不良聖女の巡礼   作:Awaa

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臓卜

 

 教皇領北部は(けわ)しい山々が連なる。中でも一際(ひときわ)目立つ白山(はくさん)は聖エルダーと名付けられている。標高は15000(フィート)(約4500m)。かつて正教会の高潔な僧は、修行の一環として聖エルダー西側にある直角の崖、通称西壁(せいへき)登攀(とうはん)する事に挑戦をしたものだが、今それを行う者は少ない。

 

 山の中腹にある迫り出した真っ白な崖の上、ニスモ・フランベルジュは十字を切った。次いで、目の前に横たわる羊の死骸に聖水を振りかける。側に置かれた香炉からは、没薬(もつやく)の煙が糸のように立ち昇っていた。

 

 ニスモは短剣で羊の腹を(さば)き、右手をその中に入れた。緊張した面持ちであった。

 

 1つ息を吐き、意を決したように力を込め、引き抜く。手に握られているのは肝臓(かんぞう)

 

 ──まただ。

 

 蒼ざめた顔で肝臓を見つめる。その右葉(うよう)には大きな黒い(しこり)が4つもある。つまりは(がん)

 

 既に8頭の羊を生贄に捧げていた。しかし、何度やり直しても黒い(しこり)は現れる。

 

 臓卜(ぞうぼく)は焔聖が得意とする卜占(ぼくせん)の一種。肝臓の色や形、それから尾状葉(びじょうよう)の突起を山に見立て、その山が落とす影の示す場所によって、神託(しんたく)を得る。しかし、この(しこり)だらけの肝臓では神の言葉を読み取れない。

 

 ──あの時と同じだ。

 

 クララ・ドーソンと共に過ごした。寝台の上で昏睡(こんすい)と覚醒を繰り返した。その中で、ニスモは妙な幻想を見ていた。夢とは違う気がした。

 

 幻の中でニスモは、羊の腹を捌いた。肝臓を取り出すと、小さな黒い痼が全面にあった。(あり)が群がっているのかと思い、ゾッとして、悲鳴をあげた。

 

 すると、腕を掴まれた。6本の指だった。恐る恐るその者を見ると、神秘的な顔つきの少女が隣にいた。

 

 少女は、じっとニスモを見ていた。そして、こう(ささや)いた。()も、憐れむように。

 

 ──優しい子。あなたはお姉さんを解放してあげたんだ。

 

 ああ、それを聞いた時、私はどんな風だったろうか。蓬髪(ほうはつ)をそのままに、怯えて言葉を失い、無様にも目は潤んでいたに違いない。少女はそんな私を見て『なんて可哀想な』とでも言うように切ない表情を浮かべ、額に優しく口付けをした。

 

「嫌ッ!」

 

 小さく叫んで、肝臓を地面に叩きつけた。真っ白な土に、びしゃりと赤が弾ける。

 

 ニスモは涙を堪える。鼻の奥がつんと痛かった。泣きそうになると蘇る。アッテンボロー家とバーダー家が私達を分つ時。涙を流す私を慰めてくれた姉の声と、自らのロザリオを渡してくれた、その手の温もり。

 

『大丈夫、泣かないで。いつか神様が私たちを一緒にしてくれる』

 

 離れ離れになっても、人目を盗んで会いに行った。姉が大好きだった。

 

『おいで。今日は髪を結いてあげる。綺麗な花飾りもつけてあげるわ』

 

 会う度に、指針を示してくれる。

 

『バーダー家の人間には従いなさい。嫌でも今は耐えるの。神様は見ているから。報われる日が必ず来る』

 

 姉はいつも私を想ってくれていた。いつも優しく抱きしめてくれた。

 

『大好きよ、ニスモ。とっても』

 

 処刑人の仕事が嫌だった。慣れる事がなかった。我慢ならない時は屋敷から抜け出した。そしてアッテンボロー家の屋敷に忍び込むと、姉が慰めてくれた。

 

