大白亜の地下、
というのも正教会が迫害を受けていた数千年前、大白亜は信者たちを守る
さて、まだ雨雲が月を覆う前のこと。エリカ・フォルダンはふらふらとした足取りで山の内部を進んでいた。月の毒で途切れそうな意識を気合いで保たせながら、キャロルが描いた地下の地図──文献の写しだが──を見て、目的地を目指す。
進んで行くと、階段が現れた。地図の通りに歩けていることに安堵しながら階段を下ると、足元が濡れていたのだろう、滑って踏み外す。エリカは後頭部を守るように丸くなりながら、そのまま転げた。
「……いッ! ……いてて」
階段が終わり、倒れ込む。それで
「ここだ。ここで間違いない」
辿り着いたのは牢獄。岩肌をくり抜いて作られた石の牢が幾つも連なっている。
「でも、誰もいないのかな……」
牢を覗いても人の気配がない。大白亜には他にも牢獄があるから、もしかしたら別の場所に投獄されているのかも知れない。
「──!」
諦めかけた時、音が聞こえた。ふう、という
最奥の牢の中で、何かが上下に動く気配がある。そっと
「え。えっ?」
上半身を
男はエリカの方を見るでもなく口を開いた。
「
ぶっきらぼうな言い方、太い声。
「ぶ、附子?」
「そんな事も知らん小娘が迷い込みおったか。遊んでいたら母親と
エリカはどことなく、軽口の叩き方がキャロルに似ている気がした。
「赤い月の事ですか? それであれば私ではなく、海聖マリアベルだと……」
「ならばお前は海聖の
「そっ、そういうわけではなく」
「では何故、海聖と分かる」
男は立ち上がり、首を
「だって、キャロルさんがそう言うから……」
「リトル・キャロルだと?」
男がのそりとエリカに近寄る。
この男から妙な圧を感じて、エリカは
「キャロルめ、ようやく助けに来おったか。あの
キャロルがこの男について語る時は1にも2にも文句であるが、
「──あ、あなたは、クリストフ五世。教皇
男は、ふんと鼻で笑う。表情は乏しいようで、笑みはない。
「もはや教皇ではなかろう。ただの坊主よ」
そして耳の中に小指を突っ込み、
「ほれ」
「はい?」
「牢を壊せ。お前は新しい
「し、失礼しました、今助けます!」
エリカは扉の
「あ〜〜〜、あっあっあ〜〜」
そして、阿呆のような
「ワシの拳銃はどこにやってしまったかのう。
背伸びをする。首を鳴らした時のように、背中から大袈裟な音が鳴った。
「まずは酒だ! 酒! 酒はどこだ!」
「こ、ここに……! キャロルさんが持って行けと!」
エリカは焦ったように腰に下げていた
「ようし。あの甘ったれめ、気が
「出所祝い、だそうです」
「じゃかあしい」
クリストフ五世は親指で瓶の飲み口をパキリと割り、そこから口の中にぐびぐびと酒を流し込む。豪快な飲みっぷりにエリカは目を丸くする。本当にこの人が、我ら頭上に
「ああそうだ。
「ゆうれ、ん……?」
「
エリカはハッとした。まさか、あの時。焔聖を撃ち抜き、苦しめるに至った弾丸の事を言っているのだろうか。
「それって──」
その時だった。異変を感じたのだろう、階段から禁軍の兵が3人ふらふらと降りて来て、クリストフ五世とエリカを見るなり慌てふためいた。
「話過ぎた……っ! 逃げられる前に倒すっ!」
エリカは手に持つ剣を構える。この廊は狭いから、相手が3人でも1人ずつ倒せばよい。──やるなら、今だ。急げ。
「……あれっ?」
そうして踏み込もうとするが、足に力が入らない。例の月の附子の影響だろう。ふらりと
兵士たちが背を向け、床に手をつきながら逃げようとしている。逃すとまずい。仲間を呼ばれる。だからエリカは剣を振り上げ、それを投げようとした。しかし剣が手を離れるよりも早く、クリストフ五世は十字を切って言う。
「──
それはキャロルのような
「ぶっ!」
そして、クリストフ五世は自らの拳に酒を
「小僧ッ!」
呼び止められ、兵達は思わず振り返った。既にクリストフ五世が直ぐそこまで来ていた事に、ひっと声をあげて驚く。
クリストフ五世は兵の腕を
始めの兵は壁に減り込み、次の兵は天井に顔を埋めて吊り下がり、最後の一人は地面にめりこんで同化した。みな
「ひっ……」
エリカは
(こ、この人には、月毒は関係ないのかな……。何でこんなに動けるの……?)
クリストフ五世はエリカの疑問を察するようにして言った。
「月毒は体を動かし、心臓の働きを引き出しておけば、
「へ?」
「心肺機能が強いのだろう。お前、体温が高いと言われないか?」
言ってクリストフ五世が廊を渡り、階段を上って行ったので、エリカは剣を杖にしてふらふらとついて行った。
「さぁて、これよりどうするか。この大白亜のどこぞにワシの
「は、はい」
「ならば先に聖堂を空けておく必要があるか。大白亜より改めて輝聖
「でも、大聖堂には100人前後の禁軍が詰めていると聞きますが。2人だけでそれを?」
「まあ、なんとかなろう」
クリストフ五世は
「小娘。お前をキャロルに認められた人間として扱う。ワシの背中はお前が守れよ」
「は、はい!」
☆3巻上の予約が開始されました。
応援していただけると嬉しいです。
【挿絵表示】
Amazonの商品ページ
楽天の商品ページ
オーバーラップストアの商品ページ
☆ 1巻はこちら
Amazonの商品ページ
楽天の商品ページ
オーバーラップストアの商品ページ
☆2巻はこちら
Amazonの商品ページ
楽天の商品ページ
オーバーラップストアの商品ページ