首都聖ヘルケダールの大教会で詩と祈りが捧げられた後で、男達は
ローズマリーは
ローズマリーが1人でいる姿を見つけて、
ユーフェミアが言う。
「
「何が目的で、そんなことを……っ」
「分からなかったらしいの。最後まで罪を認めなくて、目的を聞き出せずに
ローズマリーが悲しさに
「──私決めた。ベアトリスのために、私、精一杯生きる」
発したのは
「あの子には夢があったの。聖女様を支える騎士になりたかったんだよ。女なのに腕っぷしが強いって
クラリッサは目に溜まった涙を、ふうと息をついて押し込めた。
「私、ベアトリスの夢を
聖女は原典に裏付けられた世界の希望。瘴気を払い、太平を築き上げる。その聖女の力になるということは、救世の使徒であり、希望の光。ベアトリスは光になりたかった。……ローズマリーはそう思うと、ついに涙を
「ずっと
深く息を吸い、叫んだ。溢れる想いを止めることが出来ない。
「ベアトリスは死んだっ。でも、きっと、胸の中で永遠に生き続けるのっ。だから、私が聖女になれば、ベアトリスは聖女の騎士だっ……!」
聖女になって、太平を成す。
ベアトリスと共に光となり、世界を照らしたい。
人の心の闇をも照らしてしまって、ベアトリスのような可哀想な子が無いようにしたい。
私たちのように涙を流す人が無いようにしたい。
救いの聖女なら、悲しみも苦しみもない世界を作る事が、可能なはずなんだ。
「聖女に……っ、聖女になりたいぃ……」
乙女達はローズマリーの告白に涙を流し、団子のように固まって抱き合う。それで、ユーフェミアが嗚咽を漏らしながら言った。
「分不相応なんて、そんな事ないっ。ローズマリーはっ、一生懸命でっ、優しくてっ、頭が良くてっ、私っ、凄いって思ってたんだからっ! 絶対に、聖女になれるっ」
「バカにしないの……っ?」
「するわけないじゃないっ! 大好きな友達の夢なんだからっ!」
そんな事を言われてしまったら、
「私も、聖女様の騎士になりたいっ! ローズマリーと一緒に、ベアトリスの夢を叶えたいっ!」
クラリッサも、
「ねえ、約束しましょう。大好きな5人で一緒に夢を叶えるって。きっと、きっとよ」
次いでユーフェミアは言った。──合言葉は『ベアトリスのために』。4人の乙女はその言葉を胸に刻んだ。そして
□□
乙女達はそれぞれの夢を掲げて
遊ぶ時間は自然と減った。野を駆ける事も減り、
──そんな中、クラリッサに転機が訪れた。
そしてユーフェミアは涙交じりに言った。
「ベアトリスが導いてくれているのよ! 神様の隣で、ずっと私たちのことを見てくれているのよ!」
クラリッサは
さて、ローズマリーとクラリッサは互いに
ローズマリーが書く内容は基本、取り留めがない。何となしに共有したい事を、思うがままに筆を走らせていた。
例えば、今お気に入りの
それから、香辛料で煮込んだ
近ごろ
ユーフェミアと共に
もうすぐ
インゲが
なんと薬作りの
薬師に
これまたなんと、ユーフェミアは兄ウィリアムと文通を始めたこと!