『私たちは、強くならなきゃだめなんだ。この世界で生きていくには、強くならなくちゃ』

 

 手を握って(さと)してくれた。

 

『耐えて耐えて耐え続ければ、きっと神様は助けてくれる』

 

 立派な人だった。(たくま)しくて、強かった。(いと)しかった。顔や体の何処かしらに、いつも殴られた(あと)があったけれど、それを尋ねると、決まってばつが悪そうに笑っていた。

 

『いつか2人で領を正そう。お父様を助けてあげよう』

 

 姉はいつも同じ事を言っていた。

 

『──私はね、いい人になりたい』

 

 本当に、口癖だった。

 

『恨みなんか抱かなくて、いつも笑顔で、弱きを助ける余裕があって、他人を幸せに出来るだけの、いい人になりたい』

 

 気高かった。

 

『いい人でいるためには、誰よりも強くなくちゃ』

 

 ───

 ──

 ―

 

 □□

 

 ―

 ──

 ───

 

 リトル・キャロルの事が嫌いだ。腹が立ってしょうがない。その顔も、その声も、出立ちも、全てが気に食わなかった。

 

 視界に入るだけで苛立つ。残り香も(しゃく)に障る。歩く時の音だってそうだ。しとしとと静かで、猫のよう。話す時の間も嫌いだ。何が一番嫌いって、あの黄色い瞳が嫌だ。

 

 あの女は嘘偽りで出来ている。弱いところは見せまいと本心を隠し、()くまで健気(けなげ)であろうとし、見た目も(つくろ)い、(みじ)めである。ああ、惨め惨め惨め、(みぞ)(はま)って死ねば良い。

 

 ニスモはキャロルには絶対に負けたくない。幸いにしてバーダー家の手解きを受けて来たから、武術の腕はキャロルと同じくらい優れていたし、筋も良かった。しかし、それに満足することなく、ニスモは狂気の域で鍛錬を続けた。だからいつも手には血豆があったし、たとえ痛かろうと、手の皮を厚くする為に回復魔法すら使わなかった。

 

 鍛錬を積み重ねていたことで、(のち)の輝聖であるキャロルに対して真っ向から競り合えた。勝率は五分五分。勝てそうな時は容赦しない。確実に急所を狙って痛めつけた。倒れ込んでも教師の『待て』が入るまで、入念に叩きのめした。倒れたキャロルの顔を蹴り上げてやることもあるし、指を踏んで砕いたこともあった。魔法が使用できる訓練であれば顔面に火を当て、気管や肺を焼いて苦しめた。それでも立ち上がり、強く睨みつけてくるその瞳に、ニスモは無性に腹が立っていた。

 

 だけれど、キャロルの事が初めから嫌いなわけではなかった。勿論(もちろん)ニスモにとっては他の聖女候補全員が浅はかに見えたが、それでもキャロルだけが特別に嫌いというわけではなかった。みな平等に嫌いだった。

 

 □□

 

 聖女が学園に(つど)って1年目の夏、小暑(しょうしょ)の節亥中(いなか)。その日、聖女候補達は初めて王都から出た。演習の一環として正教軍の指導の下、魔物の討伐を行った。まずは第一聖女隊と第五聖女隊が出陣。当時、まだ正規の隊員は(さだ)まっておらず、傭兵(ようへい)や冒険者が組み込まれる事も多かった。

 

 その日の討伐は無事に終わった。ニスモは服を脱ぎ、体や髪にこびり付いた蛇女(ラミア)の血と臓物を泉で洗い流していた。水に浸かると、体に入れたばかりの聖痕(せいこん)が滲みた。

 

 木々の陰から傭兵達の声が聞こえる。なにやら『聖女なぞいるものか』『子供のお守りなど』と愚痴(ぐち)を垂れているようだった。それで、腹の傷を洗っているキャロルをちらりと見た。彼女は聞こえないふりをしていた。

 

 愚痴を垂れている男は、蛇女(ラミア)に襲われた所をキャロルに(かば)われ、命を救われていた。キャロルの腹の傷は、庇った時に鋭い爪で抉られたものだった。

 

