不良聖女の巡礼   作:Awaa

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☆6月25日に「不良聖女の巡礼 3上」が出ます。
発売日はまだですが、店頭に並び始めているところもあるようなので、
見かけた方は是非お手にとっていただけますと幸いです。


金杖

 

 靴屋のイーヴァは(しわぶ)きながら、燃える王都を逃げ惑っていた。

 

 黒煙に(けぶ)る空には無数の小翼竜(ワイバーン)が羽ばたいている。イーヴァが聞くに、彼奴らは屈強な男は狙わず、嬉々として女子供を襲うらしい。例えば気分良さげに高所から嬰児(みどりご)を叩きつけたり、女の髪を(ついば)んでは甚振(いたぶ)り殺す。

 

 だがイーヴァは戦う手段を持たない。魔法も()して得意ではないし、剣も扱った事がない。仮に小翼竜がわあと迫れば『私以外の誰かを襲って!』と(うずくま)るしかなかった。一応は焼け落ちた長屋(テラスハウス)から出刃包丁を持ち出したが、恐ろしくて振り回す事も出来ないだろう。

 

(どうしてこんな事に……っ)

 

 踊り子(バレリーナ)の仕事を求めて、イーヴァは出京した。しかし田舎では()めそやされた技術も王都に()いては平凡だったようで、舞台に立たせては貰えなかった。挙句、流行病を拗らせて寝込む。臥してなお、何のこれしき! と意気込むが、その健気(けなげ)さを踏み(にじ)るようにして王都は焼け、小翼竜の群まで襲いかかる。

 

 だから、ついにイーヴァは後悔をした。神が『夢は諦めよ』と告げているのにも関わらず、諦めが悪かったから、神罰が下ったのだと察した。王都などに来るのじゃなかった。

 

「あっ……!」

 

 正面、空を滑るように小翼竜が飛来した。翼が風を切る音、思いの外素早い速度。イーヴァは恐怖で力が抜けて、へたり込んだ。同じ方面に逃げていた人たちは、蜘蛛の子を散らすように失せる。自分も逃げないと、と思ったが足に力が入らない。当然、出刃包丁も振えない。だからイーヴァは痰の絡みついた喉で、精一杯、がらがらとした、か細い悲鳴を上げた。

 

 ──神さま!

 

 痛ましい悲鳴が神に届いたのか、将又(はたまた)偶然か、イーヴァの背後から幾十もの小刀(ナイフ)が飛んできて、その全てが小翼竜の柔らかい腹に突き刺さった。ぎゃあと声をあげて、魔物は地に落ちて転がり、雪混じりの泥濘を散らした。

 

 そして何者かが、のたうつ小翼竜に飛びかかり、その脳天に勢いよく木製の槍を突き刺した。頭蓋を破って一撃必殺、尾がぱしんぱしんと跳ねた後で果てる。

 

 イーヴァは目を丸くして、颯爽(さっそう)と魔物を倒した青い髪の乙女を見た。

 

「……!」

 

 間違いない。誰が見間違えるものか。心の()り所にしていた水の聖女、マリアベル・デミだ。慣れない王都での生活、どんなに辛くたって、彼女の前向きな説法を聞けば頑張ろうという気が湧いた。だから水の聖女が面前に現ると噂に聞けば、何度もそこに赴いた。

 

「無事か!?」

 

 海聖マリアベル──の影武者ヴェラ・ウルフは、聖女らしい言葉遣いをすっかり忘れてイーヴァに駆け寄り、抱きしめた。

 

「もう大丈夫。王都は私たちが救う。周りを見てみろ」

 

 言われて、イーヴァは落ち着いて辺りを見た。

 

 いつの間に現れたのであろうか、傷だらけの兵達が各々武器を手に小翼竜と戦ってくれている。そのお陰か、狼狽(ろうばい)して無二無三で逃げ惑っていた王都の庶民も、ある程度の冷静さを取り戻して街の外の方へ駆け始めていた。

