その日は激しい雨が降っていた。厚い雲が太陽を隠して昼なお暗い。
キャロルは
湯通ししておいた
茶器は芸術品のようだった。
キャロルはジャック・ターナーの前に茶碗を置いた。砂糖と共に
「久しくこんな高級な茶は飲んでいないな」
「私はもっと質素な紅茶を飲み慣れているのだが……。大白亜には
キャロルは自分の茶碗にも紅茶を注ぐ。茶漉しを用いて、丁寧な所作であった。
「しかし、随分と老けたなジャック・ターナー。8節ほどしか経ってないのに、それは異様だ」
「鏡を見て初めて気がついたよ。我が身の変わりように」
「心労か?」
「ここの所、神のことを考え過ぎている。まともに眠れた日は数えるほどだし、尿が詰まって腰も痛い」
「あとで
面高は沼地に生息する植物で、小便の出を良くする。
「さて、キャロル。君はささやかな茶会を開きたかったわけでも、
「話が早くて助かるよ」
キャロルは紅茶を一口
「こんな事を話せるのは、
やや硬い声色。続ける。
「私はこのままで良いのか。本当にクリストフ五世や神官らの言う通り、玉座に座していればそれで良いのか」
「不安か」
「不安だ。私に何かできることは?」
「相手は天変地異だぞ。出来ることは何もない」
「私は聖女だ。場合によっては
ジャックは病んだ瞳でキャロルをじろりと見た。
「キャロル。君はやはり、神が災厄を起こしていると考えているのか」
「肯定だ。世界は神の
ジャックは顎に手を当て、考え込む。
「ジャック・ターナー。意見を聞かせてくれ。私は今すぐにでも大白亜を下山するつもりだ」
「下山してどうする」
「分からない。やれる事を探す」
「やれる事とは?」
「私の下には情報が入ってこない。山の外がどうなっているのかもよく分からない。
「落ち着け、キャロル」
ジャックは
「確かに神は気が短い。いち早く
神の夢とは『世界を円とする事』である。
「うん。
ジャックは『そこまでは言っていない』と言う風にして、顔を
「キャロルの言う通り、世界は神の掌の上だ。とは言えども、果たして神はそこまでの事をおやりになるだろうか」
「と言うと?」
「神は
キャロルは一理あると思い、ジャックから目を逸らした。
「ではジャック・ターナー、お前はこの連続する災厄を、神の意思とは関係ないものとして見ているのか」
「いや、無関係ではないだろう。
「と言う事は、また別に神の思惑があると……?」
「ただ、キャロル。それよりも、私が違和感を覚えているのは、別の事なんだ」
「別の事?」
「──エリカ・フォルダンは君にとって大切な存在か?」
思ってもみなかった問いに、キャロルは目をパチクリとさせる。
「当たり前だ。エリカの事を四六時中考えている」
そして困惑は徐々に不安に変わり、キャロルの表情を
「エリカがどうした。言え」
「君の
キャロルはパクパクと口を動かす。ひどく動揺した。
「エリカは。エリカはどこで何をしている……?」
「下山したと聞いているが、詳しくは知らない」
「大白亜にいないのかっ⁉︎」
その時、大窓の外で落雷があった。影が焼きつくような、凄まじい光。同時、パンと激しく弾ける音。部屋が揺れて茶器がカタンと鳴る。部屋の燭台が倒れて火が消えた。
雷は
「──!」
梢の先に、エリカから貰った耳飾りが引っかかっている。机の上に大切に置いてあるはずなのに、それが、そこにある。有り得ない。
激しい音を聞いて、巫女のアンと兵士が慌てて書斎に入って来た。
「
キャロルが軽く手を上げて無事である事を示した時、再び落雷。今度は宮殿から少し離れた
揺れる炎が、暴れる梢の前に影を作った。妙なことにそれは人の形となって、実体を持ちながら、宙に浮いている。書斎にいる誰もがそれに注目していた。次第に目が慣れて、それが明らかになる。
──浮かんでいるのは多指の少女であった。
ジャックは目を丸くして椅子から転げ落ちた。肌に
多指の少女はジャックも巫女も兵も居ないものと扱い、
「誰かッ!!」
キャロルは祭服に隠していた煙草を取り出し、咥える。雨に濡れていたが、火の魔法で無理やり火種を作った。額には青筋が張っていた。
「私はお前が嫌いだ。やり方が気に食わない」
脳に直接語りかけて来る声がある。
『──私は全ての人間の
煙を吐き出しながら、強く、激しく強く、キャロルは多指の少女を
「へぇ。歌わずに喋れたのか。しかも、キツめの北部
『南東へ』
明らかな
「上等だ
神はエリカから贈られた
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