 キャロルは傷口の中に指を入れ、中に入り込んだ割れた爪や、小さな(うろこ)を黙々と取り除いている。そのまま魔法で傷口を塞げば、中で()んで大事となる。

 

 傭兵が『本当に聖女かどうか、体を(さば)いて確かめてやろう』と冗談っぽく言ったのが聞こえた。それで他の傭兵が下品な笑い声を上げた。

 

 だがキャロルは反応をせず、傷口を水で洗いながら、淡々と、丁寧に(ごみ)を取っていく。ニスモはいつの間にか、その様子に見惚(みと)れていた。綺麗な横顔に気高さと清潔さを感じた。だからニスモは初めて聖女候補に対して会話を試みた。

 

「腹が立たないの?」

 

 キャロルはぼそりと返す。

 

「あんまり」

 

 ニスモは嘘だ、と直感的に思った。否定するには静かすぎた。感情を隠しているよう。

 

「私だったらあの男は斬り捨てる」

 

「そんな事をすれば学園が黙っちゃいない」

 

「どうせ傭兵よ。誰も安否など気にしない。魔物に喰われた事にして適当に報告すれば良い」

 

「死体が残ってしまう」

 

「灰にして甘藍畑(キャベツばたけ)に撒けばいい」

 

「他にも隊員がいる。怪しまれる」

 

「黙らせる」

 

 するとキャロルは少し笑って、こう言った。

 

「ありがとう。優しいんだね」

 

 (かわ)されたのか、本当に気にしていないのか。捉え所の無さに一種の神秘、(ある)いは霊妙(れいみょう)な空気すら感じて、ニスモはリトル・キャロルという少女に興味が湧いた。もっと話したい。そう思って、極々淡く微笑んだ、その矢先だった。

 

「──でも、私はいい人でいたいんだ」

 

 ニスモは体を洗う手を止めた。

 

「だって聖女になるのだから、こんな事でいちいち怒っていられないよ。私は強くなりたい。人の悪意であったり、冷たさであったり、心無さであったり、そういうものに侵食されない強い人でありたい」

 

 ──この女は姉と同じ言葉を発した。

 

 不思議だった。その瞬間に芽生えかけの淡い想いは砕け散り、目の前の人間が(おぞ)ましいものに見えた。敵になったと言い切ってしまっても良いくらいには嫌悪を抱いた。

 

「──理解したような事を言わないで」

 

「え?」

 

自惚(うぬぼ)れているの? あなたは何も分かってない」

 

 ニスモの声は怒りで震えていた。赤い瞳は潤んで、涙は今にも目頭を伝いそうだった。

 

「自分の理想を追い続けようだなんて誰にも出来ない。高潔なつもり? 英雄になるつもり?」

 

「ニスモ……?」

 

 キャロルはその変貌(へんぼう)に戸惑った。彼女が何故そこまで怒るのかが分からなかったので、これ以上は声が詰まった。

 

「黙れ偽善者。私の名前を呼ぶな」

 

 以降、ニスモはキャロルに執着した。

 

 執着したとは言え、実際に2人が言葉を交わす事は無かった。しかし稽古(けいこ)で組み合う際には、ニスモはキャロルを執拗に攻撃をした。時には汚い手を使い、倒れた所に追い打ちをかけた。その度にキャロルは何を言うでもなく、黙って起き上がった。それにもニスモは苛立ちを(つの)らせた。気高くあり続けようとしているようで、(しゃく)に障った。キャロルが勝つこともあるが、彼女は復讐するような真似はしない。自分だけが悪者になったようで、それにも腹が立つ。関わる(ごと)に苛立ちは心の中で膨れ上がった。

 

 ニスモはキャロルを負かす為に鍛錬に(いそ)しみ、キャロルの上を行くために勉学に励んだ。皮肉だがキャロルを全否定したいが為に、キャロル以外の全てが雑音となって、次第に彼女を中心に物事を考えるようにもなっていった。