 

「いいか。脇目も振らずに一気に走れよイーヴァ。念の為、耳飾り(ピアス)は外しておけ」

 

 竜は耳飾りに目がないと言われている。王国南部に伝わる迷信だった。イーヴァは新生活記念にと浮かれて買った安物のそれを耳から外し、衣嚢(ポケット)に仕舞い込んだ。

 

「郭の外に出たら、壁を背にして蹲るんだ。あの火の鳥は死んじゃいない。またピカっと光る。……さあ、行け!!」

 

 言って、イーヴァの背中をばしんと力強く叩いた。押し出されるようにイーヴァは火炎の大路(おおじ)を駆けてゆく。

 

 ヴェラは徐々に小さくなる背中を見つめた。彼女は私が影武者になって初めての説法に来てくれて、その後もずっと欠かさず顔を出してくれる子の1人。不慣れな喋りにも関わらず熱心に聞いてくれていたし、中身だって大したものではないのに生活の()()にしてくれているような気がして、嬉しかった。

 

「もっと走れっ! 走れーっ! 生きて生きて生きまくって、踊り子(バレリーナ)の夢を諦めるなよー!」

 

 肺が空になるまで叫ぶ。聞こえなかったのか、聞こえたけどそれどころではないのか、イーヴァが振り向くことは無かったけれど、それでもヴェラは満足していた。心に青空が広がったような気さえした。

 

 そして顔を歪め、胸を押さえ、膝をつく。

 

「あいたたたた。強がりすぎたな、こりゃ。ゲボが出そうだぜ」

 

 目をぎゅうと瞑って、俯く。顔面から絞り出された汗が鼻頭へ伝って、ぽたぽたと地に落ちた。

 

 やれやれ。多少の無理が利く程度には空聖に傷を治して貰ったが、当然ながら痛いは痛い。しかし、なんと言うか、クラーク他生き残った神門占拠の決起軍も、第三聖女隊のフォルケとかいう包帯ぐるぐる男も同程度の回復具合のはず。全快した勢いで戦っているのを見るに、自分との圧倒的な差を感じる。奴らは化け物か? 体が痛まないのか? 流石は選りすぐりの益荒男(ますらお)、根性も一級品。

 

 だが私だって根性には自信がある。もう、ほんのちょっぴり休憩したらば、立ち上がって加勢してやる。そして1人でも多くの人を王都から流すんだ。私は偽物でも聖女。救世を成し遂げてやる。──そう思って顔を上げると、目の前に杖を持った老女が立っていた。ビスター伯爵夫人メアリだった。

 

「あ、あなた、ヴェラ……!」

 

 メアリは背後に従えている何人もの正規翊衛軍(よくえいぐん)に対し、手信号。耳に手を当て『全軍注目』、次いで親指から中指を立てて『魔物』、そのまま左右に振り『殲滅』。兵は喇叭(らっぱ)の号令の後、一斉に駆け出し、蔓延(はびこ)る小翼竜に対して攻撃を仕掛け始めた。

 

「へへっ。よお、久しぶり。元気ぃ?」

 

「生きていたのですね! ああ、どれほど心配したか。しかも、こんな地べたに座って! みっともないっ! 立ちなさい!」

 

 安心から、(ある)いは高揚して臓躁的(ヒステリック)な声を上げ、メアリは杖をほっぽりヴェラの腕を取る。

 

「お、おいおい、怪我人だっての。もっと優しくっ!」

 

「何を眠い事を言っているのですか! 淑女(しゅくじょ)が膝を土で汚すなど!」

 

 メアリはヴェラが捕らわれた後、数名の従者と共に神門から立ち退かされた。彼女は元は翊衛軍の大将であったし、血も(たっと)く、さらに王家の覚えもめでたいので、決起成功の後のことを考えて遺恨が残らぬようクラークがそう判断した。

 

