そしてローズマリーは
インゲは一向に体調が回復しない。
クラリッサから手紙が返ってこない。遅くても6日、早くて3日で返してくれるのが
ユーフェミアはあまり
流石のローズマリーも危機感を覚えて、集中するための努力を始めた。大好物の
良く晴れた夏の午後、タープ城の大庭園にある
──駄目だ。考えないようにしていたけれど、やっぱりヨゼフィーネのことが一番気になる。
ベアトリスの家にいたというのは本当か。
どのくらいの頻度でいたのだろうか。
ベアトリスが倒れた日にもいたのだろうか。
倒れた瞬間に解毒することは出来なかったのだろうか。
インゲのそばにいたのも、気になる。
インゲが
間違いを指摘する事はできなかったのだろうか。
それとも流石に調合の瞬間は目撃していなかったのだろうか。
手をぴたりと止めたまま夏の風に吹かれていると、
白馬の
「どうしたのユーフェミア。馬なんかに乗って……」
「ウィリアム様が遠乗りに連れて行ってくれる事になったの。私たち少し前から
ローズマリーは
「ただ遠乗りするだけじゃないわ。川辺に行って、インゲの為に
「戻ったら一緒に
「2人だけで行くの?」
ユーフェミアは赤面した。瞳も
「す、少し恥ずかしいのだけれど……。そういうことになったわ」
だが、すぐに首を小さく横に振って、
「また後でね、ローズマリー。『ベアトリスのために』!」
2人は馬の脇をとんと蹴って、歩みを進めた。大庭園に接する南門へと向かっていく。
ローズマリーはぼうっとして2人の背を見ていたが、その時、ウィリアムが振り向いた。──そして、にっと笑って、片目をパチリと
「……?」
今のは、何だろう。
何を意味していたのだろう。
例えば
嫌な予感がして、ローズマリーはぎゅうと本を抱きしめる。
違和感が波となり、胸の中で
2頭の馬はとことこと並足で門に向かう。小さくなっていく2人の背中。門番が鐘を鳴らし、門が開く。ユーフェミアは
「──待って」
声を出す。
確固たる理由はない。
直感である。
「行かないで、ユーフェミア」
ユーフェミアを行かせてはいけない。長椅子に詩集を置く。
「行かないでッ!」
走ろうとした。だが、背後から腕を引っ張られた。振り返るとそこにいたのはヨゼフィーネだった。
「な、何? どうしたの……?」
ヨゼフィーネは
「なんで、何も言わないの……?」
門の閉まる音が聞こえたから、ローズマリーは手を振り払おうとした。
「あなた怪しいわ! ねぇ、ちゃんと言って!」
やはりヨゼフィーネは何も言わない。もうローズマリーには口から
「ベアトリスに何をしたの!? インゲが薬を間違えたのはなぜ!? クラリッサからはどうして手紙が帰ってこないの!?」
ヨゼフィーネはローズマリーを抱きしめた。胸に顔が埋もれる。
「離してッ!」
「──大丈夫」
心臓の鼓動が聞こえる。これはヨゼフィーネの鼓動か、それとも己の鼓動なのか分からない。
「あなたはただ、
「やめて、何が言いたいのかわからないっ」
がこんと門の閉まる音がした。ユーフェミアが行ってしまう。
「あなたの
「罪? ユーフェミアに何をするの!? ねえ、教えて!!」
言った
「まさか。ユーフェミアが疑問に思ったから? あなたがベアトリスの家にいたことを怪しんだから?」
ローズマリーの瞳が変化した。そして、ぐっと
「教えて。教えないと目を
灰の瞳、
ヨゼフィーネは冷や汗を垂らす。──物静かなこの娘にも、ローゼス家の血が流れている。
「教えて。あなたがベアトリスを殺したのね。インゲの薬に毒を混ぜたのもあなたなのね」
体に流れるファルコニアの血が、ローズマリーの両手を動かした。白く細い指、ヨゼフィーネの細い首に
ヨゼフィーネは
「教えて……っ、じゃないと、お前を……っ」
ヨゼフィーネも白目を剥く。足をばたつかせて抵抗するが、無駄であった。そして迫る死がヨゼフィーネの口を開かせた。それは命乞いに程近い告白であった。