 

 いつもキャロルのことを考えて焦慮(しょうりょ)しているので、話しかけようものなら殺意を向けられる。(ゆえ)に他の聖女候補も教師も他学生も彼女には近寄り(がた)く、ニスモ・フランベルジュがどのような女子であったかを知る者は少ない。

 

 □□

 

 次に2人が言葉を交わすのは1年以上も後の事になり、それが学園に入って2年目の朔風(さくふう)の節晦日(つごもり)、夜半である。

 

 その日、昼からの雪霰(ゆきあられ)は日暮れには綿雪(わたゆき)となって、闇の中でひらひらと降り注いでいた。

 

 ニスモは学園内の屠殺場(とさつじょう)で羊の皮を剥ぎ、臓物を取り出していた。魔術に使用する横隔膜(おうかくまく)腎臓(じんぞう)が必要で、解体を朝までに終わらせたかったから、随分と集中していた。

 

 ふと、ニスモは短剣で左手の親指を切った。唐突に手元が狂った。何がそうさせたのかと周囲に意識を向けると、どこからか霊妙な魔力が漂うのを感じた。自分では気が付かなかったが、魔力に当てられて手指が震えていた。

 

 外套(あまぐ)を羽織って外に出た。魔力の出所を探っていくと、剣技場へと導かれた。

 

 雪の積もった舞台(アリーナ)の中央にリトル・キャロルが立っていた。薄着だったが汗に塗れ、珍しく髪は下ろしていた。足をぴたりと揃え、脚をぴんと張り、背筋は伸び、顔は正面。右腕は地面と水平に横に伸ばし、深く、静かに呼吸をしていた。天地人の構えだった。

 

 2日前の朔風暁月(ぎょうげつ)。キャロルは故郷を救う事ができずに学園に帰還した。それどころか、霞竜(かりゅう)フィリーの罠に(はま)り、住民を自らの手で殺したらしい。中には顔見知りや幼い子供まで混じっていたとニスモは聞いている。

 

 昨日は塞ぎ込んでいたらしいが、夜半に出てきて、早速鍛錬。まるで悲劇の英雄(ヒロイン)を演じているようだ。反吐(へど)が出る。

 

「惨めね。そんな事をしても自己満足に過ぎないのに」

 

 キャロルはゆっくりと目を開けてニスモの赤い瞳を見た。

 

「私は強くならなきゃならない。邪魔をしないで欲しい」

 

「本当に『いい人』でいられるつもり?」

 

「理想の人間でありたい」

 

「笑わせないで。あなたは故郷の下民を殺した。穢れた人殺しに、そんな理想を追い求める資格があると思う?」

 

 ディアボロの件は聖女の神秘性を著しく下げると危惧され、当時の教皇クリストフ五世により緘口令(かんこうれい)が敷かれた。余程キャロルの身辺を探ろうとしなければ、今では貧民街の名前さえ知る事もできない。

 

「あなたに憧れていた子供も、あなたに斬り殺されたのでしょうね。あなたの為に祈っていた人も。あなたを自慢していた人も。みんなあなたが斬り殺してしまった。ああ、悲しかったと思うわ。祝福で送り出した聖女候補に襲われるだなんて」

 

 間違いなくキャロルは気が触れる。でなくば、首を(くく)るだろう。剣技場で彼女に会うまで、ニスモはそう思っていた。

 

「乗り越えたい。寝込んでいる暇なんてない」

 

「それで挽回(ばんかい)するつもり? あなたに罪の意識はないの? 随分と鈍感なのね」

 

「泣いてたって時間は戻らない。もう2度と間違えない為に、私は──」

 

「黙れッ‼︎」

 

 ニスモは激昂(げきこう)した。

 

「あなたは本当に分かっていないッ! 何も分かっちゃいないんだッ‼︎」

 

 ついにキャロルは天地人の構えを止め、真っ直ぐとニスモを見つめた。金の瞳は涙で燦然(さんぜん)としていた。

 

