王国全土に
エリカら
その時の記録によれば、自警団は動く黒い
何処かの冒険者
□□
その後は客間に戻り、身支度を整える。エリカは東の空が白ける頃にニューカッスルを出るつもりだった。そして西の空が赤く焼ける頃には聖地に到着したく、闇が
「──
武具を身に付けながら、エリカはあの不吉な出来事についてをキャロルに話した。
「はい。焚火の中で、
薪が
「うーん……、そうかぁ。それは不吉だなぁ……」
エリカの左手首の
「もうちょっと心配すると思ったか?」
「は、はい。正直」
エリカは左手を握ったり開いたりしながら具合を確かめる。
「期待通りの反応じゃなくて申し訳なかったな」
キャロルは軽く笑い、
「私はエリカが万が一にも負けることはないと思っているから」
「でも、何があるか分からない訳ですし……」
「と言うよりも、始まる前から負けることを考えていちゃあダメだな」
背後からペチンと頭を叩かれたので、エリカはその通りだと思って
「その
「ああ、そうか……。私1人で溜めてたら私への天啓だけど、キャロルさんに話したのだから、キャロルさんにとっての
エリカは『ややこしい』と独り
「だから、まずは気にしなくていいと思うよ」
そう言われても、キャロルの身に何かが降り掛かるのならば、それはそれで
「神様って意地悪ですね」
「万年生理なんだよ」
キャロルは軽口を言って、続ける。
「まあ、私の身に何かが起こるかも知れないからエリカも気を張っておけ、とでも言いたいのだろうな。こんな不気味な
そしてキャロルは、机の上に置いてあった1枚の
「気にしなくてはならないのは、自分のこと。聖地に到着したら、
この
「敵が現れたら攻撃される前に倒せ。
エリカは
「試合じゃないから
言ってキャロルは首を鳴らし、今度は腕を天に突き上げてバキバキと背中を鳴らした。
「やれやれ、外は寒い。茶でもしばくか」
キャロルは
「──私は神を見たよ、エリカ。
エリカは湯気越しにキャロルを見つめた。その言いぶりからすると、天啓だとかそういう話をしているのではなく、本当に神そのものを見たらしい。
「神様は、どんなお姿だったんですか」
「少女だ。確かに多指だった。
キャロルは2人分の
「嫌な女だったよ。何と言えばいいかな、
最後の一滴まで注ぐ。そこには紅茶の旨味が凝縮されているので。
「そして神は『神殺しを成せ』と言っていた」
「自分を殺して欲しいって事ですか?」
「どうかな……」
そして、エリカに紅茶の入った器を渡した。琥珀色の
「……神は私を作った。私を私という存在にするために、あらゆる事象を左右させ、私の心と体を形成した。『育てた』と表現した方が近いかもしれない」
キャロルは静かに紅茶を啜ってから、続ける。
「でも、私はそれを否定した。私は私だけのものであって、誰かに作られたものではない。私の
「私は神の前で否定した。『私は私だ、お前の作ったものではない』。そして神は言ったんだ。『神殺し』を成せ……」
「神殺しは、教皇がやろうとしている事……」
キャロルは皮肉な風に鼻で笑った。
「『神に作られたであろう私』が『私は私だ』と自分を肯定し続ける事は神を否定することに繋がり、やがて神殺しは成る。
言って外を見る。まだ東の空は白けない。
「私は神に作られた事を否定しながらも、神が作った輝聖としての役目を果たそうとしている。その矛盾と折り合いをつけるのが難しく思うよ」
エリカはそっと器を置き、黙して考え込む。──実際に神はキャロルを作り出したのだろうか。キャロルはそれを否定するが、本当に心苦しいのだけれど、エリカは神の関与を完全否定出来ずにいる。それはキャロルを否定することに繋がっている気もする。
「フェリシア」
顔を上げて、キャロルを見る。
「神は、フェリシアと呼んだんだ私を」
「それが、キャロルさんの本当の名前……?」
「さあ。果たして」
フェリシア。幸運の架け橋を意味する名前だと、どこかで聞いたことがある。特段珍しい名前でもない。故郷、辺境伯領の貴族にも同じ名を持つ女子がいたし、他の領にもいることだろう。きっと、ここリューデン公爵領にも。
だけれどエリカの印象では、フェリシアという名前は
フェリシアという名は、つまり男性名でフェリクス。フェリクスと言えば教皇の名としても度々使われるほど
沈黙の中でエリカは思う。
キャロルは何者なのだろう。
どこから来て、どこに行くのだろう。
光の聖女ってなんだろう。
魔物に
人にとって魔物とはただの獣害? 瘴気は災厄?
ならその瘴気はどこから生まれたのだろう。
──瘴気の中には何があるのだろう。
決戦前の緊張が、延々と疑問を生み出して集中を乱す。現実逃避という名の、一種の防御反応だった。
「空が
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