 神門から立ち退いてすぐに旧知の将を頼って、メアリは正規翊衛軍に合流。一部隊を借り、指揮して他部隊と共に神門を包囲、救出の機会を探った。怪鳥が現れて半数ほどの負傷者を出したものの、この騒ぎを利用し、王の沙汰を待たずして神門に単独進撃。謀反に問われることも覚悟の上だった。その最中にヴェラに遭遇した。

 

「装備を見るに、戦っているのは第三聖女隊と決起軍ですか。なぜ彼らが手を取り合い、連携しているのです。神門で何があったのです。その血塗れの祭服はなんですかっ。答えなさい、ヴェラっ」

 

「質問攻めかよ。せっかく生還したのに泣けてくるぜ」

 

「それより、空聖はどうしたのですかっ」

 

 メアリに支えられても痛みで体に力が入らず、立ち上がれぬ代わりと言わんばかりに、ヴェラはちらりと背後を振り返った。

 

 神門へと続く長い一本道、炎と土煙の中に幾つかの人影が浮かんでいる。徐々にその姿ははっきりとして、涼やかな松香(しょうこう)の香りが漂い始めた。

 

 現れたのは6人の巫女。裸であったり、破れた祭服を纏っていたりした。彼女達は閃光に焼かれながら、()しくは神門から墜落しながらも辛うじて息のあった者達で、それには(にえ)の乙女も含まれた。空聖により動ける程度の治癒がなされ、各々香炉を持ち、風の聖女ローズマリーを囲んでいる。

 

 空聖は赤黒く染まった祭服と野蛮な血化粧をそのままに、右手には自身の身長の2倍以上はあろうという、旗竿のような金の杖を持っていた。

 

 狂って(かし)ほどに成長した巨茴香(おおういきょう)を切り出して作られたとされる杖で、その聖具の名を金杖(きんじょう)。学術的には『(さえず)塚中(つかなか)鍍金(ときん)(じょう)』と呼ぶ。風の聖女に与えられた聖遺物で、万物を砕く(つち)であり、力の差が歴然であれば、砕くまでもなく(あぶ)(ぶよ)にするともされた。

 

 本来は霊壽杖(れいじゅじょう)(すなわ)ち齢80となった(しもべ)の長寿を祝って王が下賜(かし)する贈答品である。記録によれば『南方の黒い王』とされる人物が使徒ザネリに作らせたものだが、それに大山猫の尿と聖母の屍蝋(しろう)を塗ると金に輝いたので、聖具としたものである。

 

 幾千の時を経て甘やかな香りを放つようになった猫の尿と屍蝋のせいか、蝶や蛾が集まるのが妙な特徴であった。今も杖の周りには、冬にも関わらずどこから湧いて出たのか、市中の炎を無視し鳳蝶(あげはちょう)山繭(やままゆ)が狂ったように群がっている。

 

「なんと美しいお姿……」

 

 メアリは目を見開き、独りごちた。……この乙女が本当に空聖ローズマリーだというのか。何度か見かけたことはあるが、その姿に特別なものは感じず、小心翼翼(しょうしんよくよく)とした乙女という印象しか持たなかった。だが現れた彼女はそれと同一人物とは到底思えないほど神秘に満ちている。たとえ顔が禍々しく血に染まっていようと、髪が血で固まり乱れていようと、聖女から溢れ出る静謐(せいひつ)な命の煌めきに肌が粟立(あわだ)つ。

 

 ──これが本当のローズマリー・ヴァン=ローゼスなのだ。

 

 予々(かねがね)美しい名前だとは思っていたが、それに相応しい姿だとメアリは感じた。

 

 ローズマリーは悠々(ゆうゆう)歩いてヴェラの前に立ち、小さく言う。

 

「ありがとう。貴女の必死さと、その真心(まごころ)が、私に一歩を踏み出させてくれた」

 

 語る聖女の瞳を、ヴェラはじっと見つめた。しんとした瞳だった。石英(せきえい)でも嵌め込んだかのように透明で混じり気がないが、そこに僅か、限りなく澄んだ雪色(せっしょく)哀愁(ペーソス)が揺らめいているのを見て、胸を痛めた。

