その日、ローズマリーは穏やかな夢を見た。冷えた海で溺れる夢ではなかった。
淡い色をした炎が
乙女達はローズマリーの気配に気がついて、1人、2人と振り返った。彼女たちの
乙女の1人が問う。
「もう疲れたの?」
寄り添うような優しい声。誰の声なのだっけ。
「疲れてしまったのね、ローズマリー」
その名前が
「もう終わりにしてしまう?」
終わりに?
「良いのよ、それでも」
そうか、終わりか。
そうしようかな。
ローズマリーが調理場に入ろうと歩み出した時。誰かがその手を掴んだ。振り返ると、そこにはリトル・キャロルが立っていた。
キャロルは言った。
「私たちは自分で終わりを決められるほど、もう、小さな存在ではなくなっちゃったんだ」
悲しげに笑む。
「さあ行こう。私たちは
□□
王都神門は未完成である。急速に建築が進められてはいるものの、今現在の最上階は9階。計画では40階を目指していて、完成すれば世界で最も天に近い塔になり得る。
9階はまだ機能しておらず、様々な建築資材を管理しておくための部屋があるに過ぎなかった。そして、腹に傷を負って動けぬ
──この部屋に連れて来られてから
禁軍の兵卒に
この首輪は例の魔弾とかいう、聖女を殺すための弾丸と同じ宝石で作られているのだろう。聖女の力を奪うのだろうけど、ヴェラはそもそも聖女ではない。
お陰でヴェラはのんのんと武器を準備する事ができた。この部屋には大量の建材があるから、材料にも困らない。今日までに作れた武器は
十分なほどの暗器を準備する事ができた。しかも苦労することなく。何回か投獄された経験のあるヴェラだが、はっきり言って
(どうしてこんな、砂糖みてぇに甘っちょろいんだ。天下の禁軍だぜ?)
他にも何点か気になることがある。
1つ。この部屋の外で見張っている兵、定期的に様子を見に来る兵、飯を運んでくる兵、そのどれもが若い。自分と変わらないくらいの年齢か、若干年上の者ばかりである。考えてみれば、奇襲された時にいた兵達も若かったように思えるし、兵を率いていた中将──、確か名前をクラークとか言ったか、あの黒髪の彼も若いように見えた。
ヴェラは盗賊。正教軍や領軍を相手に戦ってきたから分かるが、これだけ若者ばかりの部隊というのも珍しい。特に歴史ある禁軍
もう1つ気になるのが飯だ。毎度、硬いパンに干し肉を食わされる。まるで
理由はなんだろう。
「あー、ダメだ! バカだから考えてもわかんねぇ! 途中でこんがらがって『いーー!』ってなるッ!」
ヴェラが頭を掻き
(ん? 飯の時間だな……。よし、ここいらで兵を殺して抜け出すか)
ヴェラは撃たれたはずの腹を押さえて、横たわった。兵が飯を運んでくるのを待つ。
武器の準備は整った。あとは行動に移すだけ。部屋を抜け出して、隠れながら進み、敵の長を仕留めてしまおう。
兵が入って来たらば、うまいこと油断させて
扉が開き、若い兵が入ってくる。しかし、ヴェラは気がつく。
(飯の
若い兵はヴェラの近くまで来ると、静かに言った。
「聖女様、動けましょうか。もし動けるなら、私と共に来ていただけませんか」
想定外の言葉。
「お願いがございます」
頼み事?
「──空聖の様子がおかしいのです」
□□
ヴェラはその若い兵に連れられて、9階の別室に入った。
至る所に建材が積まれた小部屋だった。
どうやら自分と同じく銃撃されたらしい。肌にべっとりと張り付いた祭服が赤く濡れて、もちろん青い首輪もつけられていた。見る限り、呼吸は浅い。顔色は悪く、唇も白く、目を閉じていて、まさに死に
(──青い宝石の毒が、聖女の体を蝕んでいるんだ)
冷や汗がヴェラの背筋を伝った。
「いつからこの状態なのですか」
聖女らしい言葉遣いで問う。
「そ、それは……、この部屋にお越しいただいた時から……」
兵は言い渋りながらも続ける。
「し、しかし。僕にもよく分からないのです。聖女ならば魔弾を受けようとも、多少の気怠さがあるだけで、どうという事はないと教えられたのです。どうにも
保身の言葉を並べるので、ヴェラは
「まずは聖女の力を奪う首輪をはずしなさい」
「そ、それはできません……!」
「彼女の姿が目に入らないのですか」
「しかし、僕の判断では首輪を外す事など到底できません」
そのもどかしい態度に、ヴェラは舌打ちをしながら言う。
「聖女である私の
脅されたことで兵はさらに焦り、より保身のことしか考えられなくなった。
「せ、聖女が死ねばどうなるのですか? やはり世界は滅びるのでしょうか。だ、だったら早くなんとかして頂けますよう、お願いいたします。そうでなくては困ります!」
「首輪を外しなさい」
「で、出来ないと言っているでしょう! 僕は
兵は肩で息をしながら額の汗を拭うと、逃げるようにして部屋を出て、扉を勢いよく閉めた。
「……ケッ。しょーもな!」
あの必死な顔に拳を叩きつけてやれなかったことを悔やみ、ヴェラは
「やれやれ。しっかし、治せと言われてもどうしたもんかね……」
本物の水の聖女であればどうにか出来るのかも知れないが、ヴェラはそうではない。医学の
☆3巻上の予約が開始されました。
応援していただけると嬉しいです。
【挿絵表示】
Amazonの商品ページ
楽天の商品ページ
オーバーラップストアの商品ページ
☆ 1巻はこちら
Amazonの商品ページ
楽天の商品ページ
オーバーラップストアの商品ページ
☆2巻はこちら
Amazonの商品ページ
楽天の商品ページ
オーバーラップストアの商品ページ