川が
エリカと呼ばれた少女はふらりと倒れ込み、
「──!」
ニスモは再び矢筒に手を伸ばしていた。意思とは無関係だった。
矢を握らせまいと左腕に力を込めて
キャロルはエリカに応急処置的な回復魔法をかけると、静かに目を開いて、ニスモを凝視した。黄金の瞳が燃えて、輝聖の体からは理外の魔力が放出された。溢れる気は白く輝き、煙のように
──生命の力は、
ごおという地響きが起きて、燃える木々の根が
キャロルの足元で茸や植物が勢いよく成長を始めた。複雑に縮れる
地響きは次第にざあざあという血潮に似た音となって、やがては金属音のようなものに変化し、それは
(違う。私、そんなつもりは。あの子を
心の中で言うが、ニスモはこれを口にする事が出来ない。声が出ない。輝聖の怒りと理外の力に恐怖し、筋肉が強張りすぎて、喉が狭い。
だがそれでも、ニスモは1歩前に出た。体がここから逃げろと叫んでいても、そうするわけにはいかなかった。──傷つけてしまった少女を治さなければと思った。
矢筒に伸びる左手を押さえながら、1歩、1歩と薄氷を割って進む。無理に押さえつけているから、左腕は
薄氷の下には、
そして5歩目を踏み出した時、ニスモだけが違和感に気がついた。
背後の林から、ぬめっとした、湿度の高い殺気を感じた。僅か顔を向け、そっと瞳を動かし、背後を確認する。
間もなく、銃口から炎と黒煙が
──いけない。
神経は研ぎ澄まされていた。
これ以上の悲劇は許されないと思った。
キャロルならば避けるだろうとか、そんなことは関係ない。
止められるなら止めたいと思った。
健気な一心だった。
ニスモは倒れ込むようにして体を投げ出し、その弾を
「ぐっ……!」
血が弾けて、ニスモは倒れた。何でも無かったかのように立ち上がり、男を睨んだが、すぐに
それを見たキャロルは呆気にとられて、魔力を
ニスモは
瞬時、猟師風の男が発火した。黒と
そして男は炎の中で、自分の首を絞める。
「あ……」
エリカは
「嫌だっ! 何か、入って来る!」
エリカは左手で片目を抑えた。奇妙な感覚に襲われた。恐ろしかった。自分が消えて、別の何かに変わってしまうと焦った。そして右手の拳を、無理矢理に口の中に入れようとした。理屈ではない。体が
キャロルはエリカに
炎の中、既に死んでいる
□□
ニスモは川辺から去った後で回復を試みた。しかし、壊れた足首や
(聖女としての力を失った……?)
そう考えたが、やはり思考がはっきりとせず、次第にその疑念も忘れた。
ニスモは歩ける内に街道を進んだ。行き先は決めていなかったが、力が弱まっていく事に
歩いている最中、
長い時間を歩き続けた。恐らくは数日経ったのじゃないかと思う。ついに脚が震え始めて、しゃがみ込んでしまった。1歩も動けず、地に伏せてしまう。
(もうだめなんだろう、私は)
胸を地につけてみて、自分の呼吸を感じた。息を吸い込む度に体が上下に動いて、生の喜びを感じる。生きている実感に身を
──私はどうしたかったのだろう。何がしたくて、
考えてみても、何も分からなかった。
──リトル・キャロルにどうなって欲しかったのだろう。
考えれば考える程、理想に向かう人間の足を引っ張っているようにしか思えなかった。
「私は、火の聖女……」
火は周囲のものを焼いてしまう。なるほど、確かにその通りだと思った。弱い自分が、周りを焦がしてゆき、不幸にする。火というものは水を被れば、或いは強い風が吹けば、消えてしまう
このまま死んだ方が良いのかもしれない。私が死んでしまった方が、きっと多くの人が幸せになる。そういう、必要とされていない存在なんだ。……そう思った時、自身の歩んできた全てがカチリと
──何が聖女だ。他人を不幸にする人間が聖女だなんて、神は
そもそも、聖女ってなんだろう。どういう存在なのだろう。まあ、良いか。もういなくなれば、それで。関係のない事だ。
遠くから足音が聞こえた。それは姉の歩き方に似ていた。いよいよ迎えが来たのだと思った。顔を上げて愛する姉の笑顔を見ようとしたのだが、力が入らない。だから心の中で、額に口付けをして欲しいと甘えた。
そっと、背中を揺すられる。人の温もりを感じ、安心してしまって、そこからは記憶が点々としている。
どこかに運ばれている感覚があって、ニスモは再び目を覚ました。先程よりは少しばかり思考がはっきりしていた。その為、自分は聖女である事を誰かに知られると都合が良くないと何となしに思って『医者には見せるな』と言ったと思う。半分、
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