「お、お嬢様、あ、あなたは……、あの子達から、多くの刺激を受けて、学んだ……。ベアトリス・フレミングからは戦闘の心得を、インゲ・フォン・ブランデンブルクからは薬の知識を、クラリッサ・キャベンディッシュからは星読みを、ユーフェミア・ブーステルからは回復魔法と防護魔法の技術を……っ。あなたは強くなった。これ以上、学ぶことは、ない……」
ローズマリーの力が抜けていく。
「そして、あの子達はローゼス家の意に反して、力を持ちすぎたのです……。もはや、旦那様にとって彼女達は、あなたの夢を
「わっ、私の、大切な友達を……っ、そんな勝手な理由で……っ」
「何を
その吐き気すら覚える言動を聞いた直後、睡魔の限界が来たのか、それとも
ヨゼフィーネは解放された。咳き込んで
□□
「ああああああああああああッ!!」
叫んだり
城から追いかけてきた領軍が彼女を取り押さえたが、ローズマリーは意味不明な言葉を叫び続けた為、兵を青
2日後、水死体となったユーフェミアが海岸付近で見つかった。
実際に川に沈めたのはウィリアムであったが、門番と口裏を合わせ、ユーフェミアと城に戻ったことを証明してみせた。
ユーフェミアが見つかった翌朝、インゲの病勢が
また、領内山道で馬車が発見された。道中崖崩れに
何人かの正義感溢れる騎士が乙女達の死を調査したが、
そこからのローズマリーの記憶は
そしていつの頃だろうか、正教軍
冬の終わりに王都に行き、
───
──
―
□□
―
──
───
第三聖女隊は王都大ハイランドに帰還した。
王都は
「聖女様が! 聖女様が帰ってきたぞっ!」
「お待ちしておりました、聖女様! お恵みを! どうかお助けください!」
「おお、聖女様っ! ああ! 救いの手を差し伸べてください! ご慈悲を下さりませッ!」
空聖ローズマリーの乗る馬車に民衆が寄る。
「どうなさいますか、聖女様」
侍女がが問うが、ローズマリーは答えない。ただ
第三聖女隊は
ローズマリーは数人の侍女を連れて神門へと入った。1階部分は神殿のような空間となっている。至る所に植栽が配置され、
「聖女様」
唐突に呼びかけれられて、ローズマリーは止まった。
「巡礼の旅、お疲れ様にございました」
声のする方をそろりと見た。立っていたのは、巫女を連れた水の聖女マリアベル──の影武者であった。
彼女の名はヴェラ・ウルフと言った。王国南部から連れてこられた少女で、マリアベルと容姿が似ている。目元に
「聖女様。早々に申し訳ありませんが、王都には多くの苦しんでいる民がいます。お分かりの通り私は影武者ですから、何のお役にも立つ事ができません。ですが、何らかの手助けをすることはできると思います。どうか、
ヴェラは責任を感じていた。聖女として立ち、人々の信を手にしているのに、苦しむ人間に何をしてやる事もできない。
ローズマリーはヴェラを
「待ってよ」
だがヴェラは荒い性分。元は野盗として活動していた身。同年代の少年少女たちを率いて、
「何で逃げるの。何も思わないの?」
ヴェラがその腕を掴み、ついにローズマリーは口を開く。
「……ただ従順に
ヴェラは眉根を寄せる。
「──私は聖女になんかになりたくなかった!! 嫌だ!! もう私に期待しないでっ!! だれも私を見ないでっ!!」
ローズマリーはヴェラの手を振り解いた。
「なんで神は私を選んだの!? 気色が悪いッ!! 吐き気がするッ!! 私は、私は……、生きていて良い人間じゃないっ。誰か私を殺して! 殺してよ! あなたが殺してっ!」
「何を言って──」
「出来ないなら2度と話しかけないでッ!」
これには流石のヴェラも
取り残されたヴェラは激しく舌打ちをかました。
「なんじゃ、あの女……。わけわかんねぇなクソボケが」
5日ぶりに素の口調が出てしまったので、
「そのお言葉遣いはおやめくださいと、何度も」
「うっせーな。あんな風な態度を取られたら腹も立つだろうよ。ババアは良いよな、年食えば感性が鈍くなってよ。ありゃあ、聖女失格だぜ。殺してやれば?」
メアリは杖でヴェラの尻を叩いた。
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