海聖マリアベルは王室領・聖セドナ内にある聖地『古ポップルウェル』に
古くは
森の中にひっそりと建つ、差し掛け屋根の教会の中に封印の獣は眠る。魔物の名は『尊厳王の
マリアベルは金の祭壇の前で
そして教会の扉に強い結界を張り、北斗七星の形に歩く
□□
その後、マリアベルは聖セドナの図書館に入り、王都で行われた
エリックは名のある冒険者や騎士を相手に
エリックは基本的に
しかし、キャロルよりも強い人間がこの世にいる訳がない。必ず彼女にはないはずの弱点があるはずだった。
キャロルの武器は実践的な体術と滑らかな無詠唱魔法。特に関節技は天才の域にあり、攻撃を繰り出せば何故か自分の肩や肘を外されていたことも
「……強いて言えばこれが弱点か」
エリックには魔法を用いたという記録がない。つまり魔法の使えないキャロルと戦うようなものと考えれば良いか。
魔法を禁止された実技の訓練でキャロルと対峙するようなものと思おう。もちろん、訓練ではキャロルに1度だって勝利したことはない。勝とうと思ったことすらない。──だけれど、それ以外でなら。魔法を使わないキャロルに勝利した事が、1度だけある。
その夜、マリアベルは森の中にあった沼田で
□□
そして
聖セドナから離れた場所にある廃村。無数の
座しながら、深く呼吸をしていた。目を閉じたまま動かない。
精神が星空と繋がり、肉体が
2時間ほど祈り、すっかり空が青くなった頃に
□□
王室領・聖セドナは広くなく、首都の聖セドナを除けば小さな街が2つあるだけだった。
聖セドナの街並みは美しい。
今日は太陽を
マリアベルはその内の1つで、
□□
広場から7分ほど歩いた場所に、
このまま道をまっすぐに進むとフリュー城に辿り着く。
そして、休憩用に設置されているであろう、道の脇にある長椅子にゆっくりと腰を掛けた。
隣には先客が座っている。
「こんにちは。今日は過ごしやすいですね」
男は無視をして、
「空は高くて、風は涼しく、少しだけ太陽は暑い。遠くから野焼きの匂いが風に乗って、深く息をすると、ちょっとだけ
マリアベルは林檎の
「よくここに座ってますね。誰かを待っているのですか?」
男は静かに煙を吐き出す。
「あなたの
「意外と喋るのだな」
耐えかねたのか、男は口を開く。
「元々おしゃべりなんです。それにしても、驚かないのですね。殺したはずの海聖が
「驚いたさ。正直、漏らしそうだった。でもそれは数日前の話だ。お前が生きてピピン公爵領軍に加わっていた事を知った時には、それはもう恐怖したよ」
「そこまで驚いてくれるなんて、嬉しいです。正体を隠して巡礼をしていた甲斐があった」
口の端についた
「──第一王子エリック。あなたは王を殺して、何がしたかったのです?」
「何がしたかった……?」
「目的は?
「あるさ。あるけども、そんな事は
マリアベルは
「俺も質問して良いか?」
「どうぞ」
そして、火をつける。煙が
「何故背後から襲わなかった」
「正面から戦った方が気持ちが良いからです」
「海聖は勝利を収める為なら汚い手段も使うと聞く」
「よくご存知ですね」
「
「実はそうなんです」
エリックは軽く鼻で笑った。
「言っておくが俺は死ぬ気はない。俺は人の力を信じている。
「前向きな良い考えだと思います。でも現実的な問題として、これからどうするのですか? この状態で出来ることがありますか? 諸侯は誰も味方しないでしょう。第二王女ソフィアなどは
「俺に協力しろ。聖女の力を
マリアベルはくすりと笑う。
「へえ。あれだけ聖女を憎んでおきながら?」
「気が変わった。何がなんでも、俺は俺の国を手にしたい」
「執着しますね」
「どうか、協力してもらえないか」
エリックはマリアベルに
「──握手は右手が基本です」
マリアベルは、外套の下に潜む剣、その
「これは豆知識。右手で握手をする理由は、剣を抜かないことの証明。礼儀のない人とは握手できません」
互いに地を蹴って距離を取った。黄金の道の上、二人は対峙する。エリックは殺される気がなく、マリアベルとて逃す気はない。──
マリアベルは十字を切って、瓶の中に残った
エリックは腰に下げていた剣を引き抜き、それを弾いた。刃は陽の光に青く輝く。魔弾と同じ、
次いでマリアベルは瓶を投げつけ、自らの外套を広げた。隠してあった78本の
マリアベルが舌を弾いて音を鳴らすと、
(なんという
「──!」
エリックが着地した場所、葉の中に魔法陣。術が発動し、突き上げるように
──勝負は一瞬。
読み通り、魔法を使って反撃はしてこない。彼は実戦に使えるほどの魔法を持ち合わせていない。となれば、エリックはどうにかして必殺の間合いに持ち込んでくるだろう。そこが狙い目だ。
マリアベルは自身の前方に
火の魔法を使用し、爆発させる。弾が放射。エリックは全神経を集中させて、迫る鉛玉を剣で弾いた。だが、幾つかの鉛玉が
──来る。
相手は我慢の限界だろう。このまま逃げ
さあ、キャロルならどうする。考えるまでもない。決まっている。その足元に広がる葉を蹴り上げる。そして、自らを隠すのだ。
思った矢先、エリックは足元の葉を蹴り上げた。そして黄金の葉が舞う。丁度風も吹いて、彼の姿が見えなくなる。
──読み通り。
姿が見えなくなった事に動揺したその隙を狙って、一気に間を詰めて来るはず。
マリアベルは耳飾りに手をやった。これには毒針が仕込んである。
海聖マリアベルは『正面から戦った方が気持ちが良い』と言ったが、あれは嘘である。正々堂々と戦う気などまるでない。罠も仕掛けたし、全身を武装して来た。背後から不意打ちをしたとしても、キャロルと同程度の実力者なら、必ず見切られると思っただけのこと。
ならば正々堂々と戦うふりをして、毒針を刺すのが一番勝率が高い。これならば、殺さずに連れ帰って断罪も出来よう。八つ裂きにして
──青く輝く剣、その一閃を避けて、
舞う葉が
(えっ……?)
相手の無意味な行動に目を見開き、驚く。そして
(……な、何が起きた?)
マリアベルは立ち上がろうとするが、力が入らない。四つん
撃たれたのは胸らしい。それも後ろから。
傷口からぼたぼたと真っ赤な血が出て、黄金の葉を赤く染めてゆく。魔力切れを起こしたわけでもないのに、何故赤い血が出るのだろう。冷静さを欠いていて、すぐに答えが出ない。
マリアベルはそっと後ろを振り向いた。
そこに立っていたのは、エリックと同じく浮浪者のような男であった。肌は白く、嘘のように高い鼻と青い瞳。そして下品な笑みを浮かべている。
「──モラン卿」
マリアベルは体を震わせた。この小物が大白亜から逃げ
手に持っているのは拳銃。明らかにクリストフ五世のもの。大白亜から持ち出していたのか。そして中に込められていたのは、魔弾だ。
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