 

「あの鳥と戦うのか」

 

 頷く。

 

「勝てる……、んだよな」

 

「確かなことは言えない。あの時も聖具を振るって頭を潰したけれど、火の鳥は生き返って隊を壊滅させた」

 

 ヴェラは魔物についての知見はない。だから、あの神秘の鳥を倒すことがどれ程の事なのか、具体的に思い描くことは出来ない。だが今の空聖の言を聞けば、自分が想像しうる範疇を超えて強力な魔物であることは理解できた。

 

「でもね、私はもう一生分を逃げてしまった。これ以上、逃げるわけにはいかないんだ」

 

 そしてローズマリーは風に葉が揺れるように、さらりと、(ひそ)やかなふうに語る。

 

「小さい頃から聖女になりたかった。きっかけは些細なこと。ある物語に影響されて瘴気の外を見たいと思っただけ。……無邪気さもあったけれど、でも、結局のところ私は、()()になりたかっただけなのだと思う」

 

「何かって?」

 

「特別な存在。自分ではない、遠い、ずっと遠い存在」

 

 烟るからか、街の炎がローズマリーに光の(かさ)を作っていた。

 

「初めは、ちょっと(こそぐ)ったい、希薄な願いだった。頑張る気持ちはあっても、()したる覚悟はなかった。だからこそ、この願いには沢山の希望が入る余地があったんだ」

 

 聖画(イコン)に見る光輪(ヘイロー)のようだった。その後光のせいで空聖の顔は影となり、上手く表情を読み取れなかった。ヴェラには泣きそうな顔にも見え、仄かに笑んでいるようにも見え、無の顔にも見えた。

 

「故郷では仲間と勉強して、遊んで、秘密のお話をして、手を繋いで春の丘を駆けた。一緒に()()を語った。願いは誓いになった。そして私は、誓いを呪いにしてしまった。……だけれど、あの子達は私が目を背けている間も、約束を思い出すのを待ってくれていた。青空と雲の中に属しながらも、苺の成る丘でずっと待っていた。(ある)いは陽だまりの厨房(キッチン)で、ずっと待っていた」

 

 ヴェラは静かに目を見開いた。ローズマリーの周囲に、揺蕩う白い幻が見えた気がした。

 

「『ここにいるよ』って、声が枯れるくらいに叫んでいたはずなのに、私は聞こえないふりをするのに必死だった」

 

 白い影はヴェラの知らない土地の巒気(らんき)を漂わせていた。

 

「私は風。季節を巡らす。瘴気の時代を……、冬を終わらせなきゃいけない」

 

 ローズマリーは続ける。

 

「そして神様に教えるの。私は不幸ではなかったって」

 

 問う。

 

「あなたの名前は?」

 

「ヴェラ。ヴェラ・ウルフ」

 

「そう。ヴェラ、心配してくれてありがとう」

 

 言って、そっとヴェラの額に口付けをした。

 

 額から唇が離れた時。ヴェラは周囲に兵が集まっていたことに気がついた。小翼竜は地上で戦う彼らを恐れて、上空を旋回し始めたらしい。兵たちは各々聖女に顔を向け、神妙に言葉を待っている。

 

 それに応えるようにしてローズマリーは彼らを見回し、落ち着いた口調をそのままに、しかし力強く言った。

 

「北方ファルコニアの戦士に2度の敗北は許されません。この身が消し炭となるまで戦います」

 

 兵らは微動だにせず言葉を聞いている。新たなる世界を夢見たクラークら造反の決起軍も、傷だらけの第三聖女隊も、メアリが連れて来た正規翊衛軍(よくえいぐん)の兵らも、皆が決意を瞳に宿し、沈黙していた。

 

「救世の聖女として命じます。不遇な民を守りなさい。決して持ち場を離れることのないよう」

 

 異を唱える者はいなかった。

 

