正面の城門を飛び出した魔物達は爆発に
黒煙が空を覆い、昼が夜になった。周辺を飲み尽くした砂嵐は消え、乾燥した砂が肉片や臓物にまとわりついている。
メリッサは駱駝から降り、灰と肉を踏みしめながら聖地に入る。
「おお、姫」
それを爺が迎え入れた。肩に担がれた大剣は真っ赤に染まっている。封印を解いた際、即座に群がって来た
「大事ないか、爺」
「なんのこれしき。と言いたい所だが、まあ、多少爆風に
メリッサは破壊された騎士像の上に座る。
「歳だな」
「体の節々が痛み申す。して、満足のいく結果は得られましたかな」
「制圧まで30分掛かった。褒められた数字ではない」
今回、実践してみて分かった。もし仮に、救国の為に王都大ハイランドを攻略すると言うのならば、象の数、魔導砲の数がまだまだ必要だ。現状、象1体に2門の砲をつけていて、合計20門しかない。この10倍は必要だろう。また1度撃つと冷却に5分掛かるのも大きな課題だ。理想は30秒。妥協して1分。目標には程遠い。
また、当然ながら兵の数も足らない。駱駝の数も。カタロニアから続々と兵が来てくれてはいるが、所詮は滅びかけの国。やがて限界となる。正教軍で
「人の数を補うには、もっと威力の高い兵器が必要だ。1兵の強さ、連携も足りぬ。駱駝に装着する
□□
カタルトンの街。第四聖女隊は黒い空の下、住民たちに万雷の拍手で迎え入れられた。
「素晴らしい戦いであった、聖女メリッサ」
噴水のある大広場でジョッシュが出迎える。メリッサは駱駝から降り、パタパタと小走りで近寄った。
「ふう。少々気を張っておりましたが、卿のお顔を見て、ようやく安堵しました」
そして微笑みを浮かべ、ジョッシュの手を取る。ジョッシュは急に手を握られたのでギクシャクと硬直し、顔を真っ赤にしてしまった。そのうぶな彼の後ろ、ライナスはメリッサを鋭い目付きで見ていた。
「……このお方は?」
問われて、ジョッシュは我に帰る。
「ああ。彼はライナス。ライナス・レッドグレイヴ。俺の親友というか、腐れ縁というか……。おいライナス、挨拶しないか。陸聖
ライナスは挨拶をしようという気配はない。ジョッシュが『挨拶は?』とおどおどして振り返った時、ようやく彼は口を開いた。
「先の魔導弾、猊下がお作りか」
メリッサはやや口元を緩めて言う。その笑みに温もりはない。
「如何にも」
「どのような意図で、あそこまでの威力になさった」
それを聞いて、ジョッシュはやや驚いたように言う。
「お、おい。どうしたライナス。そりゃあ、お前、敵を木っ端微塵に吹き飛ばすために決まっているだろう……」
「そういう話ではないんだ、ジョッシュ」
歓声と拍手の中、メリッサは静かに言った。
「──まだ足らぬ」
「まだ、足りない……?」
「妾が求めるのは、もっと強大な破壊力。例えば弾一つで山を崩し、地を炎と灰に変え、全ての動物を骨にする。妾の理想はそこにある」
ライナスは眉を顰める。
「それを作る、と言うのか」
「
賢者の石とは錬金術の極意で、学問としての最終到達点である。未だかつて誰も作り得ていないが、それは『生と死』を
「お、おお! 素晴らしいことじゃないか。俺は感動したぞ。なあ、ライナス」
ジョッシュは冷や汗をかきつつもニコニコと笑みを作って、ライナスの肩に手を置いた。そして、揉む。余計なことは言うな、さっさと機嫌をなおしてくれ、と念を込める。
「……感動? 俺の胸にあるのは危機感だ」
「ど、どうしたライナス。お前らしくもない。立派な志ではないか。魔物を蹴散らすのだぞ」
「──それが魔物に向けられればな」
ライナスの物言いを聞いて、爺が駱駝から降りて寄る。
「これは
ジョッシュは爺を宥めつつ、言う。
「ど、どうしたどうした。本当にどうしたライナス。メリッサも爺様も、彼を勘違いしないで頂きたい。文句ばかりの男だが、
爺は焦るジョッシュに構うことなく、ライナスの目を見て言う。
「ならば申し上げなん。もし姫に
ライナスはしばし黙ってメリッサを見つめる。メリッサもまた、ライナスの瞳を何も言わずにじっと見ていた。ジョッシュはその二人を焦りながら交互に見ることしかできない。
それで、口を開いたのはライナスだった。
「……猊下。古城の攻略、お祝い申し上げる」
形式的な祝賀を述べ、問答を終わりとする。メリッサも駱駝を引いて歩き始めた。
「では、所用もあれば」
駱駝隊はジョッシュらを通り過ぎて、街の南方面へと行進を続ける。会話の聞こえていない観衆たちはジョッシュとライナスが聖女を
「メリッサ! 後にまた、祝賀会で!」
ジョッシュが手を振り、メリッサは微笑んで振り返した。彼女の姿が象に隠れて見えなくなるまで振った後、怒りの表情でライナスを見て、拳を振り上げた。
「おいっ! ライナスぅ〜! お前ってヤツはなあっ!」
「そう言えば、イリーナコーストを貸し与えたらしいな」
言われてキョトンと首を傾げる。
「使ってないし良いだろう。何の問題がある」
ライナスはため息交じりに言った。
「──それは迂闊だったぞ、ジョッシュ」
□□
行進は続く。調子に乗った
「爺。あの男はライナスと言ったかな」
爺は感慨深そうに頷いた。
「うむ。良い眼をしておりましたなぁ、姫」
メリッサもまた、嬉しそうに笑う。
「気高い狼の眼をしていた。瞳に
「確か、学者の家系ですな。母君は考古学者ユーニス・レッドグレイヴ。母が大病を患った際、マール伯爵が直属の薬師を遣わせた事に恩義を感じている様子」
「伯爵は義の御方。困る者あらば助けよう」
警備する領兵を掻い潜り、見ず知らずの小さな女子が観衆の列から駆け寄って、メリッサに抱きついた。興奮しすぎたのだった。それでもやはりメリッサは特に気にする風もなく、抱きあげてやる。
「して、学者の家系か。特に歴史学者は世の
「
女子の母親が慌てて出てきて、ひとしきり謝った後、子を抱えて逃げた。女子が手を振ったので、メリッサは手を振り返す。表情は慈悲の笑みであった。
「その儀に及ばず。向かってくれば妾が直々に相手する」
「脅威になりましょうぞ。良いのですかな?」
「その程度の脅威、真っ向から退けられねば祖国を救うことなど到底出来ぬ。それに
そう言ってメリッサは舌を出してみせた。
ここで一人の兵が現れ、爺の側に寄り、耳打ちをする。メリッサはそれを見て言う。
「苦しゅうない。直接申せ」
兵は跪く。
「女が消えるという騒ぎについて、放った
メリッサは冷たく笑って言う。
「やはり臭うなぁ、爺」
「左様にござりまするな」
爺もまたニヤリと笑った。
「さて、ライナスの事もある。解決してマール伯爵のさらなる信頼を得るか、それとも内容によっては──。まあよい。妾が砦に帰るまで、何故その様な行いをするかを
「はっ」
「役目大儀」
そして兵は去った。
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