その後、ソフィア不在のまま軍議は執り行われた。
軍議でクララはこう提案した。まず、原に罠を張り巡らせる。次に挑発をして、敵兵を城から引き
軍議の後、酒宴が行われた。クララが第二王女に向かって
酒宴は野営地で行われ、特に
本陣前には
宴とは言えクララは油断ならなかった。事故を装いクララに汁物を被せようとする侍女や、食事を取り分けない侍女など、将としての
兵卒の間では度胸があると噂されていても、騎士達はクララを完全に信用している訳ではない。会話の
さて、
「どうだ? クララ殿は」
「無様な姿を見せる様子も、酔う気配もありませぬ。既に5人の騎士が
闘飲とは即ち、酒の飲み比べである。
「ほう、酒も強いのか。ますます
「はあ……」
「そして、子をたくさん産ませるのだ。
ウィリアムは凶悪な笑みを浮かべ、舌舐めずりをしながら続ける。
「あれは僕のものだ。一瞬でもあの白い肌に触れてみろ。すぐさまに喉元を食いちぎり、尻の穴にそれを吹き付けてやる。貴様でもな」
小姓は強烈な殺気を感じて縮み上がった。
そして、ウィリアムはクララの周りにいた騎士達を退かせて、自分が隣に座る。
「
侍女は火酒を2人分用意するが、この侍女は笑うのを我慢していた。火酒なんて飲めばどんな酒豪でも、すぐに限界が訪れる。このクララとか言う済ました顔の女が倒れ込むのが楽しみだ。吐き戻したって、拭いてはやらぬ。
「クララ殿。楽しまれておられるようで何よりにございます。騎士が5人ほど失礼を働いたようで」
クララはちらりとウィリアムを見る。恐らく、酔うのを待ってやって来たのであろう。さて、どのように将の品格を下げてくるのか……。
「しかし、騎士達が戦いを挑みたくなるのも分かります。強いあなたを打ち負かしたいのだ。あなたが気丈であればある程に、男としての
「そうですか」
「ですが私が思うに、あなたは美しくも可愛らしい顔をしております。瞳などは
思っても見なかった事を言われ、素直なクララは一瞬目を泳がせた。彼女には今まで、男に口説かれるという経験がなかった。が、『これは将の品格を下げたいのだ』と己を納得させ、不機嫌な面を改めて作り、火酒をくいっと飲み干す。
侍女はその飲みっぷりにきょとんとしながらも、もう1度クララの器に酒を注いだ。
「さて、これは提案なのですが……。この戦が終わり、無事に大白亜を奪還できた暁には、1度我が領へ来ませぬか。存分に持て成しましょう」
かなり直接的な
その後ろで侍女は目を丸くする。喉は
「クララ殿、貴女は知っておりますか。ローゼス家は元々、ドーソン家の
ローゼス家とドーソン家の関係に関してはクララにとって初耳だったが、やはり驚きを抑えて、注がれた酒を飲み干す。
また侍女は驚く。宴が始まってから既に5人の騎士を闘飲で返り討ちにしているはずなのに、まだぽこぽこと飲めるのか。いやはや、恐れ入ったと言うべきか、もうこの将には意地悪をしなくても良いのではないか。宴の場で負かす事などは不可能である。
「海聖……、いや、マリアンヌめ。ドーソン家の人間を差し向ければ、余計な揉め事も起きないだろうと思ったのだろう。ああ、そうとも、俺がいる限りは揉め事は起こさせぬ、絶対に。貴様の策は成功だ、ククク……」
ウィリアムはぐいっとクララに顔を近づけ、恐ろしい笑みを浮かべて、その手を握った。
「如何でしょう、クララ殿。星でも眺めに行きませぬか。もちろん小姓は置いていく」
「──お飲みにならぬのですか。女の私がこれほどまで飲んでいるのに、意気地のない」
これ以上相手の間で物事を進められると危険だと思い、クララは攻撃を仕掛けた。それで、ぴくり、とウィリアムの眉が動く。
「つくづく良い女だ、あなたは。知っているのか? 僕は闘飲では負けを知らない」
「女を脅すのが貴方流の口説きですか?」
またぴくり、と眉が動く。額には
「ククク……。ハハハ……」
会話を聞いていた騎士や兵達がわらわらと周りに集まってきた。負けなしの領主の
「良いだろう、クララ・ドーソンッ! 俺を本気にさせた女は初めてだッ! 火酒を持て! ありったけだ! この
□□
「か、
「はい、お気をつけて」
兵達がぽかんと見守る中、ウィリアムはふらふらとその場から失せた。
彼が完全に闇に消えたのを見て、騎士や兵達から拍手と
「お静かに。我々は潜伏中です」
その言いっぷりも爽快だったらしく、
(ふぅ、何とか切り抜けたのかな……)
離れた場所から様子を見ていた老兵ネイサンが、そっとクララに近寄る。それを見て騎士や兵は自然と散った。彼は
「お気分は
クララは周りに人がいないことを確認して、素の自分で話を始めた。
「ありがとうございます。荷の中に入っていた、
鬱金の薬は酔いを寄せ付けない。特にマリアベルが
「迎え入れられた雰囲気ではありますが、まだまだ面目を潰そうとする輩は後を絶たぬとお考えください」
小さく頷き、クララは辺りを見回す。
「……ソフィア殿下はおられないのですか?」
「姿を現しませぬな」
「勘違いかも知れないけれど、軍議で言い争いをした時に涙を浮かべていた気がするんです。悲しませてしまったみたい」
「お気を確かに。これも勝利のためと、お思いなさい」
「分かってはいるつもりだけど……」
それでも気になる。宴の席だから無理して食べはしたものの、本当なら飯も喉も通らない程に、
□□
朝方に宴が終わり、日が昇っている間、兵達は天幕の中で過ごした。そして夕刻に全軍出立。
兵らは闇に紛れて
また、原には
ウィリアムは丘の上から、罠を張る兵らと指示をするクララを眺めていた。夜風が吹いて、星明かりに輝くクララの金の髪、星雲のように美しく煌めいている。
「酒は抜けましたかな」
1人の騎士が寄ってきたので、ウィリアムは苛立ちながら言った。
「頭痛がする」
「
「やれやれ、父上くらいにしか満足に従わん荒くれが、昨日会ったばかりの女の言う事を聞くのか。
ウィリアムは煙草に火をつけて続ける。
「あの女。絶対に娶ってやる。何がなんでもだ。抱いて2度と離さん。良いか、貴殿も近寄るでないぞ。あれは俺の女だ」
「
「なんだ?」
「あの女の眼中にないのではありませぬか」
「そういう女を私物化した時に、最大の興奮があるのだ」
言って、手綱を引く。後方に下がるらしい。貝汁を作ってもらうのだ。
「そうだ。クララからの手土産を用いて、あの城の兵達を引き摺り出す。準備をしておけ」
「手土産? ──ああ、フィン・ダーフとかいう
ウィリアムは凶悪な笑みを浮かべる。
「
「
一方で、夜風に波打つ原の上。第二王女ソフィアは星明かりに輝く『四の城』を見つめ、近習パウエルに小さく言った。
「王族として、一番槍は絶対に譲ってはならぬ。何があろうとも」
パウエルは、その硬い表情を見て頷く。
「この戦は父上への
「はっ。必ず」
「苦労かけるわね、パウエル」
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