深夜の渋谷、喧騒と隣り合わせのこの場所でも、イベントの無い夜となれば人は少ない。
しかし少ないながらもどこかざわついていた。
なぜなら、スクランブル交差点で大きな事故が起きていたからだ。
被害はバイクとトラックの衝突、それに巻き込まれた二名。
ライダーであろう青年と、乗り物二台に巻き込まれた男だ。二人の周囲には僅かにいる人達に倒れたトラックが事故の規模を見せていた。
そんな渋谷の上空に一つの影が漂っており、立っている人に向かって体当たりを放つ。
しかし、体当たりを受けた男性は胸部の違和感を覚えつつも、特に気にしてはいなかった。
(クソッ、生きている奴は無理か!)
目には見えない影は、焦りを隠せない状態で辺りを見渡す。
(このままだと……消えちまう!)
次に目を付けたのは、倒れている青年。影は同じ状態の男に目もくれずに飛び込んだが。
(コイツ! まだ辛うじて息があるのか!)
青年もダメだとなると。影はゆっくり、無視した男を見る。
(……仕方ねぇ)
影は急いで、男に飛び込む。予想通り、影は男の内部へと入っていき消えた。
「うう……」
「大丈夫ですか⁉」
事故現場を見ていた三人組の一人は、心配になって走り出す。その後を続いて二人も走り出す。
三人の対象は青年だ。うめき声をあげながらも起きた男には目もくれずに駆け寄る。
「救急車呼んだか⁉」
「繋がらないんだよ!」
「何だと⁉」
虫の息の彼を救おうと、する彼らに男が歩み寄る。
「どうした?」
男の言葉に三人組は視線を向けると啞然としてしまうが、男は気にせずに話し続けた。
「人が倒れているのか……ならばお前は電話を、お前はAEDを探してきてくれ。俺は人工呼吸をしよう」
腰をなまめかしく振りながら近づいてくる男に。
「う、う、うわあああああああああああああ!」
男の姿と台詞を見聞きした三人組は悲鳴を上げながら逃げ去ってしまった。
「フ、俺の美しさに恐れおののいたか……」
男はふと横にある乗り捨てられている車のガラスを見る。
「な、何だこれは⁉」
無造作な黒髪に、妹のセーラー服と紺のミニスカートを着こなし、鍛えられた腕、足、腹筋を惜しげもなく晒し、誰もが印象に残る姿をしていた。
だが、問題なのは自分の顔。なぜなら半分が黒い靄で覆われ、より一層特徴的な姿をしている。
さらに顔だけではなく右手も靄で覆われ、微かに見える中手骨は指先に向けて光は歩んでいた。
「闇を纏いし俺か……これはこれで悪くないな……」
恐怖するどころか、今の自分に感動しており、姿見代わりに車の前でポージングを始める始末。
『おい!』
その時、男の脳裏に声が響きだす。
「む、誰だ? 俺を求めるのは?」
『求めてねぇよ! ……クソッ、気の迷いでコイツを選んじまった』
「だが、俺を選んでくれたのだろう? どれ、お兄ちゃんがナデナデしてやろう」
『……仕方ねぇ。おいお前、俺の言う通りにしろ!』
「……生憎だがそれは出来ない、俺はこれから病院に……」
『……こうなりゃ力づくだ!』
声はお兄ちゃんのセリフを遮ると、お兄ちゃんの手が勝手に動き出し、車のガラスを素手で破壊した。
「な、なんというスーパーパワー……」
自分の力に驚愕するお兄ちゃんだったが、自分勝手な手はガラス片を掴むと、お兄ちゃんの首筋に当てる。
「な、何だこれは⁉ 体が勝手に!」
『お前の体を殺してでも奪ってやるんだよ! ついでに趣味じゃない恰好も変えてやる!』
「そ、それは駄目だ……!」
しかし、お兄ちゃんの力は凄まじく当てられていたガラス片が離れていく。
『コ、コイツ……!』
憑いたそれの予想を裏切り、ガラス片は手放され、明後日の方向へと飛んでいった。
「さて、病院に向かうか。わが妹が心配だ」
憑いた奴の問題を解決したつもりで歩き出そうとしたその時。
「何⁉」
目の前から濃霧が雪崩のように迫ってきてお兄ちゃんを飲み込んだ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」
明らかに普通ではないそれを受け止めたお兄ちゃんだったが、何ともなっていない。
尚、事故で倒れていた青年は消滅した。
「ふぅ……激しい風が俺を行くて阻むとは……張り合いがある!」
『おい!』
ポージングをして自信満々なお兄ちゃんだったが、目の前から大勢の何かが歩いてきた。
『隠れろ!』
「その必要はない。今こそ俺のこの……」
『いいからいう事を聞け!』
憑いてる奴はまたしても右手だけを操り、お兄ちゃんを無理矢理、引っ張り近くで横転している車の影に隠れさせる。
「無理矢理とは激しいな……」
『黙ってろ』
車の影から大勢の正体を見ようと顔をこっそりと出す。
そこにいたのは多種多様な異形。
スーツ姿ののっぺらぼう。
顔が新聞で包まれたOL。
首のない学生。
黄色の雨合羽を着た子供。
それ以外にも図体の大きい個体もおり、近づくのは危険だと、素人目でも分かる。
「あれ一体?」
『マレビトだ』
「人か……ならば俺の美を理解してくれるかもしれない」
『馬鹿野郎! そんな訳ねぇだろ!』
「いや! 俺の美しさはマレビトにも通用するはずだ! していたら、添い寝なんてしてやらないぞ」
『いらねぇよ!』
「?」
そんなやり取りをしていたからか、一体のマレビトがお兄ちゃん達に気づく。
群衆から離れだし、それに合わせて他のマレビトも離れていきお兄ちゃん達は五体のスーツ姿のマレビトに囲まれてしまった。
「どうした? お兄ちゃんの愛が欲しいのか?」
ドスッ!
「痛ぇ⁉」
回答と言わんばかりに傘でどつかれて、情けない声を出すお兄ちゃん。
『どうやら、理解はされなかったみたいだな』
「……うむ」
『今度こそ、俺のいう事を聞いてもらうぞ。ここで死にたくなかったらな』
☆人物紹介☆
☆お兄ちゃん
いい年して無職のナルシスト。定期的に妹の制服を着て、街を歩いているが、妹から『死ね!』『仕事しろ!』『外に出てくるな!』と罵倒されているが、懲りていないようだ。
その癖、高身長のマッチョと、同性なら羨む体格の持ち主。
☆KK
お兄ちゃんに憑いた、不思議な力を使う元刑事の霊。
お兄ちゃんの態度や恰好の影響もあってか、相当嫌っている。
☆妹
本作では後述する麻里のポジションとなっている。
☆般若の面の男とその仲間達
人類救済を目論んでいる。
☆マレビト
人の負の感情から発生した怪人。
お兄ちゃんに蹂躙される(予定)
☆妖怪
基本味方。(お兄ちゃんを受け入れてくれるかは不明)
☆伊月暁人・麻里の兄妹
本家『Ghostwire: Tokyo』の主人公と囚われ昏睡ヒロイン。
恐らく二人共、消滅したと思われる。