ソフィアはアルベルト二世と、亡き
王が
王の死の報を受けた後は寝込み、暫しの間は人と会おうともしなかったが、ファルコニア伯爵領が兵を動かすと聞いて跳ね返ったように
「ソフィア殿下。こちらはピピン公爵領から来たクララ殿です。身分は……将、で宜しいですかな?」
ウィリアムの問いに5秒待って答える。
「お初に
間を入れたことで、焦ってわたわた言わずに済んだ。
「将? ふんっ。小娘ではないか」
ソフィアは値踏みするような眼差しで、しげしげとクララを見る。
「……
そう言ってソフィアは卓の
(あっ……!)
クララは焦った。あの場所で構えられては、それはもう、主導権を握られてしまうということ。まずい、
でも、王女に対しなんと言う? 座るなと言う? 言葉遣いはどうしよう? 強めに言って
ダメだ。迷っている場合じゃない。とにかく何でもいいから、今、行動を起こさねば。
「──待ちなさい」
クララは静かに、強く言った。その場にいる全員が声の主に注目する。
「
隣に立つ老兵ネイサン、老いて細くなった毛を一気に逆立てる。なんたる無礼な物言い!
「何……?」
ソフィアがぴくりと眉を動かし、動きを止める。そして眉根を寄せてクララを睨んだ事で、天幕内部の空気が一気に冷え込んだ。王女の
徐々に静けさは凶器の域にまで達して、ネイサンは耳鳴りまでして来た。
「お前、名はなんと言ったか。もう一度申せ」
「クララ・ドーソンと申します」
クララは
(──どうしよう。どうしよう。どうしよう!)
脳内は混乱。ソフィアの動きを止めたは良いが、これ以上の策はない。
(いや、後悔しても無駄だ。こうなれば、死ぬ覚悟でやるしかないんだ。見た事ないけど、なんとなくの輝聖の雰囲気で、最後までやり切ってやる! 頑張れ、クララ・ドーソン。私なら、出来る!)
拳を強く握り、自らを
「そうか、クララ・ドーソン。ならば次に、この私の名を申してみよ」
「ソフィア殿下に有らせられます」
「うん、わかっているのか。
「そこは、ソフィア殿下の座るべき場所では御座いません。私の椅子です。
この場にいる全員が息を呑んだ。そして誰もが心の中で叫ぶ。王族に対し身分を
「ふっ……」
ソフィアが息を漏らす。
「ふふっ。ふふふ……」
そして肩を縦に揺らして笑う。
「ほうほう、
全ての騎士達は
「クララ・ドーソン。
ソフィアは突然
「身分を弁えるのは貴様だ、クララッ‼︎」
「──王室育ちの
「なっ、なに……⁉︎」
「私はドーソン家の人間です。領を失った! 戦場の恐ろしさは身に
「だからどうしたッ!」
「これより先は国の命運を分ける
「わ、私にも考えがある! 勝利に導く策がある!」
「では、お聞かせ願う!」
「か、考えておると言うておろうにッ! 無礼であるぞッ!」
「すぐに言い返せないとは、なんと無様な!
水深が深ければ大した波は立たぬが、浅瀬になると小さな波も激しく立ち騒ぐ。つまり、
「なっ……⁉︎ あっ、浅瀬に仇波……!」
ソフィアは目を白黒させて
「貴様ぁ! 黙って聞いていればッ! 殿下に対して無礼が過ぎるわッ!」
「その首、
しかしクララは
「私を殺せば国は滅びるッ!」
クララは極度の緊張が転じて興奮状態にあった。興奮は恐怖心を失わせるから、もうこの時点でクララに怖いものはない。剣も恐れず、立て続けに怒鳴りつける。
「殿下に戦わせれば一生の笑いものになるぞッ! 近習ならば不憫と思えッ! 小手先では導けない! そこ
ソフィアは顔を真っ赤にして、ギリ、と歯を食いしばった。隣に立つ近習には、その目に涙が滲んでいるように見えた。
この近習は
だからソフィアの涙を見た時、パウエルは胸が裂ける思いがして、剣を抜いたままクララに迫った。
「ええええいッ‼︎ この小娘がッ‼︎」
──血が流れる。誰もがそう思った。
これには、ファルコニア伯爵領の騎士も、老兵ネイサンも焦って止めに入った。近習達の腕を掴み、力づくで抑える。
「
「黙れッ! その細い首を掻っ切ってくれるわ!」
「ならぬ! それだけはならぬ! お気持ちは分かるが、ここはお控えあれ!」
「斯様に無礼な女、初めて会うた‼︎ 到底許す事できぬッ!」
「辛抱お頼み申すッ!」
ネイサンも声を上げる。
「ええいッ!
だが、クララは追撃した。走り出した
「戦場の道義を弁えよと、その世間知らずに言っているのです。
この言い振りには我慢ならず、ネイサンも言い返した。
「だから、
「くどい! 良いからそこ退けぇ‼︎」
2人の気迫に、何人かの騎士は口を開けて黙った。ウィリアムに付いている
「もうよい」
その時、ソフィアが小さく言った。
「そこまで言うなら、お前に任せようクララ・ドーソン」
そして鼻を
「行くぞ」
ソフィアは近習を従えて、天幕の外に出ていった。
(……泣いてた?)
クララは気がつく。今、ソフィアの目に光るものがあった。もしかして、言い過ぎてしまったのではないか。いや、もしかしなくても言い過ぎた事は確かだし、
老兵ネイサンは大きく息を吐く。そして、今の数分で3つほど年を重ねたであろうと、自らの苦労を慰めた。
騎士達が安心して、それぞれ思い思いの言葉を漏らす中、ウィリアムはにまにまと笑みを浮かべて呟いた。
「クララとやら、凄まじい気迫だったな。
隣にいた
「は? 今、なんと?」
「惚れた」
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