最近、あの苺狩りを思い出すことが多くなったこと。
早くクラリッサに会いたいこと。
そして、ベアトリスが恋しいこと。
クラリッサからは王都の情報が返って来るのが
例えば、刺繍のある
屋台では様々な
故郷の魚は美味しかったのだと気づけたのが嬉しいこと。
勉強が楽しいこと。
王都では年上ばかりでなかなか友が出来ないこと。
雨が降る日や、静かな夜は寂しくなること。
早くみんなに会いたいこと。
そして、ベアトリスが恋しいこと。
夏の日、クラリッサは一冊の本を送った。王都で作った
乙女3人は体を寄せ合って記録書を読んだ。手書き、
読み終わったら、丘を登ってベアトリスに会いに行った。墓前に
その5日後に
□□
ローズマリーは城を飛び出した。
「ご、ごめんね。私、薬の調合を間違えてしまったみたい」
報告によると
「でも、インゲがそんな間違いを起こすだなんて……」
ローズマリーの認識では、インゲは
「疲れていたのかも知れない。こんな事になるなんて、私は薬師失格だね……」
ローズマリーは目に涙を浮かべて、インゲの額を拭いてやる。そこに玉のような汗が滲んでいた。
「心配しなくても大丈夫よ、ローズマリー。薬を飲んで毒を出せば、きっとすぐに良くなるわ。──ローゼス家から来た薬師様が診てくれてるのよ」
背後に気配がして、ローズマリーは振り返った。立っていたのは極端に長い髪の女だった。女は細い目をさらに細めて、にこりと笑む。
「ヨゼフィーネ……」
よく知る顔であった。ヨゼフィーネは普段から世話になっている薬師。ローズマリーも気分が悪ければ決まって彼女に
──でも、なぜ街の施療院に家の薬師がいるのだろうか。
正教軍や領軍の薬師がいるなら分かるが、こうした場所に貴族に
「なんで、ヨゼフィーネが……、ここにいるの……?」
沈黙。3秒、4秒と経ってヨゼフィーネが答える。妙な間であった。
「家畜の間で病が流行り、今は領の一大事。領主には病を根絶する責任があると、旦那様がお
インゲが補足する。
「一緒に
特に
「暗い顔をしないで、ローズマリー。私たちは聖女の騎士になる。立ち止まってなんかいられないわ」
インゲは微笑んで、ローズマリーの手を握る。
「それにね、お父様もお母様もやっと認めてくれたのよ。私、
ローズマリーはその弱々しい笑みを見て、励まさなければと、両手で強く握り返した。
「き、きっと。きっと良くなる! 神様は絶対にインゲを見捨てたりなんかしないっ」
そして手を額に持っていき、強く祈った。──天に
「ありがとう、ローズマリー。私の大好きな友達。私、幸せよ」
ローズマリーは顔を上げてヨゼフィーネをちらりと見た。彼女は笑んでいた。
「インゲ様の事は私にお任せいただき、ご自身の勉学、鍛錬に集中してくださいませ。──旦那様はお嬢様が聖女になる事を期待して
□□
それからローズマリーは城に戻り、クラリッサに向けて一通の手紙を
鳩を持って小屋を出た時、そこにユーフェミアがいた。不安げな様子で
ローズマリーはインゲが倒れた事を告げようとした。だが何処から話して良いか混乱して、実際にそれを口にする前にユーフェミアが言った。
「ねぇ、ヨゼフィーネってどんな人?」
「え?」
手紙を持った鳩がローズマリーの手から離れ、天に飛び立って行った。
「ど、どうして急にそんな事を聞くの……?」
「ベアトリスの家に少し前から出入りしていたの、知っている?」
ひたとユーフェミアを見る。
「春前からベアトリスのお
初耳だった。今日までに何度もヨゼフィーネと会ったが、そんな事は一言も言っていなかった。
(インゲの事も……、ヨゼフィーネが、見ていた……)
ローズマリーは何かを言おうとした。でも、言葉が出なかった。ヨゼフィーネがいつも体調を気にかけてくれる事、熱で
「ねぇ、ローズマリー。何か、おかしくない? ベアトリスはヘス侯爵領で認められて倒れた。インゲは薬師たちに認められて倒れた。私たち、誰かが成功する度に倒れてる」
ローズマリーは胸の前で手を重ね、ぎゅうと握った。
「ねぇ、良いのかな」
ユーフェミアは不安げな瞳でローズマリーを見つめる。
「私たち、このまま頑張って良いのかな。私は聖女の騎士になれるのかな。神様が『あなた達には
言って
「ダメダメ。弱気になってる。決めたのにね、夢を叶えるって。言い出しっぺの私がこんなんじゃ、ベアトリスに笑われちゃうわ」
笑うが、力無い。
「……集中できないから、今日は帰るね」
ユーフェミアは『ベアトリスのために』を別れの挨拶として、中庭から去った。ローズマリーは1人ぽつんと中庭に取り残される。
(私たち、誰かが成功する度に、倒れてる)
でもクラリッサも王都で成功を手にしているはず。彼女は元気だ。昨日も手紙が来たばかりだから。
(本当に、神様が忠告しているの……?)
その時、中庭の木々の陰で何かが動いた気配がした。
「……誰?」
ローズマリーは気配のあった白樺の木にそっと近寄る。が、誰もいない。しかし、
「ヨゼフィーネ……? 帰ってきているの?」
辺りを見回す。人の気配はない。鳩小屋の鳩がくるっぽと鳴いている。
☆3巻上の予約が開始されました。
応援していただけると嬉しいです。
【挿絵表示】
Amazonの商品ページ
楽天の商品ページ
オーバーラップストアの商品ページ
☆ 1巻はこちら
Amazonの商品ページ
楽天の商品ページ
オーバーラップストアの商品ページ
☆2巻はこちら
Amazonの商品ページ
楽天の商品ページ
オーバーラップストアの商品ページ