(はばか)りながら、各員、ここを死に場と心得ていただきたく存じます」

 

 ローズマリーは四指を伸ばし敬礼した。第三聖女隊、決起軍、正規翊衛軍、各員答礼。ヴェラも痛みを堪えて立ち上がり、遅れてではあるがメアリらと同じように答礼を行なった。

 

「特にフォルケ。あなたには迷惑をかけました」

 

猊下(げいか)の健闘を祈ります」

 

「ありがとう。全てが終わったら、一緒にお茶を」

 

 空聖の背後、火の鳥が生み出した光の大樹が明滅し、消えかけていた。そして幹となった菱満俺(ロードクロサイト)の光柱の中、巨大な鳥が、宮廷行事の花火のように火の粉を散らしながら、美しく、天へと羽ばたいてゆく。ついに火の鳥が復活したらしかった。

 

 そしてローズマリーはヴェラを向く。

 

「良ければヴェラも、私の友人として」

 

 十字を切り、金杖を持つ手を地面と水平にする。両脚は揃えて、棒のようにし、爪先で立つ。次いで左手で自身の血を混ぜ込んだ没薬(もつやく)を握り、天高く、地面と垂直に上げた。顔は正面、天地人の姿勢。

 

 空聖の髪がふわりと持ち上がり、周囲に3回、4回と稲妻が舞った。ばちんと、手の中の没薬が火花を散らせて煙を上げる。冷たい風が逆巻き、空聖に集約し、彼女を中心に竜巻が生まれる。徐々に竜巻は(すい)の色に輝き始め、空聖の姿を曖昧にしながら肥大化していった。

 

 復活したばかりの火の鳥は、翠の竜巻に抗う事(あた)わず、きゃあと金切り声を上げて、それに飲まれた。空を旋回していた小翼竜は竜巻に弾かれ、体を割かれる。

 

 降り注ぐ竜の血の雨の中、周囲の兵ら、巫女らは竜巻に飲まれる前にローズマリーから距離を取る。ヴェラもまたメアリに腕を引かれて、竜巻を見上げながら逃げた。

 

「……」

 

 ヴェラは竜巻から目が離せなかった。ローズマリーが風に隠れる時、天空の火の鳥に向かっていく白い幻影が、見知らぬ乙女の姿をしていたから。

 

「聖女が風の中で、()()()と戦ってるんだ……」

 

 漏斗(ろうと)状の竜巻はその場にぴたりと静止している。中でぴかりと光ったり、火の鳥の叫びが聞こえるが、どのような戦いが繰り広げられているのかは分からない。とにかく、火の鳥は風に封じられている。

 

 そして、ヴェラは両膝をついた。目を丸くしたメアリが小言を言い出す前に、語り始める。

 

「私にはもう、魔物と戦う力は残っちゃいない。体が痛くて千切れ飛びそうだ。だけど、ここから逃げることはしたくない」

 

 顔を愁色(しゅうしょく)に染めて、胸の前で両手を握る。

 

「だから祈る。ローズマリーの勝利と、国家の安寧秩序を願って」

 

 メアリにも真心が伝わったのだろう。ヴェラと同じように竜巻を見上げ、十字を切ってロザリオを握った。祈るヴェラを見て感化されたか、もう魔物と戦う力の残っていない兵、元々戦闘能力を持たない巫女らも、同じように祈り始める。

 

 徐々に、竜巻の周囲に祈りの人が増え始める。それは商人であったり、庶民であったりした。当然、多くの者は流行病に侵されていた。中には怪我を負っている者もいた。それでも安全より、祈りを優先させた。

 

 戦う兵らは祈る彼らに逃げるよう促すことはせず、寧ろ全身全霊で彼らを守るべく、『この厄介な竜巻を止めねば』と地上に降り立つ小翼竜を蹴散らしてゆく。

 

 悲鳴と怒号に支配された王都は、翠の竜巻の登場と共に、祈りの静寂に支配された。

 

□□





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