であった。打診をすれば
セルピコの問いに対し、ニスモは苛立ちを
「必要ない。放っておいて」
焔聖はその日のうちに王都から大白亜のある聖都アルジャンナへと発つ。急な
□□
雨の中、第一聖女隊は聖都アルジャンナに到着。街は
「聖女様」
セルピコがニスモに耳打ちをする。
「分かってるわ。──禁軍が駐留している」
街並みの至る所に、黒い装備を施した兵達がいた。禁軍だった。大白亜は教皇領であるから、王室領の軍である禁軍が入れば、それは侵略にあたる。
「教皇領の
黒い装備を施した兵も多いが、白い装備を施した兵もそれなりにいる。即ち、この街には禁軍と正教軍が共存していた。特に戦闘を交えようという様子もない。ただ、
(教皇が禁軍を呼んだ? 聖都の護りを固めろという命と関係があるのだろうか……)
ニスモは違和感を抱えたまま、大白亜へと向かう。
聖都アルジャンナは山の
坂道を登ること二十分、崖の合間に巨大な銀の
門番が正教軍だったので、セルピコは彼に近寄り、現状を問うた。
「何故、聖都に禁軍が駐留している」
「はっ。教皇代理
ヴィルヘルムは正式には教皇代理。教皇となるには伝統的な
「……そうか。
銀の門が大きな音を立てて、ゆっくりと開く。ニスモはそれを見ながら
(
門を過ぎ去り坂を登り切ると、
外観には
教会の入り口に立つ禁軍兵士に、セルピコが寄る。
「第一聖女隊である。
それを言った矢先であった。半開きになった聖堂の扉から男がするりと抜け出して、駆けてきた。服装を見るに、どうやら禁軍文官のようである。
「おお……! 来てくださったのですな!」
その男は満面の笑みでセルピコの手を取り、ニスモを見た。
「流石は焔聖
ニスモは目を見開く。王が、この大白亜にいるのか。
□□
聖堂に通されたのはニスモとセルピコだけであった。
焔聖は静かに一歩一歩、近寄る。長い身廊だが20歩も歩けば、座する者の姿ははっきりとしてきた。
アルベルト二世は戦支度、その上、着座式の際にしか
2人は
「ご
「もそっと。もそっと
王の優しい声が堂に響いた。
ニスモは一度顔を上げて王の顔を見た。その面容、いつか謁見した時と同じく
一歩近寄ると、王は満足そうに頷いた。ニスモは再び床に目を移す。そして、生唾を飲み込んだ。──
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