「どうしてそんな風に言う……? 私は前に進みたい。強くなって、理想の人間でありたい。その為に何をすれば良いか、今は分からないけれど、何もしないわけにはいかないんだ……」

 

「なら教えてやるッ! お前は現実から逃げてるだけなんだよッ‼︎」

 

「私は逃げたくない。真っ向から向かっていきたい。その為には強くならなきゃいけない。誰よりも強く……」

 

「現実に目を向けろッ! アンタは仲間を殺して、おめおめと帰って来たッ! 第五聖女隊だってアンタを(した)っちゃいない! きっとお前は永遠に孤独だッ! 誰もあんたの味方になってくれる人なんか、いないんだッ!」

 

「マリアベルが味方になってくれる」

 

「利用されてるだけだッ! 本当は気づいているんだろうッ!」

 

 キャロルの目から、ついに涙が落ちた。

 

「気がついているのを気づいていないふりをして、逃げ回っているだけなんだよッ! もう終わったんだ、アンタはッ!」

 

 キャロルは強く踏み込み、素早く間を詰めてニスモの首をがっと掴んだ。力を込めて、絞め上げる。悲しみと怒りで顔は(しゅ)に染まり、その手はひどく震えていた。

 

 ニスモは苦悶の表情の中に、満足気な笑みを混ぜて言った。

 

「ようやく本性を現したわね。今までで一番いい顔をしているわ」

 

「私の何が憎いッ! 何が気に食わないッ! 言えッ!」

 

「全部だッ‼︎」

 

 怒りで体を震わせるキャロルの眼前、ニスモは涙を流していた。それは王都に来て初めての涙であった。

 

「私や姉さんが成せなかった事が、お前に出来るわけがない……! 自己中心的な下民になんかに成せないっ……」

 

 キャロルは怒りに(とら)われ、ニスモの流す涙の意味も、その言葉の意味も、理解するには至らなかった。とにかく自身の怒りがこれ以上弾けてしまうのを抑えるのに必死だった。

 

「お前ら下民の浅ましさは良く知っているつもりだ! 私は分け(へだ)てなく、お前らと接してやったのに! なのにッ! お前ら下民は、姉さんを痛めつけて断頭台(だんとうだい)に連れてきたッ!」

 

 ニスモはキャロルの腕を力強く掴む。その手は魔法で発火し、キャロルの肌を焼いた。

 

「リトル・キャロルッ! そうやって私の事も殺すのかッ!」

 

 だがキャロルは手を離さない。燃え盛る炎の中で、より力を込めて首を絞めた。

 

「私を睨むなッ! (くじ)けろッ! お前も挫けろよッ!」

 

 ニスモは力を込めて、キャロルの腕の骨を砕いた。次いで跳び上がり、蹴りを繰り出そうとしたから、それよりも早くキャロルは左の拳を振るって、ニスモの顔面を殴った。

 

 魔力を込めた拳を顔面に受け、ニスモは地を巻き上げながら吹き飛び、観客席にぶつかって周囲を崩壊させた。土煙がもうもうと上がる。

 

 キャロルは2度十字を切って近寄った。瓦礫(がれき)の上、ニスモが拳の中に隠していた羊の睾丸(こうがん)を使って呪いをかけようとしたのを見抜いていた。(ひじり)で阻止した。

 

「ニスモ・フランベルジュ。本当なら分かり合いたい。敵意を向けられると苦しいし、切ない。私はどうしたらいい?」

 

 ニスモは鼻から出る大量の血を腕で押さえながら、ふらりと立ち上がる。そして、呟くような声で答えた。

 

「お前なんかと出会わなければ、私は普通でいられたんだ……」

 

 キャロルの目を見る事なく、静かにすれ違って、ニスモは去る。──いつか、お前たち聖女を全員殺してやる。それで全部終わりに出来る──。そう心の中で呟いた。こんなつまらない世界は破滅した方が良いと。半分は本音、半分は負け惜しみだった。……いや、大半が負け惜